気になってる女がいる。

軽く言ってしまえばそうなのだが、今回は違った。
情があるとまではいかないが、視界に入ると思わず見つめてしまう。
俺が他人を、それも女が気になるなんて一生ないと思っていたんだが。

この軍には、美しい外見の女はたくさんいる。もそんな一人だが、内面まで美しいと思えるのは彼女だけだ。

初めて会ったのは彼女が見習いだった頃。アリティアに訪れた際、ゴードンを指導するついでに率いる第七小隊をまとめて相手にした。
その時のはまだ磨き途中の原石だったが、今となっては美しい宝石になりつつある。
騎士としても、女としても。

こんなに惹かれる女は久々だ。
昔はやんちゃなミディアに惹かれもしたが、婚約は素直に喜べなかった。
あの気性は、アストリアではないと一生寄り添うのは無理だろう。
しかしは違う。
気性が激しい部分もあるようだが、それはすべて主君であるマルス王子の心労を考えた時に限られる。普段は優しく、思いやりに溢れた女だ。
没落貴族だと言っていたが、それを感じさせるひねた部分もない。











「没落しても貴族ではある…」











これは都合のいいことだ。
ゴシップのように囁かれる俺の噂は、ほとんどが計画的策略に過ぎないが今回は違う。
こんなに惹かれるなら、本当に手を出すのもありだ。
そして鞘に納まるなら、没落していたとしても元貴族の女なら誰も文句は言わないだろう。













「ジョルジュ殿、すみません。用事があるので失礼します!」

「ん、ああ…」











俺が返事をする前に駆けて行ってしまう。
宙に浮いた返事を払い退け、彼女の姿を追った。

アランのところか。

何か言い付けられたのか、真剣に頷いてまた走って行ってしまった。
アランは直属の上官ではないだろうに、せいのでることだ。




次に呼び止めた時も、用事があると言って走り去られてしまった。

もしかして、俺は避けられてるのか。

数日後、この世の終わりぐらいの勢いで落ち込んでいると鉢合わせた。これから戦だというのに、これでは命がいくつあっても足りないだろう。
それとなく釘をさしておいたが、それがどこまで効くだろうか。

恋の悩みでは、全く効き目がないかもしれない。

この数日を通して観察していると、には恋する相手がいる事がわかった。
どうりで俺に靡かないわけだ。
その相手を見極めて、そいつ次第では奪ってやろうと考えた。
策略のためには誰かの女を奪う場合もある。まあ、ほとんどの女が勝手に靡いてくれるんだがな。

おれの心配は的中し、は大怪我をおってしまった。背中にトロンをくらうなど重傷だ。
俺が彼女を背負って下がろうとした時、前線で叫び声が上がった。











「きゃーっアラン!!!」











金属音が響き、敵の叫び声も聞こえた。











「アラン、アラン!ごめんなさい!」











リンダが狂ったように叫ぶ。











「リンダ殿、私は大丈夫です。落ち着いて」

「ああっ…」











大方リンダをアランが庇ったのだろう。さっきの金属音はあらかたアランが槍を落としたのだろう。
少し気になったがそれどころじゃない。俺はを背負い直して救護テントに向かった。

簡易ベッドに俯せに寝かせ、マリーシアが杖を使うのを見ていた。しかし戻らねばなるまい。
まだ戦いは終わっておらず、ゴードンがライアンと共に苦戦しているかもしれない。誰か一人が休んでいられるほど、戦場は甘くない。
テントから出ると、負傷したアランと泣き顔のリンダとすれ違った。アランの傷はたいしたことないようで、本人はいたって冷静だ。
しかしリンダの方が取り乱しているようだった。

戦場に戻るとリンダの取り乱した意味がわかった。
リンダが焦って踏み出したところで矢を放たれた。それをアランが庇ったのだ。

そんなひそひそ話を耳に入れている間に、マルス王子は制圧してガトー様と話しているのが目に入った。
するとそこへマリーシアも来て、後ろからマルス王子を見つめている。



の治療は終わったのか?



そう思ったが声をかけるのはやめた。あの娘には必要以上関わりたくない。











「ジョルジュさん!」

「どうした、ゴードン」

「いえ、は大丈夫ですか?」











心配そうに俺を見上げ、隣にいる自分の弟の手を握る。
ああ、はこんなにも仲間に慕われている。











「マリーシアのおかげで、見られる背中にはなったんじゃないか」

「み、見られる背中ですか…」











赤くなるゴードンを見て何を考えたかは容易に想像出来たが、突っ込むのはやめておいた。











「きっと少し経てば何事もなかったかのように出てくるだろう」











マリーシアがしっかり回復させてればの話だが…。
あの娘もそこまで残酷でないはずだ、と思いたい。











「そうですね。さ、ライアン、片付けに向かおう」

「はい。兄さん」











俺も同じ様に神殿の片付けを手伝い、あらかた終わったところでその場を抜け出した。
荘厳な神殿を歩いていると、なぜか自分が汚らわしい存在に思えてくる。
欲に塗れた貴族世界で計略を巡らして生きている自分は、なんともこの場に見合わない者だ。

そんなことを考えながら歩いていると、いかにもこの場に合った心持の奴が立っている。

だ。

先ほど大怪我をしたとは思えないほどしなやかな動きで歩いていた。











「ん…?」











よく観察してみると、纏っている雰囲気が明らかに違う。
先ほどはどんよりした暗い空気を纏っていたのに、今はどうしたことか華やかだ。全身で幸せを表現している。
もしかして、恋の悩みが解決したのか。俺が手を打つ前に解決してしまうとは、惜しいことをした。











「もう大丈夫そうだな」

「あ、はい」











きょとんとした表情で返事をされ、思わず癪に障ってしまった。
俺がわざわざ運んでやったのに礼はなしか。











「…俺がテントまで運んだんだが、礼はないのだな」

「え!?」











その驚き様で理由が明確になった。そうか、誰からも聞いてないのか。











「誰からも聞いてないのか」

「はい。申し訳ありません…」











あまりにも恐縮してしまったので、気にするなと言おうと近づくと、半歩下がられた。
もう一歩近づくとまた下がられる。なぜそんなことをするんだ。
問い詰めても良かったが、こいつは他の男を好いてるんだ。俺の一存でそんなことは出来ない。











「心の方も解決したな」

「え?」

「何か悩んでいただろう?だから油断して敵の攻撃を受けた。しっかりと注意してやったのに。お前がそんなに悩むとしたら……恋だろう」











そう言うと、あからさまな慌て様だったので思わず笑いそうになった。
さっきの俺と距離をとるのもそうだが、嘘をつけない純粋な女だな。











「えっ!?」

「図星か。相手は誰だ?」

「恋なんかじゃ…!戦い方で悩んでて!」

「違うな。もし戦い方で悩んでいるならば、お前はあのように油断はしない。もっと張りつめていて、答えを求めるように戦い抜くはずだ」











だてにお前を見ていたわけではない。さあ、どう出る。
は言葉に詰まり、目を泳がせた。その頭の中はこの俺をどうかわそうか脳をフル回転させているだろう。
しかしお前が俺をかわすなど出来はしない。狙った獲物は、百発百中で仕留めるからな。

だがあまりの困りようは可哀相だ。











「……わかった、相手を聞くのはやめよう。しかし原因が恋だというのは認めるんだ。そうではないと、この微妙な間合いを無理矢理詰めるぞ」

「うっ……わかりました。原因はジョルジュ殿が仰る通りです。相手の態度がおかしくて悩んでいました。でも話し合って解決しました。だから大丈夫です」











この短い間のいつ話し合ったのかわからないが、こんなに雰囲気が変わるなんて純粋で単純で…可愛い女だ。











「ほう良かったな」











そのままの流れで頭を撫でると、後ろに飛び退かれた。ムッとしてつい強い口調になってしまう。











「さっきから何故こんな間合いをとる?」

「……ヤキモチを妬きますから」











ヤキモチ?聞き間違いかと思い、聞き返すと「あの人がヤキモチを妬くんです!」とハッキリ言った。

これを聞いて笑わずにいられるか?俺はいられなかった。腹を抱えて笑い、足まで叩いて笑いに笑った。
純粋で単純で自信過剰だと?そんな奴はこいつくらいしかいないだろう。

しかしよくよく聞いてみると、相手の男が確かにそう言ったらしい。
その男、こいつに魅せられたよっぽどの馬鹿か。



それとも…



を見ていると、相手の男にベタベタ好かれているようではない。ということは、心から愛されてるということだ。
それを言うと、は惚気のようだが本心で相手を「愛してる」と言ってのけた。



ああ、絶対に勝ち目はないだろう。



こんなに面白く興味を持てる女なんて、もう一生見つからないだろうに。

考えれば考えるほど惜しい気がしたが、当人らが愛し合っている以上仲間として手を出すのは失礼に値する。見守ってやる方が無難だ。
こんな時に限って自分の立場が邪魔に思える。俺に何も無ければ、攫って逃げることも出来るのに。



……攫って逃げる?


そんなことを思うほど、俺はに惹かれていたのか。

自分の考えに唖然とした。こんなに意固地になるなんて考えもしなかった。
ここまできたら、相手の男を見極めてやる!!!
かといって、手がかりが無い。四六時中を見張っているわけにはいかないし、どうすれば…











「アランさん、なんか嬉しそう」











フィーナの言葉でそちらを見ると、いつもと変わらないアリティアの騎士隊長の姿があった。
あの男をどうやってみたら嬉しそうに見えるんだ。











「そう見えるのか」

「うん。なんか嬉しそうな雰囲気よ」

「…そうか」











アランは目を細めると、ふっと笑った。
その姿があまりにも幸せそうで、この男もこんな表情をするのかと思ってしまう。
しかしフィーナはそうではなく、自分も嬉しそうに笑って踊りの体勢をとるとアランにお辞儀した。











「嬉しそうなあなたに、お祝いの踊り」











そして踊りだした。
踊りが終わると、アランの方は丁寧にお礼を言い、フィーナは気分良くその場を後にしていた。
先ほどの戦いで傷を負ったというのに、嬉しい雰囲気などおめでたい。
こっちはの相手が気になって仕方が無いっていうのに。



……ん?は救護テントにいた。そしてアランも傷を負ってテントに行ったはずだ。











「……ま、まさか!!!」











俺の知らないところで、そんなことが起こっているのか!?
俄かに信じがたいが、この直感は本物な気がする。
足早に奴の方へ向かった。











「アラン!」

「…ジョルジュ殿?」











思った以上の大声を出してしまい訝しまれたが、それどころではない。
真実を明らかにしなければ、今日は眠れないぞ。











「お前がの恋人だろう!?」











直球を投げたが、アランは片眉を上げただけだった。











「聞こえなかったのか」

「聞こえましたが……何を仰られているのか」











わからないふりをするつもりか!



鼻息荒く次の言葉を口にしようとした時、アランは目を細めて笑った。
先ほどとは打って変わって、幸せなどかけらもない俺を馬鹿にしたような笑みだ。











「ジョルジュ殿がそのように取り乱すなんて、珍しいですね」

「!」











ハッとして姿勢を正し、今までの様が無かったかのように冷静に振舞う。
に関わると、俺は俺らしくいられなくなってしまうのか。











にそれほど惹かれているのですね。わかりました。彼女の相手がわかりましたら、いち早くお知らせしましょう」

「くっ……」











返す言葉が無い。
言われた事は的を射てたし、あまりの悔しさに言葉さえ発することが出来なかった。

アランは一礼すると、その場から立ち去った。
最後まで冷静に対応され、それが勝ち誇ったように見えて仕方が無かった。



の恋人はアランだ。絶対に間違いない。
…しかし証拠がない。



悔しい思いに、唇を噛み締める事しか出来なかった。











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ジョルジュファンすみません(汗
もしかしたらほしのきは、いまいちジョルジュさんをつかめてないのかも知れません。

アラン×マイユニが主なので、アラン贔屓させて頂きました〜



2011/08/16