「フ…そうきたか」










竜に跨り上空から砂漠を見回っていたとき、あるものを見つけた。
敵ではない、味方だ。しかし仲間であろうとも見つけてはいけないものだったかもしれない。
それを見つけて、思わず笑みが零れた。










「ミネルバ様…?」

「いや、何でもない。パオラ、あちらを見回ってきてくれるか」

「はい」










彼女には申し訳ないが、こんな楽しいことを誰かと共有するのはもったいない。
手綱を引き、いつもより高い位置まで上昇する。そしてあの二人を見下ろした。



アリティアの騎士アランと、この二人が恋人同士だとは誰が思うだろうか。



見つけたときはまさに告白の場面だったらしい。
が青くなったり赤くなったり忙しく、こちらまでハラハラしてしまいそうだ。
アランの表情は変わらなかったが、内側から滲み出るような幸福感を感じた。
それが、どうしてかわからないがわかったのだ。



この男の幸福が強すぎて、空から見ている私にまで伝わってきたのか…、まさかな。



そう思いながらも目を離さずにいると、アランは微かに微笑み、の唇にキスをした。
それは長い長いもので、思わず見入ってしまったくらいだ。










「あの男、結構やるな」










そのキスの場面だけで、アランに持っていたイメージがガラリと変わった気がする。
あんなに積極的で男らしい男だったのか。
瞬間、頭の中をミシェイルが横切った。
父上を死に追いやったのにも関わらず、マリアに助けられ、私を助けた兄。



私の中の男らしい男はミシェイルなのだな。



くすりと笑った瞬間、と二度目のキスを終えたアランと目が合った。










「!」










驚きで強く手綱を引いてしまい、苦しそうに竜が呻く。
その首を優しく撫でて宥めると、もう一度二人を見下ろした。

既にアランはこちらを見てはいなかったが、私に気付いていることはわかった。
こんなに高く、気配を消して飛んでいるのに気付くなんて……










「なんて男だ」










それからというもの、私はアランという人間が気になって仕方なかった。
どうしてこんなに気になるのか分からないが、視界に入らなくともその姿を探してしまう。

こういうのは恋だと聞いたことがあるが、と一緒だったり目線を交わしたりしているのが見受けられても気にならない。
むしろ仲が良いことに胸が温まる。だからそういう気持ちとは違うはずだ。





ある時、一人で戦っているアランを見つけた。
いつもはアリティア騎士団を纏め上げて先頭きって戦っているのに、今回は違う。
静かに剣を構え、向かってくる兵士たちを一掃している。その顔に表情は無く、冷徹さを見せていた。

マルス王子のためだけに戦い、命を捧げる騎士の中の騎士……そんな印象が強い。
王子の信念が、彼の信念でもあるのだろう。

周囲の敵を一掃した後、アランは木に寄りかかった。
敵が見えないにしろ、その行為はまったく彼らしくない。負傷しているのかと思い降下し始めた時、アランは強く咳き込んだ。










「……」










降下を止め様子を見る。
咳は止まらぬようで、苦しそうに胸を押さえていた。










「あの咳はもしかして」










マケドニアでこのように咳をする病人を見たことがあった。その者達もアランと同じ様に蒼白だった。










「あの男、病だというのに戦っているのか!」










唇を噛み締め、穴が程にアランを見つめた。いいや、睨んだと言ってもいいかも知れない。
許せない気持ちに駆られたが、私が口を出す問題じゃない。
彼が戦っているのだ。口を出すべきではない。

私は踵を返すと、その場を飛び去った。





アリティアを取り戻した後は、アランとの仲が急速に発展した様だった。
いつもより熱い視線を交わし、お互いを愛しんでいる。

だがアランの咳も少しずつ多くなった気がする。










「……ミネルバ様、前から少し……気になってはいたのですが」










突然、パオラに呼び止められた。何かと思いそちらを見ると、困ったように視線を逸らす。










「そんなにアランさんが気になるのですか」

「え、なんと言った?」

「その……アランさんをよく見ていらっしゃるので」










確かに見ていたが、気付かれているとは思わなかった。










「…そうだな、気になる」

「えっ!気になるのですか!?」

「自分が気になるのか聞いてきたというのに、何故そう聞き返すのだ?」

「まさか本当に気になっているとは思わなかったですし、ミネルバ様がアランさんだなんて」

「私がアラン?ああ、恋とかそういう類の気持ちではない」










そういうと、パオラはきょとんとした表情で見返す。くすりと笑い、もう一度あの男を見た。










「何故だか分からないが……気になるのだ」










そう言って目を細めた私に、パオラは当たり前の様に言う。










「似ているからですよ」










今度は私がきょとんとした表情になる番だった。

似ている?誰と誰が。










「何事にも動じず、涼しい顔をして何でもやってしまう肝の据わった人なんてそうそういませんものね」










くすくす笑いながら、彼女は私を指差し、そしてアランを指差した。
私とアランが似ている……言われてみればそうかも知れない。










「それとですね、ミネルバ様とアランさんが似てるということは、ミシェイル様とアランさんも少し似てるってことなんです」

「兄上とあの男が?」










パオラは軽く頷くと、人差し指を唇に当ててウィンクする。










「もちろん容姿はミシェイル様の方が何倍も上ですけどね」










そうかも知れんが、中身はアランのが何倍も上だな。
なんて思っていると、パオラは真剣な表情で言った。










「ミネルバ様は、ミシェイル様の答えを求めていらっしゃいます。それを、アランさんに確認したいのではないでしょうか」










彼女の言った意味が分からず、目を瞬いた。










「ミシェイル様が……何故あのようなことをなさって、自分を助け、マリア様を助けるのか…本当のことが知りたいのでしょう。だから無意識に雰囲気が似ているアランさんに答えを見つけようとしているのでは」










ああ、そうか。そう言われて腑に落ちた。

私にはミシェイルの行動の意味が理解出来なかった。でも、でもその意味を強く知りたいと思ったんだ。
だが兄上はここにいないし、いても教えてくれないだろう。だからこそ、自分の出来る方法で知りたかった。










「…お前は本当に私のことをよくわかっている」










そう言った私に、パオラは優しい笑みを向けてくれた。目を細めて小さく小首を傾げるその姿は、母親の様だ。
長く私に仕えてくれて分かってくれる者はなかなか得られない。大切にしなければな…。
そう考えつつアランを見た。
彼の目線はへと注がれている。けれど私が見ていることに気付いているだろう。










「今度、アランに少し問うてみよう」

「それがいいですよ」

「ああ」










何故だろうと思っていたこの気持ちがわかって、胸の奥がスッとした。
他の女性と付き合っている男が気になるなんて、自分でも少しおかしいのではないかと思っていたところだったからな。

アランの目線の先に見えるが振り向き微笑みかける。
幸せそうなオーラは私の方まで飛んでくる気がした。










「本当に、幸せそうな奴らだ」










もうアランを目で追うことはないだろう。
けれども今度は、話しかけてみなければならないな……
その時はぜひ、求めている答えが見つかればいいのだが。









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結局、アランではなくがミネルバをスッキリさせるんですけどね(笑


2011/08/22