「私は、が好きだった」
ロディのこの言葉を聞いた時から、私の体はおかしくなった。
聞いてはいけないことだとわかってる。でも聞いちゃったのはほんの偶然。
だってあんな公共の場で話してるのよ?誰が聞いたっておかしくないでしょ。
だから、偶然聞いちゃったのだって悪くないはずなのに!
なのに、私の胸はなんでこんなに痛くなるわけ 。
罪悪感でいっぱいだっていうの?
「セシルさん」
「あ、ライアン」
二人が去った後、ぼーっと突っ立っていたら声を掛けられた。はっとして振り向くと、ライアンがにっこり笑ってパンを渡してくれる。
「パン?」
「はい。朝食の席にいなかったので食べてないかなと思って」
「わざわざ探してくれたんだ…」
優しく笑うライアンの顔を見て、なぜだかホッとした。
受け取ったパンを頬張り、一緒に渡された水で流し込む。
「ありがとう。寝坊しちゃったんだ。朝食にありつけないと思ってたのに、ライアンのおかげで助かったわ」
そう言って彼の顔を見ると、照れたように目を逸らした。
変なの、なんて思いながら最後の一口を食べた。
「はぁ……」
はアラン隊長と愛し合ってる。でも二人が付き合っていてもいなくても、のことを好きな奴だっているし、アラン隊長を好きな人だっているかもしれない。
だからロディがのことを好きだとしても、何らおかしいことはないじゃない。
でも全然わからなかった。も知らなかったみたいだし、ルークも絶対知らないだろうし。
ライアンは……
そう思って顔を見つめると、穏やかに微笑み返された。
あんたは女神様か(笑)
「何かあったんですか」
「えっ?」
唐突に聞かれ、思わず慌ててしまう。
こんなに慌てたら、何かあったってわかっちゃうじゃない!私のおバカ!
「ちょっとね…」
「聞いちゃいけないものを聞いちゃったとかですか」
「ええっ!!!」
突っ込まれないように答えたのに、ライアンは鋭く当ててきた。
その通り過ぎて、否定の言葉も出てこないわよ。
「……ロディさんがさんに告白してたとか」
「!!!」
「図星、でしたか」
ライアンはそういってくすりと笑う。私は驚きで口をぱくぱくさせながら顔を見返した。
「いえですね、さっきロディさんとさんとすれ違ったんです。それでそうかなって」
「すれ違っただけ!?」
「うーん、あとはセシルさんの態度かな。セシルさんがぼーっと突っ立ってるなんて珍しいですし」
照れたように頭を掻くライアンを見て、人は見かけじゃないと思った瞬間。
いつもはおっとりしてぽややんとしてるのに、見ているとこは見てるのね…。侮るなかれだわ。
「……それで、セシルさんはなんでそんなに悩んでるんですか」
「悩んでるっていうか……聞いちゃった私も悪いんだけどさ、ロディの告白を勝手に聞いて罪悪感でいっぱいみたい。胸が痛いんだ」
そう言うと、ライアンは驚いたように私を見返した。そしてじっと見つめてくる。
一体なんだっていうの?そんなに見つめられると恥ずかしくなってきちゃう。
「セシルさんて自分のことに鈍感ですね」
さりげに酷いことを言われ、ムッと睨む。でも何故か、ライアンは挑戦的に受けてたった。
「その胸の痛み、本当に罪悪感なんですか」
「だって、それしか考えられないじゃない」
そう言い返すと、彼は唇をきゅっと結んで何かを考えているようだった。
そしてしばらく間を空けた後、先ほどと打って変わって目を伏せがちに言う。
「ロディさんを好きだから、気持ちを知って苦しくなったんじゃないですか」
「!!!」
あ、私がロディを好き!?どう考えたらそんな考えに至るのよ!
そう言い返したかった、それなのに!私の顔は真っ赤に熱くなり、否定の言葉も出てこなかった。
言いかけた状態で止まってしまい、それは全身で肯定を表している。
本当にライアンを、侮るなかれ。
「……やっぱり、そうですよね」
寂しそうに呟くと、私の目を見る事無く背を向ける。
「何故わかったかと言いますと、僕がいつもセシルさんを見ているからです」
ライアンはそう言って、私が何か言い返すのを待たずに去っていった。
彼は今、何て言った?私をいつも見てる?
どういうこと!?
この後から、ライアンは私を避けるように戦うようになってしまった。
だから仲の良い第七小隊としてはやりづらくなっちゃって、ルークにも何かあったのか聞かれるくらいだった。
それにアカネイア城に攻める時には、とアラン隊長が仲違いしちゃっててもう何がなんだか分からないくらい。
相談出来そうなカタリナはいつの間にか達の仲違いの真っ只中にいるし、唯一残ったロディには相談したくなかった。だって、私はロディが好きなんでしょ。
ライアンに言われて気付いた自分の気持ち、あの時否定できなかったのはその通りだったから。
あれからずっと考えて、それで自覚した。
真面目で何でも出来て家族思いで……私のことだって女性として扱ってくれる。そんな彼に惹かれてたんだ。
でもロディはが好きなんだよね。ふられたからって、以上に好きになれる人が現れるまでずっと好きだって言ってたもん。
私なんてと同じくらい一緒にいたのに、その対象に入らなかったんだ。
「はぁ…」
悩んでるのが他の子だったら、まだ希望はある!って応援出来るのに、自分だから応援出来ない。
確率は0%じゃないのに、どこかで諦めてる自分がいる。
私じゃに勝てない!
「セシル、そのうちロディに穴が開くぞ」
「へっ」
突然話し掛けられて振り向くと、そこにはアラン隊長がいた。見回りの後だったのか、装備を外しかけている。
苦笑しながらマントを脱いで抱えると、ロディのいる方を見た。
「気持ちを伝えないのか」
「っ…」
隊長にまで私の気持ちがバレてることを知って、顔が一気に赤くなった。
そんな私の態度に驚いたように目を見開くと、鼻で溜め息を吐く。
「すまない、内緒の話だったのか」
「そういうわけじゃないんですけど」
そう言われてしまうと違う気がする。特に内緒ではないと思った。
きっと周囲にわかるくらいに、私はロディを見つめているんだろう。
「私、言われるまで気付かなかったんです」
「ロディを好きだってことか」
「はい。ライアンにそうじゃないかって問われて……ああ、そうだって思いました」
「ライアンにか……。セシルは本当に自分のことになると鈍感なんだな」
隊長はふと笑うと、遠くに思いを馳せているようだった。
と仲違い中だけど、隊長の中ではずっと彼女を思っているんだろうな。
私もロディにそのくらい思って欲しい……叶わないことだけど。
「お前もその誰かさんに、穴が開きそうなほど見つめられているのを自覚したほうがいい」
「え?」
はっとして周りを見渡すと、こちらを見ているライアンと目が合った。
彼はすぐに顔を真っ赤にして目を逸らしたけれど、深呼吸をしてまた私を見る。
そんな姿に気付いた時、あろうことか笑ってしまった。
ライアンは、私と一緒なんだと。
そんなこんながあった後、マルス様と私達のお蔭で世界は平和になり、も隊長と結婚して子供が生まれた。
私は相変わらずロディが忘れられなくて、近くにいるけど女性としては遠い……彼の親友の立場におさまった。
ロディはずっとを思っていて、隊長が亡くなった後は子供たちのお世話までしている。
本当に真面目で誠実な男。こんな奴は他に見たことない。
だから私は、ロディとの仲を応援することに努めた。
ロディの方は私の気持ちを知っているようで(隊長いわく、穴が開きそうなほど見つめてたしね)、でも私が告わないから何も言わなかった。
一回だけそんなニュアンスの話が出たけれども、何事もなかったかの様に流してしまった。
自分の気持ちを流せるほどに、私は大人になっていたのよね。
ライアンはと言うと、あれからもずっと私を見つめ続けてくれた。これって奇跡に近いわよね。
だって男勝りの私なんて、普通はお断りでしょ。
でも、ずっと、今の今まで見つめてくれたんだ。
あれから数年経って、ライアンも大人になった。
見た目はあの時のゴードンさんとそっくり。ちょっとカワイイ系男性よね。
それであの礼儀正しさと思いやりがあって、後輩新人騎士達にはモテている。
いつの間にか、私はそれに胸を痛くするようになっていた。
でも今更なんて言えばいいのかわからなくて、ライアンとの関係はあやふやなまま。
私達二人だけは、ずっとあの時の第七小隊のままなんだ。
「我が弟くんは、いつまでも一人の女の子に決めないんだね」
アリティア城の廊下を歩いていると、庭からゴードンさんの声が聞こえた。
我が弟くんということは、ライアンもそばにいるんだろう。
それにしても気になる話題だったので足を止めてしまった。
気付かれないよう柱の陰から姿を見つめる。
「何言ってるんですか。僕はずっと前から一人の女性しか見てませんよ」
「わかってるさ、痛いほどにね。でも彼女はライアンを選んでくれないだろ。今はこんなにモテるんだから、他の子も見るといいよ」
ゴードンさんの意見は最もだと思う。けれどもそれは嫌だと私の心は言っていた。
ロディのあの告白を聞いた時と同じくらい胸が痛い。
「そんなこと出来ません」
きっぱりと言い切るライアンは、すごいと思った。
私は駄目だ。ロディを好きなはずなのに、ライアンの事が気になって仕方がない。
「たとえ好きになって別の子とお付き合いするようになったとしても、僕はセシルさんを見つめることをやめられない」
「ライアン…」
「あの人は強くて僕を守ってくれてました。ずっと……!でも、本当に目を離せないのは彼女自身なんです。猪突猛進で、自分を顧みなくて!」
「きみはそんなにもセシルが好きだったんだね」
ゴードンさんは優しく彼の肩を叩くと、ふんわり笑った。
そしてあまりにも偶然だけど、私達は目が合ってしまった。
「……きみ達はそろそろ、前に進むべきだよ。もうとっくに、第七小隊は解散しているんだから」
「兄さん、それは無理だよ。だって僕とセシルさんの繋がりは第七小隊だけなんだから。僕がどんなに見つめたとしても、彼女は小さな弟分が自分を見つめてる程度にしか思ってない!
だって、彼女は僕を笑ったんだから」
その言葉を聞いた途端、ある光景が蘇った。
アラン隊長に言われて気付いたあの時……、ライアンが、私がロディを見つめるのと同じ様に私を見つめてくれてることに気付いた時。
私は、笑ったんだ。
ライアンはずっとそれに傷ついてたんだ。
私は自分のことだけじゃなく、他人の事にも鈍感だ。
彼は、ライアンは、大切なのに!!!
はっとして気付く。
私にとって、ライアンは大切な人だ。前も、今も、これからも!
「それは違うわ!」
もう隠れてなんていられなかった。気付いたならすぐに伝えたくなったから。
「セ、セシルさん!!!」
驚き顔で真っ赤になって、ライアンは慄いた。けれども私は逃さない。
「私はあの時、自分が滑稽に思えたの。だから笑っちゃったのよ」
「え……」
「ライアンが滑稽だったとかじゃなくて、私はロディにお真っ直ぐ見返してもらえなかったし、見返されても見つめ返せないと思ったの」
そう。ライアンは私と同じだったけど、違かった。
顔を真っ赤にしながらも、おずおずと見つめ返してくれた。
「あの時の私には、その気持ちを受け止められる強さがなかったの。でも、もし許してくれるなら……」
「許すなんて無いです!!!」
強く遮られ、驚きで言葉を続けられなかった。無言で見返すと、ライアンは泣き笑いのような表情で私を見つめていた。
「許すなんてそんな大仰しいこと……」
気付いたら、いつの間にかゴードンさんはいなくなっていた。
この場所には私達二人だけ。
「……もう一度、第七小隊解散後から始めてみませんか」
「そうね。それはいい考えだと思う」
木漏れ日に照らされ、私達二人は誰かに祝福されるように楽しい時間を過ごした。
その場所がとアラン隊長が初めて出会った場所だということを聞いたのは、また後の話…
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完全に捏造ライアン×セシルになってしまいました(苦笑)
ライアンみたいなカワイイ少年は、何かとみんなに守られながらも気になる女の子を見つけてそう♪
それも姉御肌のセシルみたいな年上系がいいな、なんて。
あはは、全部ほしのきのワールドになってますね〜
2011/09/17