ウルフに気になる女が出来た。
すぐに気付いたよ。
どれだけ長い付き合いだと思ってんだ、俺を馬鹿にすんなって。
最初はあんな技術を持つ女はいないっつーことで気に入ったみたいだった。
「ザガロ、お前はを見習え」
「?」
言われた名前が女名だったから驚いた。
ウルフが女を見習えだって?
「アリティアの近衛騎士だ。最高の弓使いだ」
「…最高、ね」
「たぶん、大陸一と呼ばれているジョルジュ殿以上だ」
オイオイそこまで言うか。
そう思いつつも、そのに興味がわいた。
とりあえず近くにいたカチュアにのことを聞いてみることにした。
「カチュア」
「ザガロ、どうしたの?」
「ってどいつだ」
そう言うと、カチュアは訝しんだ表情で俺を見返してきた。
一体なんだって言うんだ。
「はだめよ」
「は?」
「はダメ」
念を押すように二度言い、人差し指を立てる。
「とにかくダメなの」
「だから何がだよ」
「をものにしようったって、そうはいかないわ」
「俺がいつそんなこと聞いたんだよ」
「……あら、違うの?」
キッと睨むと、カチュアは空笑いをして誤魔化した。けど何故そんなに駄目だと言ったのかは教えてくれない。
他の奴にも聞いてみると、誰もが皆同じ様な反応をする。
ウルフに褒められるような奴で、皆が口を揃えて絶対に手を出すなと言う。
一体どんな女だかよくわからなくなっちまった。
最後に話し掛けた女は、見たことがない紫髪の、幼さが残るが結構美人だった。
ぼーっと突っ立ってたから話しかけようか迷ったが、ひとつでも多くの情報が欲しい今、人を選んでいられない。
「なあ」
「はい?」
「ってどういう女だ?」
「……、ですか」
驚いたように目を丸くして俺を見上げる。遠くから見ると美人だが、近くから見ると可愛いんだな。
「スナイパーです」
「そうじゃなくて、性格とかさ」
「性格ですか……頑固、ですかね。そして愚か」
「愚か!?」
他人のことをきっぱりと愚かなんて言う奴は初めてだ。
そう思っていると、女は焦ったように目線を逸らした。
「いえ、気にしないで下さい」
「あ、ちょっと!」
そして逃げるようにいなくなってしまった。
唖然としてその後姿を見ていると、ロシェが通りかかる。
「ザガロ、何してるの?」
「あ、って女がどういう奴か調べてて」
「ああ、か」
おいおい、お前は既にを知ってんのかよ。
早く言ってくれよな。そしたらこうやって色んな奴に確認しなくてもよかったのに。
「それで本人に話しかけてたの?」
「……本人?」
「うん。今、話してたじゃないか」
「え!?」
あの女が!?自分のこと聞かれてんだから、自分ですって言えよ!!!
でも本人だからこそ、あんな発言が出たんだよな。だからまあ……情報としては正しいものが得られたってことか。でも愚かってどういうことだ?
他の奴らは絶対に手を出すなって言ってるし、ただの愚かな女なのか。
いや、違う。話を聞いた奴らの反応を見てると、もっと違う何かがある。
のこと、もう少し観察してみるべきだな。
「ありがとよ、ロシェ」
「え、うん…?」
が逃げてた方へ行くと、彼女は立ち止まってアリティア軍の野営テントを見つめていた。
「クソッ、あんな顔しやがって…」
の姿を見ていると、横からこんな言葉が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、これまた見たことの無い騎士がいる。
緑の髪をオールバックにした元気が取り柄というような男だ。
「あんな顔するくらいなら離れなきゃいいのによ!ホント馬鹿な奴」
「ちょっとオイ」
その男がを見ながら呟いていたので声を掛けてみた。
この呟きからすると、絶対に内情を知っているはずだ。
「……なんだアンタ」
口の悪いガキだな。
「俺はオレルアン騎士団のザガロだ」
「……俺はアリティア騎士団のルーク、何か用か?」
「ああ。あそこにいるのがアリティア近衛騎士のか」
「そうだ。に何か……っ」
ルークはそう言い掛けて俺を睨む。もしかしてまたアレか。
「の弓の腕が最高だと聞いたんだ。俺も弓を使うから気になってさ」
「…あ、ああ。あいつの腕はスゲーよ」
そう言ってを見つめる瞳には、憂いを含んでいた。
もしかしてコイツ、が好きなのか。
「ルーク、お前ってが好きなんだな」
思わず言ってしまい焦る。これじゃ聞き出すことも聞き出せなくなっちまうじゃねーか。俺の馬鹿!
「……ああ好きだ」
「!」
驚いて表情を確かめると、傷ついた様な辛そうな顔で俺を見返している。
「幸せそうにしてるあいつが好きなんだ。だから今のは好きじゃない」
そう言いながらも、切なそうに彼女を見ている。
本当に好きなんだ、愛しているといってもいいかもしれない。
「あの表情見てみろよ、あいつはホント頑固で馬鹿で……一途なんだ」
そう言われてを見ると、真剣な表情でテントを見下ろしている。
一途ということは、に思う相手がいてそいつのことを考えてるってことだ。でもそうならそれで相手を教えてくれればいいものの、誰も教えてくれなかった。
「の思う奴は誰なんだ?」
自然に聞いたつもりだった。しかしルークは表情を一変させて激高する。
「アンタ、の何が知りたいんだ!?」
胸倉を掴まれて木に押し付けられた。あまりの素早さに体も頭もついていかない。
「な…」
「に手を出そうったってそうはいかない。いや、いかせない!!!」
もう何を言っても通じない気がした。それぐらいルークは怒っている。
でもその怒りは全て俺に向けられているようには思えなかった。何か、他に何かがあるんだろう。
「を幸せに出来るのは、あの人だけなんだ」
ルークはそういうと俺を離して背を向けた。けれどどこにも行こうとはしなかった。
唖然としちまった俺はそのまま脳をフル回転させて考えたが、全くわからないことばかりだった。
に好きな男がいるのはわかった。けどそれ以上は情報が少なすぎて、何がなんだかわからん。
そう思っていると、ルークが振り向いた。そちらを見ると、にウルフが話しかけているのが見える。
「ウルフ…」
ウルフは笑っている。そしても……笑っていた。
「このためにのこと調べてたのか」
すまなそうに言うルークにふと笑う。
さっきはあんなに激高していたのに、いつの間にか冷静になっていた。そしてとウルフが笑い合うのをじっと見つめている。
そこから目線を逸らし、ルークはどこかへ行こうとしていた。不思議に思い、声を掛ける。
「いいのか?」
あの二人を指して言った。
「は笑ってる。邪魔する気はない」
「でも…」
「……アンタの相棒だろ?アンタが注意すればいいさ」
「へ?」
「はやめとけってな」
ルークはそう言い残すとどこかへ行ってしまった。そして気が付くと、もウルフとどこかにいってしまったようだ。
一人残された俺はその場に立ち尽くし、ルークの言葉の意味を考えていた。
けど言われた通りなんだろう。理由はどうあれ、ウルフとの将来はない。
「はやめとけ……か」
の真剣な、けれど悲しそうな表情が目に焼きついて離れない。
あの女に一体何があるというんだろうか。気になって、今日は眠れないかもしれない。
でも俺は…あいつのために、ウルフのためにのことを調べてたんだ。
だから
「あいつらに何も起きないように見張るのが役目だ」
がどんなに気になるとしても、ウルフのために動くのが相棒の役目だよな。
そう言い聞かせ、二人を探しにその場を後にした。
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どこかしら魅力的な人には惹かれてしまいますよね。
ほしのき的には、ザガロのがウルフより現実的なイメージです(笑
2011/07/16