あの女のような技術を持つ者は滅多にいない。
ハーディン様のこともマルス王子に従う屈辱も忘れ、俺の頭の中はそのことで頭がいっぱいになった。
放った矢を放たれた矢で壊されるとは、ありえないことだ。
けれどそれは実際に起こり、やった人物は目の前にいる。
アリティアという小国の者で、それも女だという事実が俺を混乱させている、そう思った。
オレルアンでは戦う女はいない。草原を駆け抜けるのは男たちだけで、女は家を守り子供を育てる。
男子は物心つくと馬に乗らされ、剣や弓の稽古が始まる。
まあまあ使えるようになると、狩猟を行い食料の調達をする。力が認められれば、俺達のように草原を駆ける騎士になる。
それ以外やることがないだけなのかもしれないが、それはそれで満足だ。
草原を駆けること以上に、心が癒されるものはない。
ハーディン様が狼騎士団を退団した後、俺は騎士団隊長に任命された。
ハーディン様直々の命だったので、自分が選ばれたことがとても嬉しく、誇らしかった。
認められたことが俺の鼻を高くしていたんだ。
だが、この女の方が俺よりもうわてだった。
だから最初に話し掛けた時は、どうにか自分の方がこいつよりも上だということを見せつけたい、そう思ったことを認める。
女に負けたなんて考えたくなかったんだ。
男としては譲れない気持ちだとわかるだろう?
けしかけるように言った侮辱をかわされた時は、とても悔しかったのを覚えている。
しかしすぐに自分が冷静ではないと思い謝罪をした。よく考えれば、馬鹿げたことをしているのがわかったんだ。
あんなことを言われたなら、俺だったら腹が立つ。ハーディン様を馬鹿にするとは!と剣を持ち出すだろう。
それをしなかったこの女は出来た騎士だ。そこでやっと、俺よりも数段上だと受け入れることが出来た。
彼女はといった。
強く美しく、その明るい性格は誰もが惹きつけられるだろう。
俺もいつの間にかその一人となっていた。
しかしの横にはどんな男もおらず、誰もその位置に収まろうとしていないことも感じれた。
一体、この女はどうしてそういう状況なのか。と思ったが、その方が都合がいい。
このように強く美しい彼女は、自分のためにいるのだろう。
ハーディン様が篭城し、アリティア軍は何日もかけてそれを囲んでいる。
その状況がずっと心を闇に落としていたが、それを癒してくれたのはだった。
彼女がそばにいるだけで心は浮き立ち、強張った体も解されていく。
いつしか彼女を自分だけの女にし、草原に連れて行って共に生きたいとまで望んでいた。
しかしその思いは、ザガロの言葉によって砕け散ることとなる。
「ウルフ、やめとけよ」
「なんのことだ?」
「はやめとけ。お前がに惹かれてるのはわかってんだ」
「…」
「あの女は他の男を見てる。それが誰かはわからん、けど確かだ」
ザガロは俺のためにずっとを観察していたらしい。お節介な奴だと思わないか。
それも彼女の相手を、他の奴らに探ったみたいだった。
「誰一人として教えちゃくれないんだよな。なんつーか、誰もがみんなとその相手を守ってるっつーか」
「守っている?」
「アリティア軍ってそういうのが強いだろ?ま、俺たちもそうだけどさ」
「…とりあえず、お前の忠告は心に留めておく」
この時の俺は、彼女の技術に感嘆した時以上に混乱していただろう。
が他の男を見ている?それは一体誰なんだ!
パレスの篭城を破ったアリティア軍はハーディン様のおられる玉座を目指して進軍した。
そしてハーディン様に対峙した時、俺は足がすくんでしまった。
あの方はどこへ行ってしまったんだ?目の前にいるアカネイアの王は誰だ?
ハーディン様の凛々しく優しいお顔は、鋭く光る赤い瞳と嘲るように笑う口元に変わっていた。
そして今までしてきた悪行の数々…許されるものではなかった。
「ウルフ、もし私が世界をおとしめる様なことをしたら殺してくれ」
前に一度、こう言われたことがある。
その時のハーディン様はこうなることがわかっていたのかもしれない。
あの時の苦しそうな表情が忘れられないが、今の見たことないハーディン様の中にも同じ苦しみが見える気がした。
俺が竦み上がって動けないというのに、マルス王子は冷静だった。
元に戻れぬと悟ると、剣を振るったんだ。
ハーディン様が倒れ、自分の悪行とニーナ王女への愛を告げた時、俺の心は闇へと落ちた。
何の役にも立てなかった。ハーディン様が苦しんでいたというのに、見て見ぬフリをした。
そして助けを求められたのはマルス王子で、俺など一睨みされただけだ。
狼騎士団の隊長なんてそんなものだった。
そう沈んでいても、心の中では真実を知っている。
闇に支配されたハーディン様に敵うのはマルス王子だけだ。
俺なんかが敵うわけがない。
アカネイアを解放したマルス軍は、夜通し飲み明かす様だった。
ロシェもビラクもザガロも、ハーディン様のことを悲しんではいるが、今までの悪行を考えれば仕方のないことだと割り切ったようだった。
でも俺はそんな簡単に割り切ることは出来ない。
闇へ落ちた心を癒すかのように、真っ暗な中庭で座り込んでいた。
幸いここには人っ子一人いない。当たり前だ。ここはハーディン様を討った玉座の間のすぐ横にある。
さすがにそんなところでは酒を飲もうなんて誰も考えはしないんだろう。
そんな時、俺に好機が訪れた。
が一人でやってきて、すがったら女神のように抱きしめてくれた。
心地よい柔らかな胸が高鳴っているのを聞き、俺は自分の都合が良いように考えた。
見上げると、の瞳には美しい下弦の月が映っている。
潤いを帯びた唇は少し開かれ、まさに俺を待っているのだろうと考えたんだ。
口づけて拒否をされたら、きっぱりと退こうと決めていた。
しかしは俺を受け入れ、官能的に求めてきた。絡ませた舌を俺が悦ぶように動かし、体を擦り付けてくる。
もう後には引けない、引かないと思った。
その場で押し倒し、再び口づける。首筋を舐め、乳房を揉むと悦びの声を上げた。
この時点でもう頭がおかしくなりそうだった。
女を抱くときにこんな気持ちになったことはない。
ヤる前から満たされ、誇らしく、そして何よりもが愛おしくてたまらなくなった。
優しくしたい、悦ばせたい。俺を見て欲しい、俺だけのものになって欲しい。
そんな気持ちが一気に押し寄せて俺を高ぶらせる。
瞳を潤ませたを抱き上げ、部屋に走って行った。
ベッドに下ろして彼女を覆った全てのものを剥がすと、中からは滑らかに輝く肌が現れた。
触るとさらりとして気持ちいい。くすぐったそうに身を縮めるその動きにもそそられた。
形よく起った乳首を吸い、両乳房を揉みしだくと高々に声を上げて悦ぶ。
くびれを撫でてそのまま尻を掴むと、引き締まったその弾力に俺は硬くなった。
まだ始まったばかりだというのに、もうその中に納まることを願っている。
その思いをかき消すかのように乳首に噛みつくと、は体を弾かせて嬌声を上げた。
力の入った腕がベッドを軋ませ、その手はシーツを掴もうとしている。
両方の太ももをこれでもかというくらいに開き、つま先に力を入れて尻を上げている。
それを無意識に眺めながら、俺が考えているのはを組み敷いて自分だけのものにすることだ。
くねらせた肢体はあまりにも官能的で、冷静だと言われている俺をそうじゃなくさせてしまった。
ゆっくりと指先を下腹部へ移動させ、小ぶりな茂みに絡ませた。
そんなことをしているなんて気付いていないだろう。
は小刻みに喘ぎながら痙攣するかのように体を揺らしている。
快感に酔いしれて、瞼を薄く開け頬を蒸気させていた。
「んあっ!」
割れ目に指を当て中の肉芽を一気に擦り上げると、くぐもった声が聞こえた。
刺激が強すぎたのだろう。鼻に抜けるような低い声だ。
途端、ぬるりとした液体が溢れだして俺の指を覆う。
温かなそれの力を借り、肉芽を優しく、時に強く掻き回す。
何度も何度も高らかな嬌声を上げ、息遣いも荒く早くなってきた。そろそろ限界だろうか。
そう思ってのそこに指を当て、一気にナカへ突っ込んだ。
気持ちよさそうに体をくねらせ、ナカも俺の指を締め上げるように肉がひしめき合う。
温かいひだはうねり、指の出し入れを強要してくる。
でも俺はなかなかその気になれなかった。
の初めてを奪ったのは誰なんだ?
オレルアンでは女の貞操はその身を預けられる男が現れるまで守られる。
だからの様に貞操を失っている女は、身持ちが軽いと判断されるんだ。
そんな堅い考えが根付いている場所で生まれ育った俺は、が初めてじゃないことに落胆していた。
「ザガロに……あんたはやめとけって言われた」
「えっ」
「あんたは別の男を見てるから、絶対痛い目を見る。だからやめとけって言われた」
「!」
「あんたを最初に抱いたのはその男なのか?」
責めるように言い、が答える前に答えられないくらいの快感を与えた。
本当はこんなことを言うべきではない。言ったらこの関係がこれで終わってしまうのもわかっていた。
だけど言わずにはいられなかった。
「俺はあんたに惹かれてるんだ。純粋で美しいが好きだ。しかし、別の男を見ている女を想うなんて器用なことは出来ない!」
「んんっ」
「オレルアンの男は、一人の女を一生愛し続ける。俺を選んでくれるなら、俺だけを見て、戦いが終わったら一緒に草原に来てくれ!」
そう言いながら、指を掻き上げて肉壁を擦る。擦るたびにの体は跳ね上がり、数度目で大きくけいれんした。
「あっ……はああああぁぁぁんっ」
そして体を弓なりに反らして果てた。
はあまりにも優しく、脆く見えた。
あんな技術を持って俺以上の弓を扱えるというのに。
ここにいるのは誰かに恋をして傷ついているただの女だった。
気持ちを断られ、隣にいることも許されない俺が何をしてやれるだろうか。
泣いているを見ながらそう思った。
普通だったらこの時点でめんどくさい女だと思って置き去りにしているだろう。
しかしそんなことは出来るわけもなく、するつもりもなかった。
本当に、こんな気持ちになったのは初めてだった。
拒否をされても愛おしくてたまらない。
自分のものにならなくとも、どうにか笑顔にさせられるのなら満足だった。
だからこそ、朝まで優しく抱きしめてやった。
が求めていたのは人の温もりだったのだろう。
そんな時に近くにいたのが俺だっただけだ。
そして俺はそれを利用してを自分のものにしようと企んだ。
でも俺が愛してしまったばっかりに、その企みは露と消えた。
愛さなければ自分のものに出来ただろうに。
愛というものはあまりにも厄介で、純粋過ぎる気持ちだ。
そしてお前に持つ以上の愛を注げる相手が現れるまでは、俺はお前を愛するだろう。
誰と幸せになろうとも、不幸になろうとも、俺はお前を愛している。
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なんかコメントしづらいんですが(笑
自分のモノにしかけて玉砕したウルフさんがを諦められないワケな話です。
エピローグあたりに書きましたが、会いには来ないけど手紙を送り続ける彼。
純粋に愛してしまっているからこそ、相手の現状を受け入れられないというか受け入れたくないというか。
そんな感じで会いに来ないのか来れないのか…
簡単に言えば一方通行な愛なんですが(汗
色々込み入ってるんですよね、人の感情って。そこが曖昧に表現できてればいいかな、と。
一方通行なんて、放った矢と一緒ですね^^
2011/05/15