病のことを聞いた時、僕が反対したことは言うまでもない。
けれどもアランは言ったんだ。










「養生して死ぬのを待つよりも、貴方につくられていく世界を見て死にたいのです」










こう言われてその心意気を無下にするような奴は、人の上に立つ資格も、導く資格もないだろう。
だけどその身を案じる者としては、受け入れる方が最悪の友人だということも覚えておかなければならない。










「わかった」

「ありがたき幸せ」










微かに微笑んだきみの瞳は輝いていなかった。
それを知っていて、僕は受け入れてしまったんだ。



きみが僕のそばであわよくば騎士として死のうとしていることを。



騎士達は国のため、主君のために死ぬことが名誉だとされている。
でもそんなのは理想に過ぎない。自己満足の世界だ。
中には自分のために死んでゆく騎士を見るのが誇らしいという領主もいるかも知れない。でもそんなのはクソくらえだ。
そんなのは絶対に許せない。

人は皆、自分のため、幸せにしたい人のために生きていくべきだ。
そうしたら、いざ死ぬときになって悔いを残さずに果てることが出来る。
言ってしまえばこれも自己満足の世界なのかもしれない。けれども、自分という者が自分や家族のためにしてきた功績は、国や主君のための功績よりも遥か上を行くだろう。
人はそれを『幸せ』と呼んでいる。



僕は、一人でも多くの人にそれを感じて欲しいんだ。



アランにも幸せを感じてほしい。
でも彼にとっての養生が幸せではなく、騎士が幸せなら致し方ない。










「僕にだってどっちが良いかなんてわからない。けど……」










出来得るのならば、きみが僕のために騎士として死なないことを祈ってる。










「騎士としての死に向き合わなければならない全ての主君が、その死に心を痛めないわけじゃないんだよ…」










                        *










きみの瞳が、いつの間にか輝いているのに気付いた。
あれは確かグルニアの反乱を鎮圧した直後だった。あの状況を経て目を輝かせているきみに反感を覚えたのを思い出す。

後から知ったことだけど、僕の騎士隊長はもっと深いところを知り、身近なところを見つめていたんだ。
新人騎士たちに接するアランはとても楽しそうで、幸せそうだった。
だから僕の選択は間違ってなかったんだと思ったよ。




カダインの夜のホットミルクはとても美味しかったのを覚えてる。
きみがああいうものを飲んでいるのにも驚いたけどね。でもよくよく考えたら病もちなんだから、必然的にそうなるよね。

あの時も言ったけど、きみを幸せにしてくれるものを見つけてあげたかったんだ。
もう見つかってるなんて思いもしなかったけど、それがわかった時、僕が何を思ったかわかるかい?




僕の選択は正しかった、そう思ったんだ。










                        *










の恋人が誰か噂が立ったとき、きみが相手なんて考えもしなかった。
でもよく考えればわかったんだよね。
新人兵士の討論会の時はいつもが横にいた。そして彼女と話をしている時のきみは、みたこともないくらい穏やかな表情だった。



それなのに、アカネイア城包囲戦の時のきみ達ときたら!



お互いを思って止まないはずなのに、はウルフと、きみはカタリナと一緒にいて。
子供の喧嘩じゃないし、理由もわからないから何も言えなかったけど、シーダからがウルフの部屋から出てきたって聞いた時には卒倒するかと思ったよ。



ああ、もうダメだって思った。



けど、僕が思っている以上にきみ達の絆が深いことを知った。
そしてそれを阻む原因が、きみの病だということもね。

その病を隠せなくなってきみが倒れた時、は取り乱した。
ずっと会話もなかったきみ達なのに、はきみのために取り乱して、ついていくと言ったんだ。

きみ達の絆は、本人の知らないところで深く繋がっていたんだと思った。
だから僕は最後の手段だと考えて、意見したんだ。逃している幸せに気付けばいいと思って。

でも、きみは全部気付いてた。わかっていてそれでも言えなかったんだ。
アランは優しいから、最後に自分が犠牲になろうとしてたんだよね。

先に逝く自分を思うより、ずっと共に居れるウルフを選ぶように。
が自分から離れた時に、そう決めたんだよね。



僕の最後の手段が成功して良かったよ。ウルフには悪いけど、僕にとって大切な騎士隊長と近衛騎士……ううん、友人だから。
あれからはずっと、二人の幸せな顔しか見てない気がするよ。










に二人目が出来たんだって?」

「はい」

「頑張るね、きみも」

「お蔭さまで」










穏やかに笑う瞳は、グルニア反乱の時以上に輝いて見えた。
体はやせ細り、頬もこけて騎士隊長だった時の面影はもうない。けれど幸せそうな表情に安堵した。










「すべて王子のお蔭です」

「はは、僕が仲を取り持ってあげたからね」

「……」

「このことに関してはその通りだと思ってるんだけど」

「ふ……その通り過ぎて言葉が出てこなかったんです。まさか王子がそんな言い方をされるとは思ってもみなかったので」










アランはくすくす笑うと空を見上げた。
ここはアランに「私がの相手です」と宣言された場所。そう、アランとにこの場所は危険だって指摘された場所。
思えば、あの頃から二人の関係は始まっていたのかもしれない。










「そんな王子に頼みごとがあるのですが」

「なんだい?」

「私がいなくなった後、にロディとの仲をすすめて頂けないでしょうか」

「ええっ!!!」

「私がいなくなっても、と子供達には温かい家庭をつくって欲しいのです」










そう言われてしまうと反論できなくなってしまった。
だって僕も、次にすすめるならロディがいいと思ったから。
ロディとなら文句なしに温かい家庭がつくれるだろう。










「そろそろ陽も落ちますので、お暇させて頂きます」

「あ、ああうん。気を付けて帰ってね。第二子はに似るように願ってるよ」

「さりげなく酷いことを仰られましたね。まあ、その通りですが」










お互い笑いあうと、そのまま幸せそうな背中を見送った。
でもそれが、きみとの最後の会話になった。

アランが亡くなったのはが第二子を見せに来てくれた日のこと。
幸せそうに子供を抱きながら帰っていく姿を見送ったはずなのに、次に見た彼女の顔は涙でぼろぼろだった。
そんな顔でアリティア城に引き返してきたからすぐにわかってしまった。



アランが……!



自分が出向きたいのを抑えてカインに命を下し、ロディとセシルと共に向かわせた。
そして帰ってきた三人は、涙で頬を濡らしていた。










「ねえ、シーダ」










その日の夜、僕は切り出してみた。シーダだったら反対しない。
そう願って。










「マルス様、私もアランに一目会いたいです」

「シーダ……!!!」










僕みたいな身分の者が騎士隊長…それもかつての騎士隊長だった者の葬儀に出向くなんて前代未聞かもしれない。
けれど、僕はきみの主君である前に友人としてお別れしたかったんだ。

出会ったのは遅かったし、騎士隊長としてここに残ってもらったのもジェイガンの我儘だった。
けれどもきみのために心を痛め、安堵した回数は数えきれないよ。
だからね、友人としてなんだよ。今日は友人として。

僕はそう言い聞かせると、安らかな表情で眠るアランに笑いかけた。











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書くつもりがなかったマルス編の短編…
思ってみれば本編であんなに活躍したのにってことで書いたわけではありません(笑)

突然思い浮かび、それも時間が出来たために書いてみました。
なんかマルス王子だったらこんなこと思ってそうじゃないですか?


2011/09/24