幼い頃は貴族だった。そういっても没落貴族で、平民と変わらない生活をしていたの。
でも父も母も自分達には貴族の血が流れているのだから、胸を張って生きなさいって教え込んだわ。
いつもその意味がわからなくて悩んだものだった。だから貴族ではなくなった時は嬉しかったものよ。
貴族である友達からは蔑まれたけれど、あんな表面だけの友情なんていらなかったもの。
だからその事実は、特に私の成長を妨げることなくむしろのびのびと成長するようにしてくれた。
決まった踊りやダンス、社交辞令などは捨てて、毎日鍛錬に明け暮れた。強くなる自分が頼もしく感じたわ。
そして祖父がアリティアの騎士を目標に鍛え上げてくれたから、こうしてマルス様の近衛騎士として仕えている。
世界は、アカネイアパレスにハーディン王が迎えられて平和に満ちていた。
だから騎士になったとしても、実戦は先の先かもしれないと思って過ごしていた。
ちゃんと言うと、平和ボケしてるわけでも戦争を望んでるわけでもないわよ。
戦争はないにこしたことはないし、平和が一番なのはわかってる。
でも私には何か出来る力があると思うから…、生かしてみたい気持ちがあったの。
それがまさか、こんなに早く生かさなければならない時が来るなんて。
「、頼むよ」
「なにを?」
目まぐるしく脳を回転させる中、ルークが話し掛けてきた。
内心、めんどくさいと思いながら聞いてあげる。
「今度の出兵、俺が活躍するからな」
「それのどこが、頼むに繋がるの?」
「俺が活躍するから、お前が活躍するなってこと」
「……」
ばかばかしい。
答える意味はないと思い無言でその場を去ろうすると、ルークは「ちゃんと聞いてんのか!」と追いかけてきた。
彼を振り切るようにアリティア城を走り回る。
数分後に無事撒いたところで、自分が城の中庭のどこにいるのかわからなくなたことに気付いた。
「あら…やっぱり私って、方向音痴だわ」
立ち止まって溜め息を吐く。
「中庭のことも知っておきたいし、もう少し歩いてみよう。そのうちどこにいるかわかるわよね」
ここに来て数か月になるけど、アリティア城は私には広すぎて把握出来てない場所がたくさんあった。
歩き出すと迷子になるし、任務中にそんなことになったらジェイガン様に大目玉をくらっちゃうでしょ。
だから今まで探検することはなかったんだけど、今日は非番だしまだ昼過ぎ。迷っても夜にはきっと部屋に辿り着ける。
自信は無いけどきっと大丈夫。そう思って歩き出した。
しばらく歩くと、城内だというのに木が生い茂ってるところに出た。
こんなに生い茂ってたら、不審者が入り込んでも隠れやすくなってしまうわ。
何かあったら大変だし、調べておいた方がよさそう。
そう思って一歩踏み出すと、先客がいたの。
金髪の…男の人?
私にとっては初めて見る人。城内と同じくらいアリティア城に務めている人を把握していないから、知らなくても当然なんだけれど。
あんなに見事な金髪なら、一回会ったら忘れはしないだろうな。
彼は地面に座り込んで静かに本を読んでいた。長い指が一枚、また一枚とページを捲っていく。
少し猫背に座り、大きな体に対して本が小さく見えて少し異様な感じがした。
不審者ではないだろうけど、誰かわからない以上声をかけるのは気が引けるわね…。
じっと見つめていると、男の人はパタンと本を閉じた。
「何か用か」
彼はそう言ってこちらを見た。
年齢は私の倍はいってないだろうけど、三十代半ばくらいかしら。
青白いと思える程の、真っ白な肌が目を引く。
「あの…え、えっと…」
何て言っていいかわからなくて思わずどもってしまう。
こんなんじゃマルス様の近衛を務めていけないわよ、!
心の中で自分を叱咤した。
私が何も言えないでいると、彼は立ち上がってこちらに歩いてきた。そして私を見下ろす。
…わ、背が高い。
「私はアランだ」
「あ、です」
名乗ってくれたから思わず名乗っちゃったけど、大丈夫かしら。
不安そうにしているのがわかってしまったのか、彼は私の頭に手を置いてぽんぽんと叩き、
「私はアリティアの城に勤めている者だ。安心しろ」と言って、行ってしまった。
あの人、私が考えてることや感じてる事が全部わかってたんだ。だから質問される前に答えていなくなった。
何て凄い人なんだろう。出来る事なら、もう一回話してみたい。
あんな鋭い人、滅多にいないわ…。
「……今度はどもらずに話せるかしら」
そんなことを考えながら、私はその場を後にした。
数日後、私は同じ場所に行ってみた。
あの茂みとアランという人が気になったから。
でも、今度そこにいたのはマルス様だったの。
「マルス様」
「ああ、。君もここが好きなのかい」
「いえ、そういうわけではないですけれど…」
即時に否定した私をマルス様は笑う。
「じゃあ、君も指摘しに来たのかな」
「指摘…ですか?」
一体何を指摘しなければならないのだろう。
困惑していると、マルス様は再び笑って私の肩を叩いた。
「、君もここに木が茂りすぎだって言いに来たんじゃないの」
「えっ!?そうは思ってましたけど…」
「やっぱりね。でもここを無くそうなんて考えは、諦めてもらうしかないな」
マルス様はその場に寝転がり、両手を大きく広げた。そして空を見上げる。
「ここは、輝く太陽と青い空、靡く葉。自然を一度に全て見られる、城で唯一の場所なんだ」
手招きされ、私は横に寝転がった。
確かに言う通りだわ。ここではみんな一緒くたに見れる。
でも…
「わかってる。城さえ出ればそんなものはいくらでも見れるよ。でも小さい頃の僕はそういうわけに行かなかったし……。まあ、いわゆる…思い出の場所を壊したくないだけというか」
申し訳なさそうに言うマルス様に、にっこり微笑んで言う。
「それならばしょうがないですね。ここを残して危険な分は、私が誠心誠意お守り致します!」
「えっ…」
驚かれてしまい、自分が変な事を言ってしまったのではないかと戸惑う。
すると、マルス様は「違うんだ」と手を振った。
「同じことを言った人がいたからさ、びっくりしちゃって」
「同じことですか?」
「ここの指摘もそうだし、残すこともしょうがないってことと、守ってくれるってことも全部ね」
「まあ……。マルス様のことをよく考えてる方なんですね」
「そうだね。と一緒だ」
「はい!」
その時、私と同じ事を言った人はあの金髪の男の人なんじゃないかと思った。
ううん、そうだったらいいと思ったの。
あの大きな背中が、マルス様を誠心誠意守りたいって言っている気がしたから。
なんか彼に、勝手に親近感が沸いてしまった。アリティア城のどこにいる人かもわからないのに。
言ってしまえば、私と同じことを言ったかも証明出来ないのにね。
「僕はもう行くけど、はまだここにいるかい?」
「はい」
「じゃあ、また」
後ろ姿を見送って、私はさっきのようにその場に寝転がった。
マルス様の言った通りだわ…。
お城の中だけの生活ならば、ここがどんなに大切な場所になるかわかる。
私は田舎出身だから自然と共に生きるとこが普通だったけれど…
このお城の中だけが自分の世界だった子供には、外の世界に思いを馳せる場所なんでしょうね。
「先客か」
「えっ」
声に驚いて起き上がると、そこには彼…アラン殿が立っていた。
アラン殿は片手に本を持ち、先日会った時と同じような格好をしている。
きっと非番なのだろう。彼にとってもここはリラックス出来る場所なのかしら。
「、無防備にもほどがある」
「す、すみません…」
何でいきなり怒られたのに、素直に謝ってるの。それもそれが当たり前のような感じがするし…。
彼に怒られることが不自然じゃないなんて、私ってちょっとおかしいのかしら。
困惑している私の事なんて露知らず、アラン殿は言葉を続ける。
「非番か?」
「はい」
「非番なのに城の中にいるなど物好きだな。女性は街に買い物に出たりするのではないか?」
彼は私の横に腰を下ろし、本を開いた。
「私はあまり買い物には興味なくて…。兵法の本とか武具なら興味ありますが」
「ほう…そうか」
私の言葉に少し興味を示す様に、開いた本を閉じる。
「全ての女性が買い物に興味があると思っているなら、それは偏見です」
「ふ……そうか、そうだな。のような者もいるだろう」
「そうです」
「すまない。私は少し頭が堅いのだ」
鋭い目を和らげて笑う。彼はきっと、優しい人なんだろう。
聞くなら今かも…とずっと気になっていたことを思いきって話題にしてみた。
「アラン殿は城のどちらにお勤めに?」
すると彼は少し驚いた風に一瞬止まり、フッと笑った。
「そのうちわかる。今日はお互い非番だ、そんなことはいい」
そう言って、また本を開いて読み出してしまった。
はぐらかされちゃったし、これ以上話掛けたら邪魔しちゃうわよね。
ああ、私も本を持って来ればよかった。
何をすることもなく空を見上げ、この心地良さに身を任せる。
考えてみれば本なんか必要ない気がした。ここで空を見上げ、自然を感じているだけで日頃の疲れが取れる。
それにアラン殿が横にいると、無防備にしても安心出来る。
よく知りもしない人と違和感なく居るなんて!
この安心感に疑問を抱きながら、あろうことかそのまま眠ってしまった。
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マイユニットは、アランの外見より中身に惹かれる気がします…!
このアラン、ちょっと隊長らしいなぁ。
2011/02/11