複雑な気持ちだった。
嬉しくて、顔がにやけそうになるのを必死に抑える。
いけないいけないと思って頬を叩き、気合いを入れる。

早く、ルークをのさなきゃ。

訓練に集中すれば、この浮ついた気持ちも落ち着くかもしれない。



さっき、アラン殿は自分のことを話してくれた。
私とルークが見たあの女性について教えてくれたのだ。

聞いた話からは、あの女性のアラン殿への愛が溢れていた。アラン殿が彼女を愛しているかはわからなかったけど、信頼と絆を感じた。
その彼女は、私に全てを任せると言ってくれた。
会ったこともない私に、全てを任せるなんて…どう考えてもアラン殿の全てを任せるという意味になる。
彼女はあの短い時で、私と同じ様にアラン殿への愛を相手に感じたんだわ。



告白しよう。



この気持ちをもやもやさせたままでは、今後の戦いに集中出来ない。
戦いでヘマをするならば、結果がダメだったとしても、気持ちを伝える方がいい。














カダインを経てアンリの道に入ると、女性達は少し落胆していた。
なぜならば、これからいく道にはまともな城も村もなく、野営を余儀なくされるから。
カダインの湯殿が素晴らし過ぎて、みんな離れ難くなってしまったの。

蛮族と飛竜が襲い掛かって来るこの砂漠は、カダインでの戦いとは大違い。魔法攻撃はないものの、どこからともなく飛竜が現れ、頭上から攻撃される。
こういう時は、私達弓使いの出番。三つの部隊に別れたアリティア軍は、アーチャーも均一に三部隊に別れた。
私はマルス様の部隊でノルンと一緒、ここは主にアリティアの騎士で編成されている。
他は傭兵・魔導部隊、ここにはゴードン殿とライアン。ドラゴン天馬部隊にはジョルジュ殿とウォレン殿、カシム殿。
私達の部隊は他の部隊に比べて歩みが遅い。だからマルス様を守りつつゆっくり進んで行く。





「飛竜だ!」





誰かが叫んだ。
すると騎士隊が一列になって一歩踏み出す。





「騎士隊、槍を構え!」





アラン殿の声が聞こえ、一斉に槍を構える。





「放て!」





命令と共に槍が孤を描いて飛竜に向かって行く。数本は当たったが、他はかわされてしまった。





「攻撃が来るぞ!マルス様を守れ!」





騎士達がマルス様の周りを囲み、盾を構えた。





「弓隊、我等が引き付ける間に矢を放て!」

「はい!」





アラン殿の声に私とノルンは矢を番えた。
飛竜は盾を構えて固まった騎士達に足を繰り出し、攻撃を加えている。ガシンガシンという鈍い音がし、騎士達の呻き声が聞こえた。
あんな巨体の竜だ。力の強さは半端じゃないだろう。

私達は飛竜の動きが一瞬でも止まるを機を待った。





「今よ!」





引き絞った弦を放すと、勢いよく矢が飛び出した。騎士達の槍の何倍もの力で、飛竜に向かって行く。

標的は飛竜の目。矢は、見事双方を射ぬいた。

ギヤオウゥ…

悲痛な叫びが聞こえたと同時に、盾を持っていた騎士達が散開する。
そして間から出て来たマルス様が構えるのはドラゴンソード。彼は華麗なる剣技で飛竜の頚を落とした。





「怯むな、次に備えろ」





歓声が上がり、アラン殿がそれを諌める。彼の言う通り、飛竜の攻撃に乗じて襲い掛かろうとしていた蛮族が、こちらに向かってきていた。
騎士達が飛び出す前に、私達は走って来る蛮族に矢を浴びせる。これはスピードが命だ。
数人が倒れ、敵がだいぶ近づいて来たら攻撃を止め、ナイフを構えた。
私達アーチャーは接近戦が苦手だ。自分の身を守るには、護身用ナイフを持つしかない。
でもほとんどは、騎士達が敵を片付けてくれるし、実はマルス様にも守られているのよね。
近衛騎士なのに本当に申し訳ない限りです。















アリティア軍が蛮族の居城を制圧すると、私達の野営場所が決まった。
戦い始めたのが早朝だったため、今は昼過ぎ。
兵士達は簡単な食事をして、身体を休めていた。





「あれは…」





見回りとしょうして外を散歩していると、アラン殿が高台に歩いて行くのが見えた。
どうしようか迷ったけれど、着いていくことにした。



そう、告白するって決めたんだもの。



かなり遠くを歩いていたので、追いつくまでに時間がかかった。
追いついたのは高台で、アラン殿は既に周囲を見渡していた。





、どうしたのだ?」





アラン殿は驚いた表情で私を見た。ついてきてはまずかったかしら。





「アラン殿が見えたので…」

「私は見回ってるだけだ。わざわざ来なくても心配ない」

「すみません…」





やっぱり勝手についてきちゃいけなかったんだ!
すごすごと帰ろうとすると、彼は申し訳なさそうに言う。





「怒っているわけではない。は自分の時間を大切にしなくていいのか。休まなければ」





怒っていないけど、自分の時間だから一人にしてほしいって言ってるのかしら。





「す、すみません」

「何故謝る?」





アラン殿は私の顔をじっと見た。何か考えてるようで、私は首を竦めた。





「………そうか、言い方がよくなかったな。私としては、お前がいてくれた方が安心だし、落ち着く。さえ良ければここに居ていい」

「はい!」





…うれしい。



アラン殿の横に立ち砂漠を見渡す。砂漠には誰もいなかった。寂しい場所だ。





「寂しい場所だな…」

「はい。アリティアからとても遠いところまで来てしまいました」

「ああ。アリティア城下街の喧騒が懐かしいな」





しみじみと言うアラン殿がおかしくて、くすりと笑ってしまう。すると、彼はムスっと私を見た。





「親父くさいと思っているのだろう」

「ふふ、違います。何だが親近感が湧いてしまって。私も、城下街で売ってるパイが食べたいなって」





すると、今度はアラン殿が笑った。





「食い気だな」

「そうですけど…言い方がひどいです!」

「すまんすまん」





お互いに笑い合って、ふと見つめ合う。
こんな寂しい場所にいるのに、この人と一緒にいるとなんて楽しいんだろう。

アラン殿は優しく笑み、ぽんぽんと私の頭を撫でた。
みんなが言う、目が鋭くて恐い隊長はここにいない。





「アラン殿の頭ぽんぽんは癖ですか?」

「頭ぽんぽん?」

「私の頭をぽんぽん撫でるような、叩くような…今していたやつです」





アラン殿は驚いた様に自分の手を見つめ、そして私の顔を見た。
もしかして、無意識なの?





「何度かしたかもしれんが、そう思われるほどやっていたのか?」

「はい。…無意識だったんですね」





途端、彼は青ざめた。





「申し訳ない。そのような事をしていたとは!さぞ嫌な気持ちをさせてしまっただろう」





アラン殿が深々と謝罪し、逆にこちらが驚いてしまう。





「そ、そんなことはありません。私、嫌ではないです」

「すまない、そんなに気を遣わせて」





あああ、どうしよう。
私は特別扱いの気がして嬉しかったのに。
どうしたらわかってくれるかしら。





「…私は勝手に、親近感を抱いているのだ。こんなに近くに居て違和感がなく、もっと共に居たいと思える女性は、が初めてだ」





「だから無意識にそのようなことをしていたのだろう」彼はそう続けた。
アラン殿の頬、心なしか赤い。

彼も同じ様に思って、私と接してくれていたんだ。
私もあなたと一緒にいたい。
あなたがいるから、苦しい戦いでもいつも以上の力を出せるの。



今なら、言える。



アラン殿の手に自分の手を添え、顔を見上げる。彼は不思議そうに私を見返した。





「私を、アラン殿のそういう人にして下さいませんか。あなたの隣に居る人に」





彼の瞳が見開かれ、瞬きされず見つめられる。
胸が高鳴った。





「…、なんと言った?」

「アラン殿の恋人にしてほしいのです」





聞き返されないようにわかりやすく言い換えた。
アラン殿はまだ目を見開いたまま、瞬きせず私を見つめている。
でも、そのうち彼は困った様に目を逸らす。そして何か言葉を紡ごうとしていた。



あ…れ?私、早まった?



アラン殿も同じように私を見ていてくれるって感じたのに、早とちりしたの?
彼、困ってる。私の気持ちを知って困ってるわ。



どうしよう。



胸がバクバク鳴って、不安に押し潰されそうだった。
今すぐここから逃げ出したい。そう思った。



アラン殿は違かったんだ。
もしかしたら、私を身近な弟子としか思ってなかったのかもしれない。
そうしたら、私がこの関係を壊してしまった!

もう、さっきみたいに楽しく話せない。
一緒に討論も出来ない。



消えてなくなりたかった。

アラン殿は私から目を逸らすと、悩むように目を瞑った。
きっと断りの台詞を考えているのだろう。





「あ、私…野営地に帰ります。返事は、いつでもいいですから」





そう言ってその場から逃げようとすると、アラン殿に腕を掴まれた。
ハッとして彼を見ると、真剣な表情で私を見ている。





「待ってくれ。答えは決まっている。ただ…少しだけ待ってほしい」

「は…はい」





そう言われたら待たざるをえない。断られるのがわかっているのに待つなんて。

私は沈んだ気持ちのまま、彼の横に立っていた。





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どうなるのか…ドキドキハラハラです!


2011/03/06



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