砂漠での戦いは虚しいものだった。あれは戦いと呼べるものだろうか。いや、違う。
略奪のための強襲であって、戦いではない。
連携の取れた私達だからこそ、飛竜に怯むことなく勝利したのだ。普通だったらああはいくまい。

魔導・傭兵隊は、傭兵で引き付け魔導士が飛竜を倒したようだ。
ゴードンらも役に立ったらしい。あちらには司祭とシスターがいるため怪我人が出てもすぐ対応出来た。
竜・天馬隊はジョルジュ殿が出る幕もなく、ミネルバ殿とパオラが活躍したらしい。

もノルンも期待以上の活躍をしたし、マルス王子の剣技にも磨きがかかっていた。

なにはともあれ、死者が出なくて幸いだ。







蛮族共がまだ建物内に篭っているので、我々は外で野営することになった。
残党の可能性も考慮し野営を出ると、同じように見回っているが目に入った。
どこでも同じように見回って、私達の考えはシンクロしているのかと錯覚してしまう。

声をかけようかと思ったが、やめておこう。
彼女は彼女なりに見回って、休む時間が必要だろう。

高台まで来ると、どこまでも続く砂漠が海のように見えた。こんなにも砂が広がり、人が住むような場所には見えない。
隠れるような場所もなく、黒い点一つもないので、残党がいる可能性は低いだろう。
そう判断して振り返ると、こちらに向かって来るが見えた。





、どうしたのだ?」

「アラン殿が見えたので…」





息を上げて言う彼女に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
隊長の私が見回っているので、着いてきてしまったのだろう。





「私は見回ってるだけだ。わざわざ来なくても心配ない」

「すみません…」





申し訳なさそうに帰ろうとする彼女を見て、言い方がきつかったことに気付く。





「怒っているわけではない。は自分の時間を大切にしなくていいのか。休まなければ」

「す、すみません」

「何故謝る?」





ハッとして彼女を見ると、またも畏縮していた。私の言い方は、つっけんどん過ぎるのだろう。





「………そうか、言い方がよくなかったな。私としては、お前がいてくれた方が安心だし、落ち着く。さえ良ければ、ここに居ていい」

「はい!」





ホッと胸を撫で下ろす。言葉がようやく伝わったらしい。
私はもう一度、砂漠を見渡した。





「寂しい場所だな…」

「はい。アリティアからとても遠いところまで来てしまいました」

「ああ。アリティア城下街の喧騒が懐かしいな」





しみじみと言うと、笑われてしまう。





「親父くさいと思っているのだろう」

「ふふ、違います。何だが親近感が湧いてしまって。

私も、城下街で売ってるパイが食べたいなって」

「食い気だな」

「そうですけど…言い方がひどいです!」

「すまんすまん」





互いに笑い合って、ふと見つめ合う。
こんな寂しい場所にいるのに、と一緒にいると、なんて楽しいのだろうか。





「…アラン殿の頭ぽんぽんは癖ですか?」





突然言われ、何の事だかわからなかった。





「頭ぽんぽん?」

「私の頭をぽんぽん撫でるような、叩くような…今していたやつです」





自分の手を見つめて思い起こす。しかし言われていることの感覚はあるが、思い当たらない。





「何度かしたかもしれんが、そう思われるほどやっていたのか?」

「はい。…無意識だったんですね」





青ざめた。
無意識にそんなことをしていたとは。それも何度も。
女性だとはいえ、マルス王子の近衛騎士に…子供にするような事をしていたとは!





「申し訳ない。そのような事をしていたとは!さぞ嫌な気持ちをさせてしまっただろう」

「そ、そんなことはありません。私、嫌ではないです」

「すまない、そんなに気を遣わせて」





もう取り返しがつかないので謝るしかない。
私は深々と謝罪をした。





「…私は勝手に、親近感を抱いているのだ。こんなに近くに居て違和感がなく、もっと共に居たいと思える女性は、が初めてだ。たがら無意識にそのようなことをしていたのだろう…」





言い訳がましいが、言わないよりはマシだと思った。
私の心にあるへの愛情が、体を勝手に動かすのだろうな。

彼女といて、このままですまなくなる日が来てもおかしくない。

恋が先か、病が先か。



ふと、が私の手に自分の手を乗せた。触れられた部分が熱くなり恋独特の衝動に駆られたので、それを抑えるのに必死になった。
わなないた気持ちで彼女を見返すと、心なしか潤んだ瞳が色っぽく胸が高まる。



私は何を考えている。
抑えろ。



はゆっくり口を開くと、噛み締めるように言葉を発した。





「私を、アラン殿のそういう人にして下さいませんか。あなたの隣に居る人に」





……ん?

彼女の言葉は聞こえたし、言っている意味も意図出来たが、あまりにも唐突で信じることが出来なかった。





「…、なんと言った?」

「アラン殿の恋人にしてほしいのです」





もう一度と促すと、今度はしっかりと簡潔に言葉にしてくれた。

まさかそんなことはあるまいと思っていた願いを、彼女の方が叶えてくれるとは思ってもみなかった。
の私に対するそれも、ルークやロディと同様に隊長への憧れだと思っていたのだ。



彼女への答えは決まっている。
イエスだ。



真実か確かめるためにの顔をじっと見た。
彼女は潤んだ瞳で、真剣に私を見返している。

本当に、私のことを思ってくれているのか。
私がお前を思っているように。

しかし、私はいずれ病で死に逝く身だ。
彼女がどれ程望んでくれるかわからないが、殆ど共にいられないだろう。



どうしたものか、と考えていると、は焦ったように「あ、私…野営地に帰ります。返事は、いつでもいいですから」と言った。

私が何も言わなかったせいだ。考えがまとまらないが、答えだけでも今伝えたい。
彼女を引き止める。





「待ってくれ。答えは決まっている。ただ…少しだけ待ってほしい」

「は…はい」





は困った様にその場に留まってくれた。
伝えなければ…

…そうだ、病のことはどうする。
伝えると心配して戦に出るなと言うだろう。それは出来ない。これは聖騎士アランの最期の戦だ。

それならば、伝えない方がいい。余計な心配をかけるのは良くないからな。
来るべき時が来たら、伝えよう。



ちらりと彼女を見ると、肩が震えていた。
なんてことだ。返事を待つのはどんなに辛いだろうか。我ながら酷なことを強いたものだ。



今は、この気持ちだけを伝えよう。







「はい」





パッと向けてきた顔は泣きそうに見えた。
彼女の頬に手を当て、瞳を見つめる。





「ありがとう」

「えっ…」





彼女の瞳が輝きを増す。





「私の隣にいる者になってほしい、





そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
愛おしい、心からそう思える。





「あ…、本当に私でいいのですか…」





確かめるように聞くに頷き返すと、彼女は両手で顔を覆って泣いた。

心から体から、私のすべてから彼女への愛情が溢れ出る。
私にもこんな感情があったのかと驚きを覚えつつ、彼女の背に腕を回し抱きしめる。

小柄で華奢な身体はすっぽりと腕の中におさまった。ぴくりと震えた肩から緊張が抜け、すべてを預けてくる。





「私、幸せです」

「私もだ、。私はずっと、お前に惹かれていた」

「本当に? 」

「ああ…」





身体を離し見つめ合う。抱きしめるだけでは足りない気がした。





「……気が早いと、怒るかもしれないが、私の気持ちを証明したい」

「?」





きょとんとしている彼女の唇に、自分の唇を押し付けた。
は大層驚いたようで固まってしまったが、ゆっくりと私を受け入れてくれる。





「ふぁっ…」





苦しそうに息を継ぎ、おずおずと舌を差し出す。それを絡め取ると、も同じように追い掛けてきた。
しばらくそうした後、ゆっくりと唇を離す。はほうけた表情で見返し、ハッと気付くと顔を真っ赤にした。





「すまない、抑えがきかなかった」

「あ、いえ!す、素晴らしくて…気持ちよくて……たい…」





再び顔を赤らめて、もごもごと言葉を続けるが聞き取れない。





「なんと言ったのだ?」

「……もう一回したいと、言いました」





恥ずかしそうに言う彼女の唇に、再び口づける。
こんなにも満たされることなど、今まであっただろうか。



盛りの頃は遊びもしたが、女が近付いて来るのは騎士隊長という地位だったからだ。
それがなくなり、ただのアランであった時は誰も近付いては来なくなった。
この釣り上がった目が恐いと兵士達に言われていたが、本当にそうだ。
私には優しいところはないと思っていた。
女への愛情でさえも、無い人間だと思っていた。



しかし実際は違う。
自ら愛し、愛してくれる人と出会っていなかっただけだ。

名残惜しく思いながら、の体を離す。
も私の背に回した腕を、ゆっくり解いた。





「アラン殿も、どきどきしていました」

「当たり前だ。お前をこの腕で抱き、口づけられたのだから。嬉しさにうち震えているのだ」

「嬉しい」





は本当に嬉しそうに微笑んだ。彼女が微笑むと、自分も幸せに感じる。
これこそが、真の恋人なのだろう。

自らやお互いについて少し話し、気づいたら日が落ちそうになっていた。そろそろ誰かが探しにきてもおかしくは無い。
私達はもう一度口づけを交わし、野営に戻ることにした。





「見回り、ご苦労だった」





野営に戻ると、珍しくジェイガン様が迎えてくれた。きっと何か話があるのだろう。





「二人で見回りに行ってたのか?」

「いえ。私はアラン殿が向かうのを見て、ついて行っただけです」

「そうか。アラン、いつも言っているが、見回りは他の者に任せても…」

「いえ。自分で行くのが性に合っているので」





きっぱりと言うと、ジェイガン様は食い下がった。





「しかし…」

「ジェイガン様、この時を利用して私が騎士についての議論が出来るので、とても良い時間なんです」

、それはお前にとっては、だろう。まあいい。アラン、、作戦会議を始めるぞ」

「「はい」」





は私達の関係を誰にも言うつもりはないのだな。
それならば、私もそのように振る舞おう。

その方がいい。
私にとっても好都合なのだが、少し寂しさを感じる自分がいた。




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くっついたーーーー!!!



2011/03/07



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