絶対ダメだと思ってた。
だって、あんなに困った表情で目を泳がせていたのに。
それなのに嫌な期待を裏切って、私を欲してくれた。



男の人と付き合ったことなんてないし、キスも初めて。
何もかも初めて尽くしの私に、アラン殿は色々教えてくれる。
彼がそういうことに慣れすぎてると思ってしまったけれど、直ぐに考え直した。
私よりいくつも年上で、大人の男性なのだから当たり前。
そんな男性を私のものにしたんだから、喜ばなきゃ。

思いが受け入れられ、彼の思いも明らかになったあと、彼は何度も何度も私の唇を求めてきた。
私も初めてだったにも関わらず、彼に応え、そして求めた。
キスというものは、この人が欲しい、もっと近くにいたいと思えるような時にとても有効だ。
温もりや息遣いを感じ、お互いの愛を測れる。測れるという言い方は良くないけれど、女性はそういうのを大事にする。
自分の価値を相手に感じないと満足出来ない…と本に書いてあった。

とにかく私達は、何度も見つめ合い、キスを交わし、抱きしめ合ってお互いをもっと知ろうと話し合った。

彼が「名残惜しい」という言葉を言うまで、時間が経っていることに全く気づかなかったわ。
幸せな時間は止まっていて欲しい…私の願いは脆くも崩れ去った。






これからの戦いはもっと厳しくなり、賢者ガトー様に会うまではアラン殿と二人きりになる時間なんてあまりなかった。
ジェイガン殿に呼ばれて作戦会議をした後、すぐ夕飯を食べて就寝。
早朝から灼熱地獄のような建物内で蛮族とドラゴンと飛竜と戦った。
あらかた敵が片付くと、私は彼の姿を探す。

彼はそんなに遠くない場所で、辺りを見回して咳込んでいる。
きっと暑い風に当たったんだろう。ところどころで咳込んでいる仲間が見られた。
気づかないかなと期待しながら視線を送ると、彼はパッと私を見た。そして目を細めて唇をゆっくりカーブさせる。
私も同じ様ににっこりすると、首を傾げた。彼も頷く。

二人で目線を逸らし、私はすぐにマルス様を探した。

その時はこれだけ。
私達はその場に留まり、昼休憩をとった。午後からはまた戦いだ。
作戦としては、この辛い戦いを早く終わらせようってことのみ。

そして灼熱の要塞から打って変わって、今度は極寒の地。
吹雪の中を、私達は十分とはいえない装備で進んだ。











行軍中、ルークが声をかけてきた。振り向くと、彼は元気そうだったけれど、馬が凍えてるのが見て取れた。

なんだか、かわいそう。





「ほらよ」

「え?」





彼は自分のマントを外すと、私の肩にかける。
あまりにもルークらしくないやり方に、私は絶句した。





「…おい、なんだよその顔は」

「だって、こんなこと……、吹雪が火の玉になってもおかしくない」

「恐いこというなよ…なっ!?」





ルークの驚いた声と同時に、無理矢理頭を押さえ付けられてしゃがまさせられた。





「あっぶね!お前が変な事言うから、本当に火の玉降ってきただろ」





恐る恐る顔を上げると、私達のすぐ横に円形の燃え跡が出来ていた。





「あんたが柄にもないことするから!」

「俺のせいかよ!」





言い合っていると、セシルに見つけられてしまい怒られた。
するとルークは渋々退散し、肩にかけられたマントを返しそびれてしまった。





「ルークったら、柄にもないことして!」





でも、あったかい。
私はそう思うと、マントの裾を手繰り寄せた。





「…あなたのそういうとこはダメね。浮気してるみたいよ」

「浮気!?」





セシルの言葉に驚いて、ルークのマントを落としてしまった。
急いで拾い、雪を払う。





「私だったら、付き合ってる人以外のマントを掛けたりしないわね」

「!」





彼女の言う通りだと思い、マントを畳む。こんなとこ、アラン殿が見ていたら私だっていや。
もしアラン殿が同じ様な事を他の女性にしていたら、私は悲しい。





「セシルの言う通りね」

、あなたは本当に素直ねぇ」

「だって、その通りだと思ったんだもの」

「素直で宜しい」

「偉そうよ!騎士、セシル!」

「私だもの」





セシルはわけのわからない理由をこじつけると、私からルークのマントを奪って行ってしまった。



さあ、こんなところでぼーっとしてる暇はないわ。
行かなきゃ。






氷竜だけではなく、戦いの終盤では忌ま忌ましい飛竜も現れたので、思わず舌打ちをしてしまう。
早くこんな戦いを終わりにしたい。悲しい竜達との戦いは。





「マルス様!」





前方で王子を見つけ、すかさず寄って行く。そして彼の後ろについた。





「あれ、。俺の方を守ってくれんの?」

「もしかして、チェイニー!?」





マルス様と同じ顔をしたチェイニーは、普段王子がしないようなニヤリ顔で言った。





「マルスはあっちだよ」





彼が指す方を見ると、本物のマルス様がゴードン殿の横で戦っていて、その少し離れたところにはアラン殿もいた。
二人がいれば大丈夫そう。それに王子自体もお強いし。





「今回は、あなたをマルス様だと思って守るわ」

「そうこなくっちゃ!」





腕を当て気合いを入れる。けど姿がマルス様なもんだから、ノるにはやりにくい。
私は近づいて来る敵に矢を放ちつつ、彼を援護した。
でもついに、チェイニーの力は時間が切れて元の姿に戻ってしまう。





「やべ、元に戻っちまった!…よし、変身っ」





突然彼が光ったかと思うと、そこにはもう一人の私が現れた。





「ちょ、ちょっと!何で私!」

「一番近くにいただろ!

…ははん、も女だな。安心しろ、プライベートな部分は見ないから」





馬鹿馬鹿しいことを言う彼を殴る。当たり前のことを言ってるんじゃないわよ。





「馬鹿ね。スナイパーが二人並んでどうするの!敵が近付いてきたらやられちゃうでしょ!」

「ああ、そっか。忘れてた」





私達がぎゃあぎゃあ騒いでいると、誰かが後ろから近付いてくる気配がした。





「っ…」





急いで振り向くと、その人の胸にぶつかってしまう。





「チェイニー、ふざけすぎだ」

「あ、アラン。だってさ〜、って面白いからさ」





アラン殿!

私は彼から一歩退き、チェイニーの方を見る。





「戦が終わってからにしてよ」

「ん〜…」





チェイニーはある方向を指した。そちらを見ると、マルス様が敵陣を制圧した姿が見える。





「終わってるだろ」

「…」





呆れてものも言えないわ。
私は自分の姿をした彼の髪を引っ張り、早く元に戻るように促した。
元に戻った彼が去ると、アラン殿と二人で場に残された。
どきどきしながら彼を見上げると、私から目線を逸らしている彼の顔。
一抹の不安を覚え、彼のマントを掴んで引く。

アラン殿はハッと私を見て頭ぽんぽんをし、何も言わずに行ってしまった。



あれ、あれ…私、何かやらかした?



胸の中にわだかまりが出来る。それを取り除く方法がわからず、その場で放心してしまった。
そもそも、自分が何をやらかしたかもわからない。





「とりあえず戻らなきゃ…」





大きな不安を残したまま、マルス様の元へ戻ることにした。



神殿の中にはまだ敵が残っており、その数も少ない事から今日の三戦目が決定した。
少人数での出陣の中には私もアラン殿も入っていて、正直、どうしようという気持ちになった。
戦いに集中しなければならないのに、不安に押し潰されそう。





「大丈夫か、

「ジョルジュ殿…」

「手が震えている。交代した方がいいのではないか?」





ジョルジュ殿の言った通り微かに震えていた。今までこんなことなんてなかったのに!
アラン殿のことが気になって、不安で不安でたまらない。
でも、近衛騎士である私がそんな甘いこと言ってられないもの。





「大丈夫です」

「…ひとつの見落としが多大な犠牲を招く危険もある。戦いに集中しろ」

「はい」





きをつけをして見つめ返すと、ジョルジュ殿は右手を私の顎に当て、クイと顔を上げさせた。





「!?」





あまりにも突然な出来事に私の頭はついていかない。





「そんな硬くなるな。美しい顔が台なしだ」

「なっ…!冗談を言わないでください!ジョルジュ殿の方が私の何倍もお美しいです!」





顔が真っ赤になっているのがわかる。
彼から離れて抗議すると、ジョルジュ殿は苦笑した。





「美しいなんて、男には全然褒め言葉にならないぞ」

「…戦いに集中しますっ」





そう言うと、今度はくすくす笑いが聞こえた。

ジョルジュ殿には心の中で感謝させてもらった。彼の言動のおかげで不安が和らいだし、戦いに集中も出来る。



そしてそのまま、神殿での戦いが始まった。



神殿の入口は氷竜で固められ、アラン殿とシリウス殿がドラゴンランスで攻撃をしている。
それを補佐するように、マリク殿とリンダ殿が魔法を放つ。
マルス様とオグマ殿、ナバール殿もドラゴンソードで応戦し、後ろでフィーナが踊っているのが異様な光景だった。





さん、いきましょう!」





私はライアンと組んで、神殿入口右側の壁向こうにいる魔導士を攻撃していた。
もちろん左側はジョルジュ殿とゴードン殿だ。

壁に耳を当て、衣擦れの小さな音を聞き分けての攻撃は難しかった。
百発百中とはいかないけれど、なんとか攻撃は有効になってるみたい。

矢を数発射って、音を聞き分けようと壁に耳を当てる。





「前へ進めー…」





アラン殿の声が遠くから聞こえ、思わず意識がそっちに行ってしまう。

いけない、集中しなきゃ…





「マルス様、お下がり下さい!リンダ殿も…」





だめ。





「危ない、リンダ殿!」





轟音が響く。
どうしても自分の方に集中出来なくて、壁から耳を離したその時…





さん!」





ライアンの声が聞こえたと同時に、背中に衝撃が走った。
最初は自分に何が起こったかわからなかったけれど、そのうち激痛が走る。





「うっ…」





攻撃を受けてしまったことはわかった。けれども痛すぎて、それ以上なにも考えられない。





さん、しっかりして!さん!」





ライアンの呼ぶ声だけが木霊し、そのうちどんどん遠くなっていった。





***************

こういう不安って、他のことが手につかないんですよね〜
気持ちがわかるわぁ…。



2011/03/09



14話→