先に言っておこう。
あれは完全なる私のヤキモチだったのだ。

思いが通ずると、今まで以上に相手のことが気になってしまう。それはもちろん私も例外じゃない。
がどこにいて、無事に戦っているか、危険なことはしていないかなど…。
それだけではない。どんな人と話して、軍で過ごしているかまで気になってしまうのだ。
今まで全く気にならなかったルークとの会話まで……

自分がおかしくなってしまったのではないかと思うほどだ。
ヤキモチなど恥ずかしいと思いつつ、妬かないではいられない気持ちに翻弄され、私は混乱の真っ只中にいた。



ルークにマントをかけられている彼女を見て苦しくなり、チェイニーと戯れる彼女を見て辛くなる。
ジョルジュ殿に触られた時には、腸が煮え繰り返りそうなのをなんとか抑えた。



まったく、どうかしている!



私達の関係を皆に言わないことを彼女が望む以上、この気持ちに耐えるしかなかった。
辛いが、から離れているのが一番だ。
近くに居なければ、そこまでおかしくはならないだろう。



しかし、それが間違いだった。



の感覚が鋭いのを忘れていたのだ。
彼女は私の行動に気付いた。しかし何故そのような態度を取られるかわからなく混乱してしまう。
その一途さを理解していたのにも関わらず、私は自分自身のために彼女の気持ちまで考えていられなかったのだ。
そしては、私の態度が気になって戦いに集中出来ず大怪我をしてしまった。



だから彼女は、私のヤキモチの犠牲になったのだ。





…」





救護テントの中、私はリンダ殿と簡易ベッドにうつぶせになっている彼女を見下ろしていた。
の背中は攻撃を受けた直後、赤く爛れて見るも無残な状態だった。しかし今は、回復の杖のお蔭で綺麗に治って包帯が巻かれている。





「あとは気付くだけね」

「はい。私はマリーシアが帰ってくるまでここにおります。リンダ殿はお戻りください」

「だめよ、アラン。あなたの傷だって浅くないんだから安静にしなきゃ」

「大丈夫ですよ」





が倒れたとほぼ同時に、私はリンダ殿を庇って怪我をした。
放たれた矢が利き腕に刺さったのだ。
今は矢じりも抜いて止血をしてあるが、を治すために杖を使い切ってしまったマリーシアが新しい杖を持ってくるのを待っているのだ。





「ん…」





その時、小さな吐息が聞こえ、の瞳が薄っすらと開いた。
私とリンダ殿は、食い入るように彼女を見つめる。





「私…」

「大丈夫?

「ん…リンダ…?」

「そうよ。あなた、背中にトロン食らったのよ。覚えてる?」

「ええ…」





はゆっくりと体を起こしてこちらを見た。そして私がいることに気付き、息を飲む。





「アランがね、私を庇ってくれたの。そうしたら彼の利き腕に怪我をさせちゃって…それでマリーシアが…あっ」





私達が見つめ合うのに気づくこともなく、リンダ殿は喋り続けた。
しかしその喋りも自ら強制終了し、私達を見て言った。





も気付いたし、アランの傷の治療もまだだし、マリーシアは遅すぎる。私、彼女を呼んでくるわ」

「お願いします」





すかさず返事をすると、彼女は頷いてテントを出て行く。
そして私達は二人になった。





「アラン殿、怪我は大丈夫ですか?」





震える声が私に後悔させる。
聞きたいのはそんなことではないだろう?





「ああ」

「良かった…」





胸を撫で下ろして微笑む様が、胸を縛り付ける。
自分は大怪我をしたというのに、私の心配ばかりして…。





「私はもう戦えそうです。怪我して気を失って……挽回しなきゃ。戦況はどうですか?」

「……もう、制圧した。王子は今、ガトー様と話されている」

「そう……ですか」





気まずそうに俯き無言になる。
私と二人なのが落ち着かないのだろう。手が震えている。

私は卑怯だな。はこんなにも耐えているというのに。
何故逃げようとしたのだろう。しっかりとぶつかれば良かったのだ。
こんなにお前が、好きなのだから。





「何故聞かない?あの様な態度を取ったのかと。そのせいで自分が倒れたと罵倒してもいいんだ」

「っ……そんなこと聞けません!私、私……あさましくって聞けません。あなたに嫌われたくない…」





はぼろぼろと涙を流して言った。両手で顔を覆って、ふるふると頭を左右に振っている。
私はベッドに腰掛けると、彼女の両手を顔から引き剥がし握りしめた。そして真っ直ぐに瞳を見つめる。


嘘はつかない。本当の気持ちを言うのだ。





「本当にあさましいのは私だ。私だってお前に嫌われたくない。でも、言うぞ!
ヤキモチを妬いたんだ。お前が他の男と話す度、お前に他の男が触れる度、私はおかしくなりそうだ!!!
だからお前から離れなければと思ったんだ。お前が怪我をしたのは、私のヤキモチのせいだ」





の瞳はどんどん見開かれ、やがて涙が止まった。
そして気付くと、嬉しそうに微笑んでいる。





「本当に、その様なことを…?」

「お前は、自分が男にとって、どんなに美しく、魅力的かわかっていない。私は無防備なお前が、いつ他の男に手を出されてしまうか気が気ではない」





全てをさらけ出す気でいたから、どんなことを言っても恥ずかしくはなかった。
こんな弱い男は嫌われてしまうのではと思ったが、私が言葉を発するたびに彼女の表情は明るくなっていく。
まるで、嬉しくてたまらないかのように。





「私にもし何かあったとしても、私はあなただけを見ています。あなただけを…愛してます」

「!」





突然の言葉に驚いた。目を丸くして見返すと、は恥ずかしそうに顔を赤くして笑った。
その表情がなんとも可愛らしくて、抱きしめずにはいられなかった。
怪我の事など忘れ、私はゆっくりと両手を差し出した。すると彼女も両手を差し出し、お互いの体を抱きしめる。





「私はもう、愚かなことはしない。思ったことは真っ先にに言う」

「はい。アラン殿に言われることならば、私はどんなことでも受け入れます。だから私を信じて下さい」

「ありがとう……信じている」





腕の力を抜き少し体を離す。そして彼女の顔を見つめキスをする。
それからはお互い求めることの出来なかった数日分のキスを何度も何度も交わした。
誰かが入ってきてもやめるつもりはなかったが、誰も入ってくる気配がなかったのでお構いなしだった。





「なあ、…」





私はあることを言おうと決めていた。
彼女が信じられると確信出来る今なら、恥ずかしくもなんともない。はっきりと聞ける気がした。





「なんでしょうか」

「アリティアを取り戻したら、王子は兵士達に休暇をくれるだろう」

「はい」

「夜なんだが……、私の部屋に来ないか」





困ったような表情をするならば、すぐに「やはりいい」と言うつもりだった。
私にはあまり時間が残っていないが、にはまだたくさん時間があるのだから…。
彼女が望むように、この関係を作っていきたいと思う。





「行きます」





しかしは即答だった。
見返すと、先程と同じ「愛してます」と言ってくれた時の恥ずかしそうな表情をしていたが、そこにははっきりと喜びが見て取れる。


ああ、言って良かった。





「そうか。では二人でゆっくり過ごそう」

「はい。とっても楽しみです」





私達は笑いあうと、再びキスを交わした。




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病のことは言わないんだ…(笑



2011/04/05