「ただいま〜!やっとマリーシアを見つけたわよ」





リンダの声がしてほどなく、彼女とマリーシアがテントに入ってきた。
アラン殿とたくさん話が出来て、彼の本音がまた聞けて嬉しかったけど、彼の傷はまだ治っていない。
マリーシアは遅すぎる。





「マルス様のとこに入り浸ってたのよ!怪我人が残ってるっていうのに、シスター失格ね」

「はぁい〜。おまたせ」

「私はいいの!アラン殿の傷を早く治しなさい!」





マリーシアはアラン殿をちらりと見て肩をびくりと震わせた。





「マリーシア、怖い!」

「ちょっと!マリーシア!!!」





リンダがマリーシアをポコンと叩く。すると再び「マリーシア、怖い」と言った。
この子、マルス様の追っかけをしてるけど本当に変な子だわ。それに失礼極まりない。





「いや、いい。私の目は吊り上っているから、昔から怖いと言われてきた」

「アラン!怖い人が私の盾になってくれるわけないでしょ!マリーシア、あなたが狙われていてもアランは守ってくれるわよ」

「え〜」

「「え〜、じゃないっ!」」





私とリンダの声が被った。すると、隣でアラン殿がくすくす笑っている。
それを見たマリーシアは、「本当。怖い人じゃないわ」と言ってリライブの杖を掲げた。
するとアラン殿の傷はみるみるうちに治っていく。





「ありがとう、マリーシア。では私はもう行く」

「ええ。アラン、本当にありがとう」

「いえ。願わくば、今後はあのような無茶をせぬよう」





アラン殿は軽くリンダを窘めるとテントを出て行った。
リンダは赤くなりながらも彼の背中にひらひらと手を振っている。





「アランってば、私の焦りに気が付いてたのね」

「え?」

「私、マリクにもエルレーンにも置いて行かれてる気がして…、それで私も出来るんだってとこを見せたくて前に出過ぎたの」





その気持ちはわかる。誰にも置いて行かれたくないから、弱点を隠して頑張りすぎて…ロディに怒られたことがある。
もっと他の者を頼れって。独りよがりじゃダメだって。





「今日はやけにアランが近くにいると思ったけど、私の無茶のためだったのね」

「アラン殿はいつもみんなを見ていて…危ない時はすぐ助けに来てくれるような隊長なの」

「だからアリティアの騎士団は一つにまとまっているのね。アリティア騎士団の凄さは隊長の手腕ね」

「ええ」





そう言ってもらえると嬉しかった。
私は近衛騎士で騎士団とは関係ないけれど、仲間を褒められて嬉しくないことはないもの。





「さて、私もマルス様のところに行かなきゃ」





ベッドから降りてテントを出ようとすると、慌ててリンダに止められた。





「ちょっと!服を着なさい!!!」



























しっかりと服を着て神殿の中に戻る。
すると先程とは打って変わって、静寂に包まれた神聖さを感じた。
タルで出来た建物は冷たい光を放ち、全てを見透かす様。私は神様を信じたことはないけれど、ここなら本当にいるのではないかと思ってしまいそうだった。



カツン…



私以外の足音がして振り向くと、そこにはジョルジュ殿が立っていた。
彼は私を頭のてっぺんから足先まで見渡し、最後に背中を見た。





「もう大丈夫そうだな」

「あ、はい」

「…俺がテントまで運んだんだが、礼はないのだな」

「え!?」





そんなこと、誰も言ってくれなかった!
そう思って口元に手を置くと、ジョルジュ殿は合点がいった様に頷いた。





「誰からも聞いてないのか」

「はい。申し訳ありません…」





ジョルジュ殿はゆっくりと近づいてきた。
私はアラン殿の言葉を思い出し、気付かれないようにジョルジュ殿とそっと距離を置いた。





「心の方も解決したな」

「え?」

「何か悩んでいただろう?だから油断して敵の攻撃を受けた。しっかりと注意してやったのに」





返す言葉もない。
本当にその通りなので、私は小さくなってもじもじするだけだった。





「お前がそんなに悩むとしたら……恋だろう」

「えっ!?」





ずばり言い当てられて焦る。どうしようばれてしまったら。アラン殿に迷惑がかかっちゃう!





「図星か。相手は誰だ?」

「恋なんかじゃ…!戦い方で悩んでて!」

「違うな。もし戦い方で悩んでいるならば、お前はあのように油断はしない。もっと張りつめていて、答えを求めるように戦い抜くはずだ」





!!!





ジョルジュ殿ったら、なんて的確に私の事を答えられるの!?
嫌な汗が流れ、言い訳が見つからずに目が泳いでしまう。
ああ、私ったらなんてダメなの。





「……わかった、相手を聞くのはやめよう。しかし原因が恋だというのは認めるんだ。そうではないと、この微妙な間合いを無理やり詰めるぞ」

「うっ…」





ばれてる…。





「わかりました。原因はジョルジュ殿が仰る通りです。相手の態度がおかしくて悩んでいました。でも話し合って解決しました。だから大丈夫です」

「ほう。良かったな」





ジョルジュ殿はそっと私に近づき、頭を撫でてきた。
びっくりした私は、後ろに飛び退く。





「さっきから何故こんな間合いをとる?」

「……ヤキモチを妬きますから」

「は?」

「あの人がヤキモチを妬くんです!」





そう言うと、彼はお腹を抱えて笑い出した。
何だか助けてもらったけれど、さっきから彼の態度に腹が立ってしまう。





「なんて自信過剰な女だ」

「ち、違います!!!そう言ってくれたんです」





アラン殿は私が他の男の人と話してるだけでヤキモチを妬くと言ってくれた。
彼の目には嘘偽りがなかったし、私は彼を信じている。
ジョルジュ殿が言う様に自信過剰かもしれないけれど、それならアラン殿の素っ気ない態度にも合点がいくもの。





「男の方が、そう言ったのか?」





不思議そうに聞く彼に深く頷く。すると何か悩むように腕を組んで考え出してしまった。
何も言わないジョルジュ殿を眺めつつ、私はさっきアラン殿と話したことを思いだしていた。
不謹慎にも、アラン殿のヤキモチが嬉しかった。彼の言ってくれた本心全てが、嬉しくてしょうがなかった。





「お前はそいつに愛されてるんだな」





ふと言われ、最初はなんて言われたか理解せず頷く。するとジョルジュ殿は私の顔をじっと見つめた。





「男はプライドの塊だ。しかし女に本心を明かすときは、心から信頼し愛しているからだ」

「はい」





ジョルジュ殿のような方に言われると、確信が持てる。彼こそ、プライドと計算で戦う人だからだ。





「いい男を見つけたんだな」

「はい。とっても愛してるんです」

「いい顔をしているな。こちらが妬ける」





私が赤くなると、彼はふと笑った。しかしすぐに表情を曇らせる。





「しかし解せないな。何故関係を隠そうとする?心から愛しているならば、他の者にその仲を認めてもらえばいいではないか」

「でも…」

「男の方が露見したくないと言ったのか?聞くに、その様な男には思えないが」





そう言われて言葉に詰まる。
そういえばアラン殿はそのことについて一言も言ってない。私がアラン殿の重荷になりたくなくて隠そうとしたんだ。





「それについても話し合うと良い」

「はい…わかりました」





ジョルジュ殿は頷くと再び私の頭を撫でようと手を出したが、すぐに止めて下した。
そして来た方に歩き出すと、背を向けたまま手を振ってくれた。
私は深々とお辞儀すると、マルス様を探して神殿の奥へと進んだ。













               *













ガトー様の力を使って、私達はアリティアに飛んだ。
軍全体を移動させる彼の力は、この世界の魔導士を束ねても敵わないだろう。
私は少ししかお話出来なかったけれど、その少しの間だけで彼の偉大さが身に染みた。
体の奥まで染み渡る声色、神聖な威厳…どれをとってもこの世のものではない気がする。

アリティアはアカネイア軍に支配されていたけれど、村や街にはほとんど被害がなかったようだ。
荒らされることなく統治され、これなら城さえ取り戻せば元のアリティアにすぐ戻れる。



そしてその通りになった。



竜との過酷な戦いの後、私達は一日しか休息を取らなかった。けれども兵士達の意気は十分だったし、故国はすぐそこだ。
休息よりも故国を取り戻すことが先決だったの。
今回の戦いはどの戦いよりも、兵士は活躍したし騎士団も華麗に戦った。
私も微力ながら頑張って矢を放ったわ。



そして城を取り戻すと、アラン殿が仰ったとおりにマルス様は兵士たちに二日間の休息を与えてくれた。
エリス様の行方も分からないというのに、兵士達の体を気遣ってくれたの。





そして、ようやく私とアラン殿の関係が進展する。





夕食後、誰かに声を掛けられる前に…と思い、早々に部屋を出た。
カモフラージュのために持った数冊の兵法書を抱え、足早に廊下を進む。

私とアラン殿は付き合い出した後も、戦いに明け暮れていてもお昼の議論をやめなかったし、たくさんの兵がそれに加わって楽しんでいた。
だからもし私がアラン殿の部屋に行ったとしても、この兵法書で十分言い訳になるの。

私達新兵と違って、隊長であるアラン殿の部屋は奥の一人部屋だ。まあ、当たり前なのだけれど。
だからきっと呼んでくれたんだと思う。
そして今日、私達は新たな一歩を踏み出すんだわ。



胸の高まりを感じ、幸せを噛み締める。兵士になった時は恋人が出来るなんて思ってもみなかった。
村では殆ど男として扱われてたし、ここにきたらルークに「女に負けるなんて」と目の敵にされてるし。
女性として愛してくれるのは、アラン殿だけだもの。



…当たり前か。



他人がみたらおかしくなったのかと思われるように一人で笑う。
アラン殿だから、アラン殿だからこそ…愛し、愛されてる。だから私、こんなに幸せなのね。

この戦いが終わったら、世界は本当に平和になる。
そしたら私、アラン殿と一緒になって、子供を産むのかしら。
マルス様ならきっと、子育ての間は休職させてくれるわよね。

どんどん膨らむ夢のような話。
それを叶えるならば、早く戦いを終わらせなければ。



アラン殿の部屋が見え、ドアの前で立ち止まる。すると、一気に緊張してきてしまった。
ノックしようと出した手が震え、胸は痛いくらいドキドキしている。



私、こんなに緊張したの初めて!



告白した時は案外さらりと言えたのに、部屋を訪ねるのにこんなに緊張するなんて。





「勇気を出すのよ、。この扉の先には幸せが待ってるわ」





***************

現代はそうじゃないと思うけど、FEの世界みたいに
戦いがあって命がけでなにかを守らなければいけない時代の男性って、
自分が強くあるためにプライドが高かったと思います。
アランも聖騎士だし、きっとそうだったはず。
だけど、愛とか信頼ってそれをも突き通す力があると思うんですよね〜


2011/04/12



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