グラは王子の望んだとおり、グラ兵の無血開城で終わった。
そして夜、宴が催される。これも王子が望んだものだ。

シーマ王女はマルス王子にグラの統治を望み、自分はただの女性として生きることを選んだ。
そう。私の無二のライバルであるサムソンと生きることを望んだのだ。

王子からシーマ王女を守っているのがサムソンだと聞かされた時、あろうことか私の心は躍った。
またあのライバルと剣を交わすことが出来る日が来るとは思わなかった。だから突入を志願したのだ。
それを見たは大層心配そうで申し訳なく思ったが、これも譲れない私の気持ちの一つだ。






「楽しそうだね、アラン」

「はい。生涯の楽しみのひとつですから」

「はは。無理はしないようにね」






かくして突入は私に一任された。
扉の奥で待っているのがサムソンでなければ、私のような騎士隊長が城内で突入部隊に入ることはまずない。
だからこそ、は目を丸くして驚いたのだ。

ドアが開いた途端、声を上げて切りかかってきた剣を受け止めると、体中に喜びが走った。



これだ、これこそサムソンの一撃。



確認することもない。受ければわかるその力。
私は受け流すと、そのまま剣を振った。

青い髪を靡かせ、彼は後ろに飛び退いた。そして剣を構える。
サムソンから滲み出る闘気は、ライバルだけに向けられる純粋なものだった。



彼もわかっていたのだ。私が突入してくることを。



それから何度か打ち合い、その中で玉座に佇む女性が目に入った。
や王子よりは少し年上だが、美しく純粋だ。
その視線は全て我がライバルへ向けられ、不安と愛情が織り交ざっていた。



そうか。お前も守る者を手に入れたのか。



渾身の力で彼の剣を打ち据え、そのまま離れた。
そして睨みあう様にお互い構えを取る。

私達の愉しみで、お互いの大切なものに不安を与えるべきではない。
先程から気付いてはいたのだが、も私の背中にシーマ王女と同じ視線を送ってきていた。
サムソンは私の意を感じ取ったらしく、闘気を捨てて剣だけ構えていた。
その間に王子がシーマ王女を説得し、グラの無血開城が行われたのだった。



久々の握手と抱擁を交わす頃には、入ってきたドアは見物人でいっぱいになっていた。
殆どの者は私とサムソンの仲を知っている。
きっとカインとアベルの決闘と同じように、「またやっている」という気で見ていたんだろう。

シーマ王女の肩を抱き部屋を出ていくライバルを見送った後、私の元に走ってきたの頭に手を置く。
ぽんぽんと撫でると、彼女の不安は消えたようだった。
申し訳ないと思っていたこの行為も、彼女の不安を取り除くものになったのだな。
声を交わすことなく離れると、私は王子の元へ向かう。






「ご苦労様、アラン」

「いえ。この機会を与えて下さって感謝しています」

「よかった」






王子はそう言って笑った。







夜の宴はアリティアとグラの同盟として行われた。
シーマ王女が王子にグラの統治を望んだのは周知の事実だが、王子は自分が統治するにしろ、アリティア兵を同盟者として受け入れてほしいという意味で行われたのだ。
だからそこらじゅうで広がる笑い声には、マルス軍の者もいるしグラ兵の新兵もいる。
とても微笑ましい光景だった。



そしてこの夜、私との関係も報告する計画だ。
が、私はそれを忘れサムソンと酒を酌み交わしてしまっていた。






「お前とこのように酒を酌み交わせる日が来るとは思わなかった」

「私もだ、アラン」






私達は賑わっている兵達から離れ、静かな月の見える場所で飲んでいた。






「…お前に女が出来るとは思わなかった。興味がないと思っていたからな」

「それはこちらのセリフだサムソン。まさか王女に手を出すとは」






そう言うと、サムソンはむっとして睨む。






「まだ出してはいない」

「ふ、勇者サムソンは健在か」






お互いを茶化す度に私達はグラスをぶつけ合う。
こうやって話せるのもお互いをよく知っているからだろうな。






「アラン、お堅いお前にあんな若い女が出来るとは、さぞあの女は純粋なのだろうな」

「どういう意味だ?」

「…お前はストレートな気持ちをぶつけないと鈍くて気付かないからな」

「……悔しいがその通りだな」






私達は笑いあうと月を見上げた。
月は満ち、そして欠けていく。儚いものの代名詞だ。






「シーマにお前の女と仲良くなるように言っておいた。あいつも堅くて純粋だから、お前の女となら仲良くなれるだろう」

「ああ。は誰とでも仲良くなれるから大丈夫だ。心配するな」

「……して、そのには病の事を話したのか?」

「!」






虚を突かれ、ハッとサムソンを見る。






「俺がわからないと思ったのか?お前は昔と変わらない剣技を持っているが、弱っているのを感じた。そしてその顔だ」






指摘され戸惑う。
今まで誰にもばれなかったことなのに、何故こんなにもこの男にはわかってしまうのか。






「昔はもっと無茶をするようなやる気の溢れた表情だったのに、いつの間にやら全てを見据えて受け入れる賢者の様になってしまった」






残念そうに言うサムソンの心が伝わってきた。
ライバルを失うことの喪失感だ。






「すまない。私の病はもう治らぬのだ」

「……そうか」

「そして、このことを知っているのは王子だけだ」






そう。まだにも言ってはいない。
いつでも話す機会があったにも関わらず、話せなかった。
病を明らかにして、失うものは大きすぎる。






「話さないわけにはいかないだろう?先延ばしにするほど話し難くなっていく」

「わかっている。わかっているのだが…」






持っていた酒を一気に飲みほし、次の酒を注いだ。
そしてそれもあおる様に飲み干す。






「アラン、本当に愛し合っているのならば、お前の願いを全て聞き遂げてくれるはずだ。信じなければだめだ」

「……そう、だな」






そうだ。私達は愛し合っていて最高のパートナーだとお互い自負している。
だから、話しても彼女はそのままの…死にゆく私を受け入れてくれるだろう。
そしてこの戦いも最後まで見届けてくれるだろう。






「話さなければ、な」






ぽつりと呟いて、再び月を見上げた。



その時、盛り上がっている兵達がざわめき出した。
そして「マルス様を呼んだほうがいいんじゃないか?」という声が聞こえてくる。
何か起こったようだ。






「サムソン、私は行かなければ」

「ああ、騎士隊長も大変だな。俺も行こう」






頷き合うと、ざわめきの中心へと向かっていった。





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アランとサムソンは絶対仲がいいと思います!
男の友情っていいな〜。


2011/05/10



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