せっかくの宴だっていうのに、私はひとりでぽつんと飲んでいた。

まあまだ私とアラン殿の関係をみんなに言ってないし、二人で過ごせるとは思ってなかったけど、もうちょっと近くに居たかった。
でも彼は、勇者サムソンと呼ばれる旧知の仲と一緒に飲んでいて、とても楽しそうで…
私が入れる雰囲気ではなかったの。

だからそこから離れて、彼が私を探しに来る時に大変な思いをするように反対側の砦のそばで座り込んだ。
そして途中でもらったお酒を、ちびちびと口に含んで味わっていたわ。

すると、誰かが私の前で立ち止まった。






「隣、いいか?」






聞いたことのない声だと思って見上げると、そこにはシーマ王女が立っていたの。
驚いて「どうぞっ」と慌てると、澄ました顔が柔らかな笑みに変わった。






「…どうして私のところに?」






不思議に思って聞いてみると、彼女は私の目を真っ直ぐ見て答える。






「サムソンが、あなたと仲良くなったらいいと言ったので声を掛けてみた」

「えっ…」






サムソン殿が何故?
首を傾げると、シーマ王女は持ってきたつまみを私に差し出す。






「あなたは彼の友人の恋人だろうから」

「ええっ!?」






まだ誰にも言っていないのに!






「彼はアラン殿と戦っている時に気付いてた。そしてアラン殿も私とサムソンの関係に気付いていた」






シーマ王女はそう言うと、頬をぽっと染めて俯いた。
ああ、そういうことね!自分の恋人と友人の恋人が仲良くなればいいと思って。






「二人は本当に鋭いですね。あの状況でお互いそれに気づくなんて」

「ああ」

「……」






あれ、会話が終わっちゃった。
チラリと顔色を窺うと、綺麗な横顔は月を見上げていた。






「っ、すまない。私は口下手で……女友達も出来ないんだ。だから…」






王女は慌ててそう言うと、私に深々と頭を下げた。
なんか話してみると純粋で、可愛い人みたい。それに、なんかアランと少し似てる。






「じゃあ、恐れ多いですが私と友達になってください。私はと申します、シーマ王女」

「ありがとう。……友達ならば、シーマと呼んでほしい」

「わかりました。シーマ、これから宜しくお願いします!」

「ああ、仲良くしよう。






私達は笑いあうと、自分たちのことやお互いの恋人のことを話しまくった。
仲良くなってみると、シーマは全然口下手じゃなかったの。
ホント楽しくて…いつの間にか夜も深けていたわ。








集団で飲んでいる兵士達の盛り上がりが落ち着いてきた頃、私とシーマの前に誰か立ち止まった。
誰かと思い見上げてみると、そこにはルークがいたの。
私はひらひらと彼に手を振って、シーマに彼を紹介した。






「シーマ、彼はルーク。私の同期兵なの」

「そうか……」

「…」






シーマは明らかにルークを警戒していて、ルークも彼らしくなく何も言わなかった。
いつもだったらちゃんと挨拶くらいするのに、と思って彼を見る。






、話がある」

「話?……わかったわ。シーマ、ちょっと行ってきます」






立とうとすると、シーマが袖を掴んできた。
そして心配そうな目で私を見つめる。






「大丈夫です。ルークとは付き合い長いですから」






そう諭すと、しぶしぶ離してくれた。
私は何も言わずに歩き出したルークを追って走る。






「ちょっ…ルーク早い!」






そう言っても、どんどんどんどん歩いていく。
おかしいと思いつつ、私は付き合いが長いから大丈夫だと言い聞かせてたかをくくっていたの。



そういう目で見たことなかったから…私が女でルークが男だなんて。



彼は全く人気がなくなったところで立ち止まると、ゆっくりと振り向いた。
そしてずんずん私に近づいてきた。






「ルーク?」






見上げれば彼の顔がすぐ近く、触れそうなところまで来て立ち止まると、彼は問う。






「お前の恋人は誰なんだ?」






そんな話かと思い溜め息を吐いた。すると彼は強い力で私の腕を掴む。






「痛い!離してよ!」






お酒の臭いが漂ってきた。それも凄い臭い。
こんなに臭いなんて、彼は明らかに飲み過ぎだ。






「誰なんだよ!?」






強く言われ、肩が震えた。
気付いた時には遅い。ルークは酔っている。そしておかしい。
焦点が合っていない。






「近々言うから!まだ言えないわ!!!」






怯えたら負けだと思い強く言い返す。自分に勇気を与えるように強く。

でもそれが逆効果だったみたい。
ルークは強く唇を噛み締め、殴る勢いで私を睨んだ。
そして、






「お前が言わねぇのが悪いんだっ!」






そう言って乱暴に口づけてきた。






「んんっ!!!」






そのまま押し倒され、地面に頭をぶつける。
痛いけれどそれどころじゃない。両腕は頭の上でルークの片腕に押さえつけられ、体は無防備だ。

何をされるかわからない。

ルークは同期だっていっても、彼の全部を知っているわけじゃない。
彼は男だ。酒を飲んで酔っ払った男なんだ。



恐怖に襲われた。



すると抵抗していた体が思う様に動かなくて涙が出そうになる。
ここは人気がないし、誰も助けてなんてくれない。






「ひあッ…」






太ももに手を入れられ、弄られた。
アランに触られるのとは全然違う。異物が侵入してきたみたいだ。






「ルーク、やめて」






声を絞り出して訴えるけれど、到底彼には聞こえていない。無言で私の奥に侵入しようと手を動かしている。



やだ、いやだ。助けてアラン…!



茂みを掻き分けて私の中に指が侵入しようとしたその時、ルークの体が突然離れた。






パンッ…






乾いた音が響き、恐る恐る目を開ける。
するとそこには、ルークの頬を平手打ちしたシーマが映った。






「最低だ!」






シーマは吐き捨てるように言った。






「自分の気持ちを無理やり押し付けるなんて、最低な男だ」

「っ…」






ルークの表情がゆがんだ。シーマの言葉が効いてる?私の訴えは無視したのに…。
彼は叩かれた頬に触れ、シーマを睨んだ。
その隙に私は立ち上がり、数歩下がる。






「うるさい!が言えば、俺は諦めきれるのに、言わないのが悪い!俺は、誰を相手に戦えってんだよ」

「そんなのは言い訳だ。第一、本当に好きならば自分の気持ちを押し付けたりなんてしない。相手の幸せを見守ってやれるはずだ」






強い口調で言い放つ彼女には、やはり王女の風格があった。
美しく気高い…グラのシーマ王女。






「んなこと、出来るかよ!」






騒ぎを聞き付けて兵達が集まってきた。ざわめき、マルス様を呼ぶべきだと誰かが言う。



こんな事恥ずかしい。



せっかくあの噂が消えたのに、またルークと私の馬鹿騒ぎが起こってしまった。
ううん、今回のはルークが悪い。






「ルーク、一体何がしたいの?私への当てつけ?」






日頃の恨みで襲われそうになるなんて、たまったもんじゃない。






「あなたの気持ちって一体…」

「好きなんだよ!」






そう言われ、最初はその言葉の意味がわからなかった。
でもじわじわと染み込んで来る。






「俺はお前が好きなんだ!」






もう一度はっきりと言われ、やっと理解できた。



ルークが私を好き?






「俺は誰を相手に戦えばお前が手に入るんだ?教えろよ」






私が手に入る?何を言ってるの?






「…私はモノじゃないのよ。あの人を倒しても、私はあなたのところには行かない」

「でも手に入れることは出来る」






さっきのように…と言われた気がした。力付くで私を組み敷くってこと?そんなの愛がないのに。
本当に今日のルークはおかしい。彼は絶対こんなこと言わないのに。






「ルーク、飲み過ぎなのよ。普段のあなたはそんなこと言わないわ」






そう言うと、彼はカッと目を見開いて私の腕を掴んだ。そして体を引き寄せる。






「普段の俺?お前がどれだけ俺を知ってるんだよ。気持ちに気づかなかったくせに。どんなに俺がお前を欲しいか、さっきわかっただろ?もう一回してやろうか」






顎に手を掛けられ、クイと持ち上げられる。
彼の緑の瞳が怪しげに光り、恐怖を覚えた。






「やめろ!」






シーマがルークの肩を掴む。けれど簡単に振り払われ、彼女は尻餅をついた。






「シーマ!」

「大丈夫だ、。私は大切な友を守る」






彼女はすっくと立ち上がると、今度はルークの腕を掴んだ。






「離せ!」

「離さない。お前がを傷付けることを許さない。彼女は大切な友だ!お前にとっても、大切な同期だろう?」

「同期だと…?んだよっ…!俺は、俺のこの気持ちをどうすればいいんだよ!」






ルークは辛そうな表情で叫んだ。
彼の本音だ。秘めた気持ちの行き場が見つからず、こんな行動に出たのかもしれない。
でも、それは間違ってる。






「本当に好きならば、その気持ちは秘めておけ!にぶつけるんじゃない!」

「うるさい!命令するな!」






ルークが私を放し、シーマに手をあげた。シーマはそれをしっかり見据え、受け止めるつもりらしい。
そんなのだめ!シーマは関係ないのに!






「やめ…」






止めようと出した手は空を掴んだ。
なぜならば、ルークは飛んでいってしまったからだ。

そう。シーマを守るために、サムソン殿がルークを殴り飛ばしたのだ。






「大丈夫か、シーマ」

「サムソン…すまない」

「いや、友を守るためによくやった」






サムソン殿に労われ、シーマは満足そうな笑みを浮かべた。
私は彼女を力を込めて抱きしめる。






「シーマ、ありがとう」

「無事で良かった」






シーマも優しく抱きしめ返してくれた。

周囲を見渡すと、兵士全員が集まっているのではないかと思うほど、見物人だらけだった。
そしてマルス様が人混みを掻き分けてこちらに向かって来る。






…」






いつの間にやらサムソン殿の後ろからアランが現れた。
一体どこから見ていたのだろう、見られたくないとこばかりだった。






「すまない、私が機会をうかがったばかりに」

「そんな…」






泣きそうになるのを何とか耐えて彼を見上げる。アランも辛そうだった。そんな顔してほしくないのに…。

少し離れたところで、殴られたルークが地面に手をついて起き上がろうとしていた。
それを見てアランは強く私の手を握り、彼を見据えた。






「ルーク、知りたいならば教えてやろう。の相手は私だ。

私が、彼女の、恋人だ」






最後の部分は、一つ一つの単語を強調して噛み締めるように言ってくれた。

すると、ルークは白目をむいてそのまま倒れてしまった。
もしかしたら気を失っていて、聞いてなかったかもしれない。

けど、それはどうでも良かった。
彼はみんなの前で、聞こえるように宣言してくれた。



私が、あなたの恋人だと。



ざわめく聴衆に目を向けて左右に首を振ると、アランは私の手を引いて歩きだした。






「シーマ王女、申し訳ありません。サムソンもすまなかったな」

「いいや」






アランが去り際にそう言うと、サムソン殿が答えた。シーマは私に軽く微笑んでくれる。
私は小さく手を振ると、彼について行った。



遠くでは、新たな真実にざわめく兵士達に説明しているマルス様の声が聞こえた。

アランに相談されたマルス様は、「この宴が終わったらみんなに報告するつもりだった」と言っていた。
「僕が言うのを待たせたんだ」「僕が悪い」と言っているのも聞こえた。

マルス様は悪くない。
私が勝手にアランの為を思って始めてしまった秘め事を、アランもマルス様も、ルークも巻き込んでしまったんだ。



こんなこと、もういや。

ルークは…



―好きなんだ!



彼の言葉が頭の中をこだました。本当なら答えられなくとも嬉しいはずの言葉も、今はただ虚しいだけ。
彼の中の男の部分を見てしまった。私の知らない彼が怖かった。



明日からちゃんと話せるかしら。大切な、数少ない同期なのに…



無言で引っ張られる手を強く握り返すと、同じように強く握られた。
胸がきゅんと締め付けられる。



私はこの人じゃないとだめなんだ。
触れるのも、愛を交わすのもアランだけ。

愛してる。あなただけを愛してる。
ずっとそばにいてください、アラン。



彼の手の温もりが、冷えた私の体に染みわたっていった。






*************

ルーク、ごめんね。ホント損な役割を…
シーマとは、カタリナとと同じくらい親友になれるハズ!


2011/05/11



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