夜も深けていると言うのに、私はの手を引いて一件の宿の戸を叩いた。
眠そうな目を擦りながら出てきた店主に金を渡すと、二人で使用できる部屋に案内させる。
そして店主が必要事項を述べて部屋を去ると、繋いでいた手を離し、彼女をベッドに座らせた。






「大丈夫か?」






どう言葉を紡いでいいかわからず、考えた末に出てきたのがこの言葉だった。
我ながら何のひねりもなく、率直過ぎる。
しかしには十分だったらしい、嬉しそうに微笑むと小さく頷いた。



久々にサムソンと出会ったせいで浮かれていた。
まさかルークがあんな事件を起こすとは考えもしなかった。
風呂場でを惚れさせると親友に語っていた青年は、既に大人の男の部分もあったのだろう。
酔いに任せて彼女をものにしようとするなど…、を守ってくれたシーマ王女に感謝してもしきれない。

私はの前に跪き、その手を取った。
小さな手だ。しかし所々関節が太く、弓を射つ者の手をしている。






「アラン?」






私の行動を不思議に思ったのか、は同じように床に膝をつこうとした。
それを制すと、再びベッドに座らせる。






「すまなかった」

「え?」

「すまなかった、一人にして」






彼女の手の甲にキスを落とし、深く頭を下げる。

昔から伝わる騎士の儀式だ。命を捧げる主君に誓う儀式の。
はこの儀式の意味は知らないだろう。しかしそれでも良かった。
完全なる私の自己満足の行動だが、こうしないと赦されない気がしたのだ。






「私が悪かったんです。ルークは同期だからって甘く見ていました」






は寂しそうにポツリポツリと話し出した。

自分が一人で飲んでいると、シーマ王女が声を掛けてきてくれたこと。
彼女とたくさんの話をし、名前を呼び合う仲になったこと。
ルークに呼ばれ、警戒するシーマ王女の声を聴かずについていったこと。
ルークには注意しろと前にカタリナに言われていたこと。
全てが懺悔に聞こえた。



で、自分が悪いと思っている。



いつもと同じだと思った。
私達はいつも自分を卑下し合い、このように問題にぶつかってしまう。
一言で解決する問題も、どんどん難しくしてこんがらがってしまうのだ。






「私達は最良のパートナーだ」

「あ……」

「愛している、

「私も愛しています。アラン」






も私達の問題に気付いたようだった。






「私達はお互いを愛すことと同じくらい、自分を愛さなければだめだな」

「はい。自分を温かく見守って、寛大に許す心が必要ですね」






くすくす笑いあうと、私は立ち上がった。
そして彼女の横に座り、優しく抱きしめる。






「怖くなかったか?」

「怖かったです。ルークなのに怖かった。あれが稽古で私にやられている彼だと思えませんでした」

「そうか…。、男はお前が思っている以上に力が強く、欲望に生きている」

「はい。もう私、自分を過信したりしません」

「…もし今度、私がお前をほったらかしてサムソンと一緒にいる時は、必ず声を掛けてくれ」

「ふふ、そうします。シーマと一緒に行きますから」






「そうか」と言って、強く抱きしめ温もりを味わう。ゆっくりと体を離し顔を近づけると、キスを求めあった。
何度も何度も交わし瞳を見つめ合うと、お互いの大切さが身に染みる程その視線が絡み合う。






「しかし、明日からは普通に接してやれ。許してやるのだ」

「え…?」

「ふ、ルークは数少ない同期の一人だ。仲良くしなければだめだ。…関係は、時間が解決してくれる」

「……は、はい!」






嬉しそうに笑うの首筋にキスを落とす。襟元を開き鎖骨に唇を当てると、一気に吸い上げた。
彼女のそこに赤い跡が咲く。

乳房を揉みしだき、軽い嬌声をあげさせると乳首が固く形作っていくのがわかった。
上着を取り去り、高々と起ったそこを口に含むと、体を弓なりにして悦ぶ。






…」






愛おしい。心も体も全部だ。
私の愛する女性……






「!」






その時、突然胸から痛みが込み上げてきた。
マズイ、と思ってから顔を背ける。






「ゲホッ…ゴホゴホッ…」






口元を抑え、必死に咳を止めようと思うが簡単にはいかない。
少しでも短くなれば、誤魔化しようもあるのだが。






「ゴホッ…」

「アラン、大丈夫ですか?」






起き上がって心配そうに背中をさすってくれる彼女を見て、話さなければと思った。
しかしたくさんの不安が入り混じっている今日…なにも今に話さなくてもいいではないか。

私の奥に眠るズルい気持ちが、誤魔化すように仕向けてしまう。






「大丈夫だ」

「今日は、やめておきますか…?」






そしたくないという気持ちが現れている表情で言われ、あろうことか私は嬉しくなってしまった。






「まさか」






ニヤリと笑って言うと、をベッドに押し倒した。




あと何夜、お前を抱けるだろうか。
限られたこの命で、何度お前を悦ばせることが出来るだろうか。






私の愛情は、生きている間に全て伝えられるのだろうか―――
















             *
















明け方、私達は宿を出て城に戻った。
もう少し共に居たかったが、またの機会という意見が一致したのだ。
そして各々に与えられた部屋に戻ると、十分な睡眠を貪る。
流石に宴会の翌日は午後から行軍だった。

そして昼頃目が覚め、顔を洗いに井戸へ向かう。


私は運が悪い。


きっと誰もが知っている事だろうが、今日もそんな現場に居合わせてしまった。






「ロディ、本当に俺はを襲ったのか?」

「もう二十回目だぞ。本当だ。酔った勢いでキスをし、襲いかけた」

「……本当に」

「二十一回目を聞く気か!?」






ロディの怒声を聞いたのは初めてだった。ルークが相手だと、自制心も揺るぐのか。
聞いてはいけないと思い立ち去ろうとしたが、興味で思いとどまってしまう。






「お前、こんなとこで顔なんて洗ってないで、とアラン隊長に謝りに行けよ!」

「…俺、またアラン隊長に部屋まで運んでもらったのか?」






不思議そうに聞き返すルークに、ロディは拳を振るった。






「本当に覚えてないのが罪だ」

「なんだよ?」

「アラン隊長がの恋人なんだよ!!!」






ルークは目を丸くして親友を見返した。そして「本当か」と聞こうとして止めた。






「お前が嘘を言うはずないもんな。俺……最悪なことをした」

「殺されてもおかしくないぞ。あんな怒った隊長、私は初めて見た」






…脅し過ぎだろう。騎士隊長が何故、一兵を殺さなければならんのだ。



笑いそうになって口元を抑える。






「そんなに怒ってたのか?」

「当たり前だろ。恋人が自分の仲の良い同期だと思っていた男に襲われかけたんだぞ。怒らないわけがない」

「……」






ルークは黙ってしまうと、俯いたまま拳を握った。
ロディはそれを見守っている。






「さっきと話したんだ。お前の事は怒ってなかったし、前みたいに仲良くやりたいって。ホント、心が広いよな」

「……本当だ。だから好きだったんだ」

「ルーク……」






これ以上は聞いてはいけないと思い、元来た道を戻りだす。






「俺、謝ってくる。で、フラれてもちゃんと言ってくるわ」

「そうか」






微かに聞こえた晴れ晴れとした声。
若者は成長する。私と違って、未来ある者には新しい未来が待っている。



ルークの成長に笑みが浮かぶと、昨日の出来事も必要な事だったと思えた。





*************

ルークとロディの友情もいいですよね。
ルークは、振る舞っているよりも奥深い情が大好き。
そこはロディより人間味があって素敵ですよね。


2011/05/13



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