アカネイアまでの道程は遠く、険しい。
私達はグラで入念に準備して進軍に臨んだ。

途中立ち寄った村にオレルアン王がいらっしゃって、ハーディン王を慕う狼騎士団を撤退させてくれたの。

これがどんなに助けになったことか。
兵士達は殆ど無傷でアカネイア・パレスのお膝元であるノルダまで来ることが出来た。



ノルダで駐屯した私達の耳に入るのは、ハーディン王の圧政についてばかりだった。
そのため、この街は奴隷市場が以前よりも繁栄していた。

圧政に耐えられなくなった者はお金を得るために家族さえも売る。
悲しい時代だと思った。

だから奴隷市場の商人達はアリティア軍を攻撃してきたわ。
けれどならずものの集まりなんて私達の敵じゃない。すぐに鎮圧され、奴隷達は解放された。



残された奴隷がいないか見回っていると、リンダが高台から市場を見下ろしているのが見えた。
彼女は以前、ノルダで奴隷として売られそうになっているところをマルス様に助けられたと言っていた。
彼女にとって、ここは感慨深い場所だろう。

市場を後にし、彼女がいる高台に向かう。私では何の力にはなれないかもしれないけれど、話を聞くくらい出来る。
そう思って足を運んだのだけれど、余計なお世話だったみたい。
リンダはミネルバ王女と話し、表情をすっきりさせていた。
王女に話を聞いてもらった様で、彼女はお礼を言うと街に下りて行った。

残されたミネルバ王女は街を見下ろしていたけれど、ふとこちらを見る。











「おいで、

「は、はい!」











呼ばれて走る。
驚いてしまった。私は王女とそんな話したことはない。
カダインのお風呂の時とこの前のグラの時が一番近くにいただろう。でもまともに言葉なんて交わしたことないわ。











「アランと仲良くやっているか」

「…あ、はい」











うそ。あのグラの時以来二人きりで会えてない。会えるのは専ら作戦会議だけだ。
仕方ない。彼は騎士だから徒歩兵の私とは進軍の速さが違う。
それに彼は隊長だもの。











「無理をするな。気持ちを隠してもろくなことはないぞ」











きっと私の表情が歪んでたんだろう。本音を当てられてしまった。
ミネルバ王女に隠し事をしても、すぐに当てられてしまうだろうな…。
そう思ったら我慢していた気持ちが溢れてきた。











「せっかくみんなに知ってもらえたのに…。誰も私達の邪魔をしてこないのに。
はらはらすることもなくなって、落ち着いてお付き合い出来ると思ったのに…、全然会えなくて寂しい」











言葉に出したら辛くなってきて、涙がぼろぼろと溢れてきてしまう。
ミネルバ王女は私の顔をじっと見ていたけれど、不思議と恥ずかしくなかった。



もっと聞いてほしい。











「戦いの最中でもあの人を目で追ってしまって、この頃命中率もよくないですし。それが悔しくて…。でもどうすることも出来なくてもやもやして」











私が言葉を口にする度に、王女は小さく頷いてくれる。
それを見て満足して、再び愚痴を紡ぐ。











「話し掛けたいけれど、彼の邪魔はしたくないのです」

「そうか」

「みんなの前で恥ずかしくてもいい。愛してるって叫びたい。もっと声が聞きたい、話したい、触れたい」











恋しくて恋しくてしょうがないの。アランのそばにいたい。











「……この戦いが終わったらいくらでも一緒にいれるとは思えないのか?」











一方的に私の愚痴を聞いているだけだった王女が、ふいにそう言った。
その通りだとは思ったけれど…、何かが引っ掛かる。











「そう…なんですけど…。不安で」

「……」

「わからないのですが、今、あの人のそばにいなければ駄目だって…そう感じるんです」











ミネルバ王女は私をじっと見て、そして街を見下ろした。
視線の先にはアリティアの騎士が集まっていた。その中に彼の姿も見える。











「それならば、そう思っていることを伝えるべきだ」

「でも…」

「伝えなければ後悔する」

「…ミネルバ様もそういうことがあったのですか」











王女は弾かれるように私を見て、観念したように笑う。











「そうだ。私の場合は兄だが」

「お兄様…」











少しは聞いたことがある。
父王を殺し、アリティアに敵対したミシェイル王子は、末妹のマリア王女に助けられ、危険にさらされていたミネルバ王女を助けたと。











「私には、兄が本当はどうしたいのかわからないのだ。父を殺したくせに、私を助け、そしてマリアを助けに消えた」











王女の瞳は遠くを見つめている。ノルダでもパレスでもない。
マケドニアだ。ミシェイル王子とマリア王女のいる未来のマケドニア。











「お兄様にお会いしたら言うべきです」











私がそう言うと、王女はふっと笑った。彼女がさっき私に言った言葉だ。











「そうだな…。私は言うべきだ、あなたが何を考えているのかわからない、と」

「はい!」











そうだ。例え兄弟だって相手が何を考えてるかわからないんだから、アランの考えてることなんてわかるはずがない。











「…誰かにそうやって背中を押してほしかったのかもしれない」

「え…」

「いや。、行こう」











王女は私を軽々と持ち上げると、ドラゴンの背に乗せてくれた。
でも私には女性に抱き上げられることもドラゴンに跨がるのも初めてで大焦り。











「きっ…きゃあぁ〜」











上昇し、大きく旋回して街に向かって降下していく。
目がぐるぐる回り、心臓が飛び出そうだった。

気を失いそうになってると、いきなり下から風がブワッと舞い上がり、無意識にスカートを押さえた。
周りではざわざわと人の声が聞こえる。











「ミネルバ様、何をしておられる!街中に降りるなど…」











アランの声が聞こえる。











「いいではないか。被害が出なそうなところにおりたはずだが」











被害が出なそうなとこ…?

一度目を閉じ、心を落ち着ける。目を開いて驚いた。

ここって!











「アリティアの騎士団が集まってるこここそ、被害がないだろう」











きゃあぁ〜!

心の中で叫ぶ。
ここは、さっき見下ろしてた騎士団が整列してた広場。
確かに街中にドラゴンで着地するならここしかないけど、騎士団の真ん中に着地しなくても。











「…何か良いことがあったようですね」











彼は優しく王女に言う。
すると、ミネルバ王女はピンと背中を張って頷いた。











「ああ。に背中を押してもらった」

に?それは良かった」











王女は私の方をチラリと見て降りるように促す。
どこに足をかけていいかわからないで中々おりれないでいると、アランが気付いて手を貸してくれる。
彼の手に自分の手を乗せただけで赤くなる。
嬉しかった。











「しかと届けたぞ」











王女は私が地面に立つと同時にドラゴンを舞い上がらせた。
そしてそう言って飛んで行ってしまう。

騎士団の中にぽつねんと残された私は気まずかった。
どうせなら最後まで付き合ってくれればいいのに、と思ってしまう。
騎士団のみんなは私をじっと見ている。アランに何を言うか、興味津々なのだ。











「…解散だ」











アランはそう言って横に手を振る。するとみんなは「はっ…」と返事をして立ち去る。
ルークもロディもセシルも、私をチラリと見ただけで声もかけず行ってしまった。











「……」

「…それで、王女に届けて頂いた私の恋人はどうしたのだ?」











まごまごしていると、彼が優しく聞いてくれた。
こんなこと、怒ってもいいくらいなのに。彼は怒らない。











「私、会いたくて」

「毎日会っているぞ」

「そうではなく!声が聞きたくて、話したくて、触れたくて……!」













私がまくし立てるように言うと、アランはぴしゃりと私の名を呼んだ。
それは、初めて怒られるんだってわかるような…そんな鋭さがあった。











「今は戦いの最中だ。この戦いが終わったら、嫌というほど共にいることが出来る」

「そうなんですけど、不安で。あなたのそばにいないと、もう会えないような気がして…」











こんなとこで泣いちゃだめだってわかってるのに、涙がぼろぼろ溢れてしまう。











「…

「ごめんなさっ…でも、離れたくな…」











言い終える前に強く抱きしめられた。











「ア…ラン…?」

「そうだな。いつ何があるなど、誰もわからない。もう少し共にいられるよう、善処しよう」











彼はそう言うと、ぐちゃぐちゃになった私の頬にキスを施す。
道の真ん中で、こんな恥ずかしい!そう思ったら顔が真っ赤になってしまう。











「アラン、私…」

「我慢してくれ。私はキスがしたい」











彼はそう言って、私の唇に口づけた。恥ずかしいけど、アランが我が儘を言うことなんてあまりない。
言われた通り我慢したけれど、やっぱり恥ずかしい。











「アラン、やっぱり私、恥ずかしい!」











両手を前に出して彼を押す。
すると、いとも簡単に彼の体は離れていった。
不思議に思い見上げると、無表情の彼が私を見下ろしている。



え、何?











「共にいれる時だからそうしたのだ。何故拒否をするのだ?お前が望んだことではないのか」

「あっ…」

「何のために皆に私達の関係を明かしたのだ。、お前はどうしたいのだ?」

「わ、私…」











私、ただ不安で一緒にいたくて。でもどうしたいとかわからないわ。











、アカネイアが目の前なのだ。私達はマルス王子の力にならなければならない。私達の関係など後でもいいだろう」

「そうですけど、そんな…」











そんな言い方しなくても。
アランはあからさまに溜め息を吐く。











「お前は近衛兵士だろう、マルス王子を命を掛けて守るのだ。私と気持ちを確かめあったのは、求め合うためだけではないはずだ。他にも使い様があるだろう」











そう言うと私に背を向け、行ってしまった。
私はわけもわからず、彼に捨てられた気がして、その場に膝をついた。



本当の気持ちを言っただけなのに、どうしてこんなことになっちゃったの?



考えてもわからず、ただただ泣きじゃくっていた。








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ゲームの中のは恋のために
近衛騎士の仕事を疎かになんてしなそうですね(笑)

でも人は恋をするとこうなっちゃったりすると思います。
他のことが手につかなくなるような恋が出来たら、素敵ですね!



2011/05/24



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