どうして?アランは私達の事より、他の事の方が大事なの?
あんなに愛し合ったのに、それより大事なものがあるの?

私には、何よりもあなたしか見えていないのに。









広場で泣きじゃくっていると、誰かにマントを掛けられた。
振り向くと、心配そうな表情のカタリナがいる。











「カタリナ…」

「私、が泣いているのを初めて見ました」

「…」

「テントに戻りましょう」











差し出してくれた手を取ると、温かくてホッとした。おずおずと立ち上がり、彼女について行く。

カタリナは何も聞いてこなかった。私が話すまで待つ、彼女はそんな人だ。
だから、テントについてからお茶の用意をしようとする彼女の袖を引き、そばに居てくれるように願った。











「私、あの人に初めて怒られたの。本当の気持ちを伝えて、善処してくれるって言って。
それでキスされて、あんな目立つところでのキスは恥ずかしくて、それを伝えたら…あの人は行ってしまった」











思い出すと、また涙が溢れてきた。
するとカタリナはハンカチを差し出してくれる。











らしくありません」











思いがけない強い言葉が、私の心を一突きする。
彼女なら、優しく包み込んでくれると思ってたのに。











「私らしくないってなに?私らしいって何なの!?」











絶望に支配され、噛み付いてしまった。
カタリナはびくりと肩を震わせたけど、意志の強い瞳で私を見返す。











は変わってしまいました。あなたはアリティアの騎士になるために頑張ってきたのに、今は違います。あの人しか見えてない!」

「恋をしてるの!それの何が悪いの!?」

「今は戦争中です!その渦の中心にいるマルス様をおそばで守る近衛であるのに、それが見えてない。
それがわかってるから、自分が甘やかしてしまったってわかってるから、アラン隊長はあなたを突き放したんです!何でそれがわからないんですか!」

「…わからないわ!愛して愛されてるはずなのに、なんでこんなことが起こるの?私は不安なだけなの。あの人がいなくなっちゃう」

「………?、何の事を言って…」

「おお、ここにいたか」











もう何を言ってるかわからなくなってる私を、カタリナは眉間に皺を寄せて聞き返す。
その時、入口からマリス殿が入って来た。
カタリナは一歩下がると、彼女に道を譲る。私に用があるみたい。











「だいぶ探したぞ」











マリス殿はそう言うと、椅子に座って私を正面から見据えた。
そして力強く手を握られる。











「ど、どうされたのですか?」

「心して聞いてくれ。私はあんたの味方だ」

「?」











前置きが意味不明で首を傾げる。カタリナも同じだった。











「さっきあんたの彼氏を見た」

「アランを?」











マリス殿は深く頷き、手に力を入れる。はっきり言って痛い。
でも続きが気になったので何も言わずに見返す。











「貧民街の酒場だ」

「貧民街の酒場…?」











顔が熱くなる。
私を置き去りにして、そんなとこで一体何してるの?











「それに酒場の奥に入って行ったんだ。それとなく探りを入れたら、女に会いにきたって話だ」

「!」











そんな…!
アランに別の女性がいるの?私の他に彼に体を絡ませるような女が?

体中が熱くなり、怒りが燃え上がる。私達は最高のパートナーだって言ってたのに。
戦いが終わったら一緒になろうって言ったのに!











「マリス様!アラン隊長は二股かけるような方じゃありません!」











何も言わずに聞いていたカタリナが叫ぶ。











「しかし、聞いてはいけないとは思ったんだが…あんたらは喧嘩をしたんだろう?男は欲望に率直だからな、発散しに行ったのかもしれんし…」

「マリス様!!!」











カタリナの叫びは悲痛なものに変わり、マリス殿の口を押さえ込んでいた。











、アラン隊長がそんな方じゃないって、あなたが一番わかっているはずです!よく、よく考えてください。あなたたちの思いを無駄にしないで!」

「わたし…」











何を言おうとしたかわからない。けど何を言おうとも最後まで言えはしなかった。











「敵襲!敵襲!」

「敵襲かっ!?」











気まずそうに口を押さえられていたマリス殿は、喜々として出て行った。
私もあとを追う。

テントを出たところで、後方からアリティア騎士団が駆けてくるのが見えた。
もちろん先頭はアランだ。

騎士団は矢のように勢いよく飛び出すと、街の入口から消えてしまった。

彼はちらりとも私の姿を見なかった。ううん、気づかなかっただけかもしれない。
けど今の私にそんな心の余裕はなくて…、私を見て見ぬふりをしたっていう最悪な考えに支配されてしまった。











「もう、ヤダ…」

?」











泣きそうになったところにカタリナに声を掛けられて涙を止めると、弓を持って街の入口に向かった。



痛いのも苦しいのもみんないらない。辛いんだもの。
だから、アランのことはなかったことにする。

アランもカタリナも戦に集中しろって言うんだから、そうする。
弓を引いて、マルス様を命懸けで守るわ!



襲ってきたのは狼騎士団の一部だった。
私達を後ろから攻撃し、慌てているところをパレス側から攻撃する手筈だったみたい。
でも何か手違いがあったのか進軍が遅れ、私達が先にノルダに到着したらしい。これは後から聞いた話だ。
戦闘中はそんなこと考える余裕もなく、襲い掛かってくる騎士に矢を放っていた。

アランの方はなるべく目を向けないようにして、マルス様だけに集中していた。
するとマルス様は狼騎士団の一人に何か話し掛けた。
そして話し掛けられた騎士は頷き、私達の後方に迫ってきていた狼騎士団の方に駆けて行った。
そこで一人の騎士に話し掛けると、そのままアリティア軍の方に向かってきた。











「マルス様!」











私が駆け寄ると、マルス様はにっこりと微笑む。











「力強い仲間が出来たよ」

「え?」

「彼等は前、ハーディンと一緒に僕たちと戦ったんだ。狼騎士団の主力だね」

「本当ですか!それは心強いです」











王子は胸を張ると、そうだろうと言った。そして彼等の背を追うように走り出す。
私も置いていかれないようについていく。











「他にも二人ほどいてね、その二人も説得してみるそうだよ」











そう言って、全速力で行ってしまう。さすがにそれにはついて行けず、一歩遅れをとってしまった。
先の方ではナバール殿やオグマ殿が攻戦しており、敵軍の中にマルス様一人向かったわけではないのでほっとした。
それでも私は近衛だから見失うわけにはいかない。少し息を調え、また走り出す。

仲間になった狼騎士団の人は三人に増えていた。
あともう一息でパレスに着くというところで、三人は前に進むのを苦戦していた。
そこへマルス様が到着し、パレスへの砦を守る兵を素早く倒す。
その剣技は神業だ。

でもその時、











「マルス王子覚悟!」











敵側から一本の矢が放たれた。
その矢筋は鋭く正確で、当たったら間違いなくマルス様の致命傷になるってわかったの。
だから無我夢中で矢を放ったわ。素早く飛んで行く様に強く引き絞って、放す。



ガンッ



自身を守るように頭を庇っているマルス様の目の前で、私の矢は敵の矢に当たった。
そして砕け散ったの。











「俺の矢に、矢を当てるとは!」











矢を放った人物は信じられないというように言った。私だって信じられない。

まぐれよ、まぐれ。

その人物はもう一度弓を引き絞り、標的をマルス様に合わせる。
私も同じ様に標的をその人物に合わせた。











「あなたが矢を放っても、マルス様は避けることが出来る。でもあなたが矢を放った瞬間、私の矢があなたを貫くわ。あなたは逃げる暇はない」

「くっ…」











悔しそうに構える彼を見て、本当に弓が出来る人なのだと思う。
すべて計算して確率が高い道をわかっている。私がはったりを言ったわけじゃないってわかってる。











「ウルフ、やめろ!」

「ザガロ!?」











さっき仲間になったばかりの狼騎士団の一人が彼に叫ぶ。すると驚いた彼は弓を下ろした。
そして二人は話し出す。

話というか言い合いというか…。でも二人とも、ハーディン王を思っているのは伝わってきた。











、ありがとう」

「いえ。私の仕事ですから」

「さっきのタイミングは凄かった。ウルフも信じられない様だった」

「あの方ですね」











睨み合った敵だとされていた彼を見て言う。











「彼が四人目だ。狼騎士団隊長のウルフ。弓の名手だよ」

「弓の名手…」











オレルアンの狼騎士団は有名だ。そんな騎士団を束ねているのがあの人?
その割には落ち着きがないように見える。あの言い合いっぷりは…

私ってば、誰と比べてるの!

心の中で自分を叱咤し、言い合いを見守る。
そのうちザガロという方が勝ったのか、ウルフ殿の背を叩いてマルス様の前に突き出した。











「我々はあなたと共に行く。しかしハーディン様に真実を確かめるまで、あなたの命令はきかない」

「!」

「それでいいよ、ウルフ。ありがとう」

「…」











マルス様が即答しなければ、私が言い返してたかもしれない。
けどよく考えたら、ずっとハーディン王と共に戦ってきたのだから、やすやすとマルス様につくなんて出来ないのよね。











「うおぉーっ」











パレスの方からアリティア軍の雄叫びが聞こえた。
きっと、城を包囲したんだろう。











、僕はもう大丈夫だよ」

「あ、はい」











マルス様はそう言うと、バレスの方へ歩きだした。
城を包囲したんだし、もう私がいなくても大丈夫よね。

持っていた矢を筒に戻し、後方の確認に戻ろうとした時、突然腕を掴まれた。
反動で後ろに倒れそうになると、腕を掴んだ人物に抱き留められる。











「すまない、強く引き過ぎた」

「ウルフ殿!?」











驚いて真っ赤になる私をしっかり立たせると、彼は私の弓を眺める。











「相当使い込んであるが、良い弓だな」

「あ、ありがとうございます…」











マルス様にはあんなにつんけんしてたのに…弓の話をするときはこんなに良い顔をするのね。
よく見るととても爽やかでハンサム。冷静そうな瞳の奥には、燃えるような強い意志が見える。
それに、この方は弓の名手だ。

彼が私の弓に興味を持ったように、私も彼の弓に興味を持った。
馬に乗って弓を放つホースメンだから、私の弓よりも丈が短い。











「これは、木で出来ているのですか?」

「ああ。一部分だが」











弦を引くとしなるリムの部分だけが、見たこともない木で造られている珍しいものだった。











「オレルアンにしか棲息していない木だ」

「ああそれで。どおりで見たことがないと思いました」

「そんなこともわかるのか。お前は技だけではなく、目利きもある…アリティア軍にしては逸材だな」











ウルフ殿のいい様にムッとする。アリティア軍にしては…ですって!
言い返しそうになるのをなんとか堪え、にっこり微笑んだ。











「光栄です」

「…王子もあんたも食えないな」

「簡単に食われては困りますから」











言い返すと、ウルフ殿は吹き出した。じとりと睨むと、彼は表情を戻して言う。











「俺はハーディン様に仕えることが生き甲斐なんだ。だからハーディン様に確認するまではマルス王子に従うわけにはいかない」

「気持ちはお察しします」

「さっきはアリティア軍を馬鹿にして悪かった。いや、王子を馬鹿にしたことと同じだな。すまない。私も同じことを言われたらムッとしただろう」

「そうですね」

「素直な奴だな。名前を教えてくれ」











ウルフ殿は私に右手を差し出した。これは友好の証だ。
自分の手を差し出し、固く繋ぐ。











「アリティア軍近衛騎士のと申します」

、私はオレルアン軍狼騎士団隊長のウルフだ。宜しくたのむ」










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ウルフって爽やかイケメンですよね。
もうちょっと強くなってくれればなぁ、なんて思いながら、
ちゃっかり戦闘メンバーにいれてました(笑



2011/05/29



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