「っ……」






恥ずかしい!!!



しゃがんで頭を抱え込む。
あまりにも恥ずかし過ぎて、おかしくなっちゃいそう。
まさか寝てしまうなんてありえないわ…。






「アラン殿、困ったわよね」






きっと寝ている私をそのまま置いていけなくて、起こすわけにもいかずにこんな時間になってしまったんだろう。
もう夕方だ。西の空が赤い。

彼は紳士だろうから、寝ている女性をこんなところに一人で置いていくわけにはいかないとか考えて、マントまで掛けてくれて…
顔色があまり良くない風に見えるけど、風邪ひかなかったかしら。






「はぁ…」






私の印象最悪ね。
でももうその事実は消せないし、彼が迷惑そうじゃなかったのには救われたわ。






「さ、帰ろう」






悩んでいても仕方ないので部屋に戻ることにした。



部屋に着くと、セシルがニヤニヤしていた。
おかしいと思って理由を聞くと、含み笑いをされる。






「なんだって言うの?」

「訓練バカのが、非番に訓練もしないでどこに行ってたのかなって」






訓練バカ……私のこと言えないくせに。






「特に買い物に行ってたって感じではなさそうね。そしたら……男かな?」

「なっ!!!そ、そそそんなことあるわけないでしょ!」

「……あるわけないならそんな慌てないわよ。図星だったんだ、アハハ!」






そう豪快に笑われると、自分が滑稽に見えてくる。
慌てちゃったのは、変な言い方をしたセシルのせいなのに。






「ホントに違うのよ」

「アハハハ!」

「…わかった。ちゃんと話すからそういう話か判断すればいいわ」






大笑いしているセシルに呆れて、私はアラン殿との出会いを彼女に話すことにした。






「ふーん……金髪の男の人、アラン……私も知らないわね。その人、本当にアリティア城に勤めている人なの?」

「本人がそう言ってたわ。それも二回とも城内に帰って行ったし」

「それならそうなのかも。金髪なんて滅多にいないから目立ちそうなもんなのに。もしかして調理場とかで料理作ってるのかも」

「……絶対違う。そんな雰囲気じゃなかったし…なんていうか、人の上に立つ人って気がしたわ」






そう。無防備だって怒られても違和感がなかった。それに私を見捨てずに見ていてくれたし。






「じゃあ料理長なんじゃない?」

「だからもう、違うわよ!料理なんてする雰囲気じゃなかった。そうね……城に住んでなかったら、一人暮らしで几帳面で……料理とか細々としてそうかも」

「だからほら!」

「もう!真面目に判断しないならもう話さないわよ」






セシルは笑うのを止め、急に目を細めて優しい表情になった。
一体どうしたのかしら。






が男の人の話をするとは思わなかったな。いつもルークのバカ話と、ロディが真面目だって話ばっかりなんだもん」

「二人だって男の人じゃない」

「あら、違うわよ。視点で二人は出来の悪い子供と出来の良い子供だわね。
でもそのアランって人は違う気がする。カタリナの一件からかなり落ち込んでたあなたを、ここまで元気にしてくれた人だもの。感謝しなくちゃ」

「二回会っただけなのに?」

「そう。本当は自分だって気付いてるんじゃない?」






……ずばり言い当てられてしまい、私は返す言葉がなかった。
二回しか会ってないのに、自分の心が彼に引き寄せられているのがわかる。

だから、また会いたいって思ってる。






「でも、騎士になったのに」

「騎士になったからって、恋をしちゃいけないわけじゃないわよ。要は気持ちの持ちよう!恋を糧に頑張れば?」

「セシル……。このこと、絶対内緒よ」

「アハハハハ!、あなたってホントに面白いわね〜」






セシルに話したことで、心の整理はきっちりついた。
私は何故か、二回しか会ったことのない人に恋をしている。

恋ってそんな簡単なものじゃないと思っていたのに、してみると案外簡単なのかもしれない。
この人が気になるって思ったらもう恋をしている。そんなものなのかもしれないわ。

この気持ちを宙ぶらりんにしないように、それから何回かあの場所へ行ってみた。
でもアラン殿に会うことはなかった。残念に思いながら訓練に明け暮れる。

そして小さな恋の成就を諦めかけた時、グルニア遠征が決まったの。
ハーディン王の要請を受け、私達は慌ただしく遠征の用意をした。
そしてマルス様率いるアリティア軍は小数を城に残してグルニアに到着した。






「何これ…酷い」






到着した村は酷い惨状で、目を覆いたくなるほどだ。人々は飢え、疲れを見せていた。
でもそれ以上に、私達を見た時の怯えた瞳…ううん、そこに隠れている憎しみが印象的だった。



これはどういうこと。グルニアの反乱?これはそんなんじゃない。
ここには、反乱することも諦めた人たちしかいないわ。
それを鎮圧しろって……



私は咄嗟にを見た。マルス様も同じようなことを考えたらしく、悩むように腕を組む。
でもアカネイアからの命令は絶対だ。きっとこのまま鎮圧に向かうことになるだろう。






「反乱の首謀者とされているロレンス将軍は、前の戦いで一緒に戦った仲間なんだ。だから出来れば戦わずに話し合いたい」

「マルス様…。わかりました。私は出来るだけその手助けをさせて頂きます。けれどもマルス様に危害が及ぶと判断した場合は…」

「ああ、わかってる。でも絶対にそうならない」






強い決意が伝わってきた。マルス様が望むことを遂げさせることも私の役目だ。






「さあ、ジェイガンがみんなを集めている。行こう」

「はい」












            *











、新人騎士たちの様子は?」

「はい。皆、やる気に満ちています」

「うむ。今回の遠征だが…わしはもはや老骨、前線で戦う役はつとまらぬ。そなたら新人騎士たちと、聖騎士アラン、ドーガ、ゴードン。以上が主戦力になろう」






…?
今、なんか気になる名前が入ってたような。

私の疑問をよそに、ジェイガン様は話を続ける。






「中でも一番の戦力となるのは……そなたにも紹介しておこう」






ジェイガン様は日の光を遮るように額に手を当て、その人に手招きをした。
白馬に乗った騎士は微かに頷くと、馬から降りてこちらへ歩いてきた。
逆光で顔がよく見えない。けれどこのシルエットは……






「近衛騎士、騎士として直接話すのは初めてだな。私がアランだ」






!!!!!



や、やっぱり!アラン殿だ…



目の前が真っ白になり、頭がくらくらした。
私が会っていたのは、アリティアの宮廷騎士隊長である聖騎士アラン殿だったんだ。
それなのに、名前も知らないなんて!なんて失礼なのかしら、私。
アリティアの騎士失格だわ!!!






「誉れ高き聖騎士アラン殿と共に戦えて光栄です」






なんとかどもらずに、これだけは言えた。
チラリとアラン殿の顔を窺うと、微かに微笑む。怒ってないみたいで良かった。






「アラン、戦場からの報告では、敵は賊どもだ。聖騎士であるそなたの敵ではないな」

「無論です。ですがジェイガン様、出来れば、ら新人騎士に活躍の場をお与えください。私はいまさらこれ以上強くはなれませぬ。だが、若い彼らはそうではない。
達は実戦を経て、いずれは私を超えるほどに成長してくれるはずです」

「!アラン殿……」

、戦場で力をつけ、一刻も早く私を超えるのだ。アリティア軍の未来を支えるのは私ではない。貴公なのだ」

「はい…アリティア騎士の重み、この胸に刻みます」

「では、期待している」






彼はそのまま皆の指揮に行ってしまったけれど、私は追う事もしなかった。
だってここは戦場だから、私事は後回しにしなきゃ。
生きて戦い抜いて、そしてその時こそもう一度話しかけてみよう。

アラン殿はアリティアの高名な聖騎士だ。私が恋をしていい相手なんかじゃない。
だからせめて…せめて、騎士としての教えを請おう。
アラン殿が仰って下さった通り、実戦を経て強くなろう。
そして彼の右腕になれるくらいになって、マルス様をお守りしよう。

心の中で新たな決意を刻んだ時に、慌てた表情のセシルが駆け寄ってきた。
その様子から、きっとアラン殿に気付いたんだろう。






「ちょ、ちょっと!あなたが言ってたアランって騎士隊長!?」

「うん、そう」

「うんそうって!ちょっと無謀だったわね。けしかけた私も後悔しちゃうわ」

「いいの。恋は忘れて、あの人を目標に騎士として頑張るから」

「えっ?あ、、ちょっと!」






これ以上、セシルとこの話を続けたくなかった。



私ってば運が悪い。なんか涙出そう。











           *











「ルーク、ロディ、攻撃して!」

「おうよ!」「ああ」

「ライアン、二人の援護を」

「わかりました!」






皆の行動は素早く、無駄がない。
でも出来ればここにカタリナがいてくれたらいいと思う。
軍師は私じゃない、カタリナだ。私はただのアーチャーだもの。






「!」






そんなことを考えた隙に、ライアンに向かってくる族が目に入った。
まずい、このままじゃ!






「セシル!」

「わかってる!」






私の横に待機していたセシルは、馬の腹を蹴って駆けだした。
なんとか間に合ってライアンは無事だ。






「良かっ…」

「かかったな!」






その時、私を目指して走ってくる賊が一人。
私が指示してるのを見て、孤立させる作戦をとったんだわ。
一人ならなんとか私でも、と思って避ける。

一撃目は避けた。でも近すぎて弓では狙えない。
弓矢は近距離戦には向かない。






「これでもくらえ!」

「!」

「ぐあぁっ!」






掲げられた斧が振り下ろされることはなかった。賊は後ろから飛んできた槍に一突きにされていた。
起こったことに目を丸くしてると、投げ槍の主が現れる。






「無防備過ぎる、と言っただろう」

「ア、アラン殿……」






アラン殿が助けてくれた。
一介の騎士である私を、騎士隊長である彼が助けてくれたことに胸が躍るようだった。






、仲間を守る動きはいい。しかし自分に無頓着過ぎる。自分がいかに大切か良く考えろ。この隊は誰の指示で動いている?」

「私です…」






今回は初戦だから近衛としてではなく、第七小隊として戦っていた。
そしてその時隊長だったように、今回もみんなに指示を出している。






「わかっているなら良い。さあ、賊はまだいる。先へ進むぞ」

「はい!」






アラン殿は満足そうに微笑むと、違う部隊の方へ駆けていった。
私はその後ろ姿が見えなくなると、両頬をパチンと打つ。



もっと集中しなきゃ。






「おい。お前、アラン隊長と知り合いなのかよ」

「え、ええ。さっきジェイガン様に紹介されたの」






こんな時にルークが話しかけてきた。
せっかく集中しかけたのに台無しだわ。






「あんなに優しそうな表情したの見たことないぞ。誰に対してもいつもクールで無表情でさ…。俺もあんな表情で怒られてぇよ」

「あのねぇ。バカみたいなこと言ってないで行くわよ」

「へーい」






……私、期待してもいいのですか?



優しそうに微笑む姿を何度も見てる。それは私だけに向けてくれてるの?
アラン殿、早くこの戦いを終わらせてお話がしたいです。





*************

セシルって恋に興味なさそうに見えて良い相談相手になりそう。
アランがマイユニ助けたのは王道パターンですな(笑

2011/02/13