再三言っているが、私は本当に間が悪い。
聞きたくないことも、知りたくないことも、不運な巡り合わせか…結局、知るはめになる。

今回もそうだった。

全く知りたくもないし、死ぬまで知らなくても良かった事だ。
しかしその事実があったことも、知ってしまったことも、結局は起こるべきして起こり、知るべきして知ったのだ。



だからそれだって、なければならなかった大事な出来事だと言うことだ。











パレス解放の宴が、宴もたけなわとなったのは、明け方というか翌朝だった。
小さな催しだったはずがこんなに大きく長い催しになってしまったことで、我々は睡眠をとるという休息が必要となった。
マルス王子は快く兵士に休息の許可を出し、朝から兵士達はそこら中で寝息を立てはじめた。
いまだ飲んでいる者もおり、若さに感心せずにはいられなかった。

うとうとし始めたカタリナを抱え、彼女にあてがわれた部屋へ向かう。
その部屋はカタリナとセシルとの三人部屋だったので、がいることに期待したが彼女はおらず、セシルが下着一丁で布団を抱き寝ているだけだった。
それを見なかったことにし、カタリナを布団におろして部屋を出た。











「こんなに兵士達が寝ていたら、片付けが行き届かぬな…」











そう思うほど、廊下は飲みかけの酒と寝ている兵士だらけだった。
もう襲い掛かってくる者達がいないと思い、たかが外れたのだろう。
確かにあとはガーネフを追跡するだけだ。パレスを制圧した我々に襲い掛かる者はもういない。



それにしても…











「嘆かわしい」











この状況は溜め息がいくらでも出てしまうぞ。

近場のカートを掴み、片っ端から残骸物を集めて行く。何度か調理場に運ぶと、同じ事をしている者に出くわした。
ロシェだ。











「アラン殿!何故アリティアの騎士隊長がそんなことをしてるんですか!!!」











信じられないという表情で言われ、何故だろうかと自分に問う。
答えは一つしかなかった。











「性格だ」

「えええっ!そんな理由で!?」











驚いている彼を責っ付き、二人で効率よくゴミを集めていく。
あまりにも多すぎて、寝ている兵士達を蹴飛ばしたくなったが、今こうしているのは私の勝手なのだから、そういうわけにもいくまい。

昼近くになってやっとゴミ集めが終わり、調理場での片付けが始まった。
パレスの料理人や使用人に、今日一日の暇を与えるのは間違っていたなど思いながら、ロシェと二人で黙々と作業していた。











「…お前はこういうことに慣れているな」

「アラン殿も」

「まあ、慣れているかもしれない。何しろ性格だからな」

「僕は騎士団で飲む時は絶対この役なんです。早めに寝てしまうので」

「そういうことだったのか」











黙々とした作業もつまらなかったので話しかけてみると、かなり話しが弾んだ。
効率も良く、思ったよりも早く作業が終わりそうだ。

そんな時、ウルフ殿が現れてロシェに冷たい布を用意させた。
彼は布を受け取ると、私に一礼をし、ロシェにすまないと言って去っていく。











「冷たい布なんて、何に使うんだろう。酔いでも冷ますのかな…」











その後、数人が水を所望しに訪れて一々用意しようとするロシェを叱咤し、各人で用意させる。
手伝いもしない者が働く者に甘えるなど、言語道断だ。

片付けも終わりに近付いた時、まだ酔い気味のサガロが入って来た。ロシェに会いにきたようだ。











「ロシェ、聞いてくれ!っと、アラン殿もおられましたか」

「私のことは気にせずともよい」

「…アラン殿は口が固そうだから大丈夫ですね」











ザガロはそう言うと、再びロシェに向かい合った。











「さっき部屋に行ったら、ウルフがどうしてたと思う?」











ザガロはあからさまな溜め息を吐いて、両手を挙げて首を振る。
ロシェの方は先ほどの様子のウルフ殿を思い出しているのか、目線が天井を向いている。











「ウルフならさっき来たけど」

「濡らした布を貰いに来たんだろ」

「そうだね」











ザガロはコップに水を入れて適当なテーブルに腰を下ろした。
ロシェはそれを横目で見て、片付けの総仕上げに入る。











「で、どうしてたんだい?」











彼がそう聞くと、ザガロは待ってましたというようにコップをテーブルに置いた。











と寝てたんだよ」

「えええっ!?」











ロシェが大声で驚いてくれたおかげで、私が洗っていた皿を滑らしたのはばれなかった。

こんなに早くそういう日が来てしまうとは、と哀しくなった。
胸の奥が抉られ、病よりもっと辛い痛みが襲ってきて眩暈がした。











「ちょっと、ザガロ!アラン殿はの上官じゃないか!そんなプライベートな話…」











私の手が止まっていることに気付いたロシェがそう言い、ザガロはヤバイと口に手を当てる。
痛みや眩暈を起こしている場合じゃない。この者達は私との関係を知らないのだ、普通にしなければ。











「部下のプライベートなど私には関係がない」

「あっ、そうですよね」











ホッとしたザガロは、その後も詳しく話してくれた。
最初の一言を聞かなかったなら全てを聞きたくはなかったが、最初の一言を聞いてしまったからには、続きが気になるではないか。
聞きたくはないと思いながらも、私はついつい聞き耳を立ててしまった。











「ウルフはお堅いから、いきなり女性と床を共にするなんて考えられないんだけど」

「だろ?でも俺はウルフが初めて会ったときからに惹かれてることはわかったんだ。
だから応援してやりたいと思って、がどんな女だか観察してたんだよな…そしたら、遠くを見ていることがわかったんだ」

「遠くを見ている?」

「ああ。遠く、他の男を求めてるのに気付いたんだよ」











ザガロの言葉に、私は小さな光が見えた気がした。
もしかして未だに私を思ってくれているのではないかと期待してしまう。











が他の男性を見てるってわかったの?それ、本当かい」

「ああ、に確認したよ。だから草原の男をその純粋さで惑わすのはやめろって言ったし、ウルフにもは他に好きな男がいるからやめとけって忠告したんだ」

「それなのにこんなことになったと。でもね、なんで濡らした布なのさ」











ロシェが不思議そうに聞いた。
確かにそうだ、一緒に寝たでは濡らした布の説明が付かない。











「それがさ、一緒に寝てるのを起こしたときに『お前らなにやってんだ』って聞いたら『お互いの心を癒してた』なんて言い返すから、
『体でかよ』って言ったら『体の付き合いはない』って言うんだぜ。それも裸で。二人とも素っ裸で抱き合ってて、説得力なさすぎだろ」











再び痛みと眩暈が襲い掛かってきたが、なんとか耐えて手を動かすことが出来た。











「でもシテないのは本当みたいなんだよな〜…、も必死に否定してたし」

「へえぇ〜」











ロシェは心の奥底から関心したように声を出し、言葉を続ける。











「ウルフは振られたんだ。で、は好きな男の人が忘れられなくて大泣き。振られたのにそれを慰めるなんて、それこそウルフらしいや」

「お前、なんでそこまでわかるんだ?相変わらず疎いようで鋭いな」











満足そうに笑うロシェと目を丸くしているザガロを想像しながら、最後の皿を拭いて元の場所に戻す。



既に辛い痛みと眩暈は消え去り、私の中には一筋の光が指していた。
がウルフ殿とそういう仲になりそうだったことは信じたくないが、証人もいるし事実なのだろう。

彼女は自分を守り切れず、ウルフ殿に助けを求めたのだろうか。それともウルフ殿の思いを知り、人恋しくて求めてしまったのか。
それでも、私への思いを捨てずにいてくれたのだろうか。











「アラン殿、お疲れ様でした」

「ロシェもな。ザガロ、先程の話は他人のプライベートだ。もう喋らぬようにな」

「はい…」











そろそろ酔いが冷めてきたのか、彼は喋ってしまったことを少なからず後悔しているようだった。











「では、ゆっくり休むように」











私はその場を後にして、パレス横にそびえる訓練場に向かった。
宴の後だ、訓練しているような輩はいないだろうと思っていたが、その通りだった。

静けさの中、心を無にして立ち精神を集中させる。
微弱な空気の震えを肌で感じ、それに合わせて槍を突き出した。











「はあっ」











素早く回転させ、逆方向から突き出す。それを数回繰り返して元の型に戻った。
やはり息切れが早い。病の進行を垣間見る様だ。
自分の体力に落胆し、槍を地面に突き立てて目を瞑った。



が私への思いを捨てずにいてくれたら、こんなに嬉しいことはない。
しかし私はいつか死に行く身。それも彼女は病の事を知らない。

先日思った通り、私達が離れたのが運命ならばそのままの方がいいかもしれない。



……それでも、もし彼女と元のように戻れるならば、











「それこそ受け入れたい運命だ」











彼女を愛してやまないこの気持ちが消えることはない。
離れて苦しいこの気持ちは辛い。



共にいても良いのならば、どうか、どうかこの死に行く騎士の願いを受け入れたまえ。










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アランはホントに運が悪いなぁって思います。
(書いてるのは私ですが)

彼の本当の願いが叶えばいいのですが。


2011/06/15



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