「これで良かったのか」

「上々だ」











サムソンに頷き返すと、彼は複雑な表情を向けてきた。
その視線を避けるように、が話を聞いていた窓を見た。
その窓の下にはシーマ王女が座っていて、悲しそうに私を見つめている。











「アラン、これは最善ではないぞ」











サムソンは剣を私に向けた。
脅しているわけではない。注意を向けさせるためにこうしているのだ。











「私が選んだ道だ」

「あと少しだったのに何故、元鞘におさまらん?全てをさらけ出して死ぬまで一緒にいればいいじゃないか」











それも考えた。しかし死ぬ時までに面倒をかけるべきではない。
彼女には、やりたいことややらねばならぬことが待っている。
それに体を許せる相手がいるならば、その男の元で子供を生み育てるべきだ。











「サムソン」











私が口を開く前に、シーマ王女が彼を窘めた。彼女はつかつかと彼の元へ行き、剣を下ろさせた。











「最善と最高の選択は違う」

「……」

「アラン殿は自分の今後とその時ののためにそうした」

「いざ死が迫った時、迷惑をかけたくないと?」











シーマ王女は私をちらりと見て、目を瞑った。次の言葉を言うまいか迷っているらしい。











はアラン殿を愛していると思う。しかし、昨日はウルフ殿と過ごしていた」

「!」











サムソンがほらみたことかと私を睨む。
しかし、シーマ王女はなぜ一部の人間しか知らないことを知っているのだ。











「シーマ王女、なぜそれを?」

「昨日、中庭で落ち込んでいるウルフ殿を見掛け、声をかけようか迷っていたところにがやってきて、二人で部屋に消えていった」











ザガロの知らない部分をこの方は知っているのか。











「ついでに、朝に片付けをしているのを手伝おうか迷っていたら、ザガロが続きを話しているのも聞いてしまった」











続きも知っているのか。
気配に全く気づかなかった。まあ動揺していたし、先程も目の前にいるというのにも気付かなかったな。











「他に気の許せる者がいるなら、そいつの元に行け…さっきのはそういうメッセージが含まれてたのか。
それにしても、途中で入って来た女にも思われて良い身分だなアラン」

「王女と恋仲の男に言われたくないな」











私達が互いに笑うと、場の雰囲気は元に戻った。サムソンもやっと了解してくれたようだ。











「芝居中に負けたお前は何をやってくれるんだ?」

「サムソン、あれは芝居をやりやすくするために負けたのだ。賭けの対象ではない」











私達はが来る前に勝負をしていた。負けた方が勝った方の願いを聞くと。
勝った私はサムソンに先程の芝居を頼んだのだ。

これで良かったと思う。
サムソンとの勝負が決まるまで、ずっとどうするか迷っていた。



がウルフ殿に体を預けなかったのは、私を思っているからだと思った。
都合の良い考え方だが、十中八九そうだろう。
大泣きしてすっきりした女性は、するべきだと思うことを必ずしようとする。私の元に帰って来てくれるならば、両手を広げて迎える。
そして今度こそは絶対に離したりはしない。

しかしそれは私が病でなかった場合だ。

明日をも知れぬ状態で、病の進行も見られる今はそんなことは出来ない。には未来がある。
私を選べば、必ず暗いものを体験しなければいけなくなる。
避けられるならばそうしてやりたい。

原因は私なのだから。











「さっきのが芝居だったなど、理由にならんぞ」

「そうか。それならばもう一度打ち合いでもするか」











ニヤリと笑って言ったが、私にはもう体力が残っていなかった。次は確実に負けるだろう。
それがわかったのか、彼は溜め息を吐いてシーマ王女に剣を渡した。











「もうやめだ。シーマ、それを片してくれ」

「はい」











シーマ王女は優しく微笑み、私からも剣を受け取ると片付けにかかった。



ふう、たくさん汗をかいた。シャワーを浴びなければ。

そのままサムソンと共に兵士用のシャワー室に赴く。簡単に湯を浴びてさっぱりすると、今後の話をして別れた。











涼もうと思い眺めの良いバルコニーを探したが、とにかく兵士達が眠りこけているために見つからず、仕方なく中庭に向かうことにした。
入口が見えてきた時、前方の廊下からが中庭へと曲がっていくのが見えた。
このまま向かうと鉢合わせになるかもしれないのでやめようと思ったが、次の声を聞いて留まった。











「カタリナ!」











はカタリナを探していたのだ。きっとさっきの訓練所のことだろう。
どうなることかと心配になり、そこへ向かった。











…」

「泣かないで、大丈夫?」











覗くと、目をゴシゴシ擦っているカタリナが見える。











「あの、私…」

「ごめんね、カタリナ。私ったら気付かなくて」

「え?」

「カタリナがアランを好きだなんて思わなかったから…」











目を白黒させているカタリナに、は優しく微笑んだ。











「実は私、さっきの訓練所の会話を聞いてたの」

「えっ…じゃあ、アランさんの言ったことも、私の言ったことも全部…」

「うん、聞いてた」











途端、カタリナの顔色が真っ青になる。











「私、勝手にすみません!それに好きになんてなってしまって」

「好きって気持ちは自由でしょ?だから謝ることなんてない。
もしアランとカタリナが上手くいったら、すぐにはカタリナみたいにあなたが幸せなら私も幸せだなんて言えなかっただろうけど、いつかは言えたと思う」



「私もアランに振られたんだから、そんなことで気を遣わないで」











の悲しそうな笑みが焼き付く。こんな表情はさせたくない。
しかし今だけだ。今だけの表情なんだ。
自分に言い聞かせる。











「…アランさんの言ったこと、本心じゃないと思うんです」

「そう、かもね」

「最後に愛した女性はというのは、ずっと愛しつづけるの意味のはずです」











呟くように言ったカタリナの言葉が的を射てて驚く。
まさか死が近いというところまで当てられはしないだろうな。











「でも私とは元に戻らないって言ってたわ」

「はい。そこがわからなくて…何かを抱えてるのではないかって」

「何か?」

「重いものを。私はそういう人達をたくさん見てきましたから、わかるんです。それが何かわかればいいのに」

「カタリナ……、本当にアランが好きなのね」











優しく言うの声は広く深い愛情が感じられた。この二人の仲はもう大丈夫だろう。











「…はい。でもから取ろうなんて思ってませんよ!アランさんの気持ちが私に向いてたらいいな…なんて思っただけで」

「だから遠慮して言わないの!好きはみんな持っていい感情なんだから」











この後、二人はしっかり抱き合って仲良く話していた。
私はその場を後にし、睡眠を取ろうと部屋に行く。

同部屋を宛がわれていたジェイガン様は既におらず、気を遣わずにじゅうぶんな睡眠が取れた。
これだけで、夜中起きて明け方も片付けに徹した甲斐があるというものだ。











我々はパレスに兵士を残し、精鋭達のみでニーナ様やエリス様などシスター達奪還に向かう。
精鋭達と言っても力差が歴然としている者も含まれており、その者達は二軍と呼ばれた。

一軍は敵を蹴散らし、二軍が残党を追う。

二軍は人数が多く、軍をまとめあげるのに骨が折れる。私はその役を戴き働いているのだが…本当に骨が折れる。
自分勝手にどこかに行こうとする者もいれば、竜が怖くて進みたくないという者もいる。
その者達を叱咤し、なんとか一軍の後ろをついて行く。

普段一軍のが体調が悪そうだということで二軍の中にいた。彼女は私の力になるために、同じ様に皆を叱咤して歩を進ませていた。
そのおかげでなんとか一人も欠けずに進んでいる。



途中、道が別れており敵兵が多くなった。飛竜も襲ってきて混戦状態になった。
竜はが倒し、蛮族も狼騎士団が倒してくれた。私は再び二軍をまとめ、制圧すべき城の方を目指す。
再び人数確認した時、一人足りないことに気づいた。



一体誰がいない!?



焦らぬように深呼吸し、仲間を見渡す。すると足りない者が浮かび上がった。



ユベロ王子だ…



頭を抱える。
竜が怖いと泣きそうになっていた。先程の混戦でどこかに隠れたかしたのだろう。
探しに行かなければ。

私の代わりに軍を先導出来る者はいないか。そう思い見渡す。
目についたのはと彼女に話しかけているウルフ殿。

適任だ。











!!!」











大声で叫ぶ。
私の大声などはたかが知れたものだが、彼女はしっかりと気づいてくれた。
驚いた顔で「はい!」と返事した。











「一名足りないので探しに行く。先導を頼めるか?」

「はいっ!」











嬉しそうに頷く彼女に、思わず微笑んで答えてしまう。
彼女はそんな私に愛を訴える目線を送り、ゆっくりと目を瞑ってもう一度頷いた。

ずっと目線さえも合わせなかったのに、いざ合わせるとこれだ。
堅く刻み込んだ誓いもすぐに解け、彼女の愛情に答えたくてしょうがなくなる。
きっと今の行為だけで、彼女に私の愛情が伝わってしまっただろう。











「さて、ユベロ王子を探しに行かなければ」











馬の腹を軽く蹴り、元来た道を戻っていった。

だいぶ駆けたが、王子の姿どころか人っ子一人見ることはない。さてどうしたものかと馬から下り、辺りを見回す。
これ以上時間をかけると本陣に戻るときに敵の援軍とぶつかってしまう可能性がある。
しかし、王子を見つけずに戻るのは論外だ。











「見逃していたとしても。ご本人が本陣に追いついていればいいのだが・・・」











一度確認しに戻るべきか否か…。考えながら辺りを見回していると、混戦になった場所に生えている草が不自然に揺れた。
まさかと思い、馬を引いて近づく。











「ユベロ王子?」

「………だれ?」

「アリティアのアランです」

「えっホント!?」











出てきた王子は、泣きすぎで目は腫れて瞼が一重になっており、頬は汚れて黒く汚れていた。
あまりにもおかしな顔なので笑いそうになってしまう。











「アラン、笑いをこらえてないでみんなのとこに連れて行って」

「はっ、申し訳ありません」

「誰も気付かないで、ここに置いてかれるのかと思ったよ」











ユベロ王子を馬の背に上げ、自分も飛び乗る。手綱を引いて腹を蹴った。











「きっとユミナ王女が気付かれますよ」

「その頃にはきっと僕は…」











ぶるぶると身を震わせ、馬の鬣を握り締める。
きっと誰にも見つけられなかった時に自分を想像して、鳥肌が立ったのだろう。











「敵の援軍が出ているかもしれません。あなたを乗せながら、馬上で槍を振るうことをお許し下さい」

「うん」











あらん限りの速度を出して、本陣へと駆ける。
馬がダメになってしまう前に何とか追いつければいいのだが。











「アラン、あそこに誰かいる!」











王子が指す方に目を凝らすと、到底我らの軍の者とは思えない粗末な格好した男だ。











「敵です。頭を低くして馬にしがみついていて下さい」

「う…うん」

「大丈夫。命に代えても絶対にお守りします」











そう言って、無意識に頭を撫でてしまう。

気付いた時にはそのふさふさな金髪に何度も触れた後だったので、謝るのもおかしな気がした。
ユベロ王子の方はというと、頭を撫でられるのに照れてしまったのか頬を赤くして私を見上げ、











「アランも一緒に戻ろうね」











と力強く言ってくれた。
滅多に出ない勇気を出してもらえるならば、王子の頭を撫でてしまったこともお咎めなしになればいいのだが。










***************

心配性だし、立ち聞きし過ぎだし!
アランさんは気苦労が絶えないですね〜



2011/06/23



35→