とうとうこの日が来たか。
自ら告白する勇気もなく、ずっと先延ばしにしていたからこういう目に合うのだ。



誰かが耳元で囁いた。











あまりの咳の酷さに意識が朦朧とし、吐血したことに衝撃を受けてしまった。
そのため自分一人で立てるようになったのは、皆の姿が見えなくなった城内に入ってからだった。











「…もう、大丈夫です」

「だめだよ。きみが休めるところまで連れていく」

「俺もマルス様と同じ気持ちですから」











王子もルークも私を離す事無く部屋に連れていき、椅子に座らせてくれた。
持っていた布で口と手を拭い、あらためて吐血したことを知る。

だいぶ病に蝕まれているのだな。
この戦が終わるまでもつかわからないが、王子の表情では今この場で隊長の任を解かれそうに見える。











「あれが戦場だったら殺されてた。わかってるね」

「はい」

「一人でユベロを捜しに行ったのは過ぎた事だからしょうがないけど、もう無謀なことはやめてほしい」











王子は苦々しい表情で言った。











「アランには最後までアリティアの騎士隊長でいてほしいんだ。そのためには無理はしないでくれ。誰でもいい、一緒に行動するようにするんだ」

「王子…」

「……そうだ、がいい。にブーツを渡してきみと行動させよう!」











思い付いたように言う王子を、私は避難がましい目で見つめた。
しかし彼は茶目っ気たっぷりの笑みで私を見返す。











「何も伝えないからこうなるんだ。全てを清算して、最初からやり直すべきだね。ルーク」











王子は静かに話しを聞いていたルークに向き直ると、指示を出す。











が落ち着いたらここに連れて来てほしい。落ち着いてからだからね」

「はいっ」











念を押す王子に彼は真剣な表情で返事すると、部屋を出て行った。











「君達の関係は複雑なようで単純だ。相手を思う心が自分を空回りさせてる。不思議なのは、全く違う二人なのによく似てるってことだよ」











王子はくすくす笑うと、自分も椅子に座った。
そしてお見合いさながらに私と向かい合う。











「深く愛し合っていれば何も障害なんてないんだ。最後には共に生きることになるんだから」

「……」

「そろそろ観念した方がいいよ。との愛情はなくならない。きみの存在が彼女からなくなることはないんだ。きみがいなくなってもね。
どちらにしろ忘れられない存在になるならば、最後まで一緒にいるべきだよ。を愛してるんだろう」











考える前に頷いていた。



無視をされていたパレス攻略の頃とは打って変わって、最近は常に彼女の視線を感じていた。
ひたむきな愛情に何度振り向きそうになったことか。先ほどの「怪我はないか」という問い掛けに答えるのにどんなににやけそうになったことか。
自分の浮ついた気持ちを抑えるのに必死になった。

そもそも何も話さなかった自分が一番悪い。
彼女が不安になったのは私が何も話さずに突き放してしまったせいだ。そこに不運が折り重なって今の状態になってしまった。



マルス王子はなんと言った?
私とのお互いの愛情は消えない。

離れても惹かれ合ってしまう。そのまま別れてしまっては、いなくなる私ではなく、残る彼女の気持ちの行き場がなくなってしまう。
しかし最後まで共に愛し合って生きていけば、その事実は彼女を満たすだろう。
どちらにしろ空虚はあるが、きっと気持ちにケリがつけやすい。



先にいなくなる存在ならば、彼女に気持ちを伝えるべきではなかった。
そうしてしまったならば、最後まで彼女のそばにいるべきだ。

私は、自らそれを選んだのだから。











「私はに全てを話します。そして最後まで共に生きてくれるよう、願います」

「そうか」











王子は安心したように微笑むと、立ち上がった。そしてドアに手を掛ける。











「じゃあ、が来たら話すんだよ。あとのことは大丈夫。今日はここで次の戦いに備えるし、この部屋は明日まで二人で使ってくれてかまわないから」











そして早口でこう言うと、出ていってしまう。
私には反論の機会も与えられず、明朝までとここで過ごす様に命じられたも同然だった。











「朝まで…」











いや、変な事を考えるな。
今から全てを話すのだし、がそれを受け入れてくれるとは限らないのだ。



しかし私の心はスッキリしていた。
答えを見つけだすと今までの悩みが嘘のように吹っ飛び、何事もなかったかのようになった。
それがもっと早ければ良かったのだが、死が近くなってから気付くなどなんと勿体ないことか。

それにが全てを受け入れて最後まで愛してくれる事にも確信が持てた。
私達の愛情はそれほど深く結び付いているだろうから。



……彼女を待つ時間がなんと長いことか。



彼女は私の吐血を見て動転しているだろう。
確かあの場を去る時に彼女の声が聞こえた。「私も行きます」だったろうか…

もう恋人でも何でもないはずなのに、彼女は率先して私に付き添おうとしてくれた。
しかしその声が遠く、あの時は嬉しく思う事も出来なかったのだ。



が来たら言おう。

愛していると。










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短め。
やっぱりいいところはマルス様がかっさらっていきます♪


2011/07/03



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