が毎日こうやって泣いてしまうならば、やはり離れて元の関係に戻らない方が良かったとさえ思える。
もし私が同じ立場ならば、その後を追ってしまうくらいに悲しみは深い。
だからこそ、が若くて良かったと思う。
私は彼女が二十歳になるのも見ずに逝ってしまうだろうから、その後の彼女の人生は自由だ。
立ち直ることも新しい人生を歩むこともたやすいだろう。
「……」
望めるならば、を娶って子供が欲しかった。
何人ももうけて、アリティア騎士団を私と彼女の子供だらけにしたかった。
マルス様への忠誠心の強い者達が揃うだろう。それにの子だ、武術にも長けている。
けれどもそれは出来ない。
私達に子供が出来たとしたら、彼女はずっと私の存在に縛られてしまう。それだけは望まない。
には新たな人生をのびのびと生きて欲しい。
は気付いていないだろうが、私は行為に及ぶ時に子供が出来ないよう気をつけている。
だからそれに関しては大丈夫だろう。
彼女の涙は止まった様だが、そのまま言葉を発することはなかった。
それは大変珍しいことなので、特に声を掛けはしない。
彼女はそれを望んでないだろうし、私も何を話していいかわからなかったから。
朝日が昇ってしまうと、我々は出撃準備をしなければならなかった。次は最後の戦いだ。ガーネフが向かって来るだろう。
もう一度を強く抱き、起き上がった。彼女は腫れた瞳で私を見上げる。
何か言いたそうだと感じた。
大切な何かを伝えたい、それがわかった。
幸い出撃は昼近くと決まっていたし、準備はもう少し後でも十分間に合だろう。
が何か言いたいなら聞かなければ。それで彼女の心が軽くなるなら。
「アラン、あの…」
「ああ、どうした」
はもじもじと赤くなると、お腹を押さえた。
「私、子供が出来たのです」
えっ?
あんなに気をつけていたのに、出来るはずがっ…
そう思った私は、あろうことか言ってはいけないことを聞いてしまった。
この後、と自分がどんなに傷つくかも知らずに。
「わ…私の子か?」
すると彼女は顔色を曇らせ、何かを考え込んでしまった。
だいたいそんなことを聞き返す必要はなかったのだ。彼女は私が初めての相手だったし、今子供が出来たと確信するには時期的に私しかありえない。
もし本当はウルフ殿とそういうことがあったとしても、子供が出来たと確信出来るのはもっと後だ。
でも焦った私には、そんなことを考える余裕もなかった。
は意を決したように私を見返し、口を開く。
「アラン、私…ウルフ殿とは何も…」
一番聞きたくなかったことだ。
視線を逸らし言い放つ。
「何もなかったのはわかっている!」
考えていた以上に強い口調になってしまい、恐る恐るを見た。彼女は怯えたように首を竦めている。
私はもう一度視線を逸らして言った。
「わかっている、私の子供だ」
「っ…そんな言い方しないで!ちゃんと信じて。私とウルフ殿には何もないです。大泣きしてたのを慰めてもらったの!」
「信じている。だからその話はやめてくれ!」
が他の男に慰められた話など聞きたくなかった。
私以外の男にその裸体を見せて触られ、抱き締められたなど、本人から聞くなんて耐えられない。
「うそ!信じてたら私の目をちゃんと見て聞くはずだもの」
の言う通りだった。
私は先程から彼女の顔をまともに見ていない。見れないのだ。
「それは…さみしくてウルフ殿の気持ちに流されてしまったけれど、いざ服を脱がされるとそんな気持ちにはなれなくて。
ううん、ウルフ殿がザガロ殿の警告を思い出させてくれなかったら、最後までいってたかもしれない。ごめんなさい。けど、そうはならなかったの」
彼女にとって懺悔の言葉でも、私には残酷な拷問でしかなかった。
知りたくもない事実を他から聞かされ、本人からも聞かされる。
元はといえば私が全てを話さず、不安にさせてしまったのが原因だがな。
しかし私から離れたのもウルフ殿と親密になったのもの意志だ。私の元に戻ることよりも、一度でも彼を選んだことが憎い。
「、お前は残酷だ」
「私が残酷…?」
「信じられない」 という顔で見返してくる。
まるで簡単なことは残酷には当て嵌まらないかのように考えているのだろうか。
「お前とウルフ殿の一夜事は私にとって受け入れ難いものだ。まだ別れも告げていない恋人が他の男のベッドにいたんだ。
何もしてないと言われて信じられても、事実として受け入れられるはずがない。
だから私は、仕方ないと耐えるしか出来なかった!
それをお前自身が私に話すとは。大体、私がその事実を知っていることを誰が…」
ザガロ本人がに言ったとしか思えない。
狼騎士団の者は、私とが離れてから仲間になったのだ。だから今回の騒動で私達の仲に気づき、に謝罪したのだろう。
「ザガロ殿が話してくれました。ロシェ殿も謝ってくれて…。ウルフ殿がそうするように言ってくれたみたい。彼は二人の後ろで私達の会話を見守っていたから…」
その状況で、ウルフ殿はどんなに悔しかっただろうか。
をものに出来ると思い行為に及んだが、彼女が目の前で私のような者を思って泣いたのだ。
彼は自分の方が若く強いことを知っている。けれどが選んだのは私だ。病を持つ私。
彼もそれに耐えたのに、年長者が何を我が儘言っているのだろうか。
はじっと私の言葉を待っていたが、何も言わないと悟ったのか口を開く。
「愛しているからこそ、話さない方がいいの?」
「……そういうこともあると思っていた。けれどもそのことについて私は何度も失敗している。だからそれが正しいかは…わからない」
「……あなたがそれがいいなら、そうするのが一番だと思う。でも私には理解出来ない。私は私だから、話したいと思ったことは全て話します」
「……」
そうだ。それこそ純粋で強いだ。私の愛する彼女だ。
私は彼女の全てを認め、その意志をも愛したのだ。
の選択は間違っていない。
その出来事も必ず何かのためにある、そう考えて生きてきたではないか。それなのに、私は嫉妬に狂って彼女を残酷だと否定している。
ウルフ殿との出来事は、彼女が立ち直って私の元に帰ってくるためのきっかけに過ぎないのに。
「すまなかった」
「アラン…」
「私は弱い男だ。そして嫉妬深い」
こんな男など愛想をつかされてもおかしくはない。それなのには嬉しそうに私を抱きしめた。
「あなたはわかっていないようだけど、男性が弱くて嫉妬深いほど女性は嬉しくなるんです。
プライドなんていらない。プライドで隠さないほど、あなたを近くに感じるし、それが私の幸せなの」
「そうなのか」
これが女の母性なのかも知れない。
男はそれに惹かれ、女を愛するのだろう。たった一人、自分の弱みを見せられる心から愛した女。一生を掛けて守り通したい者。
の温もりは心の奥底まで浸透し、病の辛さまでも取り去ってくれる気がした。
実際、彼女といる時だけは発作はなかった。
病が治ることはないだろう。しかし、のためなら私は永く生きられる気がする。
を強く抱きしめ、キスをした。
するとくすくす笑いながらキスを返してくる。
「私、アランはもっと遠くにいる人だと思ってたの。でもこんなに近くにいたんですね」
「遠い?」
「そう。私は子供であなたは大人だと思ってました」
「そんなことはない」
即座に、それもきっぱり否定すると、は期待するような視線を向けてきた。
「ずっとそういう風に演じて、自分を強く見せようとしてきただけだ。それは騎士としても騎士隊長としても不可欠だったからだ。
弱みを見せたらその時点で負けてしまう。私の場合は我慢強いだけだ。それは大人ではない」
生きていると年々我慢しなければならないことが多くなっていく。それを出来るようになるのが大人になるという意味であれば、私は大人なのかもしれない。
しかしそういう意味でだけだ。病でやつれたかもしれないな、気持ちは若者のままのつもりだが。
「嫉妬に狂わなくなったら、本物の大人になれるかもしれん」
「そんなのだめ!」
「…駄目、か」
お互い笑い合うと、彼女の腹を触らせてもらった。
まだ子供がいることも主張していないが、確かに新たな命が宿っている気がする。それを認めると、自然と喜びが溢れた。
私との子供が出来た。
守る者が増えるということは、責任が重くなることだ。しかしアリティアの騎士達の命に比べれば、と二人だ。私にもじゅうぶん守れるだろう。
が私も含めて守ってくれるかもしれんしな。
「お前は色々な感情を私に与えてくれるな」
「残酷って言ったり感情を与えてくれるって言ったり、忙しい人ですね」
「その純粋さは私にとっても、ウルフ殿にとっても残酷だ。マルス様は自分と同じ様なところがあるから、心地好く感じているみたいだが。
言ってしまえば、お前は私に全ての感情を与えてくれているのだ」
これは言いすぎではない。よくよく考えればわかることだ。
「私の感情は、お前に出会う前は死んでいた。ただ死を待つだけで、戦いで命を落としたいとさえ思っていた。
しかしに出会い、心を通わせると生きたいと思うようになった。そして子供が出来た喜びをくれた…」
最後の部分を言った時、は目を細めて心から嬉しそうに笑ってくれた。
「子供が出来た」そう報告して、欲しかった言葉はこれだったのだ。
「私は生きる。生きれるだけ生きて、お前と子供を守らせてくれ」
「ああ、アラン!嬉しい!!!」
強く抱きしめ合い、お互いの気持ちを確かめ合った。
私達はもう離れることはないだろう。
そう、私がこの世からいなくなるまでは。
**************
丸くおさまりました!
愛して愛されるパートナーってこういう感じですかね(笑
全てをさらけ出せて受け止められて、自分も相手の全てを受け止める。
夢見過ぎかな〜^^理想ですね!
2011/07/08
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