彼が私と子供を守らせてくれって言ってくれた時、纏っていた暗い影はなくなっていた。
出会った時に感じたそれは、アランの後ろ向きの部分。死に対しての思いだった。

彼は病に蝕まれ、生きる気力を失っていた。私に出会うまでは。











「私達はあなたの光になるのね」

「ああ」











闇を照らす光。
今だってアランの未来は闇なのだろう。それでも先を照らす光があれば足掻けるし、気力さえあればどこまでだって歩いていける。
彼が永く歩けるように、私は一緒にいる。











「こうやっていればずっと一緒よ」











告白した時のように、彼の手に触れた。
するとアランは私の存在を確かめるように強く握り、力を抜いた。

けれど離したりしない。











、愛している」

「私も。アラン、愛してる」











                       *











私達アリティア軍はその日、その存在に散々悩まされてきたガーネフに勝利した。

スターライトの魔導書を装備したマリク殿は圧倒的な強さで、マフーを打ち破りガーネフを倒した。
私達はそのまま駆け上がり、メディウスが目覚めようとしている部屋に走った。











「姉上っ!?」











マルス様の声が響く。
エリス様は他のシスター達と同じように生気のない瞳でこちらを見据えている。
その間には一際大きく恐ろしい姿の竜。











「メディウス…」

「マルス様、私達が援護します。だから、シスターに話し掛ける四人とともにあの場所を目指してください」











私が言うと、マルス様は援護に回る兵士達をは見渡した。
そしてファルシオンを掲げて頷く。











「みんな、頼んだよ」











その言葉だけでマルス様の信頼が感じれた。
私達は深く頷き、マルス様、マリク殿、シリウス殿、ミネルバ殿、ジュリアンの前に壁になるように立った。

シスターとメディウスの周りには夥しい程の竜が待ち構えている。
でも誰も倒れてはいけない。マルス様の願いは、メディウスを倒してシスターも私達も無事に帰ることだもの。

私は隣に立っているアランの手を握った。彼は驚くことなくそれを受け、握り返してきた。

言葉を交わすことはない。みんな集中している中で気を削いではいけないもの。
でも視線を合わせ、その温もりを感じるだけでじゅうぶん。
そばにいるのがわかるし、お互いの生を感じるから。

私達は頷き合うと、手を離した。











戦闘開始。

絶対に生き残って、アリティアに帰るんだから!











兵士達は走り、身近な竜に向かって行く。一匹につき一人か二人の兵士が戦いを挑む。
私は竜系に効く武器がないので、キラーボウや銀の弓で応戦したし、アランはドラゴンランスを振り回していた。

私達の間を縫うように、マルス様達が走って行く。
竜の意識がそちらにいきそうになる度に、私は矢を放った。
幸いロングボウも持ち歩いてたから、遠くの竜もこちらに気を向けることが出来た。

混戦になり、いつの間にかアランの姿が見えなくなった時が一番不安に駆られた。
けれど離れたところで、ロディとルークを叱咤する声が聞こえたからすぐ安心出来た。

もし咳が出てしまったら、すぐ竜にやられてしまう。それは彼も私もマルス様もわかってる。

でもこの戦いに出撃することは聖騎士アランの願いだから。
アリティアの騎士隊長としての最後の戦いだから、叶えさせてあげたかったの。











!具合は大丈夫なの?」











空から呼ばれて見上げると、パオラ殿が心配そうに私を見下ろしていた。
私は頷くと、彼女を狙っていた飛竜を射ち抜く。











「あら、ありがとう」











たぶん余計なお世話だったのかも。彼女は飛竜の存在もわかっていたし、槍もしっかり構えていたもの。











「私は大丈夫です」

「そうみたいね。あまり無理しないで」

「はい」











パオラ殿はそう言って前方に飛んで行き、ミシェイル殿と共にミネルバ様がマリア様に話し掛けるのを見守っている。



竜の数は圧倒的に減っていた。
封印の盾の力だけでなく、兵士達の力も竜に勝っていた。

そして出現する竜の数は減り、メディウスを守るように立っていたシスター達も目を覚ました。
あとはメディウスを討つだけ。











「いくぞ!メディウス!」

「ヨクモ、シスタータチヲ…」











いつの間にかメディウスを囲む竜はいなくなり、アリティア軍のみんなはマルス様の戦いを見守っていた。

シーダ様は胸に手を当て、まっすぐにマルス様だけを見つめている。
その瞳には不安というものはなく、強い意志だけが浮かんでいた。



マルス様は絶対に勝つ。



そして、その通りになった。
マルス様を援護するように、マリク殿がエリス様を守りながらスターライトを唱えた。
彼の魔力はとても強いから、メディウスにもダメージを与えられたみたい。

そしてマルス様がファルシオンを構え、撃って出る。
その一撃必殺はメディウスに大ダメージを与えた。瀕死のメディウスはもはや反撃することはなく、ぎらぎらした目でマルス様を睨みつけていた。
マルス様にはその目線が哀しく辛く思えたようで、最後の一撃は情けが加えられていた。
メディウスがすぐに事切れるように、急所を一撃したの。











「マルス様…」











静まり返った屋内の第一声はシーダ様の声だった。噛み締めるように呼ぶ声がとても印象的。
瞳に涙をため、微笑みながらゆっくりとマルス様の元に歩いていく。
マルス様はファルシオンを鞘に納め、にっこりと微笑み返した。











「終わったよ、シーダ」











その声を聞いた途端、私達兵士は歓喜の声をあげた。その場で武器を放り出して飛び上がる。
マルス様もシーダ様も圧倒されていたけれど、すぐに笑いながらみんなと抱き合った。











「やったな!!」











私はルークに持ち上げられ、くるりと回されたあとにロディに持ち上げられた。











「みんな無事だ、

「ええ、第七小隊は無敵ね!」











そのまま第七小隊のみんなやアリティアの先輩騎士達と騒ぎあったあと、ジョルジュ殿やウルフ殿達と少し話した。

アランの姿は見えなかったけど、特にもう心配はしなかった。
だって、彼がちゃんと生きていることがわかるから。なんとなくだけどね。













「カタリナ!」

「終わりましたね」











しみじみと言う彼女は、この戦いで色々なものを得て、失った一人だ。
辛い暗殺者計画は全てガーネフのせいだったことがわかり、教祖のエレミアという女性は、ハーディン王と同じように操られてきた。
彼女には辛い過去があり、そのせいでカタリナ達に酷い仕打ちをしてきたのだけれど、歪んではいたけど心の奥底には子供たちへの愛情があった。
今はカタリナもそれをわかっている。











「私、アリティアのために騎士として一生を捧げます」

「うん、それがいいわ!絶対に充実した生活を送れるもの」

も一緒に頑張りましょう!」











微笑んで手を出す彼女の手を、すぐに握ることは出来なかった。











「…私は」











私は違う道を行く。
それはまだカタリナには話せない。

マルス様に最初に話して、許可をもらいたいから。













「アラン…」











彼に呼ばれて振り向くと、今までで一番穏やかな笑みを向けてくれていた。
全てが終わったから、肩の荷が下りたんだろう。

彼の元に走り、カタリナに手を振った。
カタリナはアランのことをじって見つめていたけど、ふと目をつむって私を見、小さく手を振った。











「アリティアに戻ったら、除名を嘆願する」

「ええ」

「実は、アリティアに家を用意してあるのだが」

「ええ!?」











突然の告白に驚いた。
でもよく考えればわかるわよね。きっと養生するために用意しておいたんだろう。











「そこまで広くはないんだが、二人で住むには問題ない。ただ城からは少し遠いのだ…」











アランはそう言って、自分が家を買ったいきさつやどこに買ったかも話してくれた。

やっぱり養生するために用意してたみたい。
場所は、マルス様と初めて出会った村。











「私ね、あなたの近くにいることにしたの。だからマルス様にお願いして除名してもらうわ」

「駄目だ。私のために将来有望な騎士の未来をなくすわけにはいかない。城には通えば良い」

「歩いては無理よ。走ってもいいけど、到着するまでに汗だくだし。馬はヘタだから乗りたくないし」

「私が教えてやる」

「それもいいけど…」











でも、一秒でもあなたのそばから離れたくないのよ。
そばにいれるだけいたいのに。











「ならば、私がいなくなるまで休職するようお願いするんだ」

「!」











両肩を強く掴まれ、諭すように言われる。
そうしようかとは思ってたけど、そんな言い方はいやよ。











「いや!」

…」











アランは私が騎士をやめることを絶対許しはしないわ。
あなたがもしいなくなってしまって、気持ちに整理がついたらまた騎士に戻るつもりだったけど、そんな言い方はしたくない。
でも言わなきゃいけないなら…











「せめて子供の手がかからなくなるまでとか言って…」

「……すまない。けれどお前が騎士をやめる気がなくて安心した」











彼は鋭いから、私が思って言わなかったことまでばれてしまったじゃない。











「さて、アリティアに帰るまでは騎士隊長を務めなければな」

「はい。アラン隊長」











再び穏やかな笑みを見せ、彼は私の頭をぽんぽんと叩いた。
そこから温かな気が全身に広がり、お腹に集まる。

そこはまだ目立つほどじゃないけれど、少しだけ膨らみを帯びてきた。
触れると、中からも同じように触れられて温かくなる。
その命を感じ、生命の神秘を実感した。



アランの命はあと少しかもしれないけれど、あなたがいてくれるから。

私はきっと大丈夫。










****************

ここまできました!
あともうちょっとですね^^



2011/07/11



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