マケドニアに到着し王女救出を試みたけれど、既に連れ去られた後だった。
私はそこで仲間になったジュリアン殿と、レナ殿の行方について話し合っていた。






「少し離れたんだ。その時いなくなっちまったみたいでさ」

「それはどこら辺ですか?」

「ここら辺なんだけど…」






街は賑わい、人通りも多い。これでは捜しようがない。
そう思って考え込むと、ジュリアン殿はニッと笑って言う。






「人は多い、けどそれだけ目撃者がいる可能性も高いんだよ」






彼は辺りを見回すとある店主に話し掛けた。
その時、後ろから肩を叩かれて振り向く。






さん」

「ライアン、どうしたの?」

「マルス様が呼んでます」

「マルス様が…。行かなきゃ…、でも」






ジュリアン殿の方を見る。すると彼は聞こえてないはずの報告を聞いていたかのように頷き、「行っていい」と手を振ってくれた。
手伝うと言っても、まだ何もしていないのに申し訳ない。
深々と頭を下げてその場をあとにした。






、来たね」






マルス様の横にはジェイガン様、アラン殿がいる。他にもドーガ殿とゴードン殿も控えていた。






「遅くなりまして申し訳ございません」

「いや、レナの手掛かり探しを手伝っていたんだろう?中断させてしまってすまない」

「いえ、そんなこと」






あら、何故それを知っているのかしら。






「私達はグルニアの王子と王女を追うことになった」

「えっ?あのお二人はラング将軍が連れていかれたのでは」

「途中、傭兵オグマが連れ去ったそうだ」






アラン殿の低い声が響く。






「傭兵オグマ?」

「前の戦いで私達の仲間だった男だ」






マルス様は頷くと私を見る。






「ロレンス将軍も言われてたんだ、グルニアでのオグマの存在を。リンダがファイアーエムブレムを託されてきたのも気になるし…、ラングの素行も、ハーディンのことも気になる」

「マルス様…」

「僕達がすべてを知るには、このまま進まなければいけない気がする」






その言葉に一同が頷く。






「オグマには事情を聞くのが宜しいでしょう」






ジェイガン様の一言で、この作戦会議は幕を閉じた。
ジュリアン殿の手伝いに戻ろうとすると、マルス様に引き止められた。
私達はバルコニーに出て街を見下ろす。






「すまない、。すぐに済むから」

「はい」

「ラングのこと、どう思う?グルニアのことも」






きっと、グルニアの村人達の状況を聞いているんだろう。
マルス様も何かを感じているようだったし、思ったことをはっきり伝えた方がいいわね。






「グルニアはラング将軍の圧政を受けていたと思います。あの状況ではグルニアの反乱とは言えません。ロレンス将軍の反乱、ならわかりますが」

「そう…だね。その通りだ」






マルス様は二、三度頷き、腕を組んだ。






「アカネイアのハーディンはそんなことを許すような人じゃなかったのに、何故こんな事になっているのか…」

「オグマ殿にお会いしたら、詳しく聞きましょう」

「ああ、そうだね」






きっと話を聞いてほしかっただけなんだ。
そう私の勘が告げた。

マルス様も不安だけれど、それを外には出せない。
指揮官の一喜一憂で軍の士気が決まるのだもの。






「今は、前に進むのみです」

、頼もしいよ」

「はい!」

「引き止めて悪かったね。ここにいれる時間は少ない、ジュリアンの手伝いをしてあげてほしい」

「わかりました。…そういえば、何故私が彼の手伝いをしているとわかったのですか?」






私の問いにぽかんとしたマルス様は「ああ」と言って手を打った。






「アランが言ってたんだ」

「アラン殿が?」






特に報告してないし、会ってもいないのにどうして知ってるのかしら。






「彼はよく気が付くからね。きみとジュリアンが街に向かったのを見てそう判断したそうだよ」

「それだけで!」






アラン殿は色々なところに目を向けているのね。
隊長として兵士達の行動を把握しているなんて!私もそうならなければ。






「尊敬します」

「僕もそう思うよ」






王子と一緒に笑い、一礼をしてその場を去る。

アラン殿が見守ってくれてると思うと、私はもっと頑張れる気がした。











             *











ラングを倒しグルニアを解放する頃には、アラン殿ともう少し距離を縮めていた…と私は思っている。

叶わない恋かもしれないけど、どうしても諦めることが出来ない。
こんなに近くにいてこんなに思っている。遠征が始まらずにアリティア城にいただけならこうはならなかった。

戦いがあり彼がそのエキスパートだからこそ、尊敬と情が絡み合って恋へと変貌していく。
だから少しでも彼の近くにいたいと思い、私はある作戦を実行した。

二日に一回、アラン殿と食事を共にしたの。

彼はいつも一人で食べているし、話す機会だと思ったから。最初は食事中に話すなんて行儀が悪いと言われるかと思ったけど、特に何も言われなかった。
それどころか、私が向かいに座った事も意識していないみたい。
それでも何とか意識してもらおうと頑張って話掛けてみた。
共通な話題は専ら騎士のことや兵法のこと。私が時々熱くなって意見するにも関わらず、アラン殿はたんたんと意見を述べるのみだった。

そのうち、私達の周囲には大勢の兵士達が集まって来て、皆が意見を言うようになった。
この討論食事会は大規模になり結局、見張り以外の兵士達は全員で食事をとるようになってしまったの。

いつも中心には私とアラン殿、ルーク、ロディ、セシルがいる。そのうちジェイガン様も入ってきて、ルークが噛み付いて大笑い。
二人きりにはなれなかったけど、これはこれで楽しかったし勉強にもなった。

そして私が気付いたことは二つ。アラン殿は少食でベジタリアンだということ。
もう一つは相手の意見を最後まで聞いてから自分の考えを述べる。それも自分が正しいとは絶対に言わない。

戦いの時は圧倒的な存在をみせるのに、この討論会では空気のような存在だった。
意見を求られれば答えるけど、自ら意見はしない。熱をあげて意見する私達新人騎士とは違う……本当の大人なんだ。

そう思うと、彼が急に遠い存在になった気がした。近づこうと頑張るほど、彼が遠い存在だと気づかされる。






は、本当にアラン隊長が好きよね」

「な、いきなり何?」






セシルが鎧を外しながら言う。彼女の鎧から、サラサラと砂が落ちた。
私達はアカネイアの追っ手から逃れ、カダインまで来ていた。






「良いとこばっか見てるからそうやって恋が出来るのよ。ちゃんと悪いとこも見なさいよ」

「わかってる。でも目立った悪いところが見当たらないのよ。
例えば、自己主張はないけれどその分他人の意見を尊重してくれる。その意見がおかしいとその人が納得出来るような説明をして、修正してくれる。
みたいな感じで良い方向に捉えられるのよね」

「まあ、確かに。……私からすれば、かっこよくないのが難点だわ」






突然の意見に、私はムッとしてしまう。
アラン殿のどこがかっこよくないの?彼の戦い方なんて、芸術の域だというのに。






「怒らないで。の言いたいことはわかるわよ。聖騎士としては素晴らしいわ。でも顔がねぇ……目は釣り上がってるし、恐い表情だし。
私としては、あの仮面の聖騎士シリウスの方が絶対カッコイイと思う。戦い方は男らしいし、凄く強い」






それを聞いて私のはらわたは煮えくり返りそうだったんだけど、アラン殿の冷静さを真似しようと頑張った。






「シリウス殿は桁違いの強さだわ。確かに男らしい戦い方をする………けど」






深呼吸して何度か息を吐く。これはアラン殿に教えてもらった心の落ち着け方だ。






「やっぱり私は、アラン殿が好き」






そう言うと、もっと心が落ち着いた。
実はシリウス殿の仮面の下は見たことがある。鼻が高く、強い目をした男性だ。とても美しい人で殆どの女性は好む顔立ちだと思う。
でも私にはぴんと来ないし、アラン殿の強さや優しさ、秘めた哀しみの方が魅力的だったの。






「そうね、だもんね。とことんやりなさいよ、あなたの訓練みたいにさ。でもなんかある前に絶対、妻子がいるかだけは確認しなさいよ」

「なんかある前にのなんかって、何?」






頬を膨らませると、セシルは笑った。でもすぐに真剣な表情になる。






「アラン隊長は自分の身の上は話さないみたい。妻子はいない様だけど、恋人はいてもおかしくないわよ」

「調べたの?」

「あなたのためにね」






私はセシルを抱きしめた。こんなに良い同僚はいないわ。






「私、頑張るわ」

「はいはい、ほどほどにね」






私達はくすくす笑い合うと、湯殿に向かう。
カダインの湯殿は広く、一度に何十人も入れるような大きさだった。
私とセシルが入った時は誰もおらず、きっとシーダ様の次くらいだと思ったのだけれど…






「こんなに大きいと、泳ぎたくなりますね」

「ええ、本当に」

「シーダ様が泳いでも、マルス様には内緒にしておきますよ」

「まあ、パオラったら」






シーダ様と共に、パオラ殿とカチュア殿の声が聞こえて顔を見合わせる。
私達、シーダ様より先に入ってしまった!






「あら、とセシル」

「シーダ様、申し訳ありませ…」

「ミネルバ様も一緒ですね」






微笑むシーダの目線の先には、湯気に巻かれたミネルバ様の姿が見える。
ええっ!?いつの間に?






「ぼーっとしていたら、その二人が入ってきたのだ」

「も、申し訳ありません!」






私達はお湯から立ち上がって、深々と頭を下げる。
まさか、まさかミネルバ様が入ってるなんてそんな気配なかったのに!






「何故謝る?湯の中は裸の付き合い。皆、平等だ」






フッと笑う王女が頼もしいと言わんばかりに、パオラ殿とカチュア殿が頷く。






「さ、皆でぼーっとしようではないか」

「はい」






シーダ様の後にも、リンダ殿やノルンも入って来た。
裸の付き合い、皆平等…王女の言う通り、私達は身分を忘れて話に華を咲かせた。


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カダインに風呂は完全にオリジナルです(笑
たぶんありそうってことで♪


2011/02/18



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