今日の討論会も、素晴らしい意見がたくさん出た。
食事をしながらこんなに有意義な時間が過ごせるなど、考えもしなかった。
これものおかげだな。

戦の最中、食事の時間は休める一時だ。しかしこの短い時間で休みつつ、皆と話し合うことを始めたのは彼女だ。
最初、は私の前に来たかと思うと「騎士とはなにか」という話を始めた。
次は兵法について話し合い、私達の戦い方について意見を出し合った。
彼女の頭の中には、兵法の書が何冊詰まっているのだろう?
私は感嘆させられるばかりだった。

そのうちルークとロディ、セシルが加わり、他にも食事を持って席を移動してくる者が続出した。
最初は聞いているだけだった者も、意見を出しそのまま討論へと移っていった。
あちらこちらで討論が起こらない様に配慮しながら、皆の意見を聞いて思う。
それぞれの思いを抱いているが、突き詰めれば彼等はマルス様のために戦っている。そこが原点だ。
それを、は気付くだろうか。

それに気付き有効活用していけば、騎士達はまとまりもっと強くなる。
彼女にはそれを引き出す才能がある。

討論会が熱くなりはじめた頃になると、決まってジェイガン様がやってくる。そしてすぐ後にマルス様が来て、目立たぬ様に私達を見ているのだ。

こんなに楽しいことを今まで思い付かなかったなんて、人生を損した気分になる。
威厳ばかり身につけようと躍起になっていたが、この方法こそマルス様が望む騎士団の姿だ。






体に付いた砂と汗を流すため、湯殿に向かう。
戦いの最中、ゆっくりと湯に浸かれることなどない。この機会に体の疲れを取らなければ、最後までもたないかもしれない。
服を脱いでドアを開けると、池のような大きさの風呂があった。
唖然としながらも体を流し、湯に浸かる。






「ふう」






息を吐いてリラックスをすると、溜まった疲れと病が吹き飛ぶ気がした。






「俺は絶対、を惚れさせる」

「ルーク、酔っ払ってるんだろう。静かにしろ」

「酒は飲んだが酔ってない!俺は絶対に…」






ルークとロディの声が聞こた。
そちらを向くと、ロディが気付く。






「アラン隊長!うるさくてすみません」

「いいや、こんな広い風呂だ。誰だって気持ちも大きくなる」

「違うんです。こいつ、酒を飲んでて…」






困った表情をしたロディからルークに視線を移すと、確かに顔が赤い。






「酒を飲んで風呂に入るなど、言語道断だぞルーク」

「アラン隊長!俺は絶対にに勝って、惚れさせます」






話が噛み合っていないな…。
ロディに視線を戻すと、彼は大きなため息を吐いた。






「今日の訓練もに負けたらしく…それも手酷く」

「そうか」






若い頃は女に負ける等考えられないからな。それならば酒も煽りたくなるかもしれん。
しかし…






「このままではのぼせてしまう。ロディ、無理矢理にでも上がらせた方が…」

「わかりまし…あっ!」






時は既に遅く、ルークはぶくぶくと湯の中に沈んでいく。
私とロディは慌てて腕を掴み、引き上げた。






「ロディ、ルークの顔に水を当ててやれ」

「はい」






二人をその場に残し、脱衣所で着替える。
風呂は後だな。
服を着てルークを迎えにいくと、いくばくか顔のほてりがなくなったようだった。






「部屋に連れていく。お前は後で来い」

「は、はい。すみません、アラン隊長」

「気にするな」






そのままルークを担いで部屋へ向かう。
それを誰かが見たのか、部屋に着く頃には野次馬ギャラリーだらけになっていた。
ルークをおろして気付くが、彼は腰に薄いタオルを巻いているだけの姿だった。



原因はこれか。



男共はニヤニヤ、女共は遠巻きにひそひそと話している。
それらの視線を背中に受けながら、ルークをベッドに寝かせてロディの到着を待った。






「アラン隊長、遅くなってすみません」

「大丈夫だ。濡らしたタオルでも額に当てれば大丈夫だろう」

「はい」

「では、私は行くぞ」

「はい。ありがとうございました」






礼儀正しくお辞儀をするロディに感心しながら、そのまま部屋に戻る。
もう一度風呂に行こうか迷ったが、今の時間は混んでいるだろうと思いとどまった。






「夜中に行くか」






もう一日カダインに留まり休息を取るとマルス様は言っていた。
明日は皆にとって休まる日になるだろう。それならば夜中に風呂に行っても問題ない。

私は夜中まで仮眠をとることにした。











                    *











真夜中に人知れず風呂に向かう。
廊下は静かで、人っ子一人いない。皆寝ているか、街に出ているか…思い思いの夜を過ごしているのだろう。
風呂場の見えるところまで来た時、風呂場の前に誰かが立っているのが見えた。
不思議と思い足早に近づくと…






「アラン殿」






が立っていた。






「こんな夜中に、何をしている?」

「アラン殿をお待ちしていました」

「私を?」






何故私を待っていたのかと困惑していると、は突然頭を下げた。






「申し訳ありません!ルークが迷惑をかけたこと、お詫びします」

?」

「こんなことになるとは思いもよらず、訓練で意地悪くこてんぱんにのしてしまいました」






彼女は自分のせいでルークが酒を飲み、風呂に入って倒れたと思っているのか。
私は彼女の頭に手を乗せた。






「全てルークの行動だ。お前が謝る必要はない」

「それならば!!!私の監督不行き届きです」






以前務めていた隊長としての立場で謝られてしまうと、何も言い返すことは出来ない。
絶対に監督不行き届きではないと言い切れないからだ。






「わかった、謝罪を受け入れよう。さあ、もう寝るのだ」






部屋に戻るように促すが、全く戻ろうとする気配がない。
一体どうすれば、この娘はわかってくれるのだろうか。






「さあ、

「…さい」

「ん?」






突然呟かれて全く聞き取れなかった。
聞き返すと、彼女は顔を真っ赤にして言った。






「お詫びに、背中を流させてください!!!」






一瞬何を言われたか理解できず、あろうことか止まってしまった。
しかしすぐに飲み込み、頭の中を回転させる。



断ったら部屋までついてきそうだな。それは困る。



に惹かれている自分がいるのだ。部屋までついてきた彼女に何もしないという保証は出来ない。
どこまで自制出来るかなんてわからない程、彼女を欲しいと思うところまできている。
それならば背中を流してもらう方がいい。誰かに見られるリスクを伴う方が、自制がきくものだ。






「わかった。お願いしよう」






真っ赤になりながらもホッと肩の緊張を抜く彼女はやはり可愛らしかった。
どんな思いで、どんな勇気を振り絞って言ったのだろうか。
本当に純粋でないとこんなことは言えないだろう。

純粋であるということは、男の怖さを知らないという事だ。
私のようにある程度年齢がいっていて自制がきくならばいいが、他の男に対してもこうだったら危ない。



その前に気付けばいいが…



こんなことを考えつつ、私はを湯殿に招き入れた。




*************

ど…ドキドキします!



2011/02/20



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