ここがナルニアじゃないってことを、嫌というほど思い知らされる。
だって車は走ってるし、学校はあるし、友達はおはようの挨拶で抱擁とキスなんてしない。
それに、ナルニア人も精霊も喋る木も無いんだよ。





















ここは現実の世界だ。



















「よっ、

「おはよう、マユモ」

「何シケた面してんだよ。俺達はこれからだぞ」

「…俺達はこれから?」

「お前はわかんなくていいんだよ」

「わかんなくていいようなことを言わないでよ!」



















馬鹿にされるのがムカつく。
なんて思っちゃうようになったよ。私ってば、大人になった頃の感じが抜け切れないみたいだ。
そうだよね。あんなに苦労して過ごしてきたナルニアでの生活を現実に戻ってきたからってすぐに忘れられるわけが無いよ。
だって、18年も居たんだよ。ナルニアの私は33歳になってたもん。




















「はあ…、次に行く時はもうオレイアスにもへラクスにもダーリンにも会えないんだ」


















彼らはあの時代のナルニアの人だから。
もう二度と会う機会はないんだろうなぁ…。


















「みんな、大好きだったよ…」

















溜め息を吐くと、私は教室の戸を開けた。









































十八年前に通ってた学校は全く変わることなく、それもその十八年前から一日も過ぎてはいなかった。
それはそうだよね。私はあのナルニアに向かったあの瞬間にこっちに戻ってきたんだから。



そういえば、戻ってきた時に言われたマユモの言葉…

『無事戻ってきたな』

これってどういう意味だったんだろ…。



あの時は元の世界に戻ってきたことに精一杯で追求する気にもならなかったけど、よく考えたらおかしいじゃん。
私がどこかに行ってたのを知ってるみたい!!!




















「やっぱりあいつ、おかしい!」




















座ったはずの席から思いっきり声をあげながら立ち上がる。
すると周りからたくさんの視線を浴びるはめになった。





















「誰がおかしいんだ?」

「……」

、誰がおかしいのか言ってみろ」

「すみません、私がおかしいんです…」



















クラス中に笑いが巻き起こる。
あわわ、ホームルームの最中だったよ、とほほ。



静かに席に着くと、強い視線を感じてそっちを見る。
あ、マユモだ。
あいつは他の皆と違って笑ってなかった。なんていうか、真剣に何かを思ってる感じ。
一体どうしたっていうのかな。マユモなら、誰よりも先に大笑いするはずなのに。


















ホームルーム以外は事なきを終えて放課後になって帰ろうとした時、マユモから声を掛けてきたのはちょっと驚いた。
こいつ、朝の挨拶以外は私を避けるようにしてた癖に今になって自分から話掛けてくるなんて…と思いつつにこやかに受け答える。




















「おい」

「何?」

「一緒に帰らねえか?」

「…いいけど、そんなこと言わなくてもいっつも着いてくるじゃん」

「……」

「部活ある日以外は一緒に帰ってるでしょ」

「……よく覚えてるな」

「何言ってるの?昨日までいつもだったのに」

「……、お前にとって今は、今までよりも鮮明なんだな」

「?」

「今が大事なんだなって言ってるんだ。それなら、お前は嘘つきだ」

「な、何言ってんの!?わけわからないこと言わないでよ!

今だって、今じゃなかったことだって、全部大事に決まってるじゃん!」





















そう言い放って、私は注目から逃げるように教室を出た。
放課後って言ったって、まだ生徒は残ってる。
朝も注目を浴びたのに放課後も浴びる羽目になるなんて、マユモを恨みたい。
ってか、全部マユモのせいじゃんか!

胸がムカムカイライラして地面を蹴る足の力が強くなる。
マユモが言ってることがわからない。私の何かを責めていることはわかるよ。でも、私は何も忘れてないし全てを大事に思ってる。
今と今じゃない時って何?もう、わけわかんない!




















!」

「!」


















性懲りもなく着いてきた…って、お隣同士なんだから帰り道は一緒かぁ。
もう話したくないのになんで追っかけて来るのかな。
もうちょっと私の気持ちだって考えてくれればいいのに。



















「待てよ」

「待たない。追っかけてこないでよ」

「一緒に帰っていいって言ったのはお前だろ」

「そんなの無効。帰るなら先に行ってよ。見えなくなるまで待ってるから」

「そんなこと言うなよ。俺は、お前と帰りたいんだよ」

「……何で?」




















聞き返すと黙り込んじゃったマユモ。
それも心なしか顔が赤い。



















「ちょっと黙らないで。何か言って…?」


















視界が暗くなったと思ったら荒々しく体を引き寄せられた。
きゅううっと強く締められて苦しい。「ふっ」と無意識に息を吐くと力が弱まる。


















何が起こってるの?

















私を抱き寄せるなんて今はマユモしかいない。でも今までこんなことされたこと無かったのに!
自然と顔が赤くなった。だって、考えるとそんなおかしいもん。
マユモは幼馴染…まさかマユモがそんな。
その時、昨日のことが頭に過ぎった。
昨日も私、抱きしめられてた。それで『無事に戻ったな』って言われたんだ。
どんどん顔が熱くなる。私、熱があるのかな。




















「マ…ユモ?」

「お前が好きだから、一緒に帰りたいんだ」

「!!!」



















ナルニアの私はいつか元の世界に戻るからって恋をしないようにしてきた。
だから傷ついたり軽くかわしたり出来たのに、今の私はそんな事出来ないと思った。




















だって、マユモは小さな頃からの大切な幼馴染だから。
















お互い知らないことなんてないくらい一緒にいた存在だから。
異性とか感じたこともないくらい仲が良くて、これからもそんな存在だと思ってたから軽くかわせると思ったけど…
その言葉を真剣に受け止めようとしている自分がいることに気付いて、私の頭はパニック寸前だった。
















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ナルニアの世界でも現実の世界でもモテモテなちゃん…。
幼馴染に告白されたら、どうなっちゃうんでしょう???

2009/05/02