博士と私はマントを深々と被り、夜の城内をねずみの様に素早く歩いた。
今日はミラースの子供が産まれたからか兵士の数が少ないような気がする。
それなら私達もテルマールから逃げやすいかもしれない。
そんな事を考えながらも緊張を緩めることなく、兵士の巡回を掻い潜りカスピアンの部屋に到達した。
カスピアンの部屋は真っ暗で、月明かりが天蓋ベットの白い布を照らしていた。
博士は布を捲ってカスピアンの無事を見て安堵し、彼を揺り起こす。
しかしカスピアンは小さく唸るだけで全く起きようとしなかったの。
「起きないね…」
「手荒いですが…」
呆れて呟くと、博士がカスピアンの口に手を当てた。
「!?」
カスピアンの目がカッと見開き必死に自分の口を塞いでいる手の持ち主を確認する。
でもそれが博士だということに安心してゆっくりと目を閉じた。
彼は博士の手を掴んで口元から退け、もう一度開いた寝ぼけ眼で言った。
「あと5分」
「星の勉強ではありません、王子
さあ、早く逃げなくては」
博士は無理矢理彼をベッドから引きずり出すと、クローゼットまで引っ張った。
カスピアンは博士と一緒にいる私にも気づき、問いかけるように私と博士を見る。
「も…?一体なにごとです?」
「あなたの叔母上が男の子を産みました」
その言葉を聞いてカスピアンの顔色が変わった。
ある一点の考えに到達したんだろうね、私と博士の顔を交互に見る。
「早く」
クローゼットの奥には隠し通路がある。実は私も確認済み。
私達はそこへ入り、馬小屋へと急いだ。
クローゼットに入った後、少し経ってカスピアンが遅れてついて来たのが見えた。
きっと自分が殺されそうになっている場面をみていたのだろう。ベッドに無数の矢が刺さるのを。
だってカスピアンの顔色は真っ青になっていたんだから。
「森へ逃げるのです」
「森へ?」
「やつらは追って行かない。森へ入ったらきっとが案内してくれるでしょう」
「が?」
「うん、任せて」
私が胸を叩くと博士は安心したように頷いた。
そして胸の辺りをごそごそと探り大きな布袋を出す。
スーザンの角笛だ。
「何年もかけて見つけた角笛。本当に危険な時だけ吹くように」
角笛を彼に渡し忠告する。
「また会えますか?」
カスピアンは角笛をしまうと不安そうに言った。
「そう願っています、王子。まだお教えしたいことが山ほど。
今、全てが変わろうとしています。それがの存在です」
「の存在…?それは…」
カスピアンが問い返そうとした時、数人の駆ける靴音が聞こえてきた。
もう追ってきたっていうの!?
「王子、早く行きますよ!」
「わかった」
私は叫ぶと馬の胴を蹴った。ブルルとい嘶きを発して走り出す。
後ろからカスピアンも着いてくる。
逃げなければ、何としても。
「止まれ!」
「捕まえろ!」
私達が馬で駆けるのを見て兵士が叫ぶ。それを掻い潜り街へと続く長い橋を一目散に渡った。
その時、テルマール上から綺麗な花火が何発も上がる。
その音に私は、カスピアンと共に城を振り返った。
「男の子が生まれた!ミラース郷の奥方が―ご子息をお産みに!」
城から発せられた言葉に再度確信を得た彼は、城からの追っ手を見て素早く馬を駆った。
私も遅れずに着いて行く。
城からは屈強な兵士が数人鎧をつけて出てきた。
必死に馬をせきたてて森へと向かう。
空は暗い。でもナルニアへと続く森はもっと暗かった。
もう後には戻れない。私達のナルニアを救う旅は始まったのだから。
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ナルニアへ突入。
2010/01/25
73話