森へと足を踏み入れると、一瞬でその懐かしさに見舞われた。
胸の奥隅々までナルニアの暖かさで溢れかえる。
こんなに暗くて鬱蒼としているのに、私の気持ちは変わらない。
何百年と経っているのに、ナルニアも私を受け入れてくれる。

それがわかったから何も恐くなかった。
後ろについてくる兵士のこと以外はね。
















「このまま、どこへ向かえばいいんだ!?」
















カスピアンが馬を走らせながら言った。私は目を瞑り感じるとそちらを指差す。
















「真っ直ぐ、真っ直ぐです!」
















冷たい風が頬を切るように抜けていく。
柔らかい土壌に足をとられ、茂る小枝にぶつかりながら駆け抜けていく。
喋る木々は見当たらない。助けてくれそうなナルニア人も見当たらない。
ここは二人で掻い潜らないと。
















「兵士が追ってきた!」
















彼が叫ぶ。
振り向いてみると兵士が凄い形相で追ってきていた。
どうして…?テルマール人はここを恐れているはずなのに。
















「行きましょう!真っ直ぐあそこへ!!!」
















山の斜面を登り、降りていく。いくら走ったかも検討がつかない。
そのうち大きな川にぶつかると、カスピアンは臆する事も無く川の中へ入っていった。

ここは見覚えがある…。
やっぱりナルニアだよ、本当に懐かしい。

川では追っ手の兵士が一人、馬と一緒に溺れているようだった。
でもそれをよく見る暇もなく前へ前へと進む。

再び森へ入った時、追っ手を見ようと振り返ったカスピアンが木の枝にぶつかって馬から落ちた。
















「うっ!!!」
















彼は鐙に足が引っかかり数メートル引きずられていたけど、自分から足を外し馬から離れた。
馬は彼の事を気にする事も無く走っていってしまう。
















「王子!」
















私はカスピアンを助けようと手綱を引く。でも止まらない。
















「ちょ、止まって!!!」
















何回手綱を引いても止まってくれない。
どんどんカスピアンから離れていく。
















「止まってよ!!!どうして止まってくれないの!?ちょっと止まってよ!!!」

!」
















カスピアンが呼んでるのが聞こえる。
待って!私はカスピアンのそばにいなきゃいけないのに!
彼を守らなきゃいけないのに!!!
















「王子…!!!カスピアン!カスピアン!カスピアン!!!」

ーーーー!」
















手綱を引いてもお尻を蹴っても止まってくれない。
だから飛び降りようとしたけど何故か足が動かなかった。

見えない力がそうさせている様だ。
きっと私はカスピアンの近くにいるべきじゃないんだ。
そう思ったら悲しくて涙が出る。

彼を守りたいと思ってたのにそれが出来ないなんて。
アスランてばなんて残酷なのよう…

私は泣きながら馬を走らせた。
















「どう…どうどう」
















馬がやっと止まってくれたのはあの角笛の音を聞いた時。
角笛の音はかなり遠かったから森の相当奥まで来ちゃったんだと思う。
これからカスピアンのところへ戻るにもたぶん馬は進んでくれないだろうし、アスランもそれを望んでない。
ということは私は一人で先に進まなければならないってこと。
















「カスピアンがいないのに…私一人でどうすればいいの?」
















ナルニアを救う人物がいないのに、アスランの守人が一人でナルニアに戻ってなんになる?
















そう思うと、私は自分がナルニアに帰るのが恐いのだと気づいた。
既に滅んでしまったナルニア…あの黄金時代の後滅びの道へ向かうように仕向けてしまった私の存在。
滅びへと向かう道を建て直せなかった。















きっとナルニア人達は私を恨んでる。















そういう思いが消えない。
だから救いの主カスピアンを連れて行って少しでも自分を正当化しようとしてたんだ。
アスランの守人としてナルニアの救い人を連れてきたって言えば誰も私を責めやしない。
私ってばそうしようとしてたんだ!!!
















「自分の醜態のためにカスピアンを利用しようとしてたなんて最低だよ…」
















声に出して言うと、自分が本当に駄目な考えを持って痛んだということを突きつけられる。
アスランはこれがわかってたんだ。私がどうしたかったかを。
















「だから自分で前に進むように一人にしてくれたんだ」

「その通り」
















暗い森に豊かな声が響き渡った。
隙間風の吹いていた胸をいっぱいにする暖かな声。
















「アスラン!」

、君ならすぐに気づくと思っていた」
















彼はゆっくりと私に近づくとお決まりのスリスリをしてくれた。
たっぷりとたくわえられた鬣に顔を埋めると満たされる正の感情。
やっぱり私は間違っていたんだ。
















「間違ってはいない。は自分の恐怖と向き合って打ち勝ったのだ」

「恐怖に打ち勝った…?」

「そうだ。ナルニアで大人になった体験は無駄ではなかったのだよ」
















アスランは優しく諭すように言う。
私は頷くと再び鬣に顔を埋めた。
















「そういえばさっき「君ならすぐに気づくと思った」って言ったよね?」

「ああ、そうだ。今回の王・女王は一筋縄ではいかない」

「彼らもナルニアで大人を体験したから?」
















私の問いにアスランは遠くを見るように顔を上げた。
そしてしばらく目を細めていたけど、ゆっくりと私を見る。
















「そうとも言える」
















彼はそう言っただけだった。
















「アスランはその……まだ皆の前には顔を出さないんだよね?」

「ああ。彼らが私を呼びに来るまでは」

「彼らって……ぺベンシー四兄妹?」

「そうだ。彼らも自ら気づかなければならない」
















そっか…私のように。自分に打ち勝たなければいけないんだ。
じゃあとうぶんアスランとは会えないんだ…
















「いいや、それは間違っている。私はいつも君と共にいる」

「アスランが私と共に…」

「君は……私の守人だろう」
















アスランがそう言ったと同時に周囲の木々が大きく震えた。
そして葉が大きな風の力によって舞い上がると共にアスランの姿は消えてしまった。
















、君は君らしく生きなさい。誰かに否定されたとしてもいなくなる必要は無い。君は必要な存在なのだ」
















私の心を前に押すようなこの言葉を残して。
















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アスランがなんのために来たって?
励ますためですよ^^


2010/01/25






74話