星の瞬きを目印にしながら真っ直ぐに歩いていく。
きっとこの先にナルニア人がいると信じて、ずんずんと進んでいった。
朝日が見え始めた頃、私のお腹はぐうと鳴った。恥ずかしくなって周囲を見回して見るけれど誰も見ているはずがない。
「お腹すいた…」
そう言葉にした途端、体中が軋みだして動くのがだるくなってしまう。
そっか、久々に馬に乗ったしこんなにも歩いた。お腹も空いちゃったからどうしようもないよ。
でもここで立ち止まったらもう動けなくなっちゃうだろうし、頑張らなきゃ…
そう言い聞かせて足を踏み出す。
でもその一歩の小ささに溜め息が出てしまう。
「はあ……お腹空いたよー!!!―――うっ」
力を使うとわかってたけど大きく叫ぶしかストレスの発散が出来そうになかったんだ。
だから叫んだんだけど、その直後にいきなり背中を蹴り倒されたから仰天!
私はそのまま地面に突っ伏してしまった。
「このテルマール人め!何故こんなところにいる!?」
後ろから聞こえた怒声にびくつきながら振り向くと、そこには腰に剣をさしたネズミが立っていた。
もしかして、リーピチープ?
「ここはお前達が入ってくるような場所ではない」
ネズミは私の体の上に乗ると、鼻先に剣を突き立てた。
その姿は勇ましく、とてもネズミとは思えないほど。
「私はテルマール人じゃないよ。どっちかというとナルニア人」
「……
ナルニア人にお前のような者を見たことは無い」
「それはそうだよ。久しぶりに帰ってきたんだから。
誇り高きナルニアの騎士リーピチープ、私をグレンストームのところへ連れて行って」
「!!」
私が彼の名前を言うと、リーピチープは慄きあとずさった。
そして考え込むように目を細めると私をじっと見つめる。
「ピーピキーク」
彼はふと思いついた様に名前を呼ぶ。すると草むらから一匹のネズミが出てきた。
あ、他にもいたんだ。
「何でしょう、隊長」
「このお嬢さんをグレンストームのところへ連れて行くんだ」
リーピチープは何も言わない私を信じてくれたのかそう言った。
ピーピキークも特に異論が無いようですぐに頷く。
「わかりました」
「私はこのお嬢さんを追って他にテルマール人が森に入り込んでないか偵察してこよう」
「お気をつけて」
礼儀正しくお辞儀したピーピキークに軽く頷き、リーピチープはテルマール方面へ走っていってしまう。
走り去り際に私に流し目をよこして。
ゆっくりと起き上がって体についた土を払い、ピーピキークを見ると優しく微笑んでくれた。
そして今度は私に礼儀正しくお辞儀する。
ちょっと話しただけなのになんでこんな扱いが良くなったのかわからなかった。けれどもすんなり信じてもらえたようでありがたい。
でも、ちょっと不思議じゃない?だからピーピキークに理由を聞いてみたんだ。
「なんでこうもあっさり信じてくれたの?」
「それはですね、あなたが剣を突き立てる隊長を見て最初に「あなたはネズミか?」と問わなかったからですよ」
ピーピキークはくすくすと笑うと、きょとんとしている私を見上げて再び笑う。
「剣を突き立てるネズミを見たらナルニア人以外は必ずそう問いかけます。問いかけなかったのは、あなたがナルニア人を見慣れているから。
その上「誇り高きナルニアの騎士リーピチープ」という文句が隊長の気を良くしたのです」
「ああ、そっか!…それにしても隊長の気を良くしたなんて、言うねぇ」
「本当のことですから。まあ、ナルニア人が生きていることもろくに知らないテルマールの連中が隊長の名とグレンストームの名を知っているわけがありませんしね。
お見受けしたところ、あなたはアスランの守人ではないでしょうか」
ピーピキークは期待の眼差しを向けてきた。それにちょっと意外な気持ちを残しながら私は頷く。
「そんなことまでわかっちゃったの!?」
「隊長は気づいていないでしょうが…伝えられていた風貌と同じように感じたので」
「ピーピキークは観察力があるね!リーピーチープの最高のサポート役だ!」
「恐れ入ります」
彼は照れた風にそう言うと私に気を遣いながら道案内をしてくれた。
ひっかかって危なそうな小枝や、滑りやすい斜面とか一つ一つに配られる気遣いはまさに紳士そのものだった。
ピーピキークに案内してもらったグレンストームの居所はあの石舞台跡だった。
石舞台はいつの間にか堅牢な神殿の様な建物になっていた。アスランが氷の魔女に一度殺されてしまった場所。
アスランが再び蘇った場所。
ここはナルニアの歴史に欠かせないところだ。
「、こちらがグレンストームです」
ピーピキークはアスラン塚に着くとすぐにグレンストームを探して私に紹介してくれた。
紹介する前にちゃんと私の素性を話してくれたみたいで、グレンストームも暖かく私を迎え入れてくれた。
「アスランの守人、あなたも昨夜の角笛に呼ばれたのか?」
「ううん、私はもっと前からテルマールにいたの。角笛で呼ばれた昔の王・女王は今こっちに向かってると思う」
私の言葉にグレンストームの顔色が変わった。
「テルマールに?何故……」
私がすぐナルニアに帰ってこないでテルマールにいたことがいけなかったんだ。
そう覚ったけどいたことは事実だから言い訳のしようもない。
気を配ってくれたピーピキークのせっかくの気持ちを無駄にするような空気が流れてしまった。
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カスピアンより一足先に石舞台跡へ。
2010/01/26