「ピーター!」
彼の名を呼ぶ声がした方を見てみると、そこには懐かしい顔が三つ。
エドマンド、スーザン、ルーシーだ。
途端、私の涙腺が緩んでしまった。
泣きそうになって必死に我慢する。久しぶりに会えたからって泣いたらダメだ。
「!」
ピーターは剣を持っている私の手を押しのけて、私の顔を両手で挟んだ。
そしてよくよく見て笑うと、そのまま抱きしめてくれる。
「会いたかった。ずっと会いたかった」
心の奥底から絞り出したような声が胸に響く。本当にそう思っててくれた。
私も会いたかったよ、ピーター。
剣を離しおずおずと彼の背に腕を回す。するとピーターは私を強く抱いた。
「一の王ピーター?」
カスピアンの窺うような声が聞こえ、私は慌ててピーターの胸を押して離れた。
ピーターは名残惜しそうに私から離れるとカスピアンに向き合う。
「君に呼ばれた」
「そうだが、もっと大人かと思っていた」
「数年後に出直そうか?」
「ぷっ…」
二人のやり取りを聞いて笑っちゃうと、カスピアンがじろりと私を睨む。
そして申し訳なさそうにピーターを見た。
「待て、いいんだ。ただちょっと……想像と違っていた」
カスピアンはばつが悪そうにそう言って他の三人も見る。
その時、彼とスーザンの目線が重なり合った。
スーザンはにっこりとほほ笑むと、すぐに目線をずらした。二人の雰囲気がなんかあやしい。
「君たちもだ」
エドマンドはそう言うとアステリウスを見る。そっか、ミノタウロスは白い魔女との戦いの時は敵だったもんね。
エドマンドの言葉を察したのか、松露とりが言う。
「新たな敵を倒すため、昔の敵と組もう」
「お帰りをお待ちしておりました。わが心と剣を捧げます」
「すっごくかわいい」
ちょろちょろと出てきたリーピチープがピーター達にお辞儀をし、ルーシーがそれを見て呟いた。
ああっ、言っちゃいけない言葉なのに!
「誰が言った?」
「ごめんなさい」
周囲に切っ先を向けて威嚇するリーピチープにルーシーが歩み出て謝る。
するとリーピチープは剣を収めて彼女を見上げた。
「女王陛下、大変失礼ではございますが、勇敢・気高い・雄々しいこそ―ナルニアの騎士への言葉」
「君は剣を使えそうだな」
「いかにも。剣を駆使して敵から武器を奪いました」
「何より」
リーピチープとピーターのやり取りを見てると昔を思い出す。
ピーターは子供に戻っても王であることは間違えることはない。王としての振る舞いがあるもの。
「出来るだけ剣を集めないと」
「では、あなたの剣をお返ししよう」
心なしかカスピアンの言葉に棘がある気がした。
せっかく呼んだナルニア黄金時代の王・女王であるペベンシー四兄妹と会えたのに、どうしちゃったんだろう。
「、帰るぞ」
「はい、王子」
カスピアンはぶっきらぼうに言うとアスラン塚に向かって歩き出した。
*
「、元気そうだね」
「エドマンド」
「本当。元気そうで良かったわ」
「スーザン」
「私、またに会えてうれしい」
「ルーシー」
前方でカスピアンと話しているピーターを除いた三人が代わる代わる私に声を掛けてきてくれる。
嬉しくなって久しぶりの話に花が咲いた。
「またナルニアに戻れるとは思ってなかったわ」
「私は思ってたよ」
「ルーはね」
「四人ともまだまだナルニアに貢献してもらわないとね」
こうやって楽しく会話出来るみんなに会えて心が躍る。
これから過酷な戦いが始まるっていうのに私の気持ちは弾んでいた。
「ナルニアはだいぶ変わったね」
「うん…」
「私達、ケア・パラベルに行ったのよ」
「だからその懐かしい服を着てるんだね」
「最初は大きくて困っちゃったのよ!」
会話してるうちにいつの間にかアスラン塚に着いてしまった。
残念に思いながらも、おしゃべりがもう出来なくなるわけじゃない。
戦いが終わればたくさん話せるもん。
草原に風が舞い私たちの髪を優しく撫で去っていく。
きっと昔の王たちの帰還を歓迎しているんだろう。
前のナルニアならばここでドリアード達が舞うのだろうけど、今のナルニアでは無理な話だ。
木々はもう喋ることもないもん…
入口の双方に規則正しく整列したセントール達は、剣を掲げてペベンシー四兄妹達の帰還を祝う。
四人は昔の…王・女王の気高さを携えて進んでいく。
その後ろにはカスピアンが臆したように着く。
「」
四人が振り向いた。そしてピーターが私の手を取る。
「え?」
「僕たちと、ナルニアの…アスランの守人の帰還だ」
「ピーター」
私はピーターとスーザンの間に入って歩き出した。
その時、カスピアンが後ろで「守人?」と呟いた。
しまった!まだ言ってないのに!!!
でももう遅い。言い訳を考えながら、その場はスルーして中に入っていった。
「昔と様子は違うだろうが、防御は万全だ」
「ピーター、これを見て」
スーザンが壁画を見てピーターを呼ぶ。
「私達よ」
「ここは何なの?」
「わからない?」
カスピアンはニヤリを笑って壁にかかっているたいまつの一つを取り、そして奥へと進んでいく。
彼らに石舞台を見せるつもりだ。
ピーターとエドマンドは顔を見合わせて、カスピアンと同じようにたいまつを手に取って進んでいった。
真っ暗な中、ルーシーは私とスーザンの手をしっかりと掴んでいた。
あの戦いの事を思い出してこんなにも時が経ってしまったのかと思う。
あの時頼れたナルニア人達はもういない。ここにいるのは、別のナルニア人達だ。
四人はアスランの彫り物と石舞台を目にして息を呑んだ。
この空間と彫り物の大きさに圧倒されたみたい。
ルーシーがゆっくりと進み、石舞台に手をつく。そしてアスランを見上げて呟いた。
「アスランは承知よね」
「……僕らだけで戦わないと」
ピーターは少しの間を空けてそう答えた。
*************
2010/04/16