彼にいつ呼ばれるかわからないから、寝るに寝られない。
ううん、それ以上に胸が異様に痛くて眠気も起きなかった。



私の全部を見せるってなに?



わかるようでわからないこの言葉。



愛人としてってこと?そんなの……



真っ赤になったほっぺたに手を当て、きゅっと肩を縮める。
そんなの無理!だって初めて告白されたのだってついこの間だし!!!

はっとして思い出す。
マユモの告白。でももっと前、千三百年以上前にはヘラクスやダーリン、ピーターにも告白されてたんだ。
でもみんな、私の気持ちを待っててくれた。
優しいから、ミラースみたいに急くことはなかったよね。

でもミラースは急くから優しくないわけじゃない。
彼は本能で悟ってる。自分の時間が少ないことを。
わかってるんだ。こんな大部隊をつれて戦争に来てる張本人なのに、彼が…―――























ミラースのかすれた声じゃない。もっと昔から知ってる、つい昼間も聞いた声で呼ばれる。
幻聴かと思ったけれど、もう一度呼ばれた。













「っ……エドマンド!?」











小声で叫び、天幕の布を上げる。
するとそこには真っ黒な服を着込んだエドマンドが立っていた。











「何回僕に助けに来てもらえばすむんだい?」











安堵した笑みを見せる彼を、急いでテントに連れ込んだ。











「こうやって来てもらったのは二回目だけど、危なすぎる!」

「大丈夫、僕一人で来たから」

「余計危ないじゃない!」

ほどじゃないよ…」











エドマンドはそう言うと、おもむろに両手を伸ばしてきて私を抱きしめた。
ずっと前にこうやってラバダシ王子のところから助けてもらったあの時と同じだ。











「良かった、生きてて」

「エドマンド…」

「さあ、逃げよう」











彼に腕を引かれたけど、私の足は動かない。
あの時と同じだけど、違うものもあるの。











「エドマンド、ここが誰の天幕かわかってる?」

「わかってるさ、ミラースだろう?彼は寝ていた。だから大丈夫だ」











グイグイと引く手の上に自分の手を乗せ、ゆっくりと外す。











「……私は行かない」

!?」











本当は行くべきなのかもしれない。ナルニアのためにそれが最良ならばそうしたい。
けど私が今戻っても、きっとナルニアのために働くことは出来ない。



だって……私が救う人はここにいるから。











「私はここにいる」

「何を言ってんだよ!このまま明日を迎えたら、きみは裏切り者になっちゃうじゃないか!」

「そうかもしれない。でもミラースを一人にできないから」











そう。彼は今、この陣営でたった一人。
私がいなくなったら、そしてナルニア軍にいるのがバレたら、彼は裏切り者になる。
そして王ではなく裏切り者として殺されてしまう。
そしたら奥方は?息子はどうなる?











「なっ……ほんとうに愛人になったのか!?」

「違うよ。でも、彼は私を助けてくれたから……私も彼を助けたいの」











うまく説明できない。
だっていつも感情が先に動いちゃって、自分でもわからないうちにこうしなきゃって思う。
それに、アスランも誰とは言わなかったけど救える者がいるかもって暗示してた。

絶対にミラースのことだと思うの。そうじゃなきゃ、私と彼が昔出会ったことの意味がないんだもん。











「ミラースがカスピアンのお父さんを殺したこと、そして今戦争をしてることは間違ってる。でも、彼には彼の考えがあって葛藤がある。
それを全部否定することは出来ない。私がアスランの守人だからって、彼が悪者だって否定出来ないの。
ナルニア側からだけじゃなく、色々な方向から見なきゃいけないの」











言ってることはぐちゃぐちゃだ。自分でもわかんない。
でも遠くでアスランが微笑んでる気がして、自信をもって言える。



私は間違ってない。











「それ……僕にはわからない。でもそれがアスランの守人だってことはわかる。そうしなきゃいけないってのは……なぜかなんとなくわかるんだ」











エドマンドは悔しそうに何度も頷く。
彼はなんでこう、いつも信じてくれるんだろう。











「ありがとう、エドマンド」











私は自分から両手を広げて彼を抱きしめた。
いつものエドマンドなら照れて嫌がるだろうけど、今は何も言わずに抱きしめられてくれる。
どうなるかわからない。会うのがこれで最後になるかもしれないから。











「明日、きみがミラースの愛人として出てきたら兄さんはおかしくなっちゃうよ。戦いどころじゃなくなるかもしれない」

「……大丈夫。ピーターにはこれから夢の中で会いに行くから」

「夢の中でだって?」











頷いたのはいいけど、そんなやり方わからない。
でも出来るってわかる。











「信じないって言われても、絶対に信じてって言う」

…」

「だから大丈夫。明日はピーターとミラース、いい戦いが出来るよ」











全部が良い方向に進むように頑張るから。
小さなことからコツコツと変えていけば、きっといつかはそれで良かったって結果に繋がるよ。











「わかった。僕はを信じる」

「エドマンド!ありがとう!!!」











その言葉にこれからも私は救われていくんだろうな。



ピーターも私を信じてくれるといいな。
大人になりかけのピーターに信じてもらうのは容易なことじゃないだろう。
もうすでに一つの秘密がバレて疑われてる。

それでも、信じてもらえるように気持ちを伝えなきゃ!!!












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2011/04/19