「僕はいつでも冷静だ」
「ピーター…」
「それで?」
それで?なんてそんな言い方ないよ。
苦しくなった胸を押さえて、意を決して訴える。
「私を信じて!」
けど、反応が芳しくない。というか、むしろ悪い。
ピーターは眉間に皺を寄せると、言った。
「信じたいと思ってる」
「ピーター…」
信じたいと思ってるなんて、信じてないって言ってるようなもの。
本人に面とむかって言われるのがこんなに辛いなんて!
「そんな顔をしないでくれ」
「だって…」
自分が今どういう表情をしてるかわかる。悲しくて、泣きそう。
「はいつも大事なことを言わない」
「…うん」
「それじゃあ、信じられないさ!」
ピーターのその言葉と同時に、魔法が解けたかのように自分がスーザンの体から抜けるのがわかった。
ピーターには聞こえなかったかもしれないけど、スッポンという音が鳴り響いたんだもん。
「いつもちゃんと話してくれれば…」
「何の話?ピーター」
スーザンが気付いたみたい。きょとんとピーターを見上げている。
「スーザン?」
「当たり前でしょ。誰と話してたのよ」
そう言われ、ピーターは辺りを見回した。
スーザンの横にいる私の姿は見えてないみたい。
「……そんな」
ピーターは両手で顔を覆うと、地面に膝を着いた。慌ててスーザンが駆け寄る。
その時、石舞台の中からエドマンドが現れた。
「スーザン、僕を捜してたって…」
バッチリ目が合って、エドマンドには私が見えてることがわかった。
彼はこの状況を見て、何が起こったか悟ったみたい。
「兄さん、どうしたの?」
「今、がスーザンの体を使って話してたんだ」
「私の体で!?」
ピーターは座ると、左手を額に当てつつうなだれた。
「生きてるって言ってた」
「ホント!?」
スーザンが嬉しそうに笑う。
けどピーターもエドマンドも浮かない表情。
「テルマール軍にいるらしい。それで……僕に信じてほしいって言ったんだ」
「信じるって言ったんでしょ?」
「………」
黙ってしまったピーターを見て、エドマンドが吐き捨てるように言う。
「兄さんは信じないって言ったんだろ!信じるって言ってたら、はまだスーザンの中にいたはずだよ」
場がシンと静まりかえる。
ピーターは苦々しく頷いた。
「は何も話してくれない。だから素直に信じられない」
「何言ってんだよ!兄さんは馬鹿だ。はアスランの守人だよ?ナルニアにとって害のあることをするわけがないじゃないか!
それに、本当に好きな子だったら…無条件に信じられるはずだ。もし裏切られたとしても、好きだから信じたその気持ちに悔いはないはずだよ!!!」
ピーターはハッとしてエドマンドを見上げた。スーザンも彼を見ている。
エドマンドは唇を噛み締めて、今度は静かに言った。
「兄さんのはただのヤキモチだ。ダーリンやヘラクス、アスランにまで嫉妬してる。はみんなのなのに、自分のものみたいに振る舞ってる。
そこまではいいよ。でも自分の行動に気付かないフリをして、その嫉妬をにも押し付けてる。
威圧して否定して、傷つけて…それで好きだなんて、守るなんてよく言えるよ。信じるって言う、それだけなのに」
エドマンドの言葉に、ピーターは俯いた。何か考えるように唾を飲み込み、ゴクリという音が鳴る。
「…そんな簡単には言えない」
「兄さんの立場の重さ、葛藤はわかってる。でも心に率直で、一人でもを助けに行くって言った兄さんでいてほしいんだ」
「エド、すまない。…でもありがとう」
ピーターはそれ以上何も言わず、スーザンもそんな彼に寄り添っているだけだった。
エドマンドは私を見て、そして石舞台跡の中に入っていく。
それについて中に入り、彼の横をふわふわ漂う。エドマンドは軽々と階段を下り、私を見上げた。
あまりにも真剣な表情で目が離せない。
今までたくさん言い合いしたりケンカしたりしてきたけど、こんな表情を見たことあったかな。
うん、きっとあったはず。でも私がちゃんと見てなかっただけだ。
エドマンドはいつだって真剣に取り組んでるし、私やみんなのことを考えてくれてる。
彼はその表情のまま口を開いた
「誰がなんと言おうと、僕は信じてる」
「うん…」
「僕がを守るよ」
「エドマンドったら」
くすくす笑うと、ちょっと気分を害したようだった。けどすぐに微笑んでくれて、私と同じ高さまで上ってくると、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
まあ、私の体は透けちゃってるからちゃんと撫でられはしないけどね。
「じゃあ、本当におやすみ」
「うん、明日ね」
彼の背を見送って、石舞台跡の中をグルリと見回った。
話し合ってたカスピアンとリーピチープはすやすやと寝入り、ピーピキークも本を閉じて外を見ている。見張りのフォーンも、別のフォーンに代わっていた。
テルマール陣営に戻り、自分の体に飛び込む。
体に馴染むまで少し時間がかかりそうだったからちょっとうとうとしていると、布の向こうからミラースの呼ぶ声がした。
けど疲れちゃってなんか動きたくないし、動けない。
何か用があるのかな……あっ!
そう思って気付く。全部を見せるとかなんとか話してたっけ。
ああ、どうしよう。行きたくないし……寝たふりしちゃおう!
そのまま目を瞑ってやり過ごそうとしていると、衣ずれの音が聞こえた。薄目を開けると、ミラースの顔が見える。
きゅっと目を閉じて耐える。寝たふり寝たふりと自分に言い聞かせて、出来るだけ体の力を抜いた。
「寝ているのか」
彼はそう言って私の手を取る。
「何故、エドマンド王とここを出なかったのだ」
え!?ミラースはエドマンドが来たのに気付いてたんだ。
「お前が逃げ出していたら、ナルニアにも勝利があったかもしれないのに」
そっか、そういう考え方もあったんだ。全然気付かなかった。
私は本当に自分の感情だけで動いちゃって、政治には向かない人間なんだなぁ。
「、お前は本当に今まで見たことも無いようなお人よしだ。私の立場を考えて残るなど……。私はナルニア人達を殺しらお前を拘束した者だというのに」
ミラースが優しく、そして力強く手を握る。
「お前は逃げるべきだった」
彼はそう言うと、自分の部屋に戻っていってしまう。
目を開けて彼が出て行った方を見つめた。
私の方が聞きたいよ。何で私に逃げるべきだったって言うの?
私が逃げたら、あなたの立場が悪くなることなんてわかりきったことなのに。
「あなたが優しいから、私は残ったんだよ」
本人に言えればよかったけど、この言葉は彼の最期まで伝えることはできなかった。
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2011/10/13
96話