夢を見た。
気が付くと暗闇に立ちすくんでいて、右も左もわからない状態。
どうしていいかわからなくて一歩も踏み出せない。
勇気を出して踏み出しても、それが進んだのかも定かじゃなかった。
「誰かいませんか」
問い掛けるだけ無駄な気がしたけど、少しの期待を持って言う。
でもやっぱり返答はなかった。
そのうち静けさから、妙なざわざわ感が生まれた。
大勢の人が喋るざわざわ感なのに少し違う。
なんていうか……嫌な感じ。
馬鹿にされているような、嘲られているような…。
「誰かいるなら、返事して!」
叫んでも、私の問いには誰も答えない。けど、私の言葉が聞こえてるのはわかった。
だってね、叫んだらざわざわが止まったの。でも少し経ってまたざわざわが始まる。
「守人は裏切り者だ」
「あの女は敵だ」
「アスランを見限って、強い国に寝返った」
ざわざわの正体が聞こえて驚く。この声は、ナルニア人達のもの!?
「遥か昔、あの女はナルニアを治めようとした。別の国の男に売ってな」
「命が危うくなると、他の男と逃げた」
「その男はセントールのあぶれ者だってよ」
ああ、そうなんだ。
みんなが私に思ってること。
ううん。明日、私が受ける罵声だ。そう思われても仕方ない。けど、ヘラクスの事まで悪く言わないで。彼は私を助けてくれただけなのに!
急に何かが、私を守るように囲んでくれた。暗闇と私を遮るように壁になってくれてる。
アスランかと思ったけど、違うみたい。シルエットはセントールだ。
もしかしてヘラクス?と思ったけどそれも違う。彼はもっと体格が大きかったもん。
「私達は信じています」
はっと気付いた時には、そのシルエットはセントールだけじゃなくてフォーンやミノタウロスもいる。一際大きなミノタウロスが片手を出して、私の手を取った。
「俺達は信じてる」
「アステリウス!?」
その低い声は紛れも無くアステリウスだった。
「信じられてりゃは大丈夫だろ?それに、ちゃんと信じてくれる奴もいるようだし」
その言葉に、エドマンドのことを思い出した。
それにアスランもルーシーも信じてくれてるはず。
私は一人じゃない!
「そうだね。危うく取り込まれるとこだった」
「ホント、危なかっかしい奴だな」
アステリウスの笑い声が消え、みんなのシルエットが広がる。アステリウスの横にいたセントールはきっとグレンストームの息子さんだ。
彼なら私を信じてついてきてくれる。
シルエットが弾けたかと思うと、見えたのは暗闇じゃなくて、遥か昔のナルニアだった。
「」
「ドリアード!」
呼ばれて振り返ると、そこには仲の良かった彼女。花冠をして、美しい姿で踊っている。
「今までどこに行ってたの?」
「ずっとナルニアにいるわよ」
「でも…」
その姿を見ることはなかった。
だから木たちと一緒に眠ってるんだと思ってた。
「私達はいつでもあそこにいるの。でも姿を現せない…みんなも見えないのよ」
「私にも?」
「そうね。時代は変わってしまった…」
ドリアードは悲しそうに呟き、目を伏せる。長い睫毛に雫が揺れた。
「私は助けに行けないけれど、眠っている者達は助けにいける」
彼女は努めて明るく言うと、私の手を握った。握り返すとにっこり微笑み返してくれる。
その時、彼女の姿をはっきりと見て驚いた。美しいその姿は、確かに歳をとっていた。
「ね、ドリアードも時と共に歳をとるのよ」
恥ずかしそうに言う彼女に笑い返し、私は言う。
「私だってちょっと大人になったよ」
「ええ。髪が短くて男の子みたい」
くすくす笑われて怒ると、頭をよしよしされた。
初めて会った時は私のが年上だった。でも次会った時は同じくらい。そして今は私のお母さんくらい。
きっと彼女にとって私は、ナルニアにいる子供の一人に過ぎないのかもしれない。
「いざとなったら助けは行くから、はあなたらしく遣り遂げなさい」
急に厳しく言われ驚いた。
目を丸くして見返すと、ドリアードは茶目っ気たっぷりの瞳で、でも真剣に言う。
「あなたが今、救いたい人を救うの。誰が反対しても、罵られても!やりたいようにやるのよ」
「うん」
「それが誰かの…、ナルニアのためになると信じてね」
「わかった」
「全てを理解して、考え、利用するの。これは裏の政治よ!女に出来ることをしてやるのよ」
あまりに過激な言い方だったので真っ赤になってしまう。すると、ドリアードは「アスランの受け売りよ」とウインクした。
「そんな言い方はしていない」という彼の声が聞こえたと同時に、辺りの景色が滲んできた。
戻るんだ。
「ドリアード…」
「大丈夫。助けは私達だけじゃないわ。、あなたには彼も知らない力があるのだから、自信を持って」
「うん、頑張る。ありがとう!」
そうして闇の中に戻って行った。
また真っ暗闇に一人。
嘲りも罵りもざわめきに紛れて聞こえる。でも大丈夫。
私は負けたりしない。
ナルニア人のこの気持ち、全部受け止めるもん。
そのまま、深い眠りに落ちていった。
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2011/10/22