「おはようございまーす」

















朝起きて顔を洗ってると、ドアの外からジェイの声が聞こえた。
慌てて開けてみると、そこにはにこにこ顔のジェイが立っている。

















「おはよう、ジェイ」

「おはようございます、さん」














ジェイはそういうと、一層にっこりした気がする。
















「なんか笑ってるね」

「ええ、ちょっと気になる事がわかりそうなので。

それよりもさん、あなたに行って欲しいとこがあります」

「あたしに?」















ジェイはずかずかと入って来ると、床に座った。
あたしもと思い、横に座る。



















「輝きの泉はわかりますか?」

「え、うん。街の裏山の頂上でしょ?でも、あそこには魔物がいるんじゃ…」

「それは前の話ですよ。今はいないので一般開放されてるんです」

「へー」

















そうなんだ、と思いレジェンディアの時は魔物いたからそれより後の時代だということがわかる。




















「あたしに、そこへ行って欲しいわけね」

「はい」

「わかった」


















理由を聞かなかったのはジェイを信じてたから。
それ以上のなにものでもない。
















「じゃあ、用事がすんだので僕はここで…」

「え、もう帰っちゃうの?朝食は?」

「大丈夫です。

次に仕事が入ってますので」

「あ、うん。頑張って!」

「おじゃましました」



















ジェイはそういうとさっさと出ていってしまった。
あたしはその後ろ姿を見送ると、朝食の支度をし出した。
















「はよー…」















それから一時間後、セネルがむくりと起き出した。
いつも頭がボサボサだけど、起きた後はもっとボサボサ。寝相が悪いんじゃしょうがないかと思いつつ、櫛で梳いてあげる。

















「ありがと、

「別にいいよ」
















あたしは櫛を置いてセネルの前に鏡を翳す。
















「ほーら男前」

「いつもな」

「ほお〜。

さ、そんなこと言ってないでご飯を食べる」

















セネルの前に朝食を置くと、彼のお腹はぐうっと鳴った。
























           *























「ちょっとジェイに呼ばれてるの」

















うそはついてないよね。


って思いながらセネルに言った。
彼は残念そうに「そうか」と言うと、食器を流しに入れた。

















「セネルも起きた事だし、行ってくるね」

「あれ、もしかして食器片付けるの俺?」

「当たり前じゃん」

















あたしがウィンクすると、セネルはげんなりした。


























外は晴れて、気持ち良い風が頬をくすぐる。
あたしはそれにくすりと笑うと、思いっきりウェルテスを見回した。




















「輝きの泉に行く途中、確か街を見下ろせるよね」



















なんかうきうきした気分になってきた。
きっとジェイは何か企んでる。でもあたしはジェイを信じてるから付き合ってあげるんだ。


ああ、なんていい子だろあたし。


はっきり言って、あたしはワルターの事を忘れていた。

きっと、思い出すのが悲しいからだと思う。
ワルターのこと思い出すと、あの十日間のこと、一年間想ってたこと、はたまたここに来たことだって恨めしげに感じる。


誰があたしをここに連れてきたんだか。

今は殴ってやりたいくらい。


あんな事言われるくらいならずっと恋してるだけでよかった。
一年は忘れなかったけど、何年か経てば忘れて新しい人と恋に落ちる。
そしたら彼のことなんて…


こうやって思い出したが最後。
あたしはその場に立ち尽くす、そしてゆっくり頭の中に浮かぶ今までのことはワルターの事ばかり。
歯を食いしばって涙を堪える。けれども顔は歪み涙腺が緩む。

あたしは手で顔を覆って泣き出した。




















「生きてるって…わかったのに…

こんなに辛いのいやだぁ…」





















やっぱり好きなんだって思う。


カッコイイからとか、そういうのじゃなくて、
全部引っくるめて好きなんだ。



















「もう、神様の意地悪〜!」



















長いため息をつくと、とぼとぼと歩き出した。













囁く葉の音色は美しく、少し強めの風と旋律を奏でる。
そして少し歩くと、水音が聞こえてそれに合わさった。


自然が美しいってこういうことなのかな。


世界にはあたしの知らないことが溢れてる。
と言っても、この世界はあたしの世界じゃないけど。




















「そして、自然は音楽をも奏でる。

の大発見だ!」



















着いた!と思って顔を上げた目の前には、あたしを混乱させてる張本人のワルターがいた。


















「詩人なことだな」


















彼は懐かしい一言を言うと、フと笑う。

なんだか、あたしの知ってるワルターに見えた。夢を見てるのかもしれない。


いけない!


そう思って首を振ると、あたしは防御体勢をとった。



















「なんでいるのよ!?」

「お前こそ」

「あたしはっ…ジェイに…」

「そうか…」




















彼は淋しそうな顔を見せた。


あれ、あれあれ?
昨日のワルターと大違いだよ。


ツッコミたい気持ちを抑えて、あたしはワルターを見つめた。

















「あたし帰る」

















そして180度回転すると、来た道を戻り出した。

















「待て」
















聞かない。

あたしには聞こえない。



















「おい!」


















だって、彼は酷いこと言ったもん。

あたしに、セネルに。






















「待てって言ってるだろう!」






















待たない。

知らない!


























!!」



























その時、心臓をわしづかみにされた気分だった。
そうじゃなければいきなり凍らされたか。


握り締めた手が痛くて、爪が刺さって血が出ちゃったかと思ったくらい。



今、あたしの名前呼んだ…?

ワルター、あたしの名前呼んだ……?



ゆっくりと振り返ると、あたしの知ってるワルターの表情があった。
あんな嫌みったらしいことを言った時のではなく、あたしと一緒に過ごした十日間のワルターの顔。


ううん、違う!


自分に言い聞かせるように強く拒む。
だって、セネルとかみんな、あたしの名前呼んでた。
って。

だからワルターが知っててもおかしくない。


















「あたしの名前呼ばないでよ」
















彼の顔を見ないように俯く。
見たら拒む心が割れそうで、恐い。



















「ワルターの顔して、あたしの知ってるワルターじゃないくせに」


















そして呟く。

いつの間にか涙も溢れてきた。
ぽろぽろ、ぽろぽろと…
あたしはそれを止めようと固く目を閉じた。


その時、
ふわりと水の匂いがしたかと思うと、優しい腕に抱き寄せられた。
そしてあたたかく包み込まれる。



















「なにす……」

「……ている」



















あたしの言葉を遮って、ワルターは言った。
でも何ていったのか聞こえなくて、彼を見上げる。



彼の蒼い瞳が近い。

でも、なんだかその距離は遠い気がした。





















「覚えている。

あの世界の事も、の事も、何もかも。

すまない、




















ワルターはそう言うと、抱きしめる力を強くした。



まるで、あたしが逃げないように。
























***************

ヒロインの葛藤

ワルターの告白

なんでヒロインを知らないふりしたのかは次回明らかに!!
(笑)


2007/09/11