「あ、手繋いでる。」

「え?」

「あ。」

『……』















ノーマに言われて気付く私は、嫌になるくらい鈍感だと思う。
だって、考え事をしていたからってクロエとシャーリィの前でセネルと手を繋ぐなんて…













「あ、ありがとうセネル。」

「いや…」












セネルはゆっくり手を離すと、彼女達を見た。













「で、なんであのジジイがここにいるのよ〜!い〜る〜の〜よ〜!!」










ノーマは素早く話を切り替えると、駄々をこねるように手足をバタバタさせた。










ノーマのせいで気まずくなった雰囲気も、ノーマのお蔭でパッと消える。

窮地に陥れられたのか助けられたのか…よくわからないわ。















「なんで連れて来ちゃうかな〜っ!セネセネってば気が利かないんだから!」

「お前はあの場にいなかっただろ!?」













ノーマの一方的な物言いに、セネルが反論する。



でもノーマはなんのその。
彼女は腕を組むと、ぷんぷんとセネルへの文句を言い出した。
















「あのご老人は誰なんだ?」

「ノーマさんの知り合いなんですよね?」














セネルへの助け船にクロエとシャーリィがノーマを問い詰める。














「それはね〜…」

「それは?」

「あれはね〜」

「あれは?」












彼女はなんとか誤魔化そうと必死みたい。




人はそれぞれの過去があるから、話してくれるまで聞いてはいけないのよね。
私だってそうだもの。












「この話はやめましょう?」

「…そうだな。人には話したくない過去の一つや二つ、あるものだ。」











クロエは私の意見に賛成してくれた。












「…悪かったな、問い詰めたりして。」

「わかればいいのよ〜っ!」

「…その性格、相変わらずだな。」

「な。」











私達がノーマを見て笑うと、話題にされている等の本人も笑っている。
本当に相変わらずね、ノーマは。















「さて、ウィルの家に行こう…」














その一歩を踏み出そうとすると、どこからともなく歌が聞こえてきた。












「ようようそこ行くベイベー、俺の名前を知ってるか〜い?」
















「!!」

「あら…」















セネルとノーマが大きく反応する中、私はこの歌は何だったかしら、と考える。







すごく気持ち良く歌っているこの歌は、羨ましいほど本人に合っている。

歌は自分らしくがいいものね。















「カーチス殿。」















私が声を掛けると、エド・カーチス殿が目の前に現れた。















「元気か兄弟!……と、君!」

「元気ですよ♪」

は俺達と別扱いかよ。」













セネルの不満も気にせず、カーチス殿はどんどん話を進めようとする。














「大変なことが起こっているのだ、兄弟!!」

「あっそ。俺達忙しいから。」

「そんな悲しいことを言うんじゃない、兄弟!愛のために宿屋の地下二階へ行くのだ兄弟!」

「兄弟兄弟うるさい…」












執拗に誘うカーチス殿をはねつけると、セネルはウィルの家に向かおうとした。














「…つれなすぎるぞ、兄弟!」












カーチス殿はそう言うと、私の肩を掴んだ。













「?」











そして耳元でぼそぼそと、



君、少し協力してほしい。」



と言う。












私が肯定の笑みを向けると、カーチス殿は鼻息荒く満足そうに頷いた。












「兄弟!」

「だから兄弟兄弟うるさいって……!?」











カーチス殿はいきなり私の体を片手で持ち上げると、ガハハと笑う。















「なっ…に何するんだ!離せ!」

「…ふ…愛の試練だよ。愛のために宿屋の地下に来るのだ〜っ!!」












カーチス殿はそう叫ぶと、すごい勢いでその場から立ち去る。

もちろん私も連れてね。














「お前そんなことしていいのかー!!!」











セネルの声が遠く感じる。
もうそんなところまで来たのね。














〜!!」

「フェロボーン、ちゃんを返せーっ!」












ノーマの声。





…クロエとシャーリィは、何も言わない。










……どうしよう私、


二人をそんなに傷つけてしまったのかしら。










今度はもっと、気をつけなければ。

私、二人に嫌われてもおかしくない立場にいるのよね…。











私はカーチス殿の肩で揺られながら、そんな事を考えた。































                   *






























皆から少し離れると、カーチス殿は私を地面に降ろす。













「協力有り難い。…君は王女なのにすまないな。」

「やだ、カーチス殿ったら。今更ですわよ。」

「…そうかな?はっはっは!!」











あら?なんだか傷ついたような顔をしてるわ。

私、何か変な事言ったかしら?












〜!」











宿屋に着くと、入口の前にはいち早くヴァイシスが待っていた。
隣にはカーチス殿の副官であるイザベラ。














「ヴァイシスも呼ばれたの?」

「ああ。カーチス殿にね。」

「皆さんに是非お見せしたいものがあるのだそうです。」












イザベラはちらっとカーチス殿を見た。














「あるのだそう?」

「そうなのだよ、君!」













カーチス殿はポーズを決めると、私達を中へと促した。















「おい!!!」












後ろからの叫び声。見てみるとそこには息を荒げたセネル達がいる。
彼らは辛そうに腰を曲げると、一息ついた。
















「おお!やはり来てくれたのかね?兄弟!」

が連れ去られたら来るしかないだろ!!」














楽しそうに笑うカーチス殿とは逆に、セネルは彼を睨む。














「おや、そんなことはあったかな?君。」

「あったかもしれませんね。」

「そうだったかな〜」

「うるさい。さ、帰るぞ。……って、ヴァイシスもいるのか。」

「大変だね、セネルも。ま、いいじゃないか。ちょっと入ってみないかい?さ、クロエ殿も。」












ヴァイシスはセネルの横にいるクロエに右手を出す。

その手つきが優雅過ぎて、社交界で男性が女性にダンスを申し込む時みたい。













「あ…ああ」












そしてヴァイシスの手に自分の手を乗せるクロエもとても優雅。
さすがは貴族だわ。





彼らはそのまま先に宿屋に入ってしまった。













「なんだあれーってか、誰あれ?」












首を傾げながら聞くノーマに、シャーリィが



さんの甥のヴァイシスさんです。」



と言ってくれた。





































宿屋の地下二階、そこに入ると一風変わった檻のようなものがある。
不思議そうに見回す中、カーチス殿はにこにこ笑って満足そうだった。
















「何これ…?」

「これは闘技場です!血湧き肉踊る…命を懸けて戦う!それ即ち闘技場!!」














受付にいたお姉さんが色々説明してくれるけれど、私には何がなんだかさっぱりで……特にお金とかのために自分の命を戦いに賭けるなんて理解が出来ないもの。


説明を途中で聞くのを止めた私は、その場をうろうろし出した。














、どうした?」












そんな私が気になったのか、セネルが声を掛けて来た。












「え?あ、ごめんなさい。あんまり聞く気が起きなくて。」

「…そうだよな。その気持ちわかる。」

「お金のために戦うなんて…」

「だよな。でもヴァイシスはやる気マンマンだぞ?」











言われて見ると、ヴァイシスは目を輝かせて檻の方を見ている。














「私の家系の男子は、戦いが好きなのだわ。」

「はは。」











ヴァイシスは昔、違かったのに。
いつのまにかそうなってしまうなんて、残念だわ。














「さーてっ、愛のために戦ってくれるのは誰かな?」












カーチス殿の声の後に聞こえる。

ヴァイシスの「俺がやる!!」の声。












…ああ…。












項垂れる私の肩を、セネルが自分の方に寄せる。











…寄せる?














「ひゃあっ…」

「なっ…なんだ、。」












思わず出してしまう奇声。
今更なんでもないって言えないし。
















「あ、えーと、びっくりして。」

「何に?」











……










「ヴァイシスが戦おうとすることに?」

「…間がある上に何で疑問系なんだよ。」












セネルは私を引き寄せるのをやめると、檻の方を見た。












「ヴァイシス、頑張れよ」

「ああ。とクロエ殿、見ていて欲しい。」











セネルのエールに応えながら、ヴァイシスは私とクロエに言った。











「ああ。応援している、ヴァイシス殿!」










クロエはにっこり笑うと、小さく手を振った。








この二人もしかして……いい感じ?



…ううん、クロエはセネルがすごく好きだものね。
ヴァイシスは絶対セネルに勝てないわ。



私は根拠のない憶測を取り払うと、ヴァイシスが檻に入るのを見守った。













ちゃん、イシーって元気だねー。」

「イシー?」











ノーマの問い掛けに違和感を感じる。イシーってまさか、











「ヴァイシスのこと?」









そう言うと、ノーマはニヤニヤと頷いた。














「そーそー。ところでイシーって何歳なわけ?背はでっかいけど、あたし達とあんま変わんないでしょ?」

「彼はシャーリィと同じ歳よ。」

「そうなんですか?」

「ええ。」

「見えないな…。もっと大人っぽい…。」

「クロエ?」

「いや。」













確かに、見た目は一年前に会ったままだけど、背だけはスラリと高くなってしまっわね。
それが大人っぽく見えるのかしら?




…ああ、それに、












「ヴァイシスは勉強家だから、物知りだし。それでじゃない?だからそう見えてしまうのよ。」













私がこう言うと、皆は顔を見合わせて「もな。」と言った。















もしかしたら私もヴァイシスと同じ様に見られていたのかしら。

色々疑問に思いながら再び檻の中のリングを見た。

















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モテる男は辛いですな。

そしてモテる女も大変ですな。

恋の争いってちょっと醜いかしら〜?

クロエもシャーリィも、お互いを認めるのが大変そうですしね。
ヒロインのこともきっと悩むんだろうなぁ。

2006/09/23










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