様!!!」










彼も強く抱きしめ返してくれるので、その胸に顔を埋めて心地よさに浸る。
心も体も、その温かな胸でリラックスしてしまう。
彼を抱きしめるのは思い出す限り二度目だ。何故こんなにもリラックス出来るのだろうと疑問に感じながらも手に力を込める。











「元気、でしたか?」











少し高い位置で私の耳に落とされる声、懐かしくて涙が出て来た。










「はい、シフォン…」









噛み締めるように彼の言葉を頭の中で繰り返す。そしてゆっくりと唇を開いて答えた。
くっついた体を離して彼を見上げると、その大人びた姿が目に入る。背や雰囲気は全く変わっていないけれど、その顔つきは大人の男性を思わせる落ち着きがあった。
あの時からもうすぐ二年経つのだということを実感させられる。あの頃の熱い思いを持っていた彼とは少し違う気がした。
私は自分の今までを思い返してみる。このくらい、大人びたかしら…?


彼を見てふと気付くけれど、いつも一緒に居たはずの妹のイルハの姿が見えない。シフォンと言えば仲の良い妹のイルハが側に付き添っているはず。
彼とイルハが別々に行動したところは殆ど見たことがない。










「イルハは?」










心配になって聞いてみる。胸がドクンドクンと早く打ち、こんなにも不安なのがわかる。
イルハに何かあったとしたら、それは私のせいかもしれない。こんなことを思ってしまう。
そんな気持ちが植えつけられるほどに、あの時の出来事が頭の中に鮮明に残っている。


そんな私の気持ちを思ってか、シフォンは優しく微笑んだ後に私の頬をふわりと撫でた。まるで安心してくださいと言われたみたいで心が落ち着く。









「イルハはいません。ガドリアに置いて来ました。」

「そうなのですか?」

「ええ。遺跡船には一人で観光に来たんです。色々なものを見て帰って話してあげるんですよ。様に会ったことも…」

「まあ…」









彼が笑ったので、私もつられて微笑んだ。
ああ、今日はなんて嬉しい日なんでしょう!懐かしい彼に会えるなんて!!!
そう思ったらある答えが頭の中に浮かんだ。自分でもわからなかったあの答えが。










「きっと、貴方に会うからこんな恰好をしたのだわ。」









ヴァイシスを迎えに行くためだけに私がこんな格好をしたくなるはずがない。今になって確信する。
私の行動が必然なら、この服だってシフォンに会うために着たかもしれないと思う。


…まあ、少しこじつけに聞こえるけれども。










「え?」

「普段はもう少し勇ましい恰好をしているの。でも今日はね、いいことがありそうだからおしゃれをしたくなったのです…」

「それは…有り難き幸せ。」










彼は、私が昔ダンスにOKした時と同じ様に言った。誰からも聞かない久々の言葉なので照れてしまう。










「もう、シフォンたら…」









私達が互いを懐かしんでクスクス笑ながら話していると、船の方から仲間達が歩いてきた。
男の子達はシフォンを訝し気に見て、女の子達はにこにこしながら私を見ている。









「あら、ヴァイシス。いらっしゃい。」









仲間達の中に甥の姿を見つけて声をかける。ちょっと、素っ気なかったかしら。









〜!」









抱き着こうとする彼を避けると、ヴァイシスはじとりとした目で私を睨んだ。










「なんでそいつには自分から抱き着いて、俺は駄目なんだよ。」

「いいじゃないの。」

「良くない!」









ヴァイシスの叫びに、何故かセネル達男の子が頷く。
みんなそんなに人見知りが激しかったわけではないのに。










「ところで、その方は一体…

ガドリアの方に見えるが…」










クロエがシフォンを上から下まで見回す。照れながら帽子の向きを直すシフォンに、クロエは「あ…」という声を上げて指を差した。










「シフォン兄様…?」









彼女は目を白黒させて瞬きする。シフォンはにこりと笑うと、










「久しぶりだね、クロエ。」









と言った。




























しばらく誰もがクロエとシフォンを見ていたので、私達の中に静寂が訪れた。しかしこれを破ったのはヴァイシス。情けない声で叫んだの。










「クロエ殿まで!」









ヴァイシスは大層ショックを受けたようで体が硬直している。そこでシフォンは甥の方を向くと、ペコリとお辞儀をした。










「私は一度、ヴァイシス様にもお会いしてますよ。遠目ですがね。」

「なんだって!」









彼はシフォンを見下ろすと、腕を組む。散々唸っているけれど思い出せないみたい。










「そのうち思い出すのではない?」









私は彼らの話を終わらせると、シフォンの方を向いた。










「遺跡船の案内なら、私がしてあげます。宿屋に身を置いてますから、声をかけて下さいましね。」

「ありがとうございます、様。」

「いえ…」










目が合うと、お互い微笑んでしまう。
シフォンの優しい眼差しがとても印象的なの。










「ええーい!見つめ合うな!」










ヴァイシスが割って入る。そして私は、そのままセネル達に引き寄せられた。










様には、いつでもたくさんの騎士がいらっしゃいますね。」









クスクス笑うシフォンの言葉の意味がわからずに首を傾げる。騎士、なんてそう私に宣言したクロエだけなのに。










「騎士…?仲間ですわよ。」

「そうですか…、

ではまた。」









シフォンは穏やかな笑みを残して去って行った。














































「悔しい……負けた!完全に負けた!」











ヴァイシスが地団駄踏むと、セネルもそれに続く。










「セネル、どうなってんの!?










おい、金髪!!!お前、卑しくもと一緒に住んでるんだろ!どうなってるんだよ!」










「卑しくもって、イシー…」










捲し立てるヴァイシスに、ノーマが呆れ顔で言う。
ワルターは甥を見ないように目を逸らすと、めんどくさそうに耳を塞いだ。










「知らん。」










そして相手にしてられないと顔を背ける。











「ヴァイシスさん、取り乱すのは勝手ですが、今のを見てどうなってるとかは聞かれてもわかりませんよ。今のは偶然起こった事です。どう見たって偶然懐かしい人に出会った場面じゃないですか。

僕達も…何が何だかわからないんですから。」










ジェイは私を見て溜め息をつく。そして、「紹介さえもしてくれませんでしたし。」と呟いた。
確かに、紹介とかしなかったじゃない。










「彼は…」









言いかけると、「クロエが制して私が言おう。」と言ってくれる。彼女はみんなの反応を見て進んで庇ってくれたのだ。
私はホッとすると下がって彼女に任せた。

だって、こんなにみんなが突っかかってくるなんてめ珍し過ぎるもの。











「彼はガドリアの騎士だ。シフォン・ウェレンツ。ウェレンツ家の次期当主だ。」










次期当主という言葉に反応してしまう。
だって、シフォンはガドリアに帰って家を継ぎたくないと言っていた。妹を守るために。











「ウェレンツ家…聞いた事があるな。確かクロエ、お前のヴァレンス家と並ぶ名家ではないか?」

「さすがレイナードだな。」

「名家…ですか。」










ジェイはチッと舌打ちした。モーゼスはそれに気付くと、不思議そうに尋ねる。











「どがあしたんじゃ、ジェー坊。」

「あの人は、さんと形式的にお似合いになれるんですよ。」

「何いっとんじゃ。ワレはそんなライバルが増えた事でを諦めるんか?ワレはそんな物分かりがええ男じゃったんか!?」

「……あなたに当たり前なこと言われると、本当にムカつきますねぇ…。」

「ほうじゃろほうじゃろ。」











あまりよく聞こえなかったけれど、私が何故シフォンとお似合いになるのかしら。ジェイったら時々理解出来ない事を言うのよね。










「さて、ヴァイシスも来たことだし、街に戻りましょう。」









私がしっかりしめると、男の子達は一斉に不満そうな顔で私を見た。
自分達の機嫌悪いのが、まるで私のせいかのように。














































さん、シフォンさんとはどんな関係なんですか?」











街に向かう中、シャーリィが小声で話し掛けてきた。私はにっこり微笑むと、「ちょっとした知り合いよ」と答える。










「ちょっとした知り合いで抱き着くなかぁ〜ふつ〜。」









ノーマが意味を含んだニヤニヤ笑いをする。一体、何が言いたいのかしら?










「まあ、だしな。」

「そぉよお〜お姉さんも知り合いに会ったら抱き着いちゃうわぁ〜。」

「グリューネさんだしな。」










私についてもグリューネについても同じ感想を述べるクロエ。
私とグリューネって同じなのね。










「クー!そこツッこむとこだし!」









シャーリィとクロエとノーマとグリューネは、私を囲んで楽しそうに笑う。私とシフォンが会ったのは、そんなに楽しい話なのかしら。










「でも私、てっきりさんはワルターさんかと…」









そんな中、シャーリィがボソリと呟く。
私がワルター?何の事なのかしら。










「あたしもそ〜かな〜って思ってたんだけどさ、今朝の事考えると違うみたいなんだよね〜。」

「ノーマ、今朝の事って何だ?」

「お姉さんも聞きたいわぁ〜」










ノーマに群がる三人の体で、私は女の子の輪から押し出された。
一人話題から取り残された私は、ぽつんとそこから外れる。聞くに私の話題みたいなのに、その中心がいなくても話は進むのね。










!」










後ろからヴァイシスに呼ばれる。振り向くと先程のことをきれいに忘れ去ったかの様な表情の甥が手招きしていた。
彼女達に気付かれないようにそろりと後ずさると、彼の元へ走る。










「いらっしゃい、ヴァイシス。」

「うん。…じゃなくて、あのガドリア野郎ってが巻き込まれた集会の首謀者じゃないのか?」









やっと思い出したみたいね。シフォンとヴァイシスが遠目に会っているというのは、私がシフォンからダンスを誘われた時の事。
でも、巻き込まれたなんてひどい。私は自ら戦を失くしたかったのだから。










「巻き込まれたのではなく、自ら身を投じたのよ。」









ヴァイシスは呆れると溜め息をついた。そして私の頬をつねる。










「痛いわ、ヴァイシス。」

「痛くしてんの。

俺は反対しないよ。反対出来る立場じゃないし。」

「…?なんの話?」

「だから、あのシフォンて男とラブラブになる話。さっきは突っかかっちゃたけど、良く考えれば金髪よりマシだし。」

「はい?………もしかして、皆が話してるのはそういう話だったりするの?」










道理で、どういう知り合いだとか根掘り葉掘り聞こうとするわけね。
若い人たちって、こういう話が好きだものね。クルザンドのパーティだって、周りではそういう話ばかりだったし。










「違うのかい?」










ヴァイシスははキョトンとした。そして再び私の頬をつねる。
それににっこり笑ってあげると、










「違います!」










と強く否定した。
















***********

シフォン・ウェレンツ登場!!クルザンド記の最後に出て来た彼です。
ヒロインが遺跡船に行く原因?を作ったのは彼だと言っても過言ではないです…
たぶん。
それなのに、過ぎた事は気にしないがモットーなヴァイシス君は(自分もクロエ好きなので)応援しちゃってます(笑)


2007/10/26

読んでて思ったけど、男性陣の身長差がわかり難い気がしてきた。

ウィル(188)>ヴァイシス(185)>モーゼス(182)>シフォン(174)>セネル=ワルター(171)>ジェイ(155)

ヴァイシスはあの顔でモーゼスより高い(笑)そして恐ろしいことにまだ伸び続けてます♪
しかしやけに背が高いはずなのに、ヒロインと話してる時は同じぐらいになってるイメージがありますね。
叔母には勝てないんだろうな〜。


(訂正)2008/01/09




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