「シフォン、お待たせ致しました。」
私はいつもの服を着、弓を背にかけて彼に会う。別に可愛くするのがめんどうとかそういうのではないの。
今日はね、遺跡を紹介しに回るからこの恰好なのよ。
「様…」
「どうしたのかしら?」
「…勇ましい…ですね。」
「街の外には魔物がいますからね。」
真面目な顔でそう言うと、シフォン微かに笑う。
彼の目線は明らかに私から外れている。
「どうしたのです、シフォン。」
「いえ……その。」
彼は少し顔を赤くし、徐に自分のマントを取った。
そんな行動をぼーっと見ている私にそのマントを巻き付けると、彼はようやっと私を真っ直ぐ見た。
「寒くないわ。」
「いえ…」
「?」
「その、目の置き所がなくて。」
「目の置き所……?あ。」
私のいつもの服は胸元が開いた動きやすい服の事。
彼にはこの服は駄目だったみたい。
なんだかセネル達みたいに話題にする事が出来ず、マントで隠そうとするあたりがワルターに近い気がする。
「このマント、お借りするわ。」
「はい。」
「行きましょう。」
「わかりました。」
彼はにっこり微笑むと宿屋のドアを開けた。
ロビーを出ると、外はカと晴れた真っさらな空が広がっている。風はそよりと肩を撫で、季節の訪れを教えてくれた。
今日も別段いつもと変わらず、街の人々は生活をしている。遺跡船は大陸にいる人から見て珍しく、何か起こりそうな素晴らしいところかも知れないけれど、私から見ればいつもの場所、いつもの生活。
世界はどこも同じなのだと思った。
シフォンも同じことを思ったのか、街の人々を温かな瞳で見守り、時には軽く微笑んでいた。
彼が、こんな穏やかな時間を過ごせていて良かったとほっとした。
私達はダクトに向かうと、行き先を選ぶ。今日は巨大風穴に行く事になったの。
「凄い、風穴だ…」
シフォンは顔に似合わず口を開けて見下ろす。私も一緒になって見下ろした。
ぽかんとしてしまう。
だって、いつもはこんなにまじまじと見ることはなくて何かに追われる様に入っていく。
遺跡観光なんて、今までしなかったもの。
「そう言われると、本当だわ。こういうものが周りにたくさんあるから気付かなかったけれど、今では生活の一部になってしまったのかしら。」
呟くと、シフォンは私の瞳を見つめた。
「様は、遺跡船にずっと?」
聞くと前髪をかきあげて微笑する。
綺麗な顔。
そう思ってしまう。
ワルターとは違った、洗練されたものがある気がする。
「ええ。シフォン達が送還された後、すぐにここに来たの。もうすぐ二年になるわ。」
「二年に…。様も大変な思いをされていたのですね…」
シフォンは目を細めて同情してくれた。でも、あなたもそうなのではないの?
約二年前のあの日、あなたはクルザンドから送還された。帰りたくないって言っていたガドリアに。
聞きたいという気持ちが先走りそうになったけれど、なんとか喉元で押し込んだ。
送還させた本人なのだから、私が聞いてはいけない。
「いえ…そんな。仲間がいましたし…。それに…」
チャラ…とサジェのリングと兄様のペンダントを出す。
「いつまでも、私は守られているのですから。」
シフォンはサジェのことも兄様のことも…私に起こった事情を知らないだろうから理解出来ないだろうけど、知ってほしかったの。
私は守られているから大丈夫だって…
「そうですか…。」
シフォンはちらとリングとペンダントを見ると、ゆっくり歩き出した。
「様のお仲間はきっと、素晴らしい方ばかりなのでしょうね。」
「ええ!素晴らしいわよ。シフォンも仲良くなれればいいわね。」
「ええ、そうですね。」
彼は頷いた。けれど、その中に影があるような気がして何故か心が辛くなる。
「さあ、行きましょう!」
影を吹き飛ばすように、私は元気良く彼の手を取って引っ張った。
ワルターは自分のベッドの上から外を見ていた。そしてある一定の時間が経つと、長い溜め息を吐く。
朝、嬉しそうに出掛けるを止める事が出来なかった。
何故止めるかって?
嫉妬ではない。そんなもの、持つはずがない。
自分は彼女と一緒に生きているのだから。
ワルターはそう思うと再び溜め息を吐く。
外は晴れ渡りそよ風を部屋の中へ入れてくれる。その風は心地良く感じるが、何だか心に隙間が出来たみたいだった。
「あいつは、学習しないのか…?」
ぽつりと呟いた彼の言葉は、のためのもの。
彼は心配しているのだ。
はガドリアという国に命を狙われている。それは紛れも無い事実だ。
何故ならばクロエが言った。
「私の手でを殺さなければ、次の刺客を送ることを示唆していた。の身は狙われているんだ。」
と。
それなのには気にすることなく会いに行く。
それも二人きりで。
ワルターは何回目かわからない溜め息を吐いた。
もうそろそろ、他の者の心配を気付いてもいい頃ではなかろうか。
「ワルち〜ん、来たよ〜。何か用?」
「……」
「自分で呼んどいて無視か!い〜よ、帰っちゃうもんね〜。」
「来たか。」
ワルターはノーマの方を見た。じとりとした視線が彼女を貫く。
「うわっ暗っ!わかった、ちゃんがシフォシフォとどっか行っちゃったんでしょ?」
「(シフォシフォ?)ああ。」
「ワルちんわかりやす過ぎ!」
ノーマは遠慮なくドカリと椅子に座ると、置いてあったお菓子に手を出した。
「ん、何?あたしに恋の相談?」
「……」
「(マジ!?)あたしでいいの……?
……って、よく考えるとあたし以外いないか〜。
男子達はライバルだから論外だし、リッちゃんはメルネス様だし、クーはイシー追い掛け回されてるし…」
「ああ…」
「(ああ!?マジなんだ!)やっぱあたししかいないか〜。」
ワルターは胡座の上に肘をつき、頬杖をついてノーマを見た。その姿があまりにも馬鹿にされているような気がして、ノーマはワルターを睨む。
「何?」
「いや…」
ワルターはフイと顔を背けると、溜め息を吐いた。
「ちゃん大丈夫かな〜。シフォシフォってガドリアじゃん。クーの次の刺客とかかもしんないのに。」
「俺もそれを考えていたんだ。」
「だと思った。ワルちんがあたしに恋の相談するわけないもんねーっ。」
ノーマは気まずそうに笑う。ワルターはニヤリと彼女を見ると、ベッドから立ち上がって窓際に立ち、目を細めて外を見る。
「…あいつは何故、あんなに他人を信じるのだろう?」
小さな呟きだったがノーマの耳には十分だった。彼女は彼を見つめ、へらと笑う。
「ちゃんだからね〜」
「……ああ、そうかもしれないな。」
彼は微かに微笑むと、空を見上げた。
「おーい、〜!」
その時、ドアの外から話題の彼女を呼ぶ声が聞こえ、ノーマは即座にドアを開ける。
「…ノーマ?」
そこにはドアを叩こうと拳を上げ、マヌケな表情をしたセネルが立っていた。
「あっはっは!ホントおかし〜っ!」
その数分後、ノーマは腹を抱えて笑いこけていた。セネルのマヌケな表情が、彼女の笑いのツボを突いたようだ。
「おい、ワルター、どうにかしろよ。」
「何故、俺が、貴様のために、何かを、しなければならないんだ?」
「単語を切って強調するなよ…」
「あっはっはっはっ…」
「そろそろお前も笑うのやめろよ…」
いたたまれぬセネルはうなだれた。
「はシフォンと遺跡めぐりしてるって!?何で止めなかったんだよ!」
セネルはの状況を聞くとワルターを睨む。そして話を続けた。
「シフォンてさ、すごくいい奴なんだよな。歳の近いお兄さんて感じで…。あれでチャバと同じなんて考えられない。」
「あれセネセネ、シフォシフォと話したの〜?」
「ああ、の知り合いだからな。どういう奴か知っておこうと思って。……すごく、いい奴なんだ。」
「さっきそれ聞いたし。んで、後は?」
ノーマは興味津々でセネルに詰め寄る。セネルは腕を組んで唸ると、あることを思い出した。
「妹思いだな。」
「妹思い?」
「ああ。」
「セネセネとの共通点だね〜。ね、ワルちん。」
「……」
「無視だし。」
「で、貴様は何しに来たんだ?セネル。」
ワルターは今までの話を無視すると、彼に問う。セネルはぼりぼりと頭を掻くと、口を開いた。
「に気をつけるよう注意しに来たんだ。もう遅かったけどな。」
そう言って腰を下ろした。
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ヒロインとシフォン。
ワルターとノーマとセネル。
ワルターはヒロインのことにかけてはクロエを頼りにしてますが、今はヴァイシスに追いかけまわされているので今回はノーマ(笑)
2007/10/28(訂正)2008/01/11
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