「セネセネもそう思ったか〜。あたしとワルちんもその事を話し合ってたんだよね。」









ノーマはそう言うとセネルにお菓子をすすめた。まるで自分の部屋かのようだ。









「だからワルターとノーマなのか。有り得ないペアだと思った。」

「まあね〜。」

「で、話し合った結果は?」








セネルはお菓子を摘むともぐもぐ食べる。
なかなかいける、と思って次の手を出した。









だからだ。」

「は?」










ノーマに聞いたはずが、いきなりワルターが答えたので聞き返してしまう。









ちゃんだからそうだってこと。ちゃんらしいでしょ?」

「…あ…ああ!って、結局何の解決にもなってないな。」









セネルはやっと理解したように深く頷くが、確かにそうだと思いながら何の解決になってもいないことに気付く。









「確かにそうなんだけどね〜。」









あははと空笑いするノーマ越しに見えるワルターの機嫌が悪い。
自分の返事で理解されなかった彼は、つかつかと二人に歩み寄ると、テーブルの上の菓子皿を取り、









「あとで菓子代もらうからな。」








と言い放った。














































ヴァイシスとクロエは、無言で街を歩いていた。
久々に街を歩くヴァイシスは、どんな街の人にも優しく声を掛けられ、少女達には黄色い声を上げられていた。彼がどんなに街人に人気があるか窺い知れる。

並ぶ二人の身長差は明らかで、女性にしては背の高いクロエをゆうに超えるヴァイシスの背は、彼女を周囲に女性だと知らしめていた。
クロエもそれがわかっているようで、自分がきりりと騎士を演じてもヴァイシスの雰囲気等には勝てない。だからこそ、自分を女性だと意識してしまうのだ。








クーリッジの時はこんな気持ちにはならない。







セネルを好きだと気付いてからかなり時間が経ったと思った。
彼とは一緒に前線で並んで戦える仲で、自分を女性などと意識させられることはない。しかしヴァイシスは違う。








クーリッジとは育ち方が違うんだ。








ヴァイシスの自分に対する高貴な振る舞いは、溜息を吐いて感嘆するものだった。
中には自分がヴァレンス家という騎士で…貴族の家系だったことを思い出してしまうような仕草もあった。少し辛くなる時もあるが、クロエは顔に出さない。










それが、クロエという自分だけに向けられているのを知っているから。

ヴァレンスだったというクロエに向けられているわけではないから。









「私は、ズルい。」









クロエは小さく呟いた。ヴァイシスには聞こえなかったのか、「ん?」という優しい顔を向けるとにっこり笑ってくれた。







聞こえてなくてよかった。







ホッと胸を撫で下ろす。
この関係がなくなってしまうのは嫌だった。何故自分がズルいと思うかもそこに原因があるのだ。

私は、ヴァイシス殿の心を手玉にとっているように弄んでいるのか。それともなければ、その気持ちをもらえることに満足感を持ち、彼の好意に甘えているのか。
手紙のやりとりで、心を助けてもらって…今もこうやって彼の気持ちを利用するように一緒に居る。












本当に、私はズルい。

私の事を好いてくれていると知って、彼と一緒にいることを望むのだ。













「クロエ殿、ここで休憩しよう。」

「あ、ああ。」












クロエはヴァイシスの声にハッとし、小さく頷いた。そして彼の後に続くように噴水広場のベンチに腰を下ろす。
しばらく二人は無言だった。いつもはヴァイシスの方から面白い話をたくさんしてくれるはずだったが、今日のヴァイシスは違った。
何故か、受身なのだ。クロエの姿をじっと見守り、彼女の言葉を待っている。










「クロエ殿、今日は誘ってくれてありがとう。嬉しいよ。」

「あ…ああ、いや…。」









まともな返事も来ないが、ヴァイシスにとってはクロエが隣にいること、クロエに会えたことだけで満足していた。
前に遺跡船を去った時、もう二度と会えない可能性があった。手紙のやり取りだけで、この関係がどうにかなるなんて思えなかった。








クロエ殿はセネルの事が好きだ。
俺は、クロエ殿もセネルも好きだし、大切だしな。








ヴァイシスがセネルに妬きもちを焼くことはなかった。彼はクロエが幸せなら、彼女が自分でそう選んだならいいと思っていたのだ。








けれども俺は今回、遺跡船に来た。
またクロエ殿に会えたんだ。……悪いけど、セネルに負けるわけにはいかない。手紙だけの関係じゃないんだ。

俺は、彼女の目の前にいるんだから。








ヴァイシスの心に決意が固まっていた頃、クロエの中にも決意が固まっていた。
この前の手紙のお礼を言う決意が。










「この前のお礼をしたいんだ…」









クロエは辛うじてそう言うと、ヴァイシスに顔を向けた。目は心なしか潤み、顔は桃色になっている。






…やばいだろ、これ。






ヴァイシスは抱きしめたくなる感情を必死に押さえ、彼女の続きの言葉を待つ。









「お礼…?」








ヴァイシスの喉がゴクリと鳴った。そして何か待ち侘びるように唇を結ぶ。
クロエは微かに唇を開いた。










「…もらった手紙にどんなに救われたことか、感謝してもし切れない!」









クロエは深く頭を下げた。ヴァイシスはびっくりすると、彼女の頭を上げようと必死に肩を叩く。









「ク…クロエ殿!!」








昼間の噴水広場だ。街の人が食事をしたりのんびり過ごしているここで、クロエの大きな声に周囲の目はこちらに向けられる。
ヴァイシスは恥ずかしそうに周囲に「何でもない」と頭を下げながら、クロエの肩を優しく掴んだ。










「私が不甲斐ないとは言え、手紙に書いてあった事を心に留めずに影に取り込まれてしまった。

を手にかけようとした私に、その後もたくさんの励ましの言葉…大変痛み入る。」










クロエはそこまで言うと、がばと頭を上げる。
そんなクロエの表情を見てヴァイシスは自分の気持ちが最高潮に高まるのを感じる。
彼女の目には強い意志が溢れ、前会った時よりもイキイキしていた。










「ありがとう、ヴァイシス殿!」









彼女は満面の笑みを称えている。
それに心を鷲掴みにされたヴァイシスは、いつものポーカーフェイスもタジタジに苦笑した。










「あ、いや…。俺は役に立ってないよ…。」

「そんなことは…!」

「いや、ある。俺は手紙しか出せない。助けに行く事が出来なかった。」

「それはクルザンドの王子だから…」









クロエは周囲に聞こえぬ様に、声のトーンを下げた。
しかし、今度はヴァイシスが熱く語る番だった。










「そんなのは言い訳にならないんだ!」









ヴァイシスは唇をぎり噛み締めると、血を滲ませる。クロエは心配そうにただ見上げていた。










「好きな女の子一人助けられないで、俺なんか王にはなれない。」









ヴァイシスはそう言って顔を背けようとしたが、クロエはそれを許さなかった。
言い聞かせるように言う。










「ヴァイシス殿!国を、民を守って行くなら小さな犠牲はつきものだ。」

「わかってる。でも、それがクロエ殿だった事が悔しいんだ。

……すまない。お礼をもらったはずなのにこんな話…。」

「いや…。私は、ヴァイシス殿の本音が聞けてよかった。」










クロエがあまりにも優しく微笑むのでヴァイシスは勘違いをしそうになる。











「本音……!!」

「ああ。ヴァイシス殿こそ、クルザンドの王に相応しい。全ての人を人として扱える心の広さ…。私は感服した。」










クロエは鼻息荒く満足そうに言う。ヴァイシスは少しがっかりしながらも、嬉しくて頷いた。










「クルザンドの王子がヴァイシス殿で、本当によかった。」

「え…?」

「いや、何でもない。」










聞き返すヴァイシスに、クロエは目を細めて微笑んだ。それは美しく、誰もが見とれてしまうような輝かしい笑顔だ。
しかし、彼女の内心は少し違っていた。








そうだ。ヴァイシス殿はクルザンドの王子なんだ。

私とは……違う。




















































「やあっ…!」

「はっ…」






私とシフォンは魔物と戦闘中なの。私が弓を射って、シフォンがレイピアで仕留める。素晴らしい連携プレイだわ。








「魔物が多くなってきたわね。そろそろ戻らない?」

「そうですね…」







彼はレイピアを腰に戻すと、来た道を振り返る。そして微かに肩を落とした。

どうしたのかしら?









「シフォン…?」

「…あ、ああ、すみません。せっかく様と共にいるのに戦闘ばかりで申し訳ないと…」

「大丈夫です。シフォンこそ、観光なのに…」

「いえ、私は…」








会話が途切れて気まずくなる。
もじもじとしてしまうと、更に話辛くなってしまった。










「イルハは…」

「えっ……ええ」









裏返ってしまった声を彼が優しく笑う。恥ずかしく思うけれど、懐かしいシフォンが心地良くて嬉しい。懐かしい人に会うとホッとしてしまうの。










「ずっと様に会いたがっていました。会わせてやれなくて残念です。」

「ええ…でも、いつか私達クルザンドの者てガドリアの方々が互いの国を行き来出来る日が来ます。また、会えるわ…」

「…そうですね。」









シフォンは葉の段差の前で立ち止まると、右手を出してくれる。私は自分の手を重ねると段に足をかけた。











自分がクルザンドにいた時と錯覚してしまう。
あのドレスを着ていた頃…隣にはヴァーツラフ兄様と彼が……











様?」










止まってしまった私を心配そうに覗き込むシフォン。












「ごめんなさい。シフォンが騎士を気取るから自分が王女だった頃を思い出してしまったじゃない。」

様、私は騎士ですよ。それに、貴女だってクルザンドの王女のままだ…」

「……そうね…。クロエが言っていたけれど、血は変わる事なく…私はクルザンドの王女のまま…そして…」










メルネスと共に生きたあの子のまま…

世界を見守る者のまま…










私がまた黙ってしまうと、シフォンは心配そうに私を見、そして抱きしめた。
その行動に少し驚いてしまったけれど、最後には安心してしまう。










「大丈夫…」










そう言う彼の顔を見たら、腕の中の私はイルハなのかもしれないと思った。












***********

展開は三者三様。
個人的には最初の三人が好きです(笑)


2007/11/01

今回はクロエとヴァイシスのお互いの心を見せてもらいました^^
お互いがどう思っているか、ウィル編の時とは変化が出てきましたね〜。


(訂正)2008/01/12






103へ