サーッ
風が流れてゆく。伝って歩くようになっている大きくて派手な色の葉や花びら。それらが風に靡き揺れる。
その中で私達だけ…私とシフォンだけ揺れる事なく立っていた。
私達はお互いを気遣う様に息を潜め、震える手で抱きしめ合う。
変だわ…私。
あの時は…初めてシフォンに会った時は、感じなかったはずなのに。
彼といると何か、忘れていた心地良いものを思い出す。
初めてではない何かを思い出してしまう。
私は彼の服をきゅ、と掴むとゆっくり体を離す。
そして何事もなかったように微笑んだ。
「シフォンの腕の中では、私は妹みたいね。」
「そんなことは!」
「いいの。イルハに、会いたいのでしょう?」
私がそう言うと、彼は悲しそうに、でも照れた様に笑う。
「出来ることならば…」
「片時も離れたくない」そう答えた彼が微笑ましい。ヴァーツラフ兄様も、こう思ってくれていたのかしら。
「いいお兄様だわ。
あ、そうだわ。シフォン、私の名前は呼び捨てにして頂いて結構よ。」
「へっ……」
シフォンは素っ頓狂な声を出すと、頬を桃色に染め上げた。
そして目を泳がせてもごもごと呟くと俯く。
「……」
ゆっくりと、穏やかな音で私の名前を呼ぶ。
「なあに?シフォン…」
嬉し恥ずかしく答えてみる。
すると、シフォンは桃色の頬をつやつやさせながら顔を上げる。明るい茶色の髪の毛がファサと顔にかかるけれど、それを気にすることなく再び呼んでくれた。
「……」
「…はい…」
きゅんと胸の奥が縮む。ううん、何かにきゅっと掴まれた感じ。
みずみずしい滑らかさを帯びた彼の瞳に吸い込まれそうになって、慌てて自我を取り戻す。
「行きましょう、…」
「ええ、シフォン。」
私は彼の手を取ると、ウェルテスの方に足を向ける。彼も満足そうに私の手を握り返してくれた。
でもすぐに魔物に遭遇して、離すかさざるを得なくなってしまったけれど。
再び彼の手の上に自分の手を重ね、ダクトを降りる。
空は夕焼け色に染まり、一日の殆どの時を彼と過ごしたのだと思うと、嬉しかった。
「あ…」
シフォンが街の方を見て呟く。そちらを見ると、ヴァイシスがクロエと歩いていた。
「あの二人は、仲が宜しいのですね。」
微笑ましく言う彼を見て、私もくすくすと笑ってしまう。
「そうなの。ヴァイシスがクロエにアタック中なのよ。」
「なるほど…
では…」
シフォンはおもむろに私の手を取って口付ける。
「私も…、にアタックさせて下さい。」
「えっ…」
ぼぼぼ、という言葉が似合うくらい顔が赤くなってしまった。
いつもだったら、軽く受け流せる言葉なのに。
「?」
「あっ…えと…
冗談はよして、シフォン。」
ううん、冗談じゃないかもしれない。以前会った彼は、自分で言うのはなんだけれど、私に好意を持っていてくれた。
今はわからないけれど。
でも、そう答えなければならない。私は、恋愛とかそういうものはしてはいけないの。
だって…
「冗談ではありません。私は、貴女に出会った頃からずっと、今の今まで思って来たんです。その気持ちが、再び貴女に出会うことによって抑え切れなくなった…」
「シフォン…」
「…私のことを、考えておいて下さい。」
シフォンがあまりにも真剣な顔で言うから、冗談で済まなくなってしまった。
ううん、こういう気持ち、本当は冗談で済ましてしまってはいけないのよね。
「はい…わかりました…。」
消えそうなくらい小さな声で答える。すると、彼は顔を輝かせて笑った。
その笑顔を見て、私の胸は痛んだ。
「!」
遠くからクロエに呼ばれる。もう一度彼の顔を見上げると、「行きましょう。」と言い連れ立ってクロエとヴァイシスの元へ走った。
「二人でどこへ行っていたんだ?」
上機嫌なクロエ。ヴァイシスが何か言ったのかしらと思って甥を見ると、彼は苦笑い。
彼らの話はうまく噛み合わなかったみたいね。
「ええ、巨大風穴に。」
「遺跡観光かぁ。に案内してもらえるなんていいねぇ。」
ヴァイシスが厭味を言う。するとシフォンは真面目に「そうですね。」と答えた。
「…厭味だったのにさ。」
「えっ…そうなんですか?」
シフォンは驚くと恥ずかしそうに肩を竦めた。
「彼は真面目なのだから、ヴァイシスの厭味なんてわからないのよ!」と甥を叩くと、シフォンはますます恐縮してしまった。
「あなた達も仲良くしていたみたいね。」
「ち…違う!」
何気なく言ったつもりなのに、クロエが反応する。
彼女は大きく否定すると、顔を真っ赤にした。
反応し過ぎよ。
心の中で突っ込む。
どうやらヴァイシスと二人きりでいるより私にそういう話をされる方が恥ずかしいみたい。
「クロエ殿、違うの…?」
「えっあっ…違わない!」
どっちなのかしら。
シフォンはくすくす笑うと、クロエの肩をぽんぽんと叩いた。
「大人になったね、クロエ。」
「あっ…はい。もう17です。」
「そっか…。クロエも勇ましくなった。」
「も…?」
クロエが不思議そうにシフォンを見返す。彼はくすくす笑って私を見た。
「は十分女性らしい…」
「クロエも女性らしいよ。
…随分色々あったようだしね。」
「…はい…」
シフォンはクロエの両親のことを言っているのだろう。彼はその後の彼女の頑張りも知っているはず。
「でも、信頼出来る仲間が出来てよかった。私も安心だよ。」
「ありがとう、シフォン兄様。」
クロエは目を細めて微笑む。シフォンは満足そうに頷いた。
「シフォンにとっては、クロエも妹みたいなものなのね。」
「そうですね。クロエも可愛い妹です。」
「安心した〜!」
シフォンの宣言を聞いてヴァイシスは胸を撫で下ろす。万が一の事もあるのではないかと心配していたみたいね。
「で、シフォンは争奪戦に参加するつもりなの?」
ヴァイシスはシフォンに言った。すると彼は茶色の髪をさらりと流して笑う。
「俺はシフォンに一票だな。」
「ありがとうございます、ヴァイシス様。」
「でも金髪には注意しろよ。あいつだけは一緒に住んでるからな。」
甥はシフォンに詰め寄った。
金髪ってワルターのこと……一緒に住んでいるって、私?
「ちょっ…ヴァイシス!それ私のこと?」
「金髪と住んでる何てしかいないだろ!」
シフォンは驚き顔を私に向ける。
そして、
「恋人、じゃないですよね?」
と少し恐い顔で聞いてきた。そんなシフォンを見たことなかったから、私は簡単にワルターとの関係を説明する。
「それなら成り行き上仕方ないですね。」
彼はそれを聞いてホッとしたようだった。
「はは…ヴァイシス殿は一緒に住むと駄々をこねたのに、シフォン兄様は大人ですね。」
「クロエ殿〜!!」
大笑いするクロエに、ヴァイシスは苦笑いするばかりだった。
そんな中、シフォンは私にウィンクするので、私はもじもじするしかなかったの。
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シフォンもヒロイン争奪戦に参加!(笑)
2007/11/4 (訂正2008/01/13)
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