「レディースアーンドジェントルメーン!!これから闘技場のオープニングセレモニーが始まりまーす!!」
リングの周囲の観客が一斉に騒ぎ出す。
「大丈夫でしょうか。」
「大丈夫よ。」
心配そうに呟くシャーリィに、即答する。
「さんは全然心配してないんですか?」
「全然ではないけど、大丈夫。」
少しは心配だけれど、鍛練もちゃんとしていたみたいだし、大丈夫でしょう。
「では、魔物のご登場!!」
と出て来たのはモーゼス。
…モーゼスが魔物?
「なんかあの魔物見たことあるみたい…。」
「ああ。」
「魔物なワケあるか!…この娘っこどもわぁ!
じゃが、ワレは誰なんじゃ?」
モーゼスは構えるヴァイシスに問う。
ヴァイシスはニヤリと笑うと、私を指差した。
「の家族だよ。」
「何!?の家族じゃと!ほんならワイの家族でもあるんじゃな?」
「え!?」
モーゼスはそう言うと、ヴァイシスに向かって行った。
…武器も構えず向かって、何するつもりなのかしら。
「はワイの嫁になる娘なんじゃーっ!!だからワレもか…」
そしてこう叫ぶ。
「……」
「リングの上でモーすけが告ってるよ?」
ノーマが私に改めて言う。
クロエはそんな私とリングの上のヴァイシスを見ながら、
「あれは逆効果なんじゃないか?」
と言った。
ヴァイシスの顔を見ると、モーゼスを睨みつけている。
「!!…」
「…なんじゃ?何で睨むんじゃ?」
「…ブツブツ…」
「?」
「……ファイアーウォール!!」
ドオゥンッ
モーゼスの目の前に炎の壁が現れた。
「のわっ…何するんじゃ!?」
「…さない…。」
「?」
「はお前に渡さない!!」
ヴァイシスは剣を抜こうとしている。
あわわ、クロエが言った通り本当に逆効果。
モーゼスが危ないかもしれないわ。
「モーゼスさ〜ん、死んじゃってくださ〜い!」
観客席からエール?も聞こえるし。
って、今のはエールじゃないわよね。
それに声はジェイっぽかったし。
ああっヴァイシスが剣の柄に手を…危ないわ!
「モーゼス、逃げてっ」
「何言っとるんじゃ、?」
「だから、逃げ…」
私の叫びに、ヴァイシスの方が反応した。
彼は剣を抜くのをやめると、体のバネを利かせてモーゼスに体当たりする。
ドーン!!
モーゼスは不意打ちを食らい、そのまま仰向けに倒れる。
ヴァイシスは彼のお腹に片足を乗せると、体を押さえ付けた。
「俺の勝ちっ!、クロエ殿、見たかい?」
「ああ。やはりヴァイシス殿は凄いな。」
「クロエ、褒めすぎだわ。」
「そうか?」
私は呆れて溜息をつく。
クロエったら、ヴァイシスを褒めるなんて駄目じゃない。
それじゃセネルをシャーリィに取られてしまうわよ。
…なんて言いたいけれど、二人を同じくらい応援したいし何も言えないわ。
ヴァイシスは檻から出ると、私達の前にずるずるとモーゼスを引っ張って来た。
「良かった、モーゼスが無事で。」
「があそこで叫ばなかったら、切り刻んでたよ。」
ヴァイシスはカラカラと笑った。
そんな彼を見て、セネルは肩を震わす。
「怖いこと言うな。」
「が…になるとか言うからさ。頭に一気に血が上ったよ。セネルも気をつけてくれたまえ。」
「……危ない奴だな。」
「絡みだとよくそう言われる。でも…今切り刻みたいのはこんな赤毛の半裸じゃなくて、金髪の胸糞悪い男だけどな。」
「……そいつなら殺っちゃってもいいぞ。」
「セネル!」
「お兄ちゃん!」
セネルの発言に、私とシャーリィが膨れる。
彼は少し困った顔をすると、「なんでもない。」と言った。
「モーすけ伸びてんね。」
「貴方も気が良いですね。殺っちゃっても良かったんですけど?」
観客席から声がしたかと思うと、ジェイが現れる。
「ジェイ!」
「こんにちは、皆さん。」
「あら、やっぱりジェイだったのね。」
「さんは僕のモーゼスさんへのエールを聞き分けてくれたんですか。嬉しいですね。」
ジェイは意地悪な微笑みを浮かべる。
ヴァイシスはジェイをちらっと見ると、溜息をついた。
「ここにもか。」
「何がここにもなの?」
「が関係する話だよ。」
「?」
ヴァイシスは再び溜息をつく。
「俺はヴァイシスだ。」
「僕はジェイです。宜しくお願いしますよ、王子。」
「…ここではそういうのは止めてくれるかい?」
「さんのためですか?」
「当たり前だろう。」
彼らはお互いにこにこと喋る。
「なんだか視線がバチバチいってる気がするけどー?」
「あら、こんなに仲良さそうじゃない?」
「ちゃんは平和だなー。」
「当事者のみ知らずだな。」
「ホントです。」
ノーマだけではなく、クロエやシャーリィにも言われてしまう。
私、何か抜けたこと言った?
「ところでモーゼスさん、いつまで寝てるんですか?」
「…ジェー坊はうるさいのぅ。
ヴァの字、ワレのへの愛を感じたわ。」
「ヴァの字?」
「気にしなくていいですよ。この人は勝手に人の名前を変化させて呼ぶんです。」
「そうか。モーゼスとやら、あそこでに告白するとは良い度胸だった。俺は関心し過ぎて殺してしまうところだったよ。」
「…ヴァの字は恐いのう。」
モーゼスはさっきのセネルと同じように肩を震わす。
ヴァイシスはそれを見て口を開けて笑う。
「そういうとこはヴァーツラフ兄様に似ているわ。」
「叔父上と一緒にしないでよ。嫌だ。」
「でも、似ているんですもの。」
ヴァイシスは頬を膨らませると、そっぽを向いた。
「さて、グー姉さん以外揃ったわけだし、ウィルっちの家に向かいますか!」
『おー!!』
私達はそのまま、ぞろぞろと階段を上って行った。
皆だけじゃない、ヴァイシスもいる。
私、とっても幸せ過ぎるかもしれないわね!!
「ジェイは何故あそこにいたの?」
「ああ、街を歩いていたら皆さんが見えて、後を付けさせていただきました。」
ジェイは営業スマイルを出す。
「声かければいいじゃ〜ん!」
「いえ、御蔭でモーゼスさんがコテンパンにやられるという楽しい思いをさせていただきましたから。
でも、ヴァイシスさんの剣技が見られなかったのが残念です。僕はこの遺跡船で、自分の知らないことがあるのが嫌なんですよ。どのぐらいお強いのか見てみたいですね。」
ヴァイシスはフと笑うと、「そのうちな。」と言う。
あらあら、仲の良いこと。
宿屋を出てウィルの家に向かう。
外は相変わらず晴れていて気候も少し暑い。
でもこんなのクルザンドに比べたらまだ涼しいものだわ。
そしてあそこと違って砂も飛んでこないしね。
「ウィル殿はどんな人だ?」
「え、そうだな…堅物…かな。」
ヴァイシスの問いにセネルが答える。
ヴァイシスは返答に笑うと、ウィルを頭の中で想像し始めた。
…あのしかめ面、何を考えてるかすぐわかるわね。
絶対ヴァル兄様を思い出しているわ。
ヴァイシスにとって兄様は、堅物な父親だものね。
「着いたー!!…ってあそこにおわすはグー姉さん?」
「本当だわ。何をやっているんでしょう?」
グリューネはウィルの家の花壇に何かを植えているよう。
私は皆を置いてとことこ彼女の横に行くと、声を掛けてみた。
「グリューネ、こんにちわ。」
「あらちゃん、こんにちは。」
いつものほわわんとした態度で笑ってくれる。
「何をしているの?」
「セルシウスちゃんの種を撒いているのよ。」
「ああ、あの声の種……」
彼女はそう言うと歌を歌い出す。
私は笑いながら皆を見た。
「どうしようもなさそう。」と伝えるかのようにね。
「さて入るか。」
「ええ、そうね。」
皆はグリューネに声を掛けるのを止めて、そのままぞろぞろと家の中に入って行った。
そんな皆の後を、彼女は一緒について入る。
「遅かったな…。
お前達一緒だったのか?」
ウィルは目を見開くと、私達を見回した。
そして見掛けない顔、ヴァイシスで視線を止める。
「その青年は誰だ?」
「俺は…」
私はヴァイシスの腕を引っ張ると目を細めて見る。
だって、また変な事言われたら適わないでしょう?
「この少年は、私の甥です。」
「甥……。少年?そんな歳には見えんが…。」
「この子は十五歳ですもの、少年で十分ですわ。」
「ちょ…!」
私の言葉にウィルは一瞬止まる。
そしてヴァイシスを訝しげに見た。
「十五には見えないじゃろ!」
「モーすけだって頭以外は十七には見えないんじゃん?ぷくく…」
「一言多いんじゃ、シャボン娘!」
「僕より歳下だって言うんですか?」
「…そうみたいだね。」
ヴァイシスは膨れっ面をすると、腕を組んだ。
「まあ、確かにイシーのちゃんへの嫉妬の仕方とか考えると十五歳並かも。」
「イシー……って、俺のことかな?
うんうん。確かに君が言うことは本当だ。」
「あたしはノーマ。宜しくっ、イシー!」
二人が仲良くなったことで、ヴァイシスにちゃんと皆の紹介をしていないのを思い出す。
皆の紹介を簡単に済ませると、私達はソファーに座った。
あまりにも人数が多くてぎゅうぎゅうになってしまう。
「それにしても、みんなたくさんになったわねぇ〜。」
「皆たくさん?……ああ、仲間が多くなったってことですか?」
「そうそう。お姉さん嬉しいわ〜。」
「グー姉さんにかかれば、なんでも嬉しい事になっちゃうんだねぇ。」
グリューネのほんわかさに漂いながら、私達は久々の仲間全員プラスαで楽しい話をし始めた。
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あと一話で序奏が終わりそうです。
皆が集まって嬉しいよう〜。
とか言いながら、ワルターは当分宿屋待機ですかな?
2006/09/25
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