ガッチャン

















その音は部屋の中だけではなく宿中に響き渡った。驚いたノーマは部屋を飛び出し、ちょうど階段を上がって来たヴァイシスと鉢合わせて再び驚く。








「のわ!イシー!」

「ああ、ノーマ。何だ、さっきの音。宿屋ではこの時間にいつも鳴るのか?」

「んなわけないっしょ〜!」









彼らは合流すると、今さっき凄い音を響かせたとワルターの部屋にノックもせずに入る。









ちゃん!」
!」








目の前にいるだろう少女の名前を叫ぶが、二人とも全く違うものを見て唖然とした。









「なんだ貴様ら、ノックもなしに…」









目の前では、ワルターが不機嫌そうに皿の破片を拾っている。









「…なんだ金髪か。」

「…なら、シフォンのところにいる。」

「そ〜なの?それにしてもワルちん、派手にやったねぇ〜。」









ノーマはそう言うと、そこら中に飛び散った破片を集め出した。その場で一人立ち尽くすわけにもいかず、ヴァイシスも拾いだす。









「……すまん。」









ワルターが背中を向けて言った。ヴァイシスとノーマは顔を見合わせると、










「「いーえっ」」










声を合わせてにんまりと答えた。























部屋を片し終わり、拾った破片を宿屋の主人に渡すと、ワルターは眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。
それを見咎めてヴァイシスが声を掛けようとするが、ノーマが止める。









「ワルちん、無理してるでしょ?一回、水の里に帰ったら?」

「いや……大丈夫だ。」

「でもさ、お皿割るなんてワルちんらしくないよ。」

「あれは……勝手に落ちた。」

「嘘つかないでよ〜。今さ、ちゃんと一緒にいるの辛いでしょ?」

「……」









ヴァイシスは何の話だかわからず、二人の会話に聴き入っていた。
しかしノーマの最後の言葉で真相に気付く。









はもしかして、シフォンと付き合いだした?」









その言葉にノーマは頷く、そしてワルターは目を細めた。










「そう……か、それはありうるよな。シフォンはサジェにそっくりだもんな。」

「サジェ?」

ちゃんの婚約者の人だ。カッコイイんでしょ?」










ワルターが訝しむ中、ノーマが話に食いつく。









「そう。マジスゲエんだよ。カッコイイなんて言葉じゃ言い表せなくて…。スラッとしてて、爽やかで妖艶で…クルザンド出身に見えないんだよな。」

「へぇ〜男子から見てもそんなにカッコイイんだ。でもさ、イシーだってスラッとしてんじゃん。」

「俺はガッシリしてきてるだろ?そーいうのがないんだよな〜サジェは。」









ヴァイシスは両手を使ってサジェのスラッと具合を表し、そして前髪を払う。









「へぇ〜、ちゃんとお似合いだっただろうね。」

「今のなら、サジェとかなり似合いだったかも。昔のは可愛いかったからな。」

「今は美人だもんね。」

「そうそう。」









ワルターは二人の会話を聞いて、から詳しく婚約者だった男の話を聞いた事がないことに気付いた。しかし彼女が話さないならば、話したくない理由がたくさんあるのだろう。









「シフォンの見た目は似てないんだけどさ、もってる雰囲気がそっくりなんだ。サジェもああいう感じだったし。」

「そーなんだ。ちゃんは、シフォシフォにそのサジェって人の雰囲気を求めてんのかな〜?」

「……そうかもしれんな。」









ワルターが呟いた。
ノーマはワルターをちらりと見て、彼がそう思い込みたいのだと思った。
がしかし、









「俺も、そうじゃないかと思った。だから安心しろよ、金髪。」









ヴァイシスがそう言ったので驚く。









「イシーがワルちんを慰めた!?」

「う…いや、その。」










ヴァイシス自身もいつもとの違いに気付き吃る。しばらく唸っていたが、本音を言うことにしたようだ。










「シフォンはいい奴だ。オススメな男でもある、けどよくわかんないんだよな…なんだかさ。おかしくなっちゃうくらい金髪がの事好きなら、それでもいいかなって今思えた。」

「ほー、心境の変化ですな〜。」

「ま、そんなとこ。」

「俺はおかしくはない。」










ワルターはヴァイシスの言い方に不機嫌そうにそっぽを向いた。









「……おかしいだろ。皿割ったり、謝ったり…。今だって相当耳赤いぞ?」

「あっほんとだ〜!」









金色の髪を掻き乱し、赤くなった耳を隠そうとするワルターを二人は笑った。










「ところでさ、イシーは何しに来たの?」

「え?に会いに来たんだけどさ。いないんじゃしょうがないな。」

はシフォンのところだ。」

「それは聞いたって。ま、はいいや。今は何だか金髪が放っておけない感じだし。」

「あたしも〜!

じゃあさ、トランプしよトランプ!」

「またか…」

「おっいいね!俺負けないからな!」









ノーマは自分の部屋ごとく、トランプを引き出しから出してきり出した。




ワルターの遠い目を見ながら。
























































、シフォン兄様。」

「やあ、クロエ。」








クロエは噴水広場にいるとシフォンに声を掛けた。
二人はのんびりと座って談笑している。









「二人が付き合い出したってノーマから聞いて。」









クロエはそう言うと、小さなクッキーを取り出す。









「お祝い。」

「まあ!クロエの手作りなのかしら!?」

「ああ。のように上手くはないけどな。」









クロエは俯いて赤くなった。は包みを開けて小さなクッキーを一つつまむ。そしてぱくりと口に含むとサクサクと音を立てて噛んだ。

甘い香ばしさが口の中に充満したと思うと、すとんと腹の中へと落ちていった。素朴な美味しさに舌鼓を打ち、は尊敬の眼差しでクロエを見上げる。









「美味しい!!素晴らしいわクロエ!」

「本当に?今日のは少し自信があったから…よかった。」








再び照れるクロエの目を細めて見つめながら、はもう一つクッキーをつまんだ。
そして







「はい、シフォン。」







シフォンに口を開けさせると、その中へ放り込んだ。








「わっ…」








クロエが真っ赤になるのが視界に入り、やってしまったと思う。しかし取り返しがつくわけでもないので、愛想笑いを浮かべる。
すると、クロエはくすくすと笑った。









「美味しいよ、クロエ。って、お二方とも何故笑っているんですか?」

「なんでもないわ、シフォン。」









がトロンとした甘え顔を見せたので、クロエは少し驚いた。
は誰にもこんな表情をしたことないはずだ。私にだって…ワルターにさえ。
彼女は少なくとも常に緊張したような空気をを持っていた。誰も破れなかったのに。









なのに、シフォン兄様だけが……。

の癒しの場所になったのか…?





















「さて、クロエが来てくれたことだし、私は行きますよ。」









シフォンは立ち上がった。それにつられたようにも立ち上がる。










「ええ、いってらっしゃい。気をつけて。」

「ありがとう、。」









クロエはてっきりシフォンも一緒に行くのだと思っていたので、









「シフォン兄様は別にどこか行かれるのですか?」








と聞いた。するとシフォンは柔らかく微笑んで頷く。









「ちょっと遺跡見学をね。」








クロエが納得すると、シフォンはの手を握って引き寄せ抱きしめた。
そして額に軽いキスをする。
クロエはまたも真っ赤になりつつ二人を見ていた。すると後方から歩いてくるヴァイシスとノーマとワルターの姿を見付ける。その時、ワルターがビクリと反応して目を細めたのに気付いたが、一緒にいる二人は気付いていない様だ。









「あら、みんなも声をかけられたみたいね。ウィルったら大袈裟なのだから。」








三人にも気付き、前の二人はくすくす笑いながら手を振っている。










「可愛い娘さんの事なんだから、そういう言い方をするものではないですよ?」









の笑いをシフォンは窘めた。すると、彼女は舌をペロリと出してウィンクする。









「さ、いってらっしゃいませ、。お気をつけて。」

「ありがとう、シフォン。」










「…本当に付き合ってるんだな。」










ふわりとした雰囲気を醸し出す二人を見ながら、クロエが小さく呟いた。


















































私達はいつものメンバーで集まってダクトに乗ると、ひとっとびでその場に到着した。ダクトがぎゅうぎゅう詰めでとても狭く感じたのは、グリューネの一言で理解する。









「今日は珍しくワルターちゃんも一緒なのねぇ。」

「ああ。」









いつものメンバーにプラスしてワルターがいるのに気付く。調べ物に忙しかった彼がいるなんて珍しい。皆と少し離れて歩く彼にグリューネがくっついてにこにこしていた。











「お姉さん、嬉しいわぁ。」

「/////」










ワルターは突然話し掛けられたにも関わらず、普通に返事をしていたけれど、嬉しいなんて言われて照れてしまっている。
顔が赤い。

彼はどんどん変わってきている。ああやって、表情が豊かになっていくのを見るのは爽快ね。











「ワルちんが照れた〜!」
「金髪が照れたー。」










それを見て面白そうに言うノーマと、面白くなさそうに言うヴァイシス。うざったそうに二人を払いのけるワルターと一瞬目が合った。けれど彼は何も言わずに目を細めただけだった。


そぞろと私の前を歩く皆。微妙な距離を隔てて向こうを歩くワルター。今日はとても人数が多くて、この言葉は不謹慎だけれども楽しいわよね。









「そういえばさん、シフォンさんとよく会ってるんですか?」









シャーリィがミーハーさながら聞いてくる。ドキドキしてしまうと共に、聞かれて嬉しい自分がいることに恥ずかしく思う。私は顔を赤くすると思わず俯いてしまった。









「あ…えと…」









シャーリィは期待に満ちた瞳をキラキラさせ、ドキドキと胸を高まらせながら私を見ているだろう。
この雰囲気は言わなければならないという気持ちにさせられてしまう。
私は少し身を引くと、身体を縮めてゴクリと唾を飲んだ。









「つ…付き合うことになったの。」









ボソリと言うと、誰も何も聞こえなかったように無言だった。
あまりにも誰も言葉を発しなかったので、心配になって顔を上げる。
すると、視界に入って来たのは皆(そのことを知ってワルターとノーマとクロエ以外のね)の止まっている姿。

















首を傾げると、せき切ったようにシャーリィが乗り出した。










「本当ですかっ!?」

「え…ええ…。」

「でも、ワルターさんは…?」

「え、ワルター?何故?」

「何故って…」









シャーリィはゆっくりワルターの方を見る。彼は無表情で私達を見つめていたけれども、シャーリィが見つめると目を逸らした。









「ワルターさん…。

さんが幸せならよかったです。私、羨ましいです!」









シャーリィはにっこりと笑ってくれた。彼女が本当に嬉しそうに笑ってくれるので、私も嬉しくなる。









「ワルター、どういう事だ!?」

「ワの字、説明するんじゃ!」

「僕の情報にはそんな話ありませんでしたよ。」









男の子達はこぞってワルターに飛び掛かっている。ワルターは依然無表情で、「聞いた通りだ。」と答えていた。










「俺が聞いた時はが金髪とじゃなくてホッとしたんだよなぁ。」

「「「ヴァイシス!!!」」」

「イシーってば。」

「あ、マズイ。大丈夫か、金髪?」











ノーマがワルターの腕を引っ張った。ヴァイシスもそれを気遣う。
ヴァイシスがワルターを気遣うなんて、珍しいこと。










「何だ?」

「何だじゃないよ。柱にぶつかるし。」

「……」










ワルターはぶつかる寸前だった柱を今気付いたかの様に見た。そしてヒョイと避けると、先頭を歩き出す。










「大丈夫かよ…」










ヴァイシスがワルターの元へ走って行く。今まで嫌っていたはずなのに、ここ何日かでそれがなくなったのかと思うと、変な感じがした。
あの二人が仲良くなるようなどんな大事件があったのかしらね。










「協力なスポンサーを見付けましたね、ワルターさんは。」









ジェイが歩きだし際にこんなことを言っていたのが少し気になってしまった。












































「散沙雨!」










ヴァイシスがワルターを庇って…というかどついて?隠れていた魔物にいち早く反応し剣を繰り出す。
甥は二刀流のはずなのに、沙雨系の突き攻撃の時は一刀なのね、なんて思っていたらクロエも同じ事を思ったみたい。彼女は自分も剣を構えながら聞いた。









「ヴァイシス殿、沙雨系は一刀なのか?

はっ!」

「よっ、はぁっ!!

うん。想像してみて、俺が二刀で散沙雨してるとこ。」









二人が剣を繰り出しながらも会話しているなんて、とてもインパクトあるわね。
セネルとクロエのコンビもよかったけれど、ヴァイシスとクロエのコンビも向かうところ敵なしみたい。










「……。」










クロエはヴァイシスの言葉に想像を廻らせた。
すると、眉間に皺を寄せる。










「ね、かっこよくないだろ?」

「…うん…////」









あらあら、クロエが赤くなってる。かっこよいとかよくないとかそういう問題なのかしら?









「あっ…」









そんな会話に後ろから侵入しようとする魔物が!!二人共気付いてないわ!









「やあっ…」









そう思って放った矢がヴァイシスのすれすれで魔物に刺さる。
それが致命傷で魔物は倒れたけれど、刺さるすれすれだったヴァイシスは目を丸くした後、茹蛸みたいに顔を赤くして怒り心頭に私の方へ来た。









「のろけ娘!!!危ないだろ!」

「のろけ娘…?」









最初何のことを言っているかわからなかったのだけれども、










「浮ついた気持ちだからあんな矢になるんだ!今日は戦うな!役立たず!お騒がせ娘!」









と強い口調で言われてしまった。









「は…はい。」










頷くしか出来なかったのだけれど、最後に言われたお騒がせ娘というのがよくわからなかった。
それと、ヴァイシスそう強く言われてしまったのもショックだった。きっと甥が言う通り、本当に浮ついた気持ちがあったのからかしらね。









「リザレクション!

…本当にいいんだよね?シフォシフォで。ちゃん。」









ノーマが男の子達にブレスを掛けながら聞く。私が間を開けずに頷いたものだから彼女は複雑そうな顔をした。








何故そんな顔をするの?ノーマ。










「素晴らしいことじゃないですか、ノーマさん!」











シャーリィが言うけれど、ノーマは複雑そうなまま。
それにあろうことか、









「リッちゃんはいいよ、セネセネのライバル減るから嬉しいだろうし。」








こんなことを言ってしまった。
シャーリィは顔を赤くしてモシモジと引き下がってしまって…きっと図星だったからだろうけれど…ノーマは気にせずに言葉を続ける。









「あたしはね、ひそかにワルちんとの仲を応援してたワケ。でもまあ、この前言ったようにちゃんが幸せならいいと思う。皆との関係も崩れないし。」

「何故、皆との関係が崩れてしまうの?」










ノーマの言葉に疑問が浮かんで聞いてみる。私がシフォンを好きだと、今までの関係は崩れてしまうものなのかしら。










「変わるよ〜。ちゃんは変わってないつもりだろうけど、みんなちゃんとシフォシフォに気を遣ってるんだよ!ワルちんなんて…」

「あったぞ!!」











ノーマの声を遮るウィルの声。振り返ると、彼は嬉しそうに薬草を摘んでいた。










「これでハリエットが助かる!」

「大袈裟じゃろ。」

「モーゼスさんに賛同したくはないですけど、僕もそう思います。」










ウィルの反応を見て、モーゼスとジェイがぶつくさ言う。
留めにセネルが、








「ハリエットはただの風邪だろ。」







と無邪気に言った。








数秒後、三人の頭にはこぶが出来ていて可笑しかった。くすくすと笑っているとノーマが頬を膨らませてジロリと睨んだ。










ちゃん、笑ってる場合じゃないよ〜。」

「どうして?」

「どうして?じゃな〜い!!!も〜、お騒がせ娘〜!」









ノーマはヴァイシスと同じ事を言って呆れてしまう。お騒がせなノーマに言われたくはなかったけれども、言い返すのはやめておいた。だって、隣ではシャーリィがにこにこして、その隣ではグリューネがにこにこし
ているのだもの。そんな中で言い合うなんておかしいじゃないの。だから、








「ごめんなさい、ノーマ。」








謝ってみた。

すると、









「だ〜も〜、謝るな〜!」







おかと違いだったみたいで、地団駄踏み出してしまった。













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ボケッとしたワルターのフォローにノーマとヴァイシスがまわってます(笑)なんか珍し…♪
ちょっとダメになっちゃうワルターを書きたかったのでした☆


2008/02/07





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