いつか終わる日があるとわかっていたとしても、それがいつだなんて誰にもわからない。
変な力を持っている私にだってわからないというのに、他の誰がわかるというの?










神?

そう、神様…

そうね……










仲間達との関係が変わってしまうとノーマに言われた時、私はドキリとしてしまった。

だって、かつてそういう事があったでしょう?
私は覚えているわ。










それは…全てを話さずに隠していた私が悪い。それに、兄を自分の手で葬る妹なんてこの世に数人いるかいないか。もしかしたら私くらいかもしれない。
そんな人が近くに居たらどう?仲間だと言える?

あんなに大好きで、ずっとずっと一緒にいたヴァーツラフ兄様。私と愛する故郷クルザンド、そして自分の誇りを守った兄様。
それを継いだ私。

いくつかは甥のヴァイシスに任せてしまったけれども、私が愛する故郷を守ることは変わらない。もう、戻る事がないかもしれないクルザンドの王女である誇りも忘れていない。


私はクルザンドの・ボラドから、ここに来て遺跡船の流浪人に変わったけれども、中身は何も変わっていない。
考え方も志も何もかも。
サジェと願った平和も、一生私の願いであり続ける。










仲間達は今や私の内情を知りつつも、仲間として認めてくれている。










いつか終わるとしたら………仲間との関係ではなく、シフォンとの関係なのだろう。
それはシフォンが暗殺者だとわかってしまったあの時と同じように、ストンと心に落ちて理解してしまっている事柄だった。









いつその関係が終わるかなんてわからない。
今日でも、明日でも、一年後であるかもしれない。
出来るだけ長く…って願っているわ。









でも、でもね…









その傾向は今日から始まっていたの。
…いえ、今日からというのは実際は違うわね。最初から、が正しいわ。
私達が内海港で会った時から、ううん、クルザンドで出会った時から。









もっともっと前からかもしれない。誰かが全ての運命を握り、動かしているのかもしれない。

そう思うと怖いわね。
そうしてしまうと私達みんな、その誰かに動かされる駒になるためだけに生まれてきたことになってしまうもの。









考えるのはやめましょう。
私は今を、精一杯生きているのですから。



























































、大丈夫か?」








いつの間にかセネルが横にいた。彼の歩調はもう少し早いはずだから、私に合わせてくれているのでしょう。








「心配されること、あったかしら?」

「……いや、この前悩んでたからさ。でもよかったな、シフォンに思いが通じて。」








セネルは寂しそうに言った。








「…私の思いが通じたかはわからないの。」

「え?」








ボソリと呟くと、セネルは素っ頓狂な返事をした。にっこり笑って見せると、頭をくしゃくしゃと撫でられる。











「いいのかよそんなんで…。俺、納得出来ない。」

「そんなこと言わないで。私がシフォンの傍に居たいと思ったのだから。」

…」











セネルに詳しい事は話せない。セネルだけではなく他のみんなにも。
今話せば、私はシフォンの傍にいられなくなってしまう。










「大丈夫、その時が来るまで…」

「その…時…?」










セネルが不思議そうに呟いた時、ウェルテスの入口が騒がしいのが目に入った。










「大変だーっ!!!」










街に着くと、辺りは騒然としていた。
私達は入り口付近で何かに群がっている人だかりを見つける。そこから街人が一人、ウィルの姿を見つけて駆けて来た。









「一体どうしたんだ?」

「それが、若い男が魔物にやられたらしく傷だらけで…今、オルコットさんに見てもらってるんですが。」








男は大きなお腹を揺らして息をつぎ、人だかりの中心辺りを指差す。
そこにしゃがみ込むオルコットお姿が見えた気がした。









「怪我の具合はどうなんだ?」

「全身に無数の傷があって…かなり酷い状態です。」

「そうか。一体、何が起こたのだ…?」









ウィルが顎に手を当てて考え出す。最近は凶暴な魔物が出たという報告は受けていないから私達にも何が起こったかなんて分からない。









「……それが、若い男も簡単にやられるような雰囲気ではないんです。」

「なんだって?」

「そこらの観光者や商人と違って、帯剣してるんですよウィルさん。」

「帯剣だと?遺跡船には今、凶暴な魔物は少ないはずだ。……また、新たに現れたのか?」

「……帯剣……」








その時、とても嫌な予感がしたの。
よくわからないけれど、悪寒がして、胸が苦しくなって…








「…」

?」








ヴァイシスの手が私の肩に触れたか触れないかという時、私は人だかりに向かって走り出した。









「ちょ!…」

「…俺達も行くぞ…」

「!…なんで金髪がウィルの言葉取るんだよ…」








異変にいち早く気付いたのか、ワルターが私の後に続いて皆を連れてくる。
ウィルも、街人の男性も駆ける。









「ウィル、ハリエットはいいのか?」

「…ああ。ハリエットはただの風邪だからな。」








ウィルも手に持っていた薬草を袋に突っ込んだ。

































「オルコット殿!オルコッ…ト!」

君!?

皆さん、道を開けて下さい…!」










私達に事態を知らせてくれた男性がオルコット殿がいるのを教えてくれたので、彼の名前を呼ぶ。すると彼も気付いてくれて私に道を開けるように人々に頼んでくれた。



ザッと開かれた道を駆け抜けると、そこにはオルコットがいて…






……
















「シフォン!!!」









傷だらけのシフォンが横たわっていた。
ぼろぼろの体に駆け寄って彼の顔を覗く。








「ああ…シフォン…」








彼は小さく唸ると、うっすら目を開ける。
そして私を見上げると微笑む。









…?すみま…せん……」

「大丈夫?すぐ病院に…」








胸が何かに圧迫されて、苦しくて苦しくてしょうがなかった。
涙が出そうになったけれど、彼の微笑を見て我慢するしかなかった。








どうして、こんなことに?








私の後ろに仲間達が集まり、シャーリィとノーマが息を飲んで口に手を当てる。
クロエは目を開いて私と同じ様にシフォンの顔を覗き込んだ。








「何が起きたんだ…?」

「酷いやられようだ。病院に運ぶぞ!」








男の子達は運ばれてきた担架でシフォンの体をゆっくり持ち上げると、病院へと向かって歩き出す。







私達は終始無言だったけれど、みんなの視線は私に注がれていた。
きっと私が泣き出したりしないか見守ってくれてたのでしょう。






少し歩く度に街の人はちらほらと去り、病院に着く頃には私達だけになる。







さん…」







シャーリィが手をしっかと握り締めてくれる。私は弱々しく握り返すと、そのままシフォンが運ばれた病室へと足を踏み入れた。








君…、君の知り合いなのか?」

「え、ええ…」







お医者様たちが彼の容態を確認する中、オルコットが私に声を掛けてきた。
私は彼にシフォンをよく見るように目配せをする。オルコットは彼の顔をじっと覗き込む。
そしてしばらく見つめた後にハッと顔を上げた。








「彼は…!」








オルコットも思い出した様だった。あの時トリプルカイツにいたオルコットは、シフォンに一度会っている。









「そうなのです。私の大切な人…。」

「…彼を、彼とその妹をガドリアまで送り届けたのは私だ。…よく覚えている。」









オルコットは小さく呟いた。
目を閉じて懐かしそうにそれを思い出し、そして優しい顔でシフォンを見下ろす。









「周囲に気配りの出来る素晴らしい若者だと思ったよ。そして妹想いだ。」

「ええ…。致命傷はないから、命には別条ないでしょう?」

「そうだね。無数の傷があるがブレスで回復すれば大丈夫そうだ。…薬を持ってくるよ。」









オルコットは仲間達に軽く頭を下げて部屋を出た。ウィルとノーマとシャーリィがブレスをかけてくれて、何とか傷は残らず大丈夫そう。
皆がいてくれてよかったわ。薬だけなら危なかったかもしれない。









「みんな、ありがとう。」








私が微笑むと、皆を纏っていた緊張した雰囲気がなくなった。
ほらね、皆は私を気遣っていてくれたの。

仲間達の中からウィルが出てきて私の肩に手を置いた。









「いや…。、お前はここに残るだろう?」

「ええ。彼が目を覚ますまでここにいるつもりです。」

「俺達はロビーにいる。」

「ウィル…」









ウィルがそう言って皆を部屋から出そうとしたので、ハリエットの事は大丈夫なのかと呼び止める。
そうしたら、







「そうか、忘れていた。」







なんて言うのよ。
困ったお父さんだわ。








「薬、調合しますから。」








私は彼から薬草を貰うと、部屋を出る。








「みんな、シフォンのことお願いね。」








そして静かにドアを閉めた。










































、大丈夫だろうか?」

「相当戸惑っているみたいだね。」








ボソリと呟いたクロエの言葉にヴァイシスはニヤリと笑う。
そして心配そうに微かに傷跡が残るシフォンの顔を見下ろした。








が?あんなに冷静なのに?」

「うん。はパニクると冷静になっちゃうんだよ。」

「そうなのか…。」

「俺がこうなったら、クロエ殿は心配してくれる?」








ヴァイシスは突然真面目な表情になると、クロエの手をとってキザったらしくキスをする。








「!!!」








クロエは真っ赤になりながらセネルをちらりちらりと見ている。
ヴァイシスはそれに気付くと、「あーあ。」と肩を落とした。









「何冗談にもならない事を言ってるんですか。

あなた、こんなところでうろうろしているといつこうなるかわからないですよ!」









ジェイにそう言われて悪い気がしないヴァイシスは、「どーもどーも」などと言っている。









「いつでも殺って下さいっていう状態なのに、何で国に帰さないのか。ミュゼットさんの考えはわかりませんよ。」









わざとらしく溜め息を吐くジェイ。笑いながらシフォンを見つめるヴァイシス。
彼はじっと傷跡だけを見つめている。








「ヴァイシスさんも変だと思いますか?」

「ああ。これって、魔物の傷?」

「はい…それですよね。」








腕を組んで目を細めるジェイにモーゼスが聞く。









「違うんか?」









モーゼスの後ろからセネルが手を出す。そしてシフォンの傷跡を一撫でして唸る。









「これは魔物じゃない気がする。どっちかって言うと…」

「はい…。」








セネルもジェイもヴァイシスも、揚句にモーゼスまでシフォンの傷跡をぺたぺた触り出した。
その時、








「ウィル、調合でき…

ああっ!!」








間が悪く、が入って来てしまったのだ。









「何をしているの!!!傷が化膿したらどうするのよ!」









はすごい剣幕で怒ると、自分以外の人間を部屋から追い出してしまった。









「もう!酷いのだから!」









そして、自分の手の中にハリエットのために調合した薬があるのに気付く。
渡し忘れてしまったのだ。









「あらいけない…」








は急いで部屋飛び出すと、軽やかに階段を下り始めた。
途中まで進んだ時、下から聞き慣れた二人の話し声が聞こえる。









「あれは刃物で付いた傷ですね。」

「やっぱりな…」








ジェイとヴァイシスの話の内容がわかると、足がピタリと止まった。









シフォンの傷の事……?








彼女はキシと小さな音を立てて手摺りに寄り掛かると、その場に留まって会話の続きを待った。









「半殺しの様なものですね。あれはプロの仕業です。」

「何か脅されているのか…。シフォンは一体何を隠しているんだ?」

「…あなたの暗殺かもしれませんね。」









ジェイはくすりと笑うと階段の上にいるに気付く。









「あなた、いやさんも含めてあなた達ですかね。」

?あ…」









ヴァイシスもに気付いて手を振る。
今度こそ階段を軽やかに下りきったはジェイに向かって立った。









「刀傷なの?あれは…」

「鋭いさんなら、見ただけで気付いたと思いましたよ。」









ニヤリと笑う彼に腹が立ち、はキッと睨む。









「ふざけないで。」

「……あれは、100%刀で故意的に付けられたものです。

シフォンさんには、あまり近づかない方がいいと思いますけどね。」









ジェイはの後ろ、階段上のシフォンの部屋を見て言う。








「それは、仲間として?好きな女の子を心配する男の子として?」








突然場違いな質問をするヴァイシスをちらりと見て、








「どっちもですよ。」







ジェイはさらりと言うと踵を返し、ヴァイシスと共に病院を出て行った。











刀傷…

一体誰にそんなこと…










「!!」










もしかして、暗殺者であるシフォンが私に手をかけようとしないから?
だから、他の暗殺者に促されるように傷つけられたのでは?



絶対、そうだわ……。






は辛そうに顔を歪めた。そして階段上を見上げる。










シフォンが私を暗殺する気になるまで…

「私達をそっとしておいてはくれないのね。」









目を閉じてその重い気持ちを奥底に閉じ込めると、は気を取り直してシフォンの病室へ戻った。










***********

正体不明の輩にやられたシフォン。ヒロインは困惑しています。

2008/11/27(訂正2008/02/09)





113へ