シフォン…
シフォン…
私が立つ大地の、遥か上空に光が差した。そこから聞こえる君の声は、救いの声だと思った。
君は愛する方に会っただろうに、まだ……私の名を呼んでくれるのか。
躊躇いも無く手を伸ばすと、温かな光に包まれて彼女のいる元の世界へ戻された。
「シフォン…」
「…、会えましたか?」
「ええ…」
意識を取り戻して初めに見たのは君の笑顔。嬉しそうに笑う君は、幸せそのものだ。
君が笑えば、私の心は躍る。この辛くも苦しい状況でも、自分がこの上ない幸せを掴んだことがわかるんだ。
「私は一度、病で死にました。しかし彼のお蔭でここまで来れた……」
「サジェも、貴方のお蔭でここまで来たの。お互い様だわ。」
「そうですね。私達は、運命共同体だったのです。
でも、それも今終わります。私は、今度こそ逝かなければなりません。」
「シフォン…」
私にはもう殆ど、体を動かす力はなかった。それでも、消える前に少しでも触れようと思い彼女へ手を伸ばす。
はそれに気付き、私の手を握った。
「ありがとう、。
良い夢を見た気がします。」
「夢ではないわ、シフォン。現実よ。
私達はお互いを想い合い、お付き合いしたの。何一つ夢ではなかったわ。」
「…」
「それでも、貴方は夢だったと言うの?」
は怒っている様な口調だったが、実際は怒ってなどいなかった。
くすくすと、からかう様に優しく笑っている。
「夢ではありませんね。私は、こんなに幸せです。
は、サレイジェ殿から心の欠片を返して貰いましたか?」
「ええ。だから私は、こんなにもシフォンを好きなの。」
「……」
嬉しさで胸がいっぱいだった。
はち切れん程の幸せで、私はもう転生などせずにこのまま消えてしまってもいいと思った。
「シフォン…透けて…」
の言葉に自分の指先を見る。すると向こう側が透けて見えるくらいに体が消えていた。
「シフォンも、行ってしまうのね。」
「ええ。貴女は、貴女の運命を果たして下さい。
そして、今度は敵味方などなく出会えるように、戦争の無い平和な世界を…」
「……わかったわ、シフォン。約束する。」
「ずっと、好きです。これからも、ずっと…」
「ええ、ええ!私もよ…。」
私の体はもう殆ど実体を残していなかった。
けれど、自身が消えてしまうまではのことが気がかりで…
「クロエ、皆さん、をお願いします。
そして、ワルター君…」
「…なんだ?」
「私のために辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。…を頼みます。」
「ああ…わかった。」
彼の返事を聞けて安心した。ワルター君は私とサレイジェ殿以上にを守ってくれるだろう。
「…」
「シフォン!」
消える、と思い彼女の顔を見た。
は、笑っていた。泣きそうな顔で、笑っていたんだ。
笑って見送ってもらえて………嬉しかった。
ありがとう、。
いつまでも、君の事を忘れない。
「シフォン……」
シフォンが消え去った後、ぼろぼろと泣き出すを見ながらワルターは複雑な気持ちになっていた。
二人の男がの元を去っていった。きっと、永遠にだ。
永遠に去るということは想いを断ち切るということだ。
しかし、それはいなくなったその者の確固たる場所が、の心の中にある。その場所は不動だ。
それ以上になれるかなどわからない。が何を感じ、何を思うかなど自分にはわからない。
俺の場所は、不動ではない。
「さん。」
シャーリィが優しく声を掛けた。は泣き顔のまま彼女を見上げる。
「シフォンもサジェも…何も残していかなかったわ。」
シャーリィは彼女の横にしゃがむと、背を撫でて言った。
「違いますよ。さんにはたくさんの思い出があるじゃないですか。」
はぐすと鼻を啜った。
そしてハンカチを取り出すと、勢いよく鼻をかむ。最後にスーハーと深呼吸して立ち上がった。
「そうね。シャーリィの言う通りだわ。」
顔は赤く、涙の跡は消えていなかったけれども、は元のに戻っていた。
「さん…」
「大丈夫よ、シャーリィ。私、元気よ…っわ…」
ガッツポーズをしようとしたに、仲間達の後ろで彼女を見ていたグリューネが突然抱き着いた。
グリューネから抱きついてくるなど滅多に無い事なので、は目を丸くしている。
「グリューネ…?」
「ごめんね、ちゃん。」
グリューネはだけに聞こえるようなか細い声で言った。
は泣きそうな感情を押し込めて頷くと、グリューネを抱きしめ返す。
「……許して、サジェちゃん。」
グリューネはこうも言った。
真相はわからないが、なんとなくだがはわかる気がした。
自分達の運命を決めて導いているのはグリューネと黒い霧の女性なのだろう。
彼女達の関係もどんな立場の人間なのかもわからない。しかし前、滄我がグリューネに敬意を表した事があることから神の様な存在に近いのだろうと思う。
サジェに力を貸し、シフォンと共に自分の前に来させたのは黒い霧の女性。サジェが言っていたある方というのも彼女。
グリューネは今記憶を失くしている様なので、彼女にそんな芸当は出来ないだろう。
しかし、サジェが命を失うという運命を決めたのはグリューネと黒い霧の女性の二人…もしくは、グリューネ一人。
なぜならば、彼女はサジェに許しを乞うているのだから……
「大丈夫よグリューネ。サジェは怒っていないわ。」
「……」
グリューネは何も言わなかったが、思い詰めているのは確かだった。
もしかしたら記憶を思い出しかけているのかもしれないと思い、彼女を見つめる。
「…グリューネ…」
「……」
はなんとなく彼女に記憶を思い出して欲しくないと思った。
グリューネが思い出した時、の運命は終わりを告げるだろう。
そうしたら私は、全てを巻き込み、世界を破壊し、仲間達を失うのかも知れない…
彼女は少し考えて、左右に首を振った。
今思った事を否定するように。
違うわ。終わらせられるのならば、終わらせなければならない。
もう、一人の死者を出す事もなく、誰も…犠牲にする事なく終わらせなければならない。
「大丈夫よグリューネ。私は道を見つけるわ。」
「……信じています、世界を見守る者よ……」
一瞬、グリューネの記憶が元に戻った様だった。
しかしそれは、その一瞬だけだった。
「あら、私…ちゃんに抱きついて…?ごめんなさいね。」
にっこりとするグリューネの笑顔は愛らしかった。も微笑むと彼女の手を握り一緒に歩き出す。
それは、切れることの無い二人の運命を表しているかの様だ。
ワルターは全てを見、溜息を吐いた。
鍵は、とグリューネだ。
「変える事は出来ないのか……?」
運命という、厄介な代物は…。
「一から調べなおすか。」
また調べ物の毎日に戻るかと思うと少し、うんざりした気分だった。
しかし、何としてもを助けたいと思った。役に立たないかもしれない…そうだとしても、彼女をどうにかして救いたいと思った。
「そうしたいのならば………そうするまでだ。」
ワルターはとグリューネの後を追った。
自分が出来る事から少しずつ、何かをすればいい。
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シフォンとサジェがいなくなって、ワルターの心も一層固まったようです。
やたらと運命という言葉が出てきますが、気にせず読んでください(苦笑)
次で終わりです^^
2008/02/23
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