楽しい話を始めたんだけど……。
「そうだお前達。今から最近頻繁に起こっている地震の調査に向かわなければならん。着いて来れるか?」
ウィルはそう言うと、席を立って支度し始める。
ソファーに座って何分も経っていない私達は、少し不満そうな顔で頷いた。
「しょうがない、行くか。…で、場所はどこなんだ?」
「輝きの泉周辺らしい。」
「輝きの泉…」
あそこは遥か昔の私達、私とシャーリィとワルターの大切な場所。
そんな大切な所が震源だなんて、地震を起こしている者を懲らしめなければ!!
「さん、どうかしましたか?」
「あら、ごめんなさい。私何か言った?」
「はい。輝きの泉と呟きましたけど…。私がお役に立てることだったら何でも聞きますから、言ってくださいね。」
「ありがとう、シャーリィ。でも大丈夫よ。」
心配してくれるシャーリィに笑いかけると、少し憂鬱になってしまう。
いつかは思い出して私とワルターと輝きの泉に行ってほしい、なんて…贅沢な願いかしら。
「さあ、行くぞ。ヴァイシスはどうする?」
「俺も行くよ。」
「そうか。足手まといになるなよ。」
「……はい。」
ヴァイシスは目を見開いてウィルを見た。
「何だ?」
「いえ…。」
そしてウィルから目を逸らすと、私の方に歩いてくる。
彼の顔は狐につままれたような顔で、腕を組みながら悩んでいる。
「どうしたの?」
「別に。それより、皆良い奴ばかりだね。俺があのクルザンドの王子だと知っても、普通に接してくれる。」
「あら、皆慣れているのよ。私がクルザンドの王女ですからね。」
「あ、そうだった。」
私達は笑い合うと、家を出ていく皆の後に着いて行った。
「…綺麗だな。」
輝きの泉を見て、ヴァイシスは先ず初めにそう呟いた。
この泉は私が初めて見た頃から変わらず、ずっと水が流れ続けている。
そして日の光でキラキラと光る水面が空を映しだし、泉の中に空が続くようだった。
「この水面の光、の髪の輝きに似てる。」
ヴァイシスがこんな事を呟いた。
あまりにいきなりの事だったので、私は恥ずかしくなって三つ編を引き寄せる。
「イシーは歯が浮くよーな事言うね。」
「あ、本当?日頃の生活のせいかなー。」
「日頃の生活?」
「ああ。日々未来の奥方を探しているのだよ。」
「っへ〜!!」
ノーマは関心するとヴァイシスを見上げた。
「あたしはやることあるからダメだよ。」
「大丈夫。ノーマは俺の趣味じゃないし。」
「むきー!なんだとー?」
「あはは。」
ヴァイシスは笑ってごまかす。
ノーマはそんな彼をストローを振り回しながら追いかけた。
「すっかり溶け込んでますね。」
「ジェイ。」
「彼はこんな所にいていいんですか?
遺跡船であった戦いを思い出すと、クルザンドは敵側だったんですよ?
あなたは知られてないからいいものの、彼はそうじゃない。
…見た目がクルザンドの王子だって言っているようなものです。
服装はレクサリアですが…体格がクルザンドですよ。」
そう言われて、私はヴァイシスを見た。
そう。確かにあの子はクルザンドの王子だわ。
紫色の瞳と髪の毛、まだ細いけれど、背の高い骨太な体格。
よく見ればわかってしまう。
きっと、ガドリアの人間ならすぐに。
「そうね、でも私には言えないわ。…私だって、逃げるようにこんな所にいるもの。」
ジェイはキッと睨むと、唇を噛み締めた。
「あなたは好きでここに来たわけでも、好きでここにいるわけでもないでしょう?
…いい加減、本音を言って下さいよ!」
「ジェイ…」
彼は拳を握り締めながら痛いくらい見つめてくる。
心を見透かされそうな気がして、怖くなってしまう。
「私がここに来たのは兄様に連れて来られたからだけど、ここにいるのは好きでいるのよ。」
にっこり笑うと、彼は一層睨む。
「それでは、さっきと言っていることが違うじゃないですか…。」
そうね。そうだわ。
でもごめんなさい。
これも、本当のことだから。
「ごめんなさい、ジェイ。」
彼の手を取ろうとすると、パシリと叩かれる。
「僕が聞きたいのは謝罪の言葉じゃないんですよ。」
そう言い捨てると、彼は先に行ってしまった。
「ジェイ……心配してくれてありがとう。」
私は彼の後ろ姿を見ながら、呟いた。
「コホン…」
わざとらしい咳が聞こえて振り向くと、そこにはウィルが立っていた。
「ウィル?」
「…ジェイが聞きたいのは、今の言葉じゃないのか?」
「……」
そうだとしても、ちゃんと言えない私には肯定の頷きもできない。
「俺は何も言わん。これは自身が決着をつけることだからな。」
「…はい。」
「困った事があるなら、相談しに来い。
…俺も、の仲間だからな。」
「はい。…ごめんなさい。」
「……、ほら、早く行くぞ。」
「ええ。」
失礼な私を、ウィルは咎める事なく見過ごしてくれる。
そんな人が、私の近くにはいた。
私の兄様達。
大切なところは引かなかったけれど、私の意思を尊重して優しく見過ごしてくれる。
ウィルはそんな兄様達に似ていて、この決意が破れそうになります。
でも、もう子供じゃない。
私は、私自身で見つけなければならないの。
自分がどんな者なのかを。
「、早く来いと言っているだろう?」
「あ、はい!」
決意を改めて固めると、私は皆を追いかけた。
「波が穏やか。本当にここなんでしょうか?」
「ああ。ここだと報告を受けているんだが。」
「魔物の気配はないな…。」
穏やかな波以外に何もないこの砂浜。
震源地だというからにはきっと、何かがいるのだろうと、私達はそれを探し回る。
「ワイとギートが倒してやるっちゅうのに、なんもおらん。」
「そうだな……!?」
呟いたモーゼスに答えようとしたセネルが止まる。
それを不審に思った私達もモーゼスを見た。
「?なんじゃ」
「…あー。」
「モーゼスちゃん、後ろを見てみて。とぉ〜っても面白いわよぉ。」
グリューネの言葉にモーゼスは後ろを向く。
「どわっ!」
「魔物の様子がおかしいな。」
「…!?黒い霧だ!」
魔物は黒い霧に包まれる。
すると、鋭い牙が更に鋭く、刺々しい目が細くなった。
そして驚いた事に、黒い霧からは魔物が現れ、目の前にいた魔物と融合したのだ。
「この前と違うわ!」
「気持ちわる〜い!」
「よし、一気に片付けるぞ!!」
ウィルの声を掛け声に、私達は持っている武器で魔物に向かって行った。
「やったか!?」
魔物は一度倒れ、私達はホッと息をつく。
でも油断はできない。この前は油断して傷を追ってしまったから。
「大丈夫なのか?」
「いや、油断するな。」
ヴァイシスが恐る恐る近づく。
「やめなさい、ヴァイシス!」
「…もう大丈夫なんじゃ…」
彼が魔物を触ろうとした途端、その一度果てた物体は素早く動きヴァイシスに一太刀浴びせようとした。
そこにジェイが刀を持って助けに入る。
「勝手な行動をしないでください!」
「助かった、ジェイ。…悪い子にはお仕置きが必要だな。イラプション!」
ヴァイシスの爪術が炸裂。
そこにすかさずジェイの闇走破が入る。
「どうだ?」
再び倒れた魔物から、黒い霧が消える。
もう大丈夫みたいね。
「大丈夫みたいですね。」
ジェイは額の汗を拭うと、前に垂れた髪を払った。
そして、
「あなたは何を考えてるんですかっ!」
「えっ…」
「あんな無茶をして、さんを必要以上に心配させないで下さい!!」
ジェイは珍しく怒鳴る。
私達は呆気に取られると、二人のやり取りに見入ってしまった。
「でも、誰かが生死を確かめないと…」
「そんなの、少し待てばわかるじゃないですか!」
「でもな…」
「とにかく、無茶をしないで下さい!!
…っあなたもさんも、クルザンドの人はなんでこうやって先走るんだか…。」
ジェイはそうやって話しを括ると、大きく溜め息をついた。
ヴァイシスはしゅんとなると、背をかがめてジェイの顔を覗く。
「すまない、ジェイ。これから気をつけるよ。」
「次は助けませんよ。」
「わかった。
しかし、そんなにを想ってるんだな。」
ヴァイシスはそう言うと私を見た。
「…は、いい仲間を持って羨ましいよ。」
「ヴァイシス…。」
「さて、魔物も片付けたし、街に一度戻るか。」
ウィルの言葉に頷くと、皆でそこを後にする。
でも、グリューネだけがその場に残って倒れた魔物を見つめている。
私は気になって立ち止まると、彼女のとこへ駆けた。
「どうしたのですか?グリューネ。」
「…また、始まるのね。」
「えっ…?」
グリューネは呟くと、魔物を睨んだ。
魔物は相変わらず動かないけれど、その体から吹き出す黒い霧。
気持ち悪い程たくさんの霧が魔物を取り囲み、そして一人の女性を形作った。
「あ…なたは…?」
『世界を見守る者がいるのか…』
黒い霧の女性は呟いた。
……私の事?
「あなたと私…どちらが…」
黒い霧の女性とグリューネは目を交わした。
そして黒い霧の女性の方がフと笑うと、何もなかったようにその場から消え去った。
「一体…誰なの…?」
…世界を見守る者って…どういう…。
新たなる疑問が芽生えて、それが私を支配していく。
私はどうして、ただのクルザンドの王女だけではないのだろう…。
******************
序奏終了。
新たな疑問が生まれた所で終わりな感じです。
『世界を見守る者』という言葉はこれから何度も出てきます☆
頭の片隅に記憶していただけると嬉しいかぎりですよー。
2006/09/26
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