逃げ切れない恐怖を知っていますか?















僕は知っています。あの頃はずっとそうだったから。
そう……僕は常に感じていた。














何かから逃げられない恐怖を……。














でも、その時はその何かがよくわかっていなかった。







顔を知らない父親と母親の存在かもしれない。
『仕事』に対する死というものの拒絶かもしれない。






その何かがわかったのは、離れてから。
モフモフ族のみんなが僕を温かく受け入れてくれてから……、彼らに自分の境遇を話した時だった。


















僕が感じていたのは、『あいつから逃げられない恐怖』だったんだと。


















あれから何年経ったか……僕は、笑うことや楽しいこと、幸せに感じるということを経験してきました。






モフモフ族のみんなやセネルさん達が経験させてくれた。
好意を持てると思える人も、タッグを組んでこれからの未来を考える人も出来た。
…これからもずっと、そうでありたいと願っている僕がいる。


















それはいけないことのはずなのに、願ってしまうんだ。



























































ずっと

















このままで


















ありたいと






















































「誰が寝る許可をしましたか?」

「うっ…うう…」

「いつまで寝てるんだ!!」

「う、うう…」



 

 

 

 


「私は誰のために、こんなことをしてるんですか?」

「ぼ、ぼくのためです」

「そうですよ。ジェイのためです。捨てられたあなたを拾い、仕事が出来るように、訓練までしてあげているのですからね」

「はい。全部…全部、ぼくのためです…」



 

 

 

 

 




「だったら、死ぬ気で努力をしろ!私の期待にそむくような奴はいらん!!」

「はい……お師匠さま…」

 

 

 

 
 


「分かったのなら、早く構えなさい。訓練が身になるまで、これは終わらないんですから!!」



























































思い出したのはピクニックの日。ヴァイシスさんが突然に消えた前の日です。
いえ、頭の隅に引っかかったのはヴァイシスさんが本格的に襲われ、さんがシフォンさんに庇われた時ですね。










あの苦無の様な武器を見たとき、僕の過去が少しだけ重なった。
見たこともない形の武器だったけれども、それは確かに僕の過去の記憶に重なったんです。










そして、仲間達全員+αでさんさんと輝く太陽とそれに照らされてきらきらと光る泉に見守られて盛り上がったピクニック。
それが僕に孤独を知らしめた。














何だか、僕はそこにいるべき人間ではないのだと思ったんです。













明るくて幸せそうで、楽しそうに笑うみなさんが嫉ましく感じました。
僕の存在をどんどんとはじき出していき、寄せ付けない強固な壁が出来上がっていく。
そう思った時、















「ジェイ、おつかれさま。」

「え?」

「ヴァイシスのちょっかいにかまってくれてありがとう。」

「あ……はい、その事ですか。」














ヴァイシスさんのくだらない星祭のお願い――それも僕のお願い――のせいで、僕は楽しそうに後ろを付いてくる彼と一緒にモーゼスさんを追い掛け回す羽目になった。
散々追い掛け回した後、額の汗を拭う僕にハンカチを差し出してくれたさんは声を掛けてきた。
ハンカチを受け取ってお礼を言うと、彼女は緩やかに微笑んだ。















「ふふ。」

「また意味不明にニヤニヤして……気持ち悪いですよ。」

「そう?ふふ」















汗を拭ってふと彼女を見ると、それがニヤニヤしているのではないとわかった。
そして自分の言った言葉を後悔する。
















さ……」

「仲間っていいわよね。一人じゃないもの。」

「え?」















呼びかけた名前、それを遮られて言われた言葉。その意味を知ろうと彼女の目を見ると、それは深い憂いを帯びたヴァイオレットだった。
本当は憂いを帯びた瞳に対して美しいなんて思ってはいけないだろうと思う。けれどもその美しさは計り知れない妖しさを持っていた。


















「私達にはみんながいる、そうでしょう?」

「……はい、そうですね。」

「ジェイは一人ではないわ。」


















あなたは一人なんですか?
















と聞きたくなった。
その瞳は、その微笑みは、誰よりも孤独を表していた。
彼女の持った力は未知のものだ。そしてその力は、世界に関係するという。














「僕は一人ですよ。」














言い放ってやった。
すると彼女は笑みをやめて僕を見つめる。少し傾げられた顔が美しい。
















「私がいるわ。」

「……そうかもしれませんね。あなたと僕は似ているから。」

「……」














何も答えなかったさんが、僕の言葉で思ったのは『人を殺す』ということでしょう。
彼女と僕に共通する点はそれなのですから。












僕が一番身近に感じる彼女。
クルザンドの王女で、世界を見守る者で。
そして、強そうで脆い心を持った輝かしい人。











僕と共通するところを持っているけれど、あなたは僕と正反対の人ですよ。
















「ジェイ、私は……」

「帰りましょう、みなさんも帰り支度しています。」

「……そうね。」















僕はこの時気付かなかった。














過去という縛めが解れた心に隔壁を作り、差し伸べられた手を振り払ってしまった事を。

そして、それが好意を持った人々に多大なる弊害を生ずる事を。





















































「皆さんはヴァイシスさんが狙われていたのを知っていますね。」

「ええ、マダム。俺達はその場に居ました。」

「そうですか。その者達が、複数遺跡船に入り込んできたのです。」













僕達は聖王陛下の屋敷に集まりヴァイシスさんの帰国について聞いた後、新たなる任務を課せられようとしていました。













「複数?」

「ええ。そして、ヴァイシスさんを狙っていたのは序の口だという様に、彼のいなくなった遺跡船を闊歩しているのです。」












ヴァイシスさんを狙っていたのは一人の暗殺者。それもシフォンさんに関係していたからガドリアのスパイでしょう。
しかしそれが複数ともなれば……虚を突いて帰国したヴァイシスさんを殺すにしろ、多すぎる。
きっと他に目的があるのでしょう。














「その複数というのは、ある一つの暗殺者集団なのだ。イザベラ君、説明してくれたまえ。」

「はい。遺跡船に現れたのは、暗殺者の中でも最悪な部類の者達です。」

「兄様の軍の特務兵の様な者達ですか?」

「それ以上に最悪な存在……忍者です。」





















忍者だって…?ヴァイシスさんを狙っていたのは忍者だっていうのか!?















「忍者……」

「忍者か……!」














さすがウィルさんとクロエさんはその存在を知っている様ですね。
さんの表情を見ると、彼女も驚いた様な顔をしている。さんの国は忍者こそ使わないでしょうけれど、存在は知っているんですね。














「忍者って何じゃ?」

「モーすけ、ふざけてる?」

「こがあなしゃべり方なんじゃ!仕方ないじゃろ!」














ツッコまずにいられないノーマさんとお馬鹿なモーゼスさんが言い合いを始める前に、忍者の説明をした方が良さそうですね。
僕は溜息を吐くと、口を開いた。














「忍者とは、常に陰に潜み、任務遂行のためだけに行動する者達です。

私的感情を捨て、与えられた任務をただひたすらにこなしていきます。」

「さすが物知りジェージェーだね。」













ノーマさんにこう言われ、僕の瞳孔が揺れたことに気付いたのはさんだけだったでしょう。
少し考えれば僕が忍者だったとわかるでしょうから。














「忍者の恐ろしいところは、自らの命を惜しまないところにあります。必要と判断すれば、命と引き換えにしてでも、任務を優先するんです。」

「マジで?」

「はい、ジェイ君の言った通りです。」













過去を思い出したのは、このせいだったのかもしれないと思う。
より近くに自分と近しいものが居れば、嫌でも感覚が研ぎ澄まされるのだろう。













「忍者の別称は『忍』すでに『者』ですらないんですよ。」

「うげ、嫌すぎる。」

「我が国が雇い、ヴァイシスを狙っていたというわけか……」

「クロエ・・・」













強すぎるくらいに握り締められる手を見つめ、クロエさんは俯いていた。
その肩は武者震いを起し、国の恥を身をもって感じているのだろうと思う。














「ヴァイシスさんが帰国した今、忍者の雇い主は一つとは限りません。寧ろガドリアの可能性は低いですよ。暗殺に失敗しているんですから。」

「そうか……!」













明るくなったその表情を確認して仲間達の顔を見回す。その時さんと目が合ってしまい慌てて逸らした。













「彼らは高度な情報統制が取られています。雇い主が誰なのか、未だにわかりません。」

「ヴァイシスが帰った後、目的はの暗殺か?」












セネルさんがそう言ってさんを見た。さんはビクッと反応すると、隣のワルターさんの袖を掴む。














「それは違うと思いますよ。あの時ヴァイシスさんと一緒に狙われていたのはクルザンドの王女だからでしょう。

それに、『世界を見守る者』という力は大陸の人達には知られていないはずです。」

「そうだな、俺もそう思う。の力を知っているのは俺達だけだろう。」

「…とするとじゃ、そいつらが狙ってるもんは何じゃ?」

「モーゼスさんはほとほと馬鹿ですね。ヴァーツラフがやったことをもう忘れてしまったんですか?」

「……ほうか!」














モーゼスさんはわかったように頷くとシャーリィさんを見た。他のみんなモ一斉にシャーリィさんを見る。














「ヴァーツラフは遺跡船の驚異を、各国にまざまざと見せ付けました。遺跡船が強力な兵器になるとすれば、どこの国だって手に入れようとしますよ。」

「あるいは他国に渡るのを阻止しようとする、か。」

「その手始めがヴァイシスさん暗殺ですね。遺跡船が再びクルザンドに渡るのを恐れたのでしょう。あの事件の後ガドリアは大陸で一番最初に乗り込んできましたからね。」

「今まで大陸側に目立った動きは殆どなかったが、その方が寧ろ不自然だったと言っていい。」

「おそらく、どの国も水面下で準備を整え、様子を探っていたのでしょう。」














そう、そしてその準備が最終段階に入り忍者に探りを入れさせるために入り込ませた。
その説が決定的でしょう。














「遺跡船を戦争の道具にはさせたりしない。」

「お兄ちゃん……」

「遺跡船を動かすには水の民の力が必要になるな。メルネスが危ないかもしれん、俺も一緒に行動する。」

「ワルターさん……」

「お二人とも、忍者をなめてかからない方がいいですよ。」













いざとなったら、セネルさんとワルターさんだけではシャーリィさんを守りきれないでしょう。
そうしたら……













「セネル、ワルター、忍者はプロなの。だからあなた達だけではシャーリィを守りきれないわ。仲間達全員で守りましょう。」












さんがシャーリィさんの元へ行き、その肩に手を置いた。
するとシャーリィさんは安心したように彼女の手の上に自分の手を置く。














「ありがとうございます、さん。」













とても嬉しそうなシャーリィさんを見て、さんの言葉は説得力があるのだと思った。
他のみんなも頷くと、やる気満々な表情になっている。













僕はどうなのだろう?












やる気満々?……いえ、違いますね。
忍者……その言葉が存在するだけであの頃が蘇る。いつもの平静さを欠ける様な気がする。

これは恐怖?そんなもの……
















「ジェイ」

「……何ですか?」















突然呼ばれて見ると、さんはにっこりと微笑んでいた。昨日とは打って変わった表情。
自信に溢れた笑顔が印象的だ。















「一緒に守りましょう。」















その表情と凛とした声には不思議な説得力が含まれていた。
僕はいつもの冷静な気持ちに戻ると、
















「当たり前です。」















と言った。























***************

ジェイ編です☆

ジェイ編は彼の心境が一番の鍵になるのでジェイsideでも書きます^^
頑張れ〜ジェイ〜!

2008/03/04






121へ