どこまで続くのでしょう。
この古い遺跡は、奥へ奥へと行く度に迷路の様な面を見せ、暴こうと訪れた冒険者達を惑わすのだろう。
先程は感動したこの心も、ジェイのことを思うと居ても立ってもいられなくなった。
どうして私にはジェイの様な速く走れる足が無いのだろう。
どうして私にはジェイの様な周囲を読み取る力が無いのだろう。
全く持って必要ない力ばかりがあって、今苦しんでいるかもしれない仲間を助けられないなんて……
意味が無いではないの?
「」
「?」
あれこれと考えながら走っていると、モーゼスが私の肩を掴んだ。
それに振り向くと、心配そうな表情が目に入る。
「あんまり思い詰めると体にようない。」
「だ、大丈夫よ。モーゼスこそ、ジェイのことを心配しすぎて眉間に皺が寄っているわ。」
「この皺はのために出来たんじゃ。」
「私の……
ごめんなさい、誤魔化そうとしたわ。だって、ジェイが心配なのだもの。」
「わかっちょる。でもが一人で抱え込む悩みじゃないじゃろ?ワイらがおる。」
彼はそう言って私の頭に手を乗せると、わしゃわしゃと掻き回した。
ぐしゃとなった髪を整えながらモーゼスに笑いかけると、「それがの顔じゃ!」とクカカと笑った。
「じゃが、何でそんなにジェー坊を心配しょちょるんじゃ?そりゃまあ、いつもより焦っておったが…」
「わからないけれど、嫌な予感がするの。何か起こりそうで恐い。」
体を震わせると、モーゼスの日に焼けた健康的な腕が伸びてきて私を包み込む。
背の高い彼の胸に耳を当て、その生の音を聞くと落ち着いた。
この音はモーゼスだけではない、誰だって持っているもの。
もちろんジェイだって寸分も違わない。
私はみんなを守りたい。
ジェイのために何が出来るかしら…。
「モーすけ、こんなトコでイチャイチャするな〜!!」
パコーンと叩かれる彼の背中、その衝撃は抱きしめられている私の元までやってきた。
彼を叩いたノーマを見ると微妙な表情。
そうよね、いつもだったらジェイがツッコむところ。
モーゼスの耳を引っ張って「何やってるんですか〜?モーゼスさん〜…」なんて言って…それがいつものパターンだもの。
モーゼスもノーマの顔を見て微妙な表情をしたけれども、すぐに元の表情に戻ってノーマに向かい合った。
「何するんじゃ!ワイとが愛を語っとる時に…」
「何が愛だ〜!!!ちゃんがモーすけと愛を語るわけないじゃん!!!」
「言い切るとはいい度胸じゃシャボン娘!!」
「お〜やるかコノ〜!」
「二人ともいい加減にしろ!」
ゴスッ バキッ
見かねたウィルが二人を殴る。モーゼスもノーマも痛そうに腰を屈めた。
「何をやっている、早くジェイを追うぞ!」
「う〜、オヤジの鉄拳が〜…」
「何だ?ノーマ?」
「……なんでもありませ〜ん…」
その後は二人とも静かになって、私達はジェイを追うために再び走り出した。
壊れた柱を避け、上も下も気にしながら走る私達は早く進んでいるとはいえなかった。
こうしている間にもジェイに何か起こっていたらどうしようという思いと、それを顔に出さないようにする事に気をかけ、自分が一体どういう表情をしているかわからなかった。
文様の付いた廊下を越えて吹き抜けの下の階を見下ろすと、そこには途切れたトロッコの線路があり外へと道は続いているようだった。
でもそちらからはジェイの気が流れてこない。どっちかというと、もう少し上の方から……
「せめて道が崩れていなかったらもっと短縮していけるのだが…」
「ウィルさん、下ではなく上に道があります!」
「どこだ、シャーリィ?」
「ほら、あそこ。見える?お兄ちゃん。」
「ああ!…確かあそこは…」
「前、戦ったところだな。」
セネルとクロエにとっていい思い出が無いだろうそこ。私達はそこへ向かって全速力で走り出した。
階段を抜けると遺跡が途切れた。おかしいくらいにすっぱりと途切れたから、きっとここは遺跡を掘り返した場所だと思う。
ここからこの遺跡は世界に顔を出したのかもしれない。
私達が出た場所はごつごつした岩が続く洞窟で、その先にはジェイと男の人が立っていた。
洞窟と言ってもここは明るく、薄暗い遺跡から出てきた私達の目は眩む。でも目の前にジェイが立っているかと思うと、眩んで立ち止まるわけにはいかなかった。
「ジェイ!!!」
ジェイの肩がピクリと揺れる。私の声に反応したようだった。
セネルが誰よりも先に走り、必要以上にジェイに近寄っている男に蹴りを食らわす。しかし寸前のところで避けた男は、数メートル離れた場所に立った。
「お前は!」
「いつぞやは道案内、助かりましたよ。」
私の知らないところで、セネルと男は知り合ったようだった。
男はニヤニヤとお礼を言う。
「煌髪人のお嬢さんも、ご無沙汰しておりました。」
「!」
「なんだ、知り合いか?」
身構えるシャーリィの横で不思議そうに問うウィル。
セネルは構えを崩さないままサラリと答える。
「知り合いたくもなかったがな。」
「おやおや、それは酷い。私はあなたに会えてよかったですよ。
こうして再会出来たのも、愉快で仕方がありません。」
「……貴様ッ!!!」
ニヤニヤと笑いを増す男を見ていたワルターの眉間が一気に皺をつくり、彼は歯を噛み締めた。
その隙間から漏れるような腹から出した声は怒りを含み、瞳はいつもより一層睨みつけていた。
「いつぞや港でに手を出そうとしていた…!!!」
「…あっ…」
ワルターの言葉で思い出す。
あれは確かクロエを迎えに内海港に行ってみんなと離れてしまった時声を掛けてきた…
「ナイト君は覚えていたようですね。しかし、あんなにインパクト十分にした私を覚えていないなんて、酷いではないですか?銀髪の美しいお嬢さん。」
「……あなたはまだ私に興味がおありなのですか?」
何て答えればいいかわからなかったので言ってみたけれど、これは間違いだった。
「「「興味!?」」」
セネルもワルターもモーゼスもウィルも…みんな驚いて私を見た後、男を睨みつけた。
「美しいだけあって、お仲間の心はあなたのものですか…素晴らしい。
もちろんあなたに興味はありますよ。でも、今は煌髪人のお嬢さんの方がもっと興味があります。」
「シャーリィを…」
「ごたくはええ。かかってこんかい!」
モーゼスは会話を遮るように槍を構えた。
「あいにくと、私は無駄な戦いはしない。野蛮人にはわからないでしょうけどね。」
「なんじゃと!」
熱くなったモーゼスをウィルが止める。
彼は武器を構えることなく男に向かい合った。
「お前の目的はシャーリィか。依頼主はどこの国だ?」
「愚問ですね。答えるとでも思っていますか?」
「思ってはいないが、おしゃべりが好きなようだからな。」
「どこの国であれ、関係ないでしょう?手に入れた国が覇権を握る事になる!遺跡船の力は切り札になりますからね。戦争は当然のこと、外交を行うにも、強気な発言を許されるようになるんです。」
「くだらない争いのために、遺跡船を利用させたりはしない。」
セネルが言う。しかし男はセネルの言葉を不思議そうに言い返した。
「くだらない?くだらなくなどありませんよ!この船の力を使えば、国家間の力関係を覆す事が出来る!こんな魅力的なものを、使わないでいるなんてバカのすることです。」
「バカはお前の方だろう。」
「あなたの国もほしがっているんですよ?クロエ・ヴァレンスさん。」
「!」
クロエは剣を構えた。男は私達を見回す。
もしかしたら私達全員を調べて知っているのかもしれない。
「クロエの国も……と言ったな。依頼主はひとつではないのか?」
「どこに話を持ちかけても、飛びついてくるでしょうね。
ま、どこに転んでも構いませんよ。愉快であればそれでいい。」
きっとこの男の人は頭のネジを一本どこかに落としてきたのだと思った。
だって、戦争が愉快なんておかしいもの。
その時気付く。
この人は忍者なのだわ。だから死をも恐れない。
だからこんな考えが出来るのだわ……
チラリとジェイを見ると、彼は私達に背を向けて立っていた。
その背中は丸く、肩はズンと落ちている。足は心なしかガクガクと震え、立っているのもやっとだというようだった。
……?
ジェイは何かあったのだわ。
この男との間で、何か……彼をこんなに打ち崩すような何かが。
「ワイも愉快なんは好きじゃが、ワレとは意見が合わんのう。」
「遺跡船は実に愉快なところですね。私の渇きを潤してくれる。
最近はどこの国も丸くなりすぎた。鮮血が飛び散る戦いの場だけが、私に生を感じさせてくれるというのに。
この遺跡船を、欲しくないという国まであるんですよ。あろうことかね。」
男は私をチラと見て、すぐに目線を戻した。
「このおっさん、頭のネジ間違った場所に入ってる?」
間違った場所に入るという考え方もあるんだと思いながら、私は再びジェイを見た。
彼はまだ動く気配が無い。
「私が世界を盛り上げてあげますよ。
戦争という名の最高の舞台を、退屈した世界に用意して差し上げます。」
「そんなこと、させるかよ!」
セネルとクロエが飛び出し、セネルは拳を、クロエは剣を振り上げた。
しかし男は煙幕を張ると、どこかへ消え去る。
「どこに消えた!?」
「せいぜい足掻くがいいわ!そして私を笑わせてくれ!!
アハハハハハハハハハハハハハハッ!」
姿は消えていたのにも関わらず、男の声は洞窟に響いた。
私達は苦虫を噛み潰した表情で声を聞く。またあの男に会うことになるでしょう。
「どこじゃ!出てこんかい!」
パタン……
男の気配が消えたと同時に、ジェイの足が力を失って彼は地面に座り込んだ。
ジェイはぼーっとしたまま、前を向いている。
「おい、ジェイ!」
「大丈夫です。急に力が抜けちゃって……。」
私は一目散にジェイの元へ走り寄ると、彼に手を出して立たせようとする。
けれども……
「……」
ジェイは目を細めて私を見、視線を逸らして立ち上がった。
私の手を取ることなく……
「もう気配はありませんから、警戒を解いて平気ですよ。」
そしてみんなの方へ向くと、細々とした声で言った。
私は行き場を失った手を引っ込めると、彼の後ろへ立った。
だって、ジェイは私を視界に入れたくはないようだったから……
「ジェージェー、本当に大丈夫なの?普通いきなりは倒れないよ?」
「顔色も悪いな。早く帰ろう。」
「ジェイの家に連れ帰った方がいいな。」
「モフモフ族の村へ行こう。」
私達はそのままモフモフ族の村へ向かう。私はずっとジェイの後ろにいて彼を見ていたけれど……
ジェイはずっと、みんなの視線を避けて話すことはなかった。
*****************
揺れる心。
でも、彼の取る道はひとつ。
2008/03/20
126へ