「けほっ……げほっ……」

「何度言えばわかるんだ!この無能が!!私の手を煩わせるな!」

「ご、ごめんなさい。」

「謝って許されるほど、この世の中、甘くはできていないぞ!」

「げほっ……げほっ……」

「醜い姿を見せるな!」











「げほっ……げほっ……」




























チリン……



























「まだこんな鈴を持っていましたか。」

「そ、それは……」

「捨てるようにと、言っておいたはずでしたよね?」

「だ、だけど……これは……、僕の家族を探す手がかりなんです。」

「ええ、よく知っていますよ。あなたを拾ったのは私なんですから。」

「だからそれは……」

「こんなものに縋っているから、強くなれないんですよ。」

「……返してください。それだけは……。」



























「誰が意見を言う許可を出した!」

































「ごめんなさい。今度は上手くやります。許してください。

だから、お願いします。それだけは、その鈴だけは……」



「鈴は私が預かります。あなたが一人前になるまではね。」



「……そんな…………」



「何か文句でもありますか?」



「い、いえ…」



「やっとわかってくれましたか。あなたは私に従っていればいい。首を横に振る必要は無いんです。

なぜなら、私はいつだって正しい事しか言わないんですからね!」



「はい……」























「それでは確認しておきましょう。野垂れ死に確定のあなたを、わざわざ拾って育てたのは誰ですか?」

「お師匠様です。」

「だったら…死ぬ気で強くなれ!私の役に立ってみせろ!どうせお前が死んでも、誰も悲しまないんだからな!」

「……はい…」

「殺しの道具に感情はいらない。お前はこのクナイと同じだ。人ではない。ただの道具になるんだ。」

「はい…」


























「そうだ、それでいい!アハハハハハハハハハハハハハッ!」




































































「僕が死んで……誰も悲しまない。僕は道具なのか……。」
















真っ青な顔色をしたジェイは、自分のベッドにもたれて膝小僧を抱きしめていた。
















「みんなも、僕が死んでも悲しまないのかな……。」















暗くなり、重くなっていく心を苦しく思いながら、彼は呟いた。
そんなことはないだろうと思いつつ、暗くなった気持ちは自信をもなくさせてしまう。

次第に暗闇に包まれていく部屋に気付かず、彼はぼーっと膝小僧を見つめ続けた。
彼の前には闇を携えた女性…シュバルツが姿を現す。
彼女はジェイを見つめると、その氷の様な唇を開けた。

















「死んでも誰も悲しまない。人ではなく道具なのだ。」




「だけど、あの人達なら、キュッポ達なら僕を……。」




「必要ない。誰も必要としていない。」




「そんな……ことはない…。きっと、さんなら…」

















希望を持って搾り出した言葉。
他の誰もが自分を必要としていなくとも、さんだけは僕を必要としてくれる。人として接してくれる。

















「……世界を見守る者…?

そうかもしれぬ。だが、かの者とそなたは全く価値が違う…」





「価値……」




「そうだ。そなたの価値は…」




「やめろ……聞きたくない!」





















ジェイは耳を塞ぎ、シュバルツの声を遮断しようとした。
しかし心に語りかけられるその声は、耳を塞いだだけでは完全に遮断できない。





















「誰も人だと思っていない。道具なのだ。」





















彼女はハッとするような優しい声で言葉を紡ぐ。たとえそれが存在を否定するような言い様だとしても、彼女の声は頭に入ってくる。



















「違う……僕は、僕は……」




「子の命が尽きようとも誰も悲しまない。在って無きに等しき者よ。価値無き者よ。」




「それでも、僕は……。」




















抗う思い、確固たる自分の存在。



今まで築きあげてきたキュッポ達との関係、セネル達との関係。
そしてへの憧れ、焦がれる気持ち。

全ては自分のもので、ここに…この世界に在っていいはずのものだ。



















だから……

























『モフモフ族と言いましたか?

なかなか愛嬌もあって、愉快な連中じゃないですか?』





「ちくしょう!」




















ソロンの声がこだまする。
崩れ去りそうな気持ちのひびを大きくしていくその言葉。





















『彼らは、何色の血を流すんですかね?

どんな声で鳴いてくれるんですかね?』





「ちくしょう!」




『いや〜、今から楽しみだな〜。

らっこが逃げ惑い、泣き叫び、命乞いをしながら死んでいくのは、さぞ見物でしょうね!

アハハハハハハハハハハハハハハッ!!』





































「もうやめろおぉぉぉっ!!!」
















































ジェイは立ち上がって叫ぶ。
途端、辺りの暗がりは晴れて元の彼の部屋に戻った。



















「僕にどうしろって言うんだ。

僕はどうしたらいいんだ!!」





















彼はそのまま、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

























































「その男は間違いなくソロンだキュ。」


















キュッポは小さな両腕を駆使してセネル達に説明をし出した。
三兄弟を囲むようにみんなは立ち、彼らの話を真剣な表情で聞いている。
その中でだけが上の部屋を気にするようにチラチラと階段上を見ては小さく溜息をついていた。


















「ジェイの知り合いか?」

「ソロンは、ジェイの育ての親なんだキュ。」

「「「 ! 」」」



















その言葉には、も含めた全員が驚きを表した。




















「前にジェイから聞いたんだキュ。」

「ジェイは、実の親に捨てられたキュ。」

「ソロンが赤ん坊のジェイを拾い、暗殺者として育て上げたんだキュ。」

「ジェイが遺跡船に来たのは暗殺の仕事をするためだったキュ。」





















三兄弟は一言一言を交互に話していった。






















「けど、その仕事は失敗に終わったキュ。」

「ソロンは、何人もの部下を引き連れて、遺跡船に乗り込んできたんだキュ。」

「けど、大掛かりな鎮圧部隊が編成されて、ソロン達は大敗したんだキュ。」

「ひどい戦いで、多くの人が命を落としたキュ。」

「ソロンは、ジェイをオトリに使い、逃げ切ったんだキュ。」

「ひとり残されたジェイは、傷つき、力尽きて、モフモフ族の村のそばに倒れてたキュ。」

























彼らの話が一通り終わった時、セネルの後ろにいたシャーリィが胸に手を当てて前かがみになった。
ワルターはそれに気づくと彼女の背を撫でる。






















「そんで、あんたらが助けて、一緒に暮らすようになったわけ?」

「始めの頃、ジェイは全然喋らなかったキュ。」

「感情の起伏も乏しくて、表情だって少しも変えなかったキュ。」

「笑顔を見せることなんて、なかったんだキュ。」

「あたしらと出会った頃も、結構無愛想だったけどね。」

「時間が経つにつれて、徐々に明るくなったんだキュ。」

「最近のジェイは本当にいい顔をするキュ。」

「特に皆さんと一緒にいると、ジェイは楽しそうに笑うキュ。」

「けど、さっき見たジェイの顔は、凍りついてたキュ。」

「出会った頃のジェイには、戻って欲しくないキュ。」

「ジェイには、いっぱいいっぱい笑っていて欲しいんだキュ。」





















必死に訴えるらっこ達の言葉を、噛み締めるように頷くウィル。
彼はゆっくり目を瞑ると、腕を組んでソロンを思い出した。そして放心状態だったジェイも。



















「ソロンとの再会がジェイに過去を思い出させたわけか。」

「ジェイは、ずっと怯えていたんだキュ。」

「ソロンが再び目の前に現れる事を、ずっと恐れていたんだキュ。」

「ポッポ達はジェイを守るキュ。ソロンから守るキュ!」

















その時、セネルは俯いていた顔を上げてキュッポを見つめた。
彼はポッポを見て頷くと、


















「俺達も協力する」

















と言った。
すると前かがみになっていたシャーリィも顔をあげ、セネルの隣にいたクロエも頷く。



















「ジェイをソロンの呪縛から、解き放ってやろう。」

「とにかく、あのソロン言うんを、早いとこ探し出さんとのう。」

「俺の方でも情報を集めてみよう。」



















モーゼスとウィルも仲間達の顔を見て頷く。



















「キュッポ達も色々探ってみるキュ。」

「頼んだわよ!ホタテ三兄弟!」

「「「任せるキュ!!!」」」



















話が纏り彼らは自分達のやるべき事を決めると、今日は一度解散する事になった。
その時、今まで一言も言葉を発する事なかったがウィルに申し出る。


















「私、今日はここに泊まっていきます。」

……ジェイが心配なのはわかるが…」

「ええ、心配しないで下さい。私、滅多な事はしないって約束します。」

「……わかった。俺もが残ったらいいと思っていたところだ。」

「ふふ、ありがとうございますウィル。」


















彼女は自分の考えを賛成にこぎつけると、ワルターに一言言って三兄弟と彼らを見送った。
仲間達の姿が見えなくなると、一緒に家の中へ入っていく。
















「……」
















気になるのは上の階。
しかし乗り込んでいくわけにはいかなかった。なぜならば今回は、自分が踏み込めないくらいに深く深く傷ついているジェイの心。
自分にどうこう出来るものではないとわかっているのだ。

















さん、お帰りだキュ。」

「えっ……」

「こんなに長い間帰って来てくれないとは思わなかったキュ。」

「あ……ごめんなさい。」

















はクルザンドの牢から逃げ出した時に、彼らに助けられたのを思い出した。
そして数日の間だったけれども、この家の住人のように暮らしていた事も。


















「お帰りときたら…」

「ただいまだキュ。」


















彼らは交互に言うと、ににこりと笑いかけた。
も微笑み返すと、














「ただいま」














と言った。




















「ところでお風呂にするキュ?ご飯にするキュ?」


















キュッポが可愛い声で言ったので、はきょとんとして答える。

















「夕飯はジェイも一緒に食べたいから、お風呂に入ってくるわ。」















は遠慮なく言うと、簡単な荷物を持って風呂場に向かった。
せっかくだから全員で…あの頃のように楽しくお喋りしながらホタテを食べたいと思ったのだ


キュッポ達はの言葉に頷くと階段を登っていく。





















「ジェイ、おなかへってないキュ?」

「新鮮なホタテ食べないキュ?」

「ジェイと一緒にご飯食べたいキュ。」

「キュッポ達はジェイを待ってるキュ。」

「お腹減ったら出てくるキュ。」

「ご飯は大勢で食べた方が美味しいキュ。」



























そして上の部屋で起きているであろうジェイに優しく声を掛けた。


























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が残りました^^
次はジェイとの絡みですぅ〜♪


2008/03/25








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