ガンッ…
鈍い金属音が部屋に響いた。
クロエが振り向くと、そこには今まで閉じ込められていた檻に強く手を打ち付けるセネルがいた。
「クーリッジ」
「…っくそ!!!こんな事になるなんて!もシャーリィも、さらわれるなんて!」
ガンッ…
セネルは再び拳を打ち付けた。クロエはそれを見かねて駆け寄る。
そしてセネルの肩に手を置いた。
どうにか、落ち着かせなければ。
「落ち着け、クーリッジ」
「これが落ち着いていられるか!が傷だらけだったんだ…」
クロエの胸は、きゅっと締め付けられた。
しかし以前のような痛みはなく、自分が前ほどセネルに恋をしていないのに気付く。
いつの間に私は……
クロエはゆっくりとセネルの手に自分の手を重ねた。
「とシャーリィを助けるための拳を、むやみに傷つけるな」
「クロエ……そうだな、すまない」
セネルは肩を落としたまま溜め息を吐いた。そして両手で強く頬を叩く。
バンッ…
「クーリッジ?」
「俺がこんなんじゃ駄目だ!しっかりしろ!」
セネルの行動に目を丸くしてしばし見入っていたクロエの肩を、ノーマが叩いた。
「終わりそう?」
「ああ。そろそろ行けるだろう」
「こっちもなんとか押さえた〜」
ノーマはうんざり顔で他の仲間達を指さした。
そこには、ウィルに羽交い締めにされたワルターと、グリューネに抱き着かれてとろけそうなモーゼスがいた。
「ワルターはわかるが、シャンドルは最低だな」
「でしょ?さいて〜だって、モーすけ」
「じゃが姉さんが〜…」
デレデレしながらモーゼスは言う。その言い方に、クロエとノーマは嫌悪を表した。
「シャンドル最低」
「モーすけさいて〜」
こんな時に馬鹿馬鹿しいと思いモーゼスから目を離したクロエはふとセネルに目を向けた。
すると彼は、ワルターとモーゼスと自分達を見て笑っていたのだ。
さっきまで同じような状態だった癖に……
さっきよりは良い状態かもしれないが、笑われるのはしゃくに触る。
セネルの笑顔に腹が立ったクロエは、かつかつと彼の前に歩き、思いきり睨んだ。
「クーリッジ、最低だっ」
彼がそれにが驚いた後、落ち込んだのは言うまでもない。
……でも、よかった。
クロエはセネルの笑う顔をみて、ホッとしている自分に気付いた。
前よりは好きだとか好きじゃないとかはわからないが、好きだということには変わりはない。
「ジェイちゃん、どうしちゃったのかしらねぇ」
「ど〜もこ〜もないよ!あんの、裏切り者〜!!!」
デレデレし過ぎているモーゼスの腕に自分の腕を絡めながら、グリューネは言った。
その横で、ノーマはジェイのことを思い出して憤慨している。
クロエは全員を見渡してソロンが言ったある言葉を繰り返す。
「でも、ソロンは言っていただろう。ジェイはに私達から離れるなと諭していたと」
「確かに俺達と一緒にいることが、の安全な道だったな。しかしジェイは、ソロンがシャーリィではなくが目的とは知らなかったのではないか?」
「え…?」
ウィルの言葉にクロエは驚いた。
「ジェイがにそんなことをするはずがないだろう」
「……」
それではまるで、シャーリィならいいみたいじゃないか。
クロエは思う。
そんなこと、あまりにもシャーリィがかわいそうだ。
「それは俺も思った」
「クーリッジまで!!!」
セネルの言葉にクロエは驚愕する。兄なのに、何故そんな事が軽々と言えるのだろうか。
クロエはセネルを見限り、ワルターを見る。
「ワルターはどうなんだ!」
「……わからん」
「……」
「どうしたの、クー?そりゃあ、ジェージェーの行動は怒ることだけどさ、セネセネに怒っても…」
「っ…もういい!」
みんなはのことばかりだ。それは…世界を見守る者として大切な人物かもしれない。
でも、シャーリィも仲間なのに…
クロエはそっぽを向くと、話を戻せと言った。
「ジェイは、何か理由があるように思えるな」
「ジェイちゃん、と〜っても寂しそうな顔をしてたわねぇ」
「あんアホが!悩みがあるんじゃったら言えいうたじゃろ!ひとりで抱えこんで、このざまか!」
「その顔で言われても全然説得力ないんですけど〜」
ノーマが睨む。モーゼスはまだデレデレしたままなのだ。
自分の腕に当たっているグリューネの胸に目も釘付けで、だらしがないといったらありゃしない。
「グー姉さん、もういいから」
「あら、そうなのぉ」
グリューネがパッと離れてノーマの元に行くとモーゼスは悲しそうに顔を崩したが、ふと表情を戻すとまともな顔になった。
「俺達はジェイにとって、その程度の存在なのか?今まで共に過ごした時間は、その程度のものだったのか?俺達はそんなに信用できないのか!?」
「そう考えると、やはり何かあるのだろう。あいつは、貴様らの中で一番頭の回転が早いからな。その分深く考え込むのではないか?」
「ワの字…そうじゃな。ワイらといる時のジェー坊の笑顔は、ほんまもんじゃったわ。ワイらと遊んで、心からわろうとった!」
「最近のジェイは、とみに明るくなっていた」
「みんなと一緒にいたからよね?」
「うん……そうだよね!ジェージェーにだって事情があるはず!」
「だったら決まりだ。なんとしても、とシャーリィ、ジェイを助けるぞ!」
「「「おぉーっ!」」」
仲間達は一致団結すると、雪花の遺跡の入り口を目指した。
「ね〜ワルちん」
「…なんだ?」
ノーマは珍しく自分達と共に歩くワルターに話しかけた。
ワルターは不機嫌そうにノーマを見ると、目を細める。しかし無視しなくなっただけ成長したというものだろう。
「今回はあたし達と来るの?一人で探しに行かないの?」
「……ああ。今回の相手は忍者だ。水の民の戦士なら、陸の民の忍者がどういうものかは知っているからな」
「そうなんだ」
彼の言葉に頷くと、ノーマは前を歩く仲間達を見た。
緊張した面持ちで、心なしか足取りが速い。しかし、本当は走っていきたいくらいなのだと思う。自分もそうだ。
もシャーリィもジェイも心配なのだから。
「俺が一人で捜しに行っても、メルネスもも見つからないだろう」
「……あ」
「なんだ?」
「……う、ううん」
ノーマは気付いた。
ワルターの呼び方が、よりシャーリィが先だという事を。ワルターにとっては、よりもメルネス様なのだ。
さすが水の民の戦士。ノーマは思う。
が一番大切なのだろうに、シャーリィを心遣うその配慮。
ワルちんとちゃんの恋はまだまだ発展しないだろうなぁ〜…
「だからなんだ?」
「へ?あたし何にも言ってないよ?」
「……その目だ。何か問いたそうに見上げるのが気に食わん」
「……ああ…そっか」
問いたいかと聞かれると問いたい。気になるじゃん、男子の気持ちってさ。
傍目から見てもわかるくらい、ワルちんはちゃんが好きなのに、やっぱりリッちゃんが大事なの?
「ワルちんて、ちゃんとリッちゃんのどっちが大切なの?」
「なっ!?」
目を見開くワルターを見上げて、ノーマはニヤリと笑った。
どっちかなんてわかるけど、水の民の戦士だとかなんとか言ってるうちは、「メルネス」って答えるかもしれない。
でも、その時の表情でわかっちゃうんだから。
女の子は、こうやって駆け引きをしながら男子の気持ちを聞きだすのがうまいんだからさ〜っ。
「答えるわけがないだろう!!!」
憤慨してドスドスと歩いていくワルターの背を眺めながらノーマは笑った。
まあ、答えないって選択肢はあったけどね〜。
勢いに押されて答えればよかったのに……あ〜、勢いはなかったかぁ。
こんな状況だもんね〜
残念に思いながら歩いていると、ピンと頭に思い浮かんだ。
三人がいる場所を探すにはどうしたらいいか。
この件にはジェイが絡んでいる。
それならば……
「ウィルっち〜!!情報収集はホタテ達に任せようよ〜!そういうの得意だしさぁ〜!」
ノーマはそう叫びながら前へと走っていった。
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三人が大変な状況になっている時のクロエとノーマ(笑)
クロエはちょっと深いところまで考え出してしまってますね。
2008/04/29
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