「キュッポ!」













宮殿を早足で進んで行くと、ぐったりと床に倒れこんでいるキュッポが目に入った。
僕は急いで駆け寄ると、その体を抱き起こす。
















「キュッポ、しっかりして!」














揺らしても叩いても反応がなく、最悪の事態を想定してしまう。
僕は反射的にウィルさんを見た。
















「ジェイ、取り乱すな」














彼はそう言うと、屈んで爪術をかけてくれた。
するとキュッポの顔色は瞬く間によくなり、そのつぶらな瞳をパッチリと開ける。














さんっ!」













叫んでがばと起き上がり、辺りを見回す。
キュッポは僕がいることに気付くと、安堵で溜め息を吐いた。
















「よかったキュ〜ジェイが無事キュ!

みなさんも来てくれたキュ!」

「キュッポ!」















喜ぶキュッポを思わず抱きしめると、彼は照れたように笑った。
















「ジェイ、キュッポは大丈夫だキュ。それよりもさんを助けに行かないと……キュ?」

「どうしたの?」














キュッポは不思議そうに僕から離れると、辺りを見回した。
















「ピッポとポッポはどうしたキュ?それに、ここはキュッポがいた場所じゃないキュ」

「どういうこと?」














キュッポはぺたんと座り込み、僕を見上げた。















「キュッポはずっとジェイを助けた部屋にいたんだキュ。でも、さんを助けようと手を伸ばした時…」













その場面を思い出したのか、キュッポは体を震わせた。
よっぽど怖いことだったのか、また顔色も悪くなっている。















「黒い霧が凄くて、手を伸ばしても伸ばしてもさんの手を掴めなかったキュ」

「黒い霧だと!?」














ワルターさんが言った。
キュッポは頷くと、その状況を説明してくれた。















さんはジェイとシャーリィさんを逃がすためにソロンの足を掴んでたキュ。そうしたら黒い霧がさんを飲み込んでいったキュ。

キュッポはどうにか助けようと手を伸ばしたんだキュ。でも…」

「一緒に霧に飲み込まれたんだね?」













僕が聞くと、キュッポは頷いた。

さんは霧の浄化を無意識でしてるんだ。だから霧から近付いてくる。
キュッポがここまで飛ばされたのはよくわからないけど、それも霧の力だと考えた方がいいな…。
















「ジェイ、早くしないとさんが危ないキュ!ソロンからは有り得ない程黒い霧が溢れてたんだキュ!」

「うん、でもピッポとポッポも探さないと…」














困惑する僕の肩を、セネルさんは優しく叩いた。















「行こう、ジェイ。みんなを助けるんだ」

「はい!」
















































僕達はつい数時間前に逃げ出した場所の前に戻って来た。
シャーリィさんに手を引かれ、さんとキュッポ達を置いていった場所だ。






本当はそうしてはいけなかったのに、これらは僕の心が弱すぎたためにソロンにつけ込まれ起こった事。
そして、シャーリィさんに言われるまで気付かなかった自分の心の弱さ。

今まで、自分の力で何だって守っていけると思ったのは幻想だったのかもしれない。
守られてたからこそ、自分の力が発揮できてたんだ。

だから、僕は守られていないところでは子供と同じだ。














たくさんの事がありすぎて、僕は忘れていてはいけないことを思い出した。













『僕はさんを刺した』










この事実は、僕の心を握り潰すくらいの効果があった。
ソロンにされた不可抗力だけれども、刺した事実は変わらない。

考えたら怖くなってきた。


さんが本当に死んでいたら、僕が殺していたら……
僕はもう、生きてはいけないだろう。














近くにいるのが当たり前過ぎて……その笑顔が僕に生きる喜びをくれて……
失ってしまったらなんて考えることは出来ない。

考えたくもない。












だからああやって在った事実は、みんなに話すべきだろう。


シャーリィさんもキュッポ達も知っている事実だけれども、自分で言う前にセネルさん達に知られるのは嫌だった。















「みなさん、聞いて下さい」













僕は意を決して呼び止めた。
みんなは振り向くと、僕をじっと見つめる。
















「どうしたんだ、ジェイ」

「はい、実は…」















セネルさんに問われてホッとした。誰も何も言わなかったら、僕の決意は揺らいでいたかもしれない。
心臓をばくばくとさせながら、僕はみんなの表情を見ないように俯いた。

















「僕、さんを刺してしまったんです」

「「「!」」」















みんなの驚いた顔が浮かぶ。












怒っているかもしれない…
いや、それ以上だ。

僕は裏切ったのに受け入れてもらえたけど、さんを刺したことは…











恐る恐る顔を上げると、目を細めて微笑むセネルさんがいた。
その後ろには同じような顔をした仲間達。











……一体、何で…?
















「でも、はぴんぴんしてたんだろ?」

「そうじゃ、なら大丈夫じゃろ」

「っ……でも、血…がっ…もごっ」














後ろから突然手が伸びてきて、僕の口を後ろから塞いだ。
それに驚いて振り返ると、にっこりと微笑むシャーリィさん。
















「…血が出てたのは内緒だよ」

「な、なんでですか?」

「だって、普通ならあんなに血が出てぴんぴんしてるなんておかしいでしょ?だから……」

「あ……」














シャーリィさんが言う様に、確かにおかしい。
だって、あんなに血が出ていて動けるはずがない。刺した場所だって、心臓そのものだった。
ならば……















さんはもう、人ではない存在になりつつある……?」













僕の呟きに、シャーリィさんはふと悲しそうに笑っただけだった。
きっと、彼女も詳しい事はわからないのだろう。




















「そんなことばっかり気にするな。なんてもう、とっくに許してるだろ?」

が、許さないわけがないからな……」

「ワの字もこう言うちょるぞ」

ちゃんが許してる事を、あたし達が怒るわけないっしょ!」

「そうだな。ノーマの言う通りだ」

「それにな、ジェイ。俺達は…」

「ジェイちゃんがちゃんにそんなことするわけないって」

「わかってるんだよ!」















なんだか、拍子抜けしたというかなんというか。
こんなんじゃいけないんだろうけど、信じ合うってこういうことなんだと思った。














『絆』か…













シャーリィさんが言ったこと、わかった気がします。
僕はもっと、みんなを信じて、信じてもらうべきなんですね。


















「行くぞ、ジェイ」

「あ……はい!」
















僕にはもう、仲間がいます。
だから……














あなたには負けません。

さんを返してもらいますよ、ソロン…!















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ちょっと短め^^
ジェイの気持ち編でした〜。
次はソロンと対決!!!


2008/05/05








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