「……あなたが私を助ける?笑わせないで下さいよ…」













ぐったりしていたソロンは、床に片腕を付いて起き上がった。
そして細い目をぎょろつかせてを見上げる。














「私はあなたに助けられる理由など……」














は彼の言葉を無視してグリューネの手を握ったまま歩き出す。
そして彼の手前で止まると、腰を屈めた。















「ソロン……」













はソロンに片手を出したのだ。
ソロンはその手を見、そしての顔を見上げる。













「……」













その屈託のない笑顔に、闇が消え去る思いがした。

















「私は、あなたなどには……」















ソロンはサッと目を逸らすと、唇を噛み締めた。
その笑顔に自分というものを忘れそうになったことを後悔したのだ。











彼は目を瞑った。
何も見ず、何も聞こえなければ、何も感じる事はない。






この、感じたくない気持ちなど……










彼は再び唇を噛み締めた。
そこからくる血の味は、確かに自分が生きている事を示している。
体の痛みよりも、この状況よりも、何よりも自分がまだ生きている事を示していた。














これが、世界を見守る者の力か……














彼が練っていた計画全てが台無しになった。
この女のせいで、全てのシナリオがパアになったのだ。















だから、これ以上は……

















「ソロン、あなたのこの黒い霧の正体を知っていますか?」
















は彼の気持ちを他にして話しかけてきた。
ソロンは聞かないようにと無視をした。しかし彼女は続けて話す。















「私はわかりました。だって、あなたと同化しかかったのですもの」













彼女はクスリと笑うと、自分の肩に手を置いた。
するとそこから温かなものが流れ込み、体の痛みを取り去っていく。














「……」

「ソロン…」












がゆっくりと自分の体を撫でた。
彼女が触れた場所全てが、温かく心地よい。ソロンはそう思った。
こんなものを、自分はいつぶりに感じたのだろうか。




自分が思っても見ないほど、彼の心は溶かされていった。
優しく、ゆっくりとほぐすように……。






































そして最後には……














































「あなたの霧は、あなたの持つ『恐怖』です」














ソロンの体にビクリと緊張が走った。















「何だと?私に……この私に恐怖などない!!!」














ソロンは怒ったように言い放った。
先程が触ったためか、体が楽になったようだ。彼は起き上がって彼女に抗議した。
















「あの、不肖な弟子ではなしに、私に恐怖など……」














は最後にソロンの頬を撫でると、立ち上がった。
彼の体からは霧が殆ど消えているのだった。
















「あなたの恐怖は二つの恐怖です。……あなたの中には、二人のソロンがいるのです」

「……なんだと?」















ソロンの体はもう傷一つなかった。きっと痛みも消えていただろう。
しかし彼は襲ってくることはなかった。の話に、抗議しながらも食い入るように聞き入っていたのだ。















部屋に暖かな風が吹く。
外と繋がっている通風孔のようなものはないはずなのに、部屋には心地よい風が吹いていた。
まるで、誰の霧が発生しても吹き飛ばすというように。
















「一人目のソロンは暗殺者として生きてきたあなた。殺戮というものに感動し、それに喜びを見出して生きてきたあなたです。

そして、もう一人はずっと昔、まだ純粋だった頃……暗殺者というものに疑問を感じていたあなた……

いわゆる、あなたがジェイに重ねていた部分です」

「!!」














ソロンは絶句した。
自分でも忘れていた部分を見極める能力が、彼女にあることを確信したのだ。















「だから、あなたの恐怖は二つなのです。

一つ目の恐怖は、純粋だった頃の自分から見た今のあなたへの恐怖。殺すことに快感を覚えて、いつか必ず、生きる事に麻痺してしまうだろうということ。

二つ目の恐怖は、今の自分が、昔の自分に戻ってしまうのではないかという恐怖。ジェイを見て、そう思ったのでしょう?」

「……くっ……」














違うと言い切れなかった。寧ろ、それが真実なのだから。
















「ジェイは変わった。あなたにもわかったでしょう?

人は変われる。だから……」

「それ以上言うな!!!」














ソロンは両耳を塞いだ。何も聞かぬようにと。
しかし、にとってはその行動は意味がなかった。














―――あなたも変われるの。














その声は心の奥底に響いた。
ソロンは崩れ落ちると、思い切り目を瞑った。周りにはくっきりと皺が刻み込まれている。















「世界を見守る者は、この様なことも出来るんですね……」















そしてボソリと呟く。
















「私の恐怖、ですか。よく言いくるめたことです」

「言いくるめた、ね。その言い方、私の言っている事を受け入れたと思っていいのかしら?」
















がクスクス笑いながら言ったので、ソロンは面食らったようだったが、彼もニヤリと笑う。















「お好きにどうぞ」














ソロンは立ち上がった。
















「私を助けた事を、後悔しないでくださいね」















そして彼は煙のように消えたのだった。











































!ソロンが消えたぞ!!!」

「いいんか!?」















ソロンが消えたのを見て、セネルとモーゼスが走ってきた。
その後ろからはジェイとワルターもついてくる。

















「大丈夫。もう襲ってこないわ」

「本当ですか?」
















ジェイが心配そうに聞いてきた。
はにっこりと微笑むと頷く。
















「ええ!ジェイも、もう大丈夫よ」

「そう……ですか。さんに言われると、そんな気がしますね」

「そうでしょぉ!ちゃんったらすごいのよぉ!なんて言ったって…もごもご」















は内容を話そうとするグリューネの口を塞いだ。















「一体ソロンと何を話してたんだ?何にも聞こえないからハラハラしたよ」

「そうじゃ!いつが襲われるかビクビクしとったぞ!!!」

「ごめんなさい、セネル、モーゼス。でももう大丈夫だわよ」














はセネルとモーゼス一人一人に笑いかけると、その手を握った。
彼らはそんな彼女を見て、何も言えずに黙ってしまう。きっと、手を握ったのはの計算なのだろう。




セネルとモーゼスを押しのけてワルターがの前に立った。彼はいつも通りで無言だ。
はどうしようと思う。ワルターの場合は、手を握ったでは済まされないのだ。















「ワルターもごめんなさい、心配を掛けて」

「……ケガは、大丈夫なのか?」

「え、ええ……」

「そうか」















ワルターはそう言って背を向けた。
には、彼が怒っているのかホッとしているのかはわからなかった。
















「……ワルター…?」

さん。お師匠様と何を話したんですか?」

「ジェイ。……それは秘密よ。何故聞きたいの?」

「今度もし会うことがあったら、弱味にしようと思いまして」

「……教えられません」

「!?何でですか!」

「内緒です!さあみんな、街に帰りましょう!!!」

















は聞きたがるジェイを置いて、ウィルと女の子達が待つ元へ走り出す。
背を向けるワルターを通り越して、シャーリィに抱きつき、クロエとノーマに抱きついた。


















はソロンの顔を思い出して笑う。























―――あなたがジェイを見て変わったなんて、言ったりしませんよ。ソロン。






















****************

はい、ソロンは生きでお願いします〜(笑
変わったジェイが、過去を断ち切るようにソロンをさっくり殺してしまうのが
少し納得がいかなかったので、こういう話になりました^^
ジェイ編は次でラストです☆


2008/05/11




140へ